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少し進んだところで一度砂馬を止めた。
鞄から簡易の食料を取り出して口の中に詰め込む。ゆっくりもしていられないが、空腹のまま進むこともできない。
「今の時期なら多少は持つが、この地域じゃ『食わずに一週間、飲まずに一日』が限界だ。
量は限られるが、あんたらもしっかり飲んでくれ」
ナイザが水の入った革袋を振って見せる。
それぞれが携帯している革袋には、まだ潤沢に水が入っている。しかし、バシュク追跡が長引けば長引くほど、それは確実に量を減らしていく。
「オリー、魔法で水を出せないですか?」
フレアの問いに、「ここは砂漠よ」と漏らす。
いかに魔法が万能であったとしても、辺り一面が砂のこの場所で、それを生み出すことなどできるだろうか。
そうは思いながらも、何か良い方法はないかと記憶を辿る。
ユースガリア魔法学園でも、そんな奇抜なことを習った覚えはないが、ふと、昔アウギュリエスが馬の頭ほどの岩を顕現させたことを思い出した。
しかしあれは、辺りに岩があったからこそとも思えなくもない。
何もないところから何かを得るというのは、常識では考えられない……。
目を閉じて首を捻る。
チラリとフレアを見ると、まるで瞑想でもするように目を閉じて唸っていた。
「魔法は想像力です。──創造力だっけ?」
アウギュリエスの言葉だ。
魔法は想像力。しかし大事なのは、創造力だとも言っていた気がする。
風に流されるサラサラという砂の音が聞こえる。
オリーがフレアを見つめるのに釣られ、ナイザもフレアを見つめる。これで水が湧き出ようものなら、フレアは神と崇められてもおかしくはない。
この地において、水は酒よりも価値のあるものだ。
「ほらね」と言おうと口を開きかけた時だった、フレアの目の前にそれは現れた。
両掌に乗るほどの水の塊。
「はぁ!?」
「っな!?」
オリーとナイザが同時に声を上げる。
目の前で起きた現象は、おそらく今後の歴史を塗り替えてしまうような奇跡で、恐ろしい危険を伴うものだった。
オリーのそんな思いは露知らず、フレアは顕現させた水を喉を鳴らしながら飲み始めた。
あっけに取られるオリーとナイザを前に、水を飲み干したフレアが満面の笑みでこちらを見てくる。
「水ですね。ちょっと温いです」
見当違いな感想を聞き流しながら、事態の危うさに戦々恐々とする。
フレアだからできたのか、自分にもできるのか、魔術士なら誰でもできるものなのか、いずれにしても、ナイザには今起きたことを忘れてもらう必要があった。
「ナイザさん!
何も起きてないです、いいですね!?」
オリーの言葉に、ナイザは口を開いたまま何度も頷いている。
ナイザも事の重大さを理解はしているようだった。
これが世に出回れば、アルドネリア大陸西側から乾燥した平原も、荒涼とした高原も、砂漠地帯も無くなる。
もっと俯瞰してみれば、この世界を根本から変えてしまう現象だ。
いつかその時が来るとしても、それは今ではない。
浮かれるフレアを横目に、こっそりとオリーも水の顕現に挑んでみる。
砂漠地帯で水が湧き出ることなどあり得ない。そんな固定概念が邪魔しているのかもしれない。ゆえに、魔術士の誰もが、今までそれを試そうとも思わなかっただけではないか……。
これでもかという程に集中する。
驚くことに、水は現れた。
フレアほどの水塊を出すことはできなかった。せいぜい指先ほどの小さな水滴だった。
それでも、オリーの水滴にすら驚いたナイザは、声の出し方を忘れたように、口だけが虚しく動いていた。
つくづく、フレアの異常さと、他の魔術士では真似できない現象なのだと理解する。
「水の問題は解決ですね」
楽しそうに言うフレアの言葉が、この一瞬に向けられたものなのか、それとも世界の行末に向けられたものなのか、それを判断することはできなかった。




