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私と彼女の物語 -Travelers of the Far Green Road-  作者: ORSBN.shu
第三部・盛陽
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92/108

3-22

誰もが望まない現実は、理不尽にやってくる。


ザルハンの監視を意識しながら、それ以外はいつもと変わらずに、一行は北の高原地帯を目指して進んでいた。

日が真上に差し掛かり、じわりと汗ばんでくるのを感じながら、そろそろ昼の休憩に入る頃合いかと考えていた。


左手に砂煙が上がるのが見えた。

出発前、ネコテコは嵐は来ないと言っていた。

あれは嵐の砂煙ではない。

よく目を凝らして、砂煙を上げる原因を突き止めようとした。


──鳥馬が舞い上げる砂煙……。


「バシュクだ!」


先を走っていたサマルが、砂馬の横につけて叫び声を上げた。

何もかもを奪う部族。それが今、こちらに向かって迫ってきていた。

サマルの声を聞いて、ナイザが咄嗟に砂馬を東に向ける。

少しでも遠くへ逃げようとするが、鳥馬の速度には敵わない。


「とにかく砂馬を走らせろ!」


ナイザの緊迫した声が飛ぶ。

激しく揺れる砂馬の上で気ばかりが逸るが、どう足掻いても距離は縮んでいく。


「父さん!私が行く!」


サマルはそう告げると、並走を解いてバシュクが迫る方角へと手綱を引いた。


「よせっ!」


ナイザの声は届いていない。

すかさずネコテコが追走しようと、並走を解こうとする。

衝突は避けられない。


オリーが大声でネコテコを呼んだ。


「ネコさん!バシュクを、できるだけこっちに近付けて!」


意図を察したのか、ネコテコは黙って頷き、鳥馬を蹴ってサマルを追いかけた。


「フレア!」


フレアを呼ぶ。

相手がバシュクである以上、無事に済むとは考えられない。

だからと言って、ただやられるつもりはない。

思い付きでしかなかったが、こちらの力を見せつけて、事態が好転することを願う。


「バシュクが寄ってきたら、なんでも良いから魔法を撃って!」


フレアは大きく頷くと、背負っていた杖を構えた。


サマルとネコテコが戻ってきたのは、ほんの数瞬後のことだった。

バシュクが剣を振りかざし、雄叫びを上げながらすぐ後ろに迫ってきている。

十人はいるだろうか。

まだ距離はあったが、追いつかれるのは時間の問題だった。


「フレア!」


その合図に、フレアはバシュクに振り返って魔法を放った。


砂馬のすぐ後ろの砂地が、橙色の光を帯びる。

次の瞬間、砂地が大きく盛り上がったかと思うと、後を追うバシュクの目の前でまるで壁のように迫り上がった。

突如として現れた砂壁に行く手を阻まれ、強かに身体を打ち付けた数騎が転倒する。

砂とはいえかなりの速度で衝突したのだ。しばらくは呼吸すらまともにできないだろう。


かろうじて砂壁をかわしたバシュクは、次の魔法を警戒するように散開を始めた。

蛮族のようでいて、猪突猛進の類ではないようだ。

散開したバシュクが、剣を収めて矢を構えるのが見えた。

容赦無く放たれた矢が耳元を掠める。──矢の風切音に背筋が寒くなる。

オリーは即座に物理障壁魔法を展開し、次々襲いかかる矢に対処するが、それも万全というには程遠い。

もっと数を減らさなくては、囲まれてしまえば打つ手がなくなる。

その間にもフレアが魔法で石礫を放つが、砂馬の揺れと、バシュクの機敏な動きのせいで、思うように攻撃を当てることができなかった。


「ちょこまかと鬱陶しいのです!」


フレアの愚痴が聞こえる。

オリーも突風魔法を放って応戦したが、それでも落とせたのは数騎程度だった。


──次第に距離が縮まる。

このままでは、完全に追いつかれる……。

そう思った矢先、先頭を行くナイザの砂馬が突然走るのを止めた。

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