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大きく左右に揺れる砂馬の歩調に合わせ、腰を捻って自分の重心を移動する。
側から見れば優雅に見えるそれも、適度に休憩を取らなければ、腰の骨が削られてしまいそうだった。
ネコテコが用意してくれた分厚い敷革がなければ、お尻の皮も捲れてしまっていたかもしれない。
砂馬というのは何とも難儀な乗り物だと、思わず舌打ちしそうになる。
鳥馬に乗って先を進むサマルとネコテコは、時折こちらを振り返って、進む道の指示を出している。
二人が乗る軽快な鳥馬の足取りは、砂馬よりも快適そうに見えてしまう。
村を出てしばらく経った頃、砂馬の群れを先導していたナイザが、オリーとフレアに近付いてきた。
「砂馬には慣れたか?」
慣れた手つきで手綱を扱うナイザを見て、年季の入り方が違うと感心する。
そのナイザは、見るからに既に疲弊している二人を前に、笑みを浮かべていた。
愚痴の一つもこぼしてやろうかと思いつつ、言ったところで悪いのはナイザではなく、強いて挙げるならば砂馬をこの世に生み出した神のせいだと考えて口を噤んだ。
「砂漠地帯には八つの部族がある。
一番力があるのはザルハン、砂漠の北東に移牧地を持っている。
『黄金の王の民』なんていう由来通り、他部族に対して高圧的だが、攻撃的ではない」
どうやら、砂漠地帯の情勢を教えてくれているようだった。
おそらくは、常に警戒しておくようにという指示だろう。
「気をつけなきゃならんのはバシュク。
北西の砂丘を根城にしている連中だが、ザルハンと覇権争いに興じている。
あいつらは目についたものに片っ端から襲いかかって、全部を奪って行く」
それを聞いて、ついついオリーから素直な感想が漏れた。
「まるで蛮族ね」
オリーの言葉に、ナイザが笑い声を上げた。
「まったくだ。できれば会いたくない連中だ」
同じ大陸にあって、連峰を挟んだ東と西では随分と生き方が違うものだと考えさせられる。
その横でナイザの話を聞いていたフレアが、以前ナイザが話していたことを聞いた。
「おじさんが言ってたネフザード?も、部族の名前ですか?」
親子と出会った時に、親子喧嘩が始まった切っ掛けとなった言葉だ。
「ああそうだ。滅多に表に出てこないが、実質砂漠地帯を牛耳ってるのはネフザードだ。
まあ、ネフザード族に嫁げば将来は何も心配いらんてのが、砂漠の民がよく言う話だ」
そう言って、革袋から一口水を含む。
口を湿らす程度で、勢いよく飲み込んだりはしない。そうやって水を節約しているのだ。
オリーとフレアも、ナイザの真似をして水を一口含んだ。
「サマルはネフザードに嫁ぐの?」
不意に、少し離れて会話を聞いていたフォニが砂馬を寄せて声をかけてきた。
「それが良いわ、サマルなら良いお嫁さんになれる。
気が回らない私にはできないもの……」
手に持った革袋に視線を落とし、口元に笑みを浮かべたフォニはどこか嬉しそうだった。
サマルの花嫁姿でも想像しているのだろう、然程気にすることもなかった。
それよりも、どちらかと言えばフォニの方が嫁ぐのには向いているような気もしたが、それは言わないでおいた。
そこに、どこから話を聞いていたのかは分からないが、いつの間にか並走していたサマルが首を振って口を挟んできた。
「ネフザードなんかに嫁がないわよ。私は母さんみたいになるんだもの」
頬を膨らませているサマルの表情が何ともあどけなく見えたが、そう感じたのも束の間、視界に入ったナイザの横顔に、また親子喧嘩が始まるのではないかと、オリーは無意識に肩をすくめた。
恐る恐るナイザの様子を伺う。
ナイザは黙って前を見ているだけだった。おそらく、聞こえていないふりをして誤魔化しているのだろう。
ここで言い争いを始める気はないといった雰囲気だった。
そのナイザが、少しだけ間を置いてから指示を出した。
「今日はこの先の水場で野営を張る。少し急ぐぞ」
そう言って砂馬の速度を上げた。
張り詰めた空気に気付いたフォニが、小声でサマルに声をかけていた。
「なんか、私のせいでごめんね……」
自分の発言のせいだと思っているのだろう。俯き加減にサマルに謝っている。
サマルは気に留めた風もなくあっけらかんとして、「気にしないで」と言って鳥馬を駈って前に出て行った。
サマルと入れ替わるように後退してきたネコテコに革袋を手渡す。
少しだけ沈んだ雰囲気を察したのか、首を傾げて不思議そうにしながら革袋を受け取り、ペコリと頭を下げてから水を一口含んだ。
「どうかしたんですか?」
たまらず聞いてきたのだろうが、オリーは首を振ってそれに答えた。
いずれ知れることとはいえ、親子喧嘩など見ても楽しいものではない。
──これから日が傾いて来る。
時間と共に、気温が下がってきているのを肌で感じた。
心なしか、風の音が冷気を運んできているような気さえする。
砂漠地帯の真ん中で、初めての凍える夜を迎えるオリーとフレアは、少しばかり緊張していた。




