表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私と彼女の物語 -Travelers of the Far Green Road-  作者: ORSBN.shu
第三部・盛陽
PR
79/106

3-9

食事を終えると、口直しにとヤギのミルクを使ったハーブティーが出された。

清涼感のある香りに反して、飲み口は温かかった。

一口飲むごとに、夕食の香辛料や脂の重みが、洗い流されるように消えていくような気がした。

その一時に微睡んでいると、今まで沈黙を守っていたナイザが静かに語り出した。


「洗礼ってのは大人として認められるためのもんだが、ただの仕来りじゃない。

 生き方を決めるための大事な儀式だ……」


ナイザはゆっくりと話を続ける。


「選べる道は二つに一つ、父の名か、母の名のどちらか。

 それを選び神に宣誓する。

 どちらを選んでも、砂漠の民のために生きることを強いられる。

 ──まあ、それが悪いこととは思わんが……」


気が付けば、日が落ちて気温が下がり、肌寒さを感じてきていた。

それでも、ハーブティーのおかげで、身体の内側は温かかった。


手に持ったカップに視線を落としたまま、ナイザはポツリポツリと話した。


「受け継ぐ名は様々あるが、サマルはタシュかヤシュム。

 タシュは守人として部族に残り、ヤシュムは戦士として部族を出る。

 サマルの母親──デル・ヤシュム・ガシュルは、戦士になることを選んだ。

 戦士は、砂漠の民を守る使命を帯びる」


そこまで話して、ナイザはカップを煽ってハーブティーを飲み干した。


「戦士として部族を出ることを選んだら、二度と戻ってくることはない。

 デルはサマルを産んだ後に部族を出た……。

 出れば……それきりだ」


ナイザはそれ以上話を続けることはなかった。

オリーもフレアも、語られた洗礼の内容に、返す言葉が見つからなかった。

サマルだけが、静かに、ナイザに自分の想いを伝えることができた。


「それでも、私は母さんのようになりたい」


その言葉に、一瞬サマルを見て何か言いかけたナイザだったが、それを飲み込むようにしてから、言葉を選ぶように声をかけた。


「子の幸せを願うのが、親の務めなんだ」


ただの成人の儀式だと思っていたが、砂漠の民の洗礼は、一人の人間が、自らの生きる道を定めるものだった。

成人したばかりの子にそれを突きつけるのは、随分と酷なような気がした。

そして、聖域という場所が、軽々しく足を踏み入れては行けない場所なのだと気付いた。


それでも、オリーとフレアは聖域に行き、確かめる必要があった。

放浪の魔女が、自分たちに何を託したのかを……。


「あんたらもそう思うだろう?」


不意にナイザに声をかけられ、どう答えたら良いか一瞬戸惑った。

そして、ナイザの問いに答えたのは、それまでずっと黙っていたフレアだった。


「私は自分の意思で冒険者になって、今とても幸せです。

 好き勝手言わせてもらうと、何を選ぶかはサマルちゃんの自由です。

 結果がどうなるかは先の話、選択した結果の責任は自分で負うべきです。

 子供の幸せを願うなら、サマルちゃんの選択を見守って支援するべきです。

 ……と、思うのです」


オリーが目を丸くしてフレアを見つめる。

ナイザも驚いたらしく、同じようにしてフレアを見つめていた。

下手を打ったかと内心ハラハラしたが、ナイザはどこか吹っ切れたような表情を見せた。


「そいつは理想だな、現実はそう温いもんじゃない。

 ──だが、あんたの話を聞いていると、昔の自分を思い出しそうだ」


そう言って笑みを浮かべる。

その表情のままサマルに向き返って、静かに声をかけた。


「とりあえず、聖域へ向かうことは許す。それは、父さんも一緒に行くのが条件だ。

 聖域についた時、もう一度サマルの意思を聞かせなさい」


驚いたような表情で、サマルがナイザを見つめ返した。

次の瞬間には、顔を真っ赤にして、泣いているのか喜んでいるのか、判断をつけにくい表情でナイザに抱きついていた。


「父さんありがとう!」


親子喧嘩の仲裁ができたのか、何はともあれ、オリーとフレアは、聖域への切符を手に入れることができた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ