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薄々と感じていた嫌な予感は、見事的中することになった。
頭を下げたままの姿勢で、「だめですか?」と首を捻って聞いてくる何でも屋に、何とも器用な格好で懇願して来るものだと呆れてしまう。
それはともかくとして、聖域への旅の同行については、オリーとフレアが決めるわけにはいかなかった。
二人にとっても聖域は、『連れて行ってもらう』という立場である以上、決定権はナイザやサマルにあるのだった。
それをフレアに耳打ちすると、フレアは顎に手をやって首を傾げる仕草を見せた。
目を閉じて熟考しているように見える。何か良い解決策でもあるのかと期待してしまう。
「正体がわからない人を連れて行くのは無理ですね」
キッパリとした口調で告げる。
確かにその通りではあったが、しかしそれでは、素性がわかれば同行を許可すると取られても仕方がない物言いだった。
何でも屋はフレアの返事に、慌てたようにして懐から一枚のカードを取り出した。
見覚えのあるカード。オリーとフレアも常に携帯している、冒険者証だった。
「申し遅れました。私はネコテコ、ネコテコ・バフルといいます。
この村の出身で、元はザーローンの冒険者です」
見せられた冒険者証を確認する。
ランクの欄にはザーローン王国の印章が押されていた。
ランクの記載がなく、それでも冒険者証を持っているということは、この何でも屋は元はランク5以上の冒険者だったということになる。
ランク4以下の冒険者は、引退時に冒険者証を返却する決まりだからだ。
ついつい、偽装でもしていないかと穴が開きそうなほどに凝視したが、それはまごう事なき正当な冒険者証だった。
そもそも、冒険者証が偽装できるような代物でないことは分かってはいた。分かってはいたが、どうにもそれを認めたくない気分だった。
そんな二人の様子を見ながら、ネコテコは照れくさそうに頭を掻いている。
「何と言うか、冒険者っていうのには向いてなかったみたいで……」
照れ笑いを浮かべているが、ランク5になるには相当な時間と実績が必要である。
フレアのように日々努力し、その上で運も実力も機会にも恵まれていたなら話は別だが、この目の前のタウトラは、見た目に反して相当な実力を持っているのかもしれない。
ネコテコが元冒険者と聞いてフレアの目付きが変わり、「ネコテコ、猫梃子?、ニャンコ?ネコ!」と呟いているのが少々心配ではあったが……。
それでも、旅の同行についてはまた別の話だった。
それを告げようとオリーが口を開いたのとほぼ同時に、何でも屋の扉が勢いよく開いた。
「どうだ、話はついたか?」
宿屋の主人だった。
彼の声に、ネコテコが頭を掻きながら苦笑いしている。
「いやあ、まだだよ」
その返事を聞いて、宿屋の主人が豪快な笑い声をあげる。
この男はいつも豪快に笑う。そんなどうでも良いことを考えていると、宿屋の主人はネコテコのそばまで歩み寄って、こちらに話をしてきた。
「旅の人、どこまで話を聞いたかわからんが、こいつを連れて行っちゃくれねえか。
ガキの頃からのダチでな、悪いやつじゃない」
宿屋の主人の援護に、顔を赤くしながらネコテコが慌てふためく。
「俺よりも随分と歳上なのに見た目は頼りない。それでも、ザーローンと村を行き来するくらいには有能だ。
好奇心旺盛のくせに意気地がなくて、すぐに冒険者をやめちまったみたいだが、きっと旅の役に立つ」
言い終えて、ガハハと笑う宿屋の主人の隣で、ネコテコは「お願いします」と言いながら再度頭を下げる。
なんとも対照的な二人だが、どちらも悪い人ではないと感じた。
それは今までの会話から何となく察することができたし、何よりも、二人とも互いを信頼しているのが分かるからだった。
ネコテコの同行は、聖域への道程に支障をきたすことはないだろう。むしろ、ザーローンと村を行き来するほどの実力があるというのは、この旅において実に有益だった。
「私たちでは決められないので、ガシュル族の親子に聞いてからでも良いですか?」
事実を伝える。
どうこう考えたところで、ネコテコ同行の許可はナイザとサマルの同意が必要なのだ。
その返事にネコテコは、何度も頭を下げて礼を言ってきた。
「ありがとうございます!
ずっと昔から気になっていたんです、あの場所」
まだ同行が許されたわけでもないのに、その視線の先には聖域が映っているようだった。
どうにも宿屋の主人の策略に、まんまと乗せられた気がしないでもない。
結果的に、ネコテコ同行の片棒を担がされるのだから始末に負えない。
ナイザとサマルにこのことを告げなければならない。それが、何とはなしに気が重くなるのだった。




