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私と彼女の物語 -Travelers of the Far Green Road-  作者: ORSBN.shu
第三部・盛陽
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94/104

3-24

一方的な暴力の前に現れたのは、新たな暴力だった。

バシュク族が現れた逆の方角から、砂煙を上げて数十騎の鳥馬が駆けてくる。

砂地を踏み抜く音が、地鳴りのように迫ってきた。


ザルハン族だ。


近付いてくるそれに気付いたバシュク族は、慌てたように鳥馬に騎乗し始めた。


「くっそ、めんどくせぇのが来た。

 ずらかるぞ!」


その号令は機を逸していた。

後方から、風を切る無数の音が聞こえてきた。

ヒュン、ヒュン、と風を裂く音──矢だ。

的を狙った攻撃では無い。面で制圧する矢の打ち方だった。


オリーは咄嗟に広範囲に物理障壁魔法を貼った。

それを見たフレアも、同じように物理障壁魔法を展開した。

人ではなく、空間に魔法を展開することなど初めてのことだったが、それはうまく機能してくれた。

フレアが重ね掛けしたことで強度も増していた。

おかげで、ナイザもネコテコも、砂馬さえも守ることができた。


ザルハン襲来の混乱によって、一行はバシュクから解放されつつあった。フォニの無事も確認できたが、サマルの姿が見えない……。

辺りからはバシュクの悲鳴が聞こえてくる。

一人や二人ではない、大勢がザルハンの矢の餌食となっている。


「ちっ!」


矢を免れた一団が、鳥馬を駈って走り去っていく。

その中に、捉えられたサマルの姿が見えた。

すぐさま足止め魔法を発動したが、鳥馬が走る速度には追いつけない。魔法の蔓は掴む相手もなく、砂上で虚しく消えていった。

自分の不甲斐なさに沸々と怒りが湧いてくる。


そして、バシュクと入れ替わるように、ザルハンの多数の鳥馬の足音が辺りに響いた。

脅威が別の脅威に入れ替わった瞬間だ。


「止まれ!」


掛け声と共にザルハンの行軍が止まる。

すでに周囲を取り囲まれていた。

状況は一転した。

しかし、バシュクに打ちのめされたナイザと、その横で跪くフォニ、頭を抱えてうずくまるネコテコと、こちらの状況は何ら変わりなかった。

サマルは攫われたのだ。

気を失っているナイザは、サマルが攫われたことにまだ気付いていないだろう。

あまりに残酷だ。


ザルハンの騎兵が、鳥馬を降りてナイザとフォニに近付いていく。

腰に帯びた曲刀の柄に手を添えている。

決して助けに来たわけではない、場合によっては、即座にそれを抜くつもりでいるのだ。

フォニが騎兵を見上げ、声を震わせながら礼を言う。


「助けていただき感謝いたします。おかげで、皆、無事です」


声ばかりか、身体も震えている。

無理も無い、ザルハンが来なければ、フォニもまたバシュクに攫われていたのだ。

礼を言われた騎兵は、無表情でフォニを見下ろしている。


「お前はいつぞやの娘だな……。

 助けに来たわけではない。野蛮な奴らを排除しに来ただけだ」


そう言ってから、辺りをぐるりと見渡した。


「一人足りないな」


その口ぶりは、こちらに対して微塵も興味がないといった風だった。

単に事実確認のための独り言だ。


ザルハンの言葉に、フォニが深く頷いたのを確認した後で、騎兵はそれに特に反応するでもなく、オリーとフレアに近付いてきた。

味方ではないが、敵と断じるには早計だ。

決断に迷うが、敵意を見た瞬間に反撃できる用意だけはしておく。


騎兵は無遠慮にこちらを覗き込んでくる。


「魔術士か……」


そう言って曲刀の柄から手を離した。

敵意はないと、そう示しているのだろう。

その後で、騎兵はオリーとフレアにだけ聞こえる程度の小声で呟いた。


「あの娘の罠か?」


騎兵の言っている意味が分からなかった。

分からなかったが、何か小さな違和感は感じていた。


「まあ、あんな奴でも旅の仲間なんだろう」


言いながらチラリとフォニに視線を向ける。

騎兵は何かを感じ取っている。けれどもそれが何かを知る術を、オリーもフレアも持ち合わせてはいなかった。


バシュクよりは話ができそうだが、それは確信ではない。しかし、敵意を見せない相手を警戒し続けるのも得策とはいえなかった。

二人は密かに集中させていた魔力を解いて、騎兵の後を追うように、ナイザの元へと向かった。

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