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一方的な暴力の前に現れたのは、新たな暴力だった。
バシュク族が現れた逆の方角から、砂煙を上げて数十騎の鳥馬が駆けてくる。
砂地を踏み抜く音が、地鳴りのように迫ってきた。
ザルハン族だ。
近付いてくるそれに気付いたバシュク族は、慌てたように鳥馬に騎乗し始めた。
「くっそ、めんどくせぇのが来た。
ずらかるぞ!」
その号令は機を逸していた。
後方から、風を切る無数の音が聞こえてきた。
ヒュン、ヒュン、と風を裂く音──矢だ。
的を狙った攻撃では無い。面で制圧する矢の打ち方だった。
オリーは咄嗟に広範囲に物理障壁魔法を貼った。
それを見たフレアも、同じように物理障壁魔法を展開した。
人ではなく、空間に魔法を展開することなど初めてのことだったが、それはうまく機能してくれた。
フレアが重ね掛けしたことで強度も増していた。
おかげで、ナイザもネコテコも、砂馬さえも守ることができた。
ザルハン襲来の混乱によって、一行はバシュクから解放されつつあった。フォニの無事も確認できたが、サマルの姿が見えない……。
辺りからはバシュクの悲鳴が聞こえてくる。
一人や二人ではない、大勢がザルハンの矢の餌食となっている。
「ちっ!」
矢を免れた一団が、鳥馬を駈って走り去っていく。
その中に、捉えられたサマルの姿が見えた。
すぐさま足止め魔法を発動したが、鳥馬が走る速度には追いつけない。魔法の蔓は掴む相手もなく、砂上で虚しく消えていった。
自分の不甲斐なさに沸々と怒りが湧いてくる。
そして、バシュクと入れ替わるように、ザルハンの多数の鳥馬の足音が辺りに響いた。
脅威が別の脅威に入れ替わった瞬間だ。
「止まれ!」
掛け声と共にザルハンの行軍が止まる。
すでに周囲を取り囲まれていた。
状況は一転した。
しかし、バシュクに打ちのめされたナイザと、その横で跪くフォニ、頭を抱えてうずくまるネコテコと、こちらの状況は何ら変わりなかった。
サマルは攫われたのだ。
気を失っているナイザは、サマルが攫われたことにまだ気付いていないだろう。
あまりに残酷だ。
ザルハンの騎兵が、鳥馬を降りてナイザとフォニに近付いていく。
腰に帯びた曲刀の柄に手を添えている。
決して助けに来たわけではない、場合によっては、即座にそれを抜くつもりでいるのだ。
フォニが騎兵を見上げ、声を震わせながら礼を言う。
「助けていただき感謝いたします。おかげで、皆、無事です」
声ばかりか、身体も震えている。
無理も無い、ザルハンが来なければ、フォニもまたバシュクに攫われていたのだ。
礼を言われた騎兵は、無表情でフォニを見下ろしている。
「お前はいつぞやの娘だな……。
助けに来たわけではない。野蛮な奴らを排除しに来ただけだ」
そう言ってから、辺りをぐるりと見渡した。
「一人足りないな」
その口ぶりは、こちらに対して微塵も興味がないといった風だった。
単に事実確認のための独り言だ。
ザルハンの言葉に、フォニが深く頷いたのを確認した後で、騎兵はそれに特に反応するでもなく、オリーとフレアに近付いてきた。
味方ではないが、敵と断じるには早計だ。
決断に迷うが、敵意を見た瞬間に反撃できる用意だけはしておく。
騎兵は無遠慮にこちらを覗き込んでくる。
「魔術士か……」
そう言って曲刀の柄から手を離した。
敵意はないと、そう示しているのだろう。
その後で、騎兵はオリーとフレアにだけ聞こえる程度の小声で呟いた。
「あの娘の罠か?」
騎兵の言っている意味が分からなかった。
分からなかったが、何か小さな違和感は感じていた。
「まあ、あんな奴でも旅の仲間なんだろう」
言いながらチラリとフォニに視線を向ける。
騎兵は何かを感じ取っている。けれどもそれが何かを知る術を、オリーもフレアも持ち合わせてはいなかった。
バシュクよりは話ができそうだが、それは確信ではない。しかし、敵意を見せない相手を警戒し続けるのも得策とはいえなかった。
二人は密かに集中させていた魔力を解いて、騎兵の後を追うように、ナイザの元へと向かった。




