3-11
看板も出ていない、軒先に馬具が重ねられている店の前に立つ。
一見、貸し馬屋なのかと勘違いしそうになった。
入って良いものかと戸惑いながらも店の扉を半信半疑で開けると、カランカランと呼び鈴が軽い音を奏でた。
その音に反応したのだろう、店の奥から何かを落としたような派手な物音が聞こえてきた。
それと同時に、「あーっ」という声がしたかと思うと、あたふたとしながら背の低い男が姿を現した。
「いらっしゃいませぇ」
粉だらけになった身体を払いながら、ふらふらと歩いてくる。
明るい茶色の髪を短く整えた、見た目は子供のような人物が、タウトラだということは彼の耳を見てすぐにわかった。
「どんなご用ですか?」
人懐こい笑顔で問いかけてくる。その表情だけで、人柄が伝わってくるようだった。
不思議に思えたのは、店内にいるというのに、彼が革製の鎧を着込んでいることだった。護身用にしては少しばかり仰々しくも見える。
長くはないが、腰には剣も帯びている。
治安が悪いとは思えない村だ。強盗が入って来るということもないだろう。とすれば、見た目にはこれからどこかへ出かける用事があるのかもしれない。
彼を引き止めるのも悪いと思い、オリーは早々に用を済まそうと要件を話した。
「宿屋の主人に、旅の支度ならこの店に行くと良いと言われて……」
それを聞いた何でも屋は、何故か表情を明るくして、前のめりになりながらこちらに寄ってきた。
「もしかして、数日前に村に来た旅の人でしょうか?」
彼の目が輝いているのが、どうにも嫌な予感しかしない。とはいえ、自分たちの身形はどう見ても村の人間には見えず、誤魔化しようがないと諦めつつ首を縦に振った。
それを確認した何でも屋は、天を仰ぐような格好で大袈裟に呟いた。
「間に合ってよかったあ」
心底ホッとしたような顔でその場にへたり込む。
何が間に合ったのか皆目見当もつかない。それでも、嫌な予感が的中しそうな気配だけはひしひしと感じた。
こちらの内心など気付くはずもなく、何でも屋は聞いてもいないことを勝手に話し出した。
「宿屋さんが、『聖域を目指している旅人がいる』っていうもんだから、慌てて支度をしていたんですよ」
それを聞いて、何となく事情が見えてきた。
「えぇと、宿屋の主人に旅の支度ならこの店だと聞いてきたんですが……」
思わず同じようなことを繰り返し話してしまった。
オリーの言葉に何でも屋は勢いよく立ち上がると、頷きながら食い気味に返事をしてきた。
「はい!あらかた用意は整っています。
簡易の天幕と防寒具、三人分の食料と水が一月分、あとは足さえ用意できればすぐにでも出発できます」
準備の良さにどこか腑に落ちないオリーとフレアは、一度顔を見合わせてから何でも屋を見返した。
──これは確実に何か裏がある。
そもそも、食料と水が三人分というのが、誰を勘定に入れているのか……想像はつくが、答えを出したくはない。
そんな思いも露知らず、何でも屋は目を輝かせてこちらを見ている。
「聖域にはガシュル族の親子に連れて行ってもらうので、とりあえず防寒具だけ……」
それを聞いた何でも屋は、キョトンとした表情を見せて「はい?」と首を捻った。
聞こえていなかったのかと思い、もう一度同じことを伝えるが、何でも屋はたいそう驚いたといった表情を見せて首を横に振った。
「ダメですよ!
遊牧民が同行するからと言っても、自分たちのものは自分たちで用意しないと」
もっともらしいことをもっともらしく言う。
何でも屋のいうことは正しい。正しいのだが、どこか引っかかるものがあった。
そんなふうに感じながら、何と返したら良いものかと考えあぐねていると、何でも屋は急に声色を変えてきた。
「というわけで、一つご相談なのですが……」
ついに本題が来ると感じ、一瞬身構えた。
「一緒に聖域に連れて行ってください!」
そう言って深々と頭を下げる。
予想通りの展開に、ついついオリーもフレアも表情を無くしてしまった。




