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ゼムナ戦記 ストレイドッグホープ  作者: 八波草三郎
違うようで同じ二人

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休日の犬(3)

「街並みが違う?」


 ロゾーがASレンタル『ルースト』までの道筋で覚えた感想を伝えるとミレニティはくすりと笑った。思い当たる節があるらしい。


「それは、このあたりが移民初期開拓区画だから」

 一帯を示すように手をかざす。

「細々と人が住めるように整備して街を作ったのがここ」

「古めかしいのはその所為か」

「それから、小惑星採掘を軌道に乗せて産業化できる目処が付いてから作られたのが今のベッフェルベリ中央区」

 宙港のほうを示す。

「あっちは区画整備されて計画都市として設計されてるからきれいでしょ? 人も住みやすい」

「じゃ、向こうに住んでる連中はあとからやってきたのか」

「そう。ほとんどが鉱夫とその生活基盤を形成する住民。工業生産は軌道プラント化されてるから地上にはないの。人が住んでるだけ」


 ベッフェルベリは惑星探査のあとに産業試算が行われた。採算が取れるとわかってから移民が計画され、惑星上に居住地を拓くための初期移民が募られ渡ってくる。その中に彼女の祖父母が含まれていたという。


「だから、このちっぽけな旧区画の住人は中央区の人に敬意を払われるの。自分たちの稼ぎのための生活基盤を作ってきてくれたから」

 それがこの一風変わった空気を生みだしているらしい。

「なるほど、この旧区画はベッフェルベリの開拓シンボルとして残されてるわけか」

「私みたいに完全に世代交代しちゃってるのに、初期移民の子孫ってだけでちょっと特別視されてるんだ」

「ここだけの連帯感ってのもあるんだろうな。ちょっと歩いただけで感じられる」

 皆が一方を向いているような感覚。

「中央区の人はその空気を味わいに来る感じかな。敬意をお金を落とすことで表そうとして。お店が多いでしょ」

「若干、観光地化してるのはその所為か」

「旧区画に住んでる鉱夫は割合低いけど初期移民の子孫だし、雰囲気保ってるとこある」


 ロゾーが最初に旧区画に迷い込んできたのも、オートキャブに名所を打ち込んだら連れてこられたからだ。見た目で惹かれるような、如何にも観光地らしさは皆無である。


「それでムービーに出てくるような街並みってか」

「ムービー?」

「開拓に向かった惑星でいきなりモンスターが出現して開拓民が次々に襲われて減っていく類のやつ」

「あははは」


 昔に比べるとずいぶんと減ったといわれるパニックムービーだがわずかに生き残っている。それというのも、人間の想像を超える異質な形態をした生命体というのが星間銀河では見つかっていないからだとされている。

 一例としてヴァラージと呼称されるモンスターが知られているが、他に事例が存在しない。収斂進化というのはかなり勤勉に仕事をする法則らしい。知性を持つに至るのにはかなり厳密な条件が課されているからと学者は語る。


「ずっと昔なら犬頭人身も立派なモンスター扱いかも。そういえば、古い宗教だと神様の姿として描かれていたりとか」

「持ちあげるか落とすかどっちかにしてくれ」

「冗談にできるくらい、もう違和感ないってこと」

「まあ、犬系が人間に進化するのもなかなか無茶な話だって聞く。猫系みたいに日常的に木登りする生態がない」


 犬系は群れる進化形態に属する。そういう意味でマジョリティの猿系と同形質を持っているが手指が進化する条件に乏しい。

 逆に猫系は手指が進化しやすく知性を持つに近いがゆえに幾つかの人種が確認されている。ただし、彼らは群れる性質が薄いので社会に溶け込みにくい弱点を持つ。気紛れな遺伝子を誤魔化しつつ人間社会に混じっているというべきか。


「そういえば、ロゾーの人種って?」

 思い出したみたいに訊かれる。

「今さらか。無頓着過ぎる」

「だって、話してて気にならないんだもん」

「登録では『スグルク』になってる。オレたちは種族全般を『スグリ』って呼んでるけどな。自分たちで呼んでた惑星(ほし)の名前がそのまま人種名で登録されたらしい。大概にはオレたちも無頓着だよな」

 説明しているとミレニティが目を丸くしている。

「冗談じゃなかったかも」

「なにがだ?」

「ゴート人類圏の古い神話だと神様の名前に『ルク』が付くの。破壊神が『ナーザルク』とか調和神が『レゼルク』っていった感じにね。犬の神様が『スグルク』だったとしても変じゃないかな」


 妙な符号を持ちだしてきた。笑っているので軽口の一種だと思う。彼女たちも神話とおとぎ話の境い目が曖昧になっていておかしくない世代だ。


「さってと、休憩終わり。お仕事片づけちゃわないと」

「そうだな。手伝おう」

「ほんとに?」

「オレがなにしに来たと思ってる。女の子が忙しそうに働いてるのをニヤニヤ眺める人でなしに見えてるか?」


 そうと決まればミレニティは遠慮がなかった。ハーネスを着けられると、次から次へと部品を運んではクレーンアームに吊られて彼女のもとに運ぶ仕事を申し付けられる。彼も機体格納庫(ハンガー)で暇つぶししているときの感覚に戻って悪くない気分だ。


「頑張ってるわね。そろそろお昼にしない?」

「えー、もうそんな時間?」


 ロゾーが覗き込むとパトリシアがワゴンを転がして入ってきたところだった。

次回『休日の犬(4)』 「レニーってば甘えちゃって」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 なんだ、その人間クレーンゲームは!? (大昔のテレビの企画みたいだw)
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