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私と彼女の物語 -Travelers of the Far Green Road-  作者: ORSBN.shu
第三部・盛陽
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95/104

3-25

ザルハンは終始高圧的だった。

しかし、バシュクと決定的に違ったのは、こちらの生命にまるで無関心なことだった。

攫うでもなく、奪うでもない。

それが意味するのは、こちらの生き死にに興味がないということに他ならない。


「お前たちは聖域に向かう途中と言っていたな」


この騎兵に見覚えがある。以前天幕に襲来した男だ。


「バシュクは一度目をつけたらどこまでも追ってくる。取り逃すということを極端に嫌う。

 逃げるにしても、せいぜい頑張ることだ」


騎兵の言葉をどう捉えるのが正解なのか、判断に迷う。


「酒はあるだけ貰っていく」


それだけ告げると、ザルハンの騎兵は早々にこの場から引き返そうとした。

サマルの救出を願い出たところで、ザルハンが協力してくれるはずもないことは分かっていた。

分かりきっていることではあったが、どうにかならないかと、声をかける機会を伺った。

しかし、ザルハンはそれに勘付いていたのだろう。鳥馬に乗り込んですぐに、誰に向けるでもなくボソリと呟いた。


「娘を取り戻そうとは考えないことだな。

 運が良ければまだ生きているが、それでももって数日だ」


非情な宣告にも聞こえたが、おそらく経験則からくる言葉だ。犠牲になった者は数え切れないのだろう。


ザルハンが鳥馬を出そうと手綱を握る。

サマル救出の要請は絶望的だった。諦観が頭を過ったその時、まるで叫び声のような少女の声が響いた。


「聖域に、連れて行ってください!」


フォニだ。

フォニが立ち上がり、身体を震わせながら、騎兵に縋り付くようにしている。


一瞬目を疑う。

まるで時間が止まったような錯覚に陥る。

わずかな間を置いて、騎兵がフォニを見下ろしながら問いかけた。


「お前たちをか?

 それとも、お前をか?」


音の無い世界に落ちたような気がした。

そればかりか、風も熱も無い、ただ真っ白な世界に居るような気さえした。


騎兵の問いに、フォニは何も答えなかった。

ザルハンは一つ鼻で笑うと、何事もなかったように鳥馬を駈って走り去った。


ザルハンの騎兵が去り、残された五人の間に、重苦しい沈黙がのしかかった。

ザルハンは酒以外を奪うことはしなかった。

先へ進むことはできる。

その『先』が、どこを指しているか、答えは出ていない。


張り詰めた空気に耐えられなくなったのか、ネコテコが静かに口を開いた。


「フォニさん、さっきのは……」


気を失って倒れているナイザ以外、誰もが問い正したい気持ちだった。

改まって聞くまでもないことだったかもしれない。おそらく、返事は決まっている。

だが、それを確定させる勇気が出なかった。

たとえ可能性が低くとも、オリーとフレア、ネコテコは同じ気持ちだっただろう。


──少なくとも、自分たちはナイザと共にある。

フォニもそうであって欲しかったが、まるで笑みを浮かべているような表情の彼女が放った言葉は、非情と言わざるを得ないものだった。


「だって、サマルは仕方がないよね」

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