3-8
砂漠の過酷な洗礼を受け、場所のわからない聖域を目指す旅に、どんよりとした暗雲が立ち込め始めていた。
その矢先、偶然出会った遊牧民の親子と、その娘が成人したばかりという事実に、一気に目の前の霧が晴れたような気分だった。
「つまり……、サマルさんはこれから聖域に行くってこと?」
目の前の幸運が逃げていきそうな気がして、ついつい恐る恐る声を出してしまった。
オリーの問いに振り向いた親子は、勢いよく別々の行動をとった。
父親のナイザは首を大きく横に振り、サマルは笑顔で首を縦に振る。どちらを信用すればいいのか戸惑ってしまう。
「あんな仕来りに従う必要はない。
ネフザードに嫁げば良い。あいつらは洗礼なんぞに縛られん」
ナイザはサマルに言い聞かせるように話すが、サマルはすかさずそれに反論した。
「ネフザードなんかに嫁がないわよ!
私は母さんみたいにガシュルの戦士になるの!」
突然始まった親子喧嘩にどうして良いかわからず、オリーが困惑した表情でフレアを振り返った。
フレアは我関せずといった風で、サマルの料理を堪能していた。
周りの空気に流されないのは、正直羨ましいと思える。
そうこうしている間にも、ナイザは声を荒げてサマルを諭そうとする。
「母親の真似をすることはない!」
そう言ったきり、そっぽを向いてパンに齧り付いている。
そのナイザをじっと見つめていたサマルだったが、何かを諦めたような口ぶりで愚痴をこぼした。
「父さんはいつもそう言ってはぐらかすのよね。
……聖域に行けば、母さんに会えるかもしれないってのに」
その言葉に反応してか、何かを言いかけたナイザだったが、結局何も言わずにもう一口パンに齧り付いた。
それを呆れたような表情で見ていたサマルだったが、ナイザから視線を外し、こちらに振り返ってきた。
「お姉さんたちは聖域に行きたいんだよね。
だったら、私が連れてってあげる。三人で聖域へ行きましょ」
わざとらしく声を張り上げて言い放つ。明らかにナイザに対する当てつけだ。
そうとわかってはいても、サマルの申し出は正直ありがたい。この機会を逃せば、おそらく聖域に向かうことは叶わないだろう。
となれば、やはり気になるのはナイザの出方だった。
ここで親子の間を引き裂くのは心苦しい。
すぐにでも「是非」と言いたいのを我慢して、言葉を飲み込んだ。
──沈黙が流れた。
サマルの言葉に、ナイザがどう反応するのか、皆が息を飲んで成り行きを見守る。
ナイザが折れてくれなければ、この話はここで終わってしまう……。
その時、深く大きなため息が沈黙を破った。
「はぁぁぁぁぁぁ」
わざとらしいそのため息は、当然ナイザのものだった。
そのため息に引き寄せられるように、皆ナイザに視線を移した。
「とりあえず食事の続きだ」
回答は得られていないが、言われるがままに食事に戻った。
そして誰も、先ほどの話の続きをしようとはしなかった。




