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ザルハンは終始高圧的だった。
しかし、バシュクと決定的に違ったのは、こちらの生命にまるで無関心なことだった。
攫うでもなく、奪うでもない。
それが意味するのは、こちらの生き死にに興味がないということに他ならない。
「お前たちは聖域に向かう途中と言っていたな」
この騎兵に見覚えがある。以前天幕に襲来した男だ。
「バシュクは一度目をつけたらどこまでも追ってくる。取り逃すということを極端に嫌う。
逃げるにしても、せいぜい頑張ることだ」
騎兵の言葉をどう捉えるのが正解なのか、判断に迷う。
「酒はあるだけ貰っていく」
それだけ告げると、ザルハンの騎兵は早々にこの場から引き返そうとした。
サマルの救出を願い出たところで、ザルハンが協力してくれるはずもないことは分かっていた。
分かりきっていることではあったが、どうにかならないかと、声をかける機会を伺った。
しかし、ザルハンはそれに勘付いていたのだろう。鳥馬に乗り込んですぐに、誰に向けるでもなくボソリと呟いた。
「娘を取り戻そうとは考えないことだな。
運が良ければまだ生きているが、それでももって数日だ」
非情な宣告にも聞こえたが、おそらく経験則からくる言葉だ。犠牲になった者は数え切れないのだろう。
ザルハンが鳥馬を出そうと手綱を握る。
サマル救出の要請は絶望的だった。諦観が頭を過ったその時、まるで叫び声のような少女の声が響いた。
「聖域に、連れて行ってください!」
フォニだ。
フォニが立ち上がり、身体を震わせながら、騎兵に縋り付くようにしている。
一瞬目を疑う。
まるで時間が止まったような錯覚に陥る。
わずかな間を置いて、騎兵がフォニを見下ろしながら問いかけた。
「お前たちをか?
それとも、お前をか?」
音の無い世界に落ちたような気がした。
そればかりか、風も熱も無い、ただ真っ白な世界に居るような気さえした。
騎兵の問いに、フォニは何も答えなかった。
ザルハンは一つ鼻で笑うと、何事もなかったように鳥馬を駈って走り去った。
ザルハンの騎兵が去り、残された五人の間に、重苦しい沈黙がのしかかった。
ザルハンは酒以外を奪うことはしなかった。
先へ進むことはできる。
その『先』が、どこを指しているか、答えは出ていない。
張り詰めた空気に耐えられなくなったのか、ネコテコが静かに口を開いた。
「フォニさん、さっきのは……」
気を失って倒れているナイザ以外、誰もが問い正したい気持ちだった。
改まって聞くまでもないことだったかもしれない。おそらく、返事は決まっている。
だが、それを確定させる勇気が出なかった。
たとえ可能性が低くとも、オリーとフレア、ネコテコは同じ気持ちだっただろう。
──少なくとも、自分たちはナイザと共にある。
フォニもそうであって欲しかったが、まるで笑みを浮かべているような表情の彼女が放った言葉は、非情と言わざるを得ないものだった。
「だって、サマルは仕方がないよね」




