休日の犬(4)
隣家のパトリシアがやってきたということは、食堂が昼のピークタイムを終えて時間が取れるようになったことを意味する。ロゾーが到着したのがゆっくりだったとはいえ、ミレニティと一緒に二時間以上は夢中で作業していた計算だ。
(とりとめのない話をしてただけなのにこれとはな。オレは話し相手に飢えてるんだろうか)
苦い思いが頭をよぎる。
「今日はロゾー来てるんだけど……、って量多すぎ」
ワゴンの上にはかなりの料理が並んでいる。
「ワンコが散歩してたのはお客さん情報で入力済み。ちゃんと二人分持ってきたわ」
「目立ってたって。どうしても目立つけど」
「どうしようもないな、こればっかりは」
際立たせるように三角耳を震わせる。
「降りる。待って」
「もしかして、ずっと手伝わせてたの? レニーってば甘えちゃって」
「いつもより休憩しっかり取ってたしー」
幼馴染らしく気安い会話を交わしている。テンポ感というのは時間が醸成するものである。二人にはすでにできあがっていた。
「そういえば学校行ってないのか?」
パトリシアに訊く。
「あたし? オンライン大学がもう少し。夜まで家手伝って、ビデオカリキュラム観ながらレポート出してで進めてるから」
「レニーは?」
「私はここに戻ってくるまでで大学まで終わらせてた。家庭教師付けてもらってたから短期間でみっちり」
三年前までに最高学府を終えているという。
「早いな」
「基礎ができてるって言われた」
「あたしたち、一緒にジェイルおじさまに教えてもらってたもんね。とっても頭の良い人だったし、教えるのも上手だった。ポイントを押さえる方法とかしっかりしてて」
二人とも幼い頃はミレニティの祖父の生徒だったようだ。旧区画にある学校にも通っていたというが、かなり先を行っていたらしい。
「本当のお祖父ちゃんみたいに可愛がってもらってたから」
「そうなんだな」
ミレニティが顔を洗いに行っている間に話す。同い年の二人は赤ん坊の頃から姉妹のように育てられていたと教えられた。家が食堂という事情もあって、このルーストに入り浸っていたらしい。
「レニーは赤ちゃんのときに両親とも、だったでしょう? 家が忙しい頃だったから、あたしも五歳まではニーチェおばさまに育てられたようなもの」
「死んだのか」
「ジェイルおじさまもそうだけど、昔は二人ともアームドスキン乗りだったって。若いときの無理がたたって長生きできなかったみたい」
「ダメージ大きいからな」
アームドスキンの操縦は身体に多大なストレスが掛かる。主に内臓器官のダメージが蓄積し、どうしても長生きは望めない。一般人の平均寿命が百歳に迫ろうというご時世に、である。見合う対価は得られるにしても太く短い人生になってしまう。
(そういうパイロットだったってことだな)
ダメージは戦闘機動であるほどに大きい。本格戦闘に身を置いていた時間が長いほど寿命を著しく損なってしまう。
「身近に見ていてもアームドスキンに触りたいか」
「レニーにとっては、家族との繋がりみたいに感じてるのかも」
「事業を継ぎたいほどに、か。業の深い」
パトリシアの面が陰ったのをロゾーは気づかなかった。その台詞がミレニティのすべてを物語っているのを知らなかったからだ。
「食べよ。気がついたらお腹ペコ」
「レニーったら」
「だって、近いんだもん。そろそろ出るから」
「あの話、やっぱ本当だったのね」
二人の会話に強いて加わろうとは思わなかった。ロゾーにもなんとなく想像が付いていたからだ。ただし、それほど深く関わっているとは思ってもいなかったのである。
「食生活がメーデ食堂頼りにすぎないか?」
話を変える。
「ちゃんと月締めで払ってるもん」
「ヤベ。じゃあ、オレも払わないとな。食う量が違うし」
「無理しなくてもいいけど? 勝手にしてることだし」
メニューもお任せ状態である。
「払わせろ。ギャラは余ってる。上にいたって使い道なかった」
「稼いでる軍人さんからはがっぽりいただこうかな」
「面倒だからルーストからの一括にしてくれ。レニーに預けとく」
財布を渡すに近い宣言をすると二人の娘に変な顔をされた。ミレニティの頬が少し赤い。
「居座るつもりみたいよ?」
「私、別にいいけど」
「非番のスケジュールはここで埋めてあるぜ? 動員がなけりゃ行くとこない。ここの駐留なんてお飾りだから出動掛かる可能性低すぎだろう?」
彼が来る前もあとも治安出動の記録など皆無だ。訓練以外でアームドスキンで発進したことがない。左遷先の閑職以外のなにものでもないのである。
「いっそのこと駐留やめたら?」
パトリシアが悪戯げに言う。
「上に言ってくれ。管理局規定でGPF艦の常駐が決まってんだよ」
「自由度低いんだ」
「それに、オレが行くとこなくなる。他に能ないんだから勘弁しろ」
これ以上下はないはずだ。
「ルーストで雇ってあげたら?」
「そっか。来る、ロゾー?」
「お前ら、オレをなんだと思ってる」
素行不良パイロットを押し込めるセクションだと思われていそうだ。大きく間違っていないのも事実だが、それぞれ事情がある。彼の場合、他にどうしようもないわけもあるのだが。
「不良犬?」
「番犬にちょうどいい」
「好きにしろ」
このあと、現実の一端を示すことになるロゾーであった。
次回『休日の犬(5)』 「レニーってばダンス?」




