3-22
誰もが望まない現実は、理不尽にやってくる。
ザルハンの監視を意識しながら、それ以外はいつもと変わらずに、一行は北の高原地帯を目指して進んでいた。
日が真上に差し掛かり、じわりと汗ばんでくるのを感じながら、そろそろ昼の休憩に入る頃合いかと考えていた。
左手に砂煙が上がるのが見えた。
出発前、ネコテコは嵐は来ないと言っていた。
あれは嵐の砂煙ではない。
よく目を凝らして、砂煙を上げる原因を突き止めようとした。
──鳥馬が舞い上げる砂煙……。
「バシュクだ!」
先を走っていたサマルが、砂馬の横につけて叫び声を上げた。
何もかもを奪う部族。それが今、こちらに向かって迫ってきていた。
サマルの声を聞いて、ナイザが咄嗟に砂馬を東に向ける。
少しでも遠くへ逃げようとするが、鳥馬の速度には敵わない。
「とにかく砂馬を走らせろ!」
ナイザの緊迫した声が飛ぶ。
激しく揺れる砂馬の上で気ばかりが逸るが、どう足掻いても距離は縮んでいく。
「父さん!私が行く!」
サマルはそう告げると、並走を解いてバシュクが迫る方角へと手綱を引いた。
「よせっ!」
ナイザの声は届いていない。
すかさずネコテコが追走しようと、並走を解こうとする。
衝突は避けられない。
オリーが大声でネコテコを呼んだ。
「ネコさん!バシュクを、できるだけこっちに近付けて!」
意図を察したのか、ネコテコは黙って頷き、鳥馬を蹴ってサマルを追いかけた。
「フレア!」
フレアを呼ぶ。
相手がバシュクである以上、無事に済むとは考えられない。
だからと言って、ただやられるつもりはない。
思い付きでしかなかったが、こちらの力を見せつけて、事態が好転することを願う。
「バシュクが寄ってきたら、なんでも良いから魔法を撃って!」
フレアは大きく頷くと、背負っていた杖を構えた。
サマルとネコテコが戻ってきたのは、ほんの数瞬後のことだった。
バシュクが剣を振りかざし、雄叫びを上げながらすぐ後ろに迫ってきている。
十人はいるだろうか。
まだ距離はあったが、追いつかれるのは時間の問題だった。
「フレア!」
その合図に、フレアはバシュクに振り返って魔法を放った。
砂馬のすぐ後ろの砂地が、橙色の光を帯びる。
次の瞬間、砂地が大きく盛り上がったかと思うと、後を追うバシュクの目の前でまるで壁のように迫り上がった。
突如として現れた砂壁に行く手を阻まれ、強かに身体を打ち付けた数騎が転倒する。
砂とはいえかなりの速度で衝突したのだ。しばらくは呼吸すらまともにできないだろう。
かろうじて砂壁をかわしたバシュクは、次の魔法を警戒するように散開を始めた。
蛮族のようでいて、猪突猛進の類ではないようだ。
散開したバシュクが、剣を収めて矢を構えるのが見えた。
容赦無く放たれた矢が耳元を掠める。──矢の風切音に背筋が寒くなる。
オリーは即座に物理障壁魔法を展開し、次々襲いかかる矢に対処するが、それも万全というには程遠い。
もっと数を減らさなくては、囲まれてしまえば打つ手がなくなる。
その間にもフレアが魔法で石礫を放つが、砂馬の揺れと、バシュクの機敏な動きのせいで、思うように攻撃を当てることができなかった。
「ちょこまかと鬱陶しいのです!」
フレアの愚痴が聞こえる。
オリーも突風魔法を放って応戦したが、それでも落とせたのは数騎程度だった。
──次第に距離が縮まる。
このままでは、完全に追いつかれる……。
そう思った矢先、先頭を行くナイザの砂馬が突然走るのを止めた。




