3-10
──翌早朝
オリーとフレアは親子に連れられて村まで戻った。
死を覚悟した昨日の道のりを、いとも容易く、安全に、危険を一切感じることなく到着したことで、遊牧民や砂馬の重要性をひしひしと感じることとなった。
やはり昨日のような行動は無謀であり浅はかなのだ。
親子は一度ガシュル族の野営地に戻り、諸々の用事を済ませた後で、オリーとフレアを迎えにきてくれると約束してくれた。
出発まではまだ数日かかるが、聖域への道筋は立った。
二人はその足で宿屋へ向かい、旅の支度を整えることにした。
二人を出迎えた宿屋の主人は、一瞬驚いたような顔をしていたが、どこかホッとしたような表情を見せた。
「無鉄砲に砂漠に入って、野垂れ死んでるかと思ったぜ」
冗談にしてはキツい言葉だったが、ほとんど冗談ではなかったことに、笑うに笑えない二人だった。
その後、遊牧民に出会えたことと、さらには彼らが聖域に連れて行ってくれることを主人に伝えると、まるで自分のことのように喜んでみた。
「しっかし、遊牧民に会えるとは、よほど運が良いんだな。
幸運の神ってのもいるもんだ」
そう言いながら今度は豪快に笑い声を上げる。
残念ながら幸運を司る神など聞いたこともない、今回の一件については『いたずらと変化』を司る、カリメラの気まぐれのような気もする。
「まず、遊牧民に会えること自体が稀なんだよ。
その中から、聖域に向かう連中に会えるなんてのは、砂漠の砂の中から希少な一粒を見つけるくらいなもんだぞ」
主人の話は、言い得て妙だと思った。
それほどまでに、サマルとナイザとの出会いは奇跡的なのだ。
その奇跡を噛み締めつつ、これからの旅の支度について主人に相談を持ちかけた。
「食料や水、旅の道中の必需品は用意してくれると言っていましたが、私たちは何を用意したら良いですかね?」
オリーの問いに、店主が少しニヤリとして見せた。
「手ぶらで砂漠に入る怖さは身に沁みただろう」
店主の言う通り、何の用意も無しで砂漠に立ち入ることの厳しさは、身をもって実感したばかりだ。
「その上でだ、こっから高原に抜けるまでに、食料と水は最低でも一月分は必要になる。
遊牧民が用意するとしても、あいつらはその場で何とかしちまうからな、最悪、砂食い虫を食うことになる。
それが嫌なら、自分の食糧はある程度用意したほうが良い」
何となく嫌な予感がする言葉が聞こえた。
遊牧民は虫を食べるのかと考えると、背中がゾワゾワとするのがわかった。
「荷を運ぶ砂馬はあいつらに任せるとして、あんたらが必ず用意しなきゃならんのは、夜間の寒さに耐える防寒具だろうな。
凍りついて自分が『荷物』にならないように気をつけるこった。
昼は暖かいから腐るのも早い」
またもや豪快に店主が笑う。
彼の言う『荷物』という言葉が、決してただの比喩ではないと寒気が走る。
オリーとフレアが急いで防寒具の準備をしようと相談していると、それを聞いていた店主が人差し指を立てて得意げな顔をする。
「防寒具の他にも、必要なものは旅慣れたやつに聞くのが早い。
ここを出て数軒先に何でも屋がある。今から行ってみな」
主人はそう言って不敵な笑みを浮かべる。
それはさておき、店主の言う通り、旅の支度は旅慣れた人物に聞くのが合理的ではあった。
オリーとフレアは宿屋の主人に小さく頭を下げて、無意識に早足でその店に向かった。




