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私と彼女の物語 -Travelers of the Far Green Road-  作者: ORSBN.shu
第三部・盛陽
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93/104

3-23

ナイザの砂馬が止まったことで、追随する一団もその場で足を止めた。


「ナイザさん!?」


何が起きているのかわからず、思わずナイザの名を呼んだ。

ゆっくりと辺りを見回す。

視界に入ってきたのは、両手を上げ、抵抗の意思がないことを告げるナイザの姿だった。

ナイザの視線の先……、後方に気を取られているうちに、先回りした別の一団に行く手を阻まれていたのだ。

つい舌打ちしそうになる。


「お前らザルハンじゃないなぁ」


鳥馬に乗った男が近付いてくる。

バシュク一団の頭目だろうか、腰に下げた曲刀が威圧感を放っている。


「何もとって食おうってわけじゃねぇ、俺たちは人は食わねぇからな」


そう言ってゲラゲラと笑う。

釣られるようにバシュクの一団も声を上げて笑うが、冗談だとしても品が無さすぎる。


下品な笑い声が収まるのを待つようにして、静寂が戻ると同時にナイザが口を開いた。


「私はナイザ・タシュ・ガシュル。

 聖域へ向かう途中だ、通してくれないか」


声を荒げず、粛々と話す。バシュクの神経を逆撫でしないためだろう。

そのナイザに、バシュクの男はフンと鼻を鳴らして答えると、まるで値踏みするような視線で辺りを見回した。


「聖域ねぇ……、ってことは、そっちの娘二人の洗礼か?」


サマルとフォニに視線が止まる。

いつの間にか、二人ともバシュクの仲間に捕らわれていた。

ふと周囲を見渡せば、ネコテコも鳥馬から下され、後ろ手にされて組み敷かれている。

完全に包囲されている。


「酒ならあるだけ持って行けば良い。ただし、他には手を出すな」


ナイザが毅然とした態度で言い放つ。

その態度が気に食わなかったのか、バシュクの男は唾を吐き捨てると、ナイザに歩み寄りながら曲刀の柄に手を置いた。


「酒だけじゃ足りねぇ。

 食料と水、そっちの娘二人もだ」


チラリとサマルとフォニを見る。

一瞬見せた舌舐めずりに寒気が走る。


「騒がれても面倒だから他は死んでもらうが、悪く思うなよ」


男の言葉を合図にしたように、バシュク族の一団が鳥馬を降りて近寄ってくる。

やはりバシュク族は蛮族だ。疑いようの無い事実だ。

──手を打つならば早い方が良い。そう考えた矢先だった。


「あぁお前ら、そっちの魔術士には気をつけろよ」


オリーとフレアに近付こうとしていた男たちが一歩後ずさる。

先ほどの魔法を見たせいだろう、警戒しているのが良くわかる。だからと言って事態が好転する気配はなかった。


「魔術士さんよぉ、少しでも動いたら娘の頭が空飛んじまうぜ?

 そしたら聖域には行けなくなるなぁ」


下卑た笑みを浮かべている。

男の言葉にサマルに視線を移してみれば、首筋に曲刀が当てられているのが見えた。


「ああ、あの世はある意味じゃ聖域か?」


バシュクの男が品の欠片も無い笑い声を上げると、その笑い声に一団も合わせるように笑い始めた。


「しっかし、魔術士ってのはこの世の頂点かと思っていたが、案外頼りねぇんだな」


男の言葉に苛立ちを覚える。

何をどうして頂点などと言っているのかまったく理解できないが、魔術士は決して強い存在では無い。

魔法の発動には多少なりとも隙ができる。その隙を突かれたら、何もできないのだ。

すぐ横では、フレアが音が聞こえそうなほどに歯を食いしばっていた。


「大人しくしてろよ」


男の甲高い笑いが余計に神経を逆撫でする。


「娘二人と砂馬全部、他は縛って置いていくぞ」


いよいよもって万事休す。

今この瞬間生命が助かったとしても、バシュクが去った後で、この砂漠に生命を奪われる。

それをわかっている上で、あえて縛って置いていくと言っているのだろう。

一矢報いたいが、どうにもできない状況に歯痒さを覚える。


その時、取り押さえられていたサマルが声を上げて身じろぎした。


「私はサマル!デル・ヤシュム・ガシュルの娘!

 バシュクの良いようにはさせない!」


転がるように身を翻して拘束を抜け出し、腰に帯びた短剣を抜いて、身を低く構える。

その機に乗じて、フレアが指先をパチンと鳴らした。

無数の石が浮き上がり、それぞれが意思を持つように速度を上げてバシュク族に襲いかかった。

容赦無く打ち込まれる石に、避けることもできずに次々と倒れていくバシュク族。

その一瞬で、半数以上を戦闘不能に追いやることができた。


形勢逆転、そう思った矢先に、ざわつくバシュク族の一団を男が一喝で鎮めた。


「騒ぐな!」


声のした方を向く。

ニヤニヤとするバシュクの男の手には、髪を掴まれ、喉元に曲刀を当てられたフォニの姿があった。

立ち所に状況が戻ってしまう。

フォニを人質に取られ、サマルは短剣を手放すしかなかった。

それを見逃さず、バシュクの男はサマルの腹を蹴り上げた。


ドサっという音と共に、くぐもった呻き声を上げてサマルが倒れる。

気を失ってしまったのだ。


「ったく、うるせえんだよ」


そう言ってサマルに唾を吐きかける。

それを見ていたナイザが、声にならないような叫び声をあげて剣を振りかぶった。

ナイザがバシュクの男に襲いかかる。


──無謀だった。

ナイザはすぐさま数人の男たちに取り押さえられ、殴られ、蹴られ、一瞬で組み伏せられてしまった。

生命を絶たれなかったのが唯一の救いだった。

何もできない。

オリーもフレアも、その状況を見つめることしかできなかった。

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