3-13
──数日後
鳥馬に乗ったサマルが宿屋の前まで迎えにきてくれた。
騎乗しているだけで妙に様になっているのは、やはり遊牧民だからなのだろうか。少しだけ羨ましく思う。
「お姉さんたち、よろしくね!」
元気のいいサマルの挨拶に、思わず頬が緩んでしまう。
こちらもサマルに挨拶を返して、教会のそばで待っているというナイザのところまで向かうことにした。
宿屋の主人に声をかけ、いつの間にか宿屋の前で待機していたネコテコと合流する。
砂馬が三頭、それぞれにオリーとフレア、ネコテコの荷物が積まれている。
それを見たサマルが何か言うかと思ったが、特に驚いた様子もなくただ笑みを浮かべるだけだった。
「行きましょう」
サマルに促されて砂馬に乗り込んだ。
この数日ネコテコに砂馬の乗り方を教えられ、なんとか歩くことはできるようになった。しかし、その独特な歩調に慣れるには、まだしばらく時間が必要だと感じていた。
慣れない手つきで砂馬の手綱を引き、店の前で見送ってくれる宿屋の主人に手を振って教会へと向かった。
ほんの少しの距離を歩き、村外れの教会に到着する。
教会の外では、ナイザと神父が何か話をしていた。そのナイザの姿を見て、身体が強張るのを感じた。
ネコテコの件をどう切り出したら良いものか、結局当日になっても良い方法は思い浮かばなかった。
──ここまでくれば、後は成るようにしかならない。
腹を括ってナイザのところまで砂馬を歩かせた。
こちらに気付いたナイザが手を挙げて出迎えてくれる。
得も言われぬ緊張感に押しつぶされそうになったその時、ナイザの後ろに控える砂馬の群れを見て圧倒された。
大小合わせて十数頭はいる。
つい先日サマルとナイザに会った時の数倍はいる砂馬に、それぞれ様々な荷物が積まれていた。
聖域を目指す旅に必要な荷物は、これほどまでに大量なのかと、ついネコテコのことなど忘れて感心してしまう。
「旅の人、よろしくな」
ナイザの声に我に帰る。
オリーとフレアはあわてて砂馬を降りて挨拶を返した。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
二人で深く頭を下げた後で、視界の端に映ったネコテコに気付き、ハッとして本題を切り出した。
「急な話なんですが……」
その様子を見て、何かに勘付いたナイザが後ろから近付いて来るネコテコに視線を向けた。
一瞬で全てを察したらしい。
ナイザはネコテコに片手を差し出しながら口を開いた。
「ナイザだ」
差し出された手を取り、握手をしながらネコテコが頭を下げる。
「ネコテコ・バフルです。ザーローンの元冒険者です」
簡潔な自己紹介だったが、ナイザにはそれだけで十分だったようだ。
「一人増えるくらい問題ない。砂馬を用意するあたり旅慣れたやつだろう。
荷を任せられるし、男手が増えるのは歓迎だ」
チラリとこちらに視線を投げつつ、ナイザがニヤリとして見せた。どうやらここ数日の心配は杞憂に終わったようだ。
「タウトラは鼻が効くと聞く。よろしく頼む」
ナイザがあっさりとネコテコを迎え入れてくれたことで、肩の荷が降りたように身体中の力が抜けていった。
ナイザとネコテコのやり取りを呆けて見ていると、ナイザが後ろを気にして何かを探すようにしながら話を続けた。
「実を言うと、こっちも一人増えた。
洗礼を受ける者なんだが……」
そう言ってからサマルを呼ぶ。
呼ばれたサマルは、砂馬の影に隠れていた少女を連れて歩いてきた。
少女はこちらを覗き込むような仕草をしている。
短い黒髪と短いおさげ。長い前髪に隠れて瞳の色は見えなかったが、目尻のほくろが大人びて見えた。
サマルと同じような深緑色の石の首飾りを身につけた少女。
二人が並ぶと、彼女の華奢な体躯が際立って見えた。
少女はオリーとフレアの近くまで歩み寄ると、深々と頭を下げて挨拶をしてきた。
「あの、急なお話ですみません。
フォニといいます。どうぞ、よろしくお願いします」
服の裾をいじりながら話す仕草のせいか、随分と内気な少女なのだなと思った。
「フォニも私と一緒。この間成人したばかりなの」
サマルのおかげで、フォニが同行する理由がわかった。
それにしても、サマルの無邪気な笑顔とは対照的な、フォニのはにかんだようなぎこちない笑みは、先が思いやられる気配を感じさせた。
「私はオリビア、こっちはフレイア。
二人とも冒険者よ。これからよろしくね」
気後れさせないように、できるだけ柔らかい口調で話しかけたが、フォニは小さく頷くと、そそくさと砂馬の影に戻って行った。
その姿を見送ったあとで、オリーはフレアと顔を見合わせて乾いた笑い声を上げた。
意思疎通も難しいかもしれない……。
そうこうしていると、ナイザとネコテコの話がついたらしく、そろそろ出発しようと声をかけてきた。
「まずはガシュルの移牧地境界を目指す。
ネコテコはサマルと一緒に鳥馬で先導を任せる」
ナイザの合図で各々鳥馬と砂馬に乗り込んだ。
「──それじゃあ行こう」
手綱を引いて砂馬を歩かせる。
大陸の西側に来て、ようやく本当の旅が始まったような気がした。




