3-15
すっかり日が沈み、砂馬の上で凍りついてしまうのではないかと思い始めた頃に、ようやく一行の進みが止まった。
ナイザが言っていた水場に到着したのだ。
「遅くなったが天幕を張る、手伝ってくれ」
その声に、ネコテコが鳥馬を降りて駆け寄っていく。
オリーとフレアも砂馬を降りて、すぐに火を起こす準備に取りかかった。
かじかんだ手をどうにか動かして火床を作る。魔法で火種を出せるのが救いだった。
火打石や木を擦り合わせて火を切り出すには、あまりにも寒すぎて身体が言うことを聞かなかっただろう。
持ってきた枯れ草が勢いよく燃え上がり、ともに立ち上がる熱気が、冷えた頬をじんわりと温めた。
枯れ草が燃え尽きる前に、乾燥した獣糞を入れる。砂漠地帯で薪は貴重な燃料なのだ。
熾した火をじっくりと育てる。
「臭くないですね」
火が燻る音とフレアの感想が可笑しくて、身体の内側まで温まるようだった。
火が安定したところで、周りに視線を向けた。一面闇に飲まれた中で、橙色の火が周囲を照らしている。
膝を折って休む砂馬の群れがほのかに浮かび上がる。
時折り吹き抜ける風は身体を刺すようだったが、砂馬がちょっとした風除けになってくれていることで、強く頬を打つことはなかった。
そのまま視線を後方に移すと、天幕はすでに完成していた。
野営用の簡易な天幕とはいえ、設営の早さはさすが遊牧民といったところだろうか。
それを手伝ったネコテコも、野営に関してかなりの手練れということだろう。旅慣れているというのは、方便ではないようだった。
天幕に近寄って、そろりと入り口の布を捲って中を見る。中では、サマルとフォニが夕食の用意をしていた。
「火の用意ができたよ」
オリーの声に、サマルがこちらを向いて返事をした。
「ありがとう!
今夜はもう遅いから、簡単に済ませて早めに休みましょう」
手際よく調理をするサマルとフォニをぼんやりと眺める。
背格好も身体付きも全く違ったが、側から見れば姉妹に見えなくもない。
「サマルは手際が良くて羨ましい。
私は何をしても手こずって、全然うまくできないもの」
二人の会話が耳に入った。
フォニの言葉に少し照れ笑いを浮かべながら、「そんなことないよ」とサマルが答えているのが聞こえた。
何とはなしに、この二人は仲が良いのだなと思った。
少しして、周囲の見回りから戻ってきたナイザとネコテコが顔を出した。
ガシュル族の水場とはいえ、他部族が顔を出すことも珍しいことではないらしい。要らぬ衝突を避けるためにも、用心に越したことはない。
「ネコテコ、こいつを焚き火に入れてきてくれ」
ナイザはそう言って、ネコテコに拳ほどの石を数個手渡した。
煤がついたその石は、後で焚き火から取り出して天幕の暖房にするらしい。暖房一つとってもそうだが、砂漠地帯の生活は想像を越えるものが多い。
夕飯の用意はもう少しかかるらしく、それを聞いたナイザは、ネコテコの後を追って外に出て行った。
手持ち無沙汰となったオリーとフレアは、天幕に残って調理をするサマルとフォニを眺めていた。
仲良さそうに調理をする二人に興味が湧いて、邪魔になるとは思いつつも声をかけた。
「サマルとフォニは仲が良いのね」
何ということのない、興味本位のようなものだった。
サマルはそれに笑顔を見せて答えた。
「同じ部族だけど今まであまり話す機会がなくて、でも、同じ歳の子だし、周りは大人ばかりだし、新しい友達ができたみたいなの」
そう言ってフォニの方を見る。
恥ずかしがっているのか、フォニは俯いていて、その表情を見ることはできなかった。
「私は、前からサマルに憧れていたの。
気立てはいいし、気が回るし、しっかり者だし」
言いながらサマルを見つめている。
外見だけを見ればフォニの方がそう見えなくもなかったが、人は見掛けに依らないと思い、それを口にするのはやめておいた。
「なかなか一緒になることがなくて……。
こうやって一緒に旅をして、お話をして、まるで夢のようだわ」
話を聞く分には、仲が良いのは間違いなさそうだった。
フォニの一方的な思慕のようにも思えたが、そういう友人関係というのも、あり得るのかもしれない。
幼馴染の自分とフレアとは、全く異なる関係なのだと納得することにした。
そう考えながら、ふとフレアに視線を向ける。
フレアは、サマルとフォニの料理に夢中なようだった。出会った頃からこの調子だ。それがフレアの良いところなのだ。
「もちろん、お姉さんたちも友達よ?」
サマルが慌てたように口にする。
実に良い子だと感心する。きっと、根っからの良い子なのだ。
サマルに友達と呼ばれて悪い気はしなかった。
そうこうしているうちにも夕食の準備が整ったのか、サマルが天幕の外にいるナイザとネコテコを呼んだ。
香辛料とハーブの香りが漂う。以前ご馳走になったシチューとハーブティーだろうか。
腹の虫が騒ぎ出す気配を感じた。
今夜はぐっすりと眠れそうだ。そう思いながら、皆で食事を囲む用意をした。




