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私と彼女の物語 -Travelers of the Far Green Road-  作者: ORSBN.shu
第三部・盛陽
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78/104

3-8

砂漠の過酷な洗礼を受け、場所のわからない聖域を目指す旅に、どんよりとした暗雲が立ち込め始めていた。

その矢先、偶然出会った遊牧民の親子と、その娘が成人したばかりという事実に、一気に目の前の霧が晴れたような気分だった。


「つまり……、サマルさんはこれから聖域に行くってこと?」


目の前の幸運が逃げていきそうな気がして、ついつい恐る恐る声を出してしまった。

オリーの問いに振り向いた親子は、勢いよく別々の行動をとった。

父親のナイザは首を大きく横に振り、サマルは笑顔で首を縦に振る。どちらを信用すればいいのか戸惑ってしまう。


「あんな仕来りに従う必要はない。

 ネフザードに嫁げば良い。あいつらは洗礼なんぞに縛られん」


ナイザはサマルに言い聞かせるように話すが、サマルはすかさずそれに反論した。


「ネフザードなんかに嫁がないわよ!

 私は母さんみたいにガシュルの戦士になるの!」


突然始まった親子喧嘩にどうして良いかわからず、オリーが困惑した表情でフレアを振り返った。

フレアは我関せずといった風で、サマルの料理を堪能していた。

周りの空気に流されないのは、正直羨ましいと思える。

そうこうしている間にも、ナイザは声を荒げてサマルを諭そうとする。


「母親の真似をすることはない!」


そう言ったきり、そっぽを向いてパンに齧り付いている。

そのナイザをじっと見つめていたサマルだったが、何かを諦めたような口ぶりで愚痴をこぼした。


「父さんはいつもそう言ってはぐらかすのよね。

 ……聖域に行けば、母さんに会えるかもしれないってのに」


その言葉に反応してか、何かを言いかけたナイザだったが、結局何も言わずにもう一口パンに齧り付いた。

それを呆れたような表情で見ていたサマルだったが、ナイザから視線を外し、こちらに振り返ってきた。


「お姉さんたちは聖域に行きたいんだよね。

 だったら、私が連れてってあげる。三人で聖域へ行きましょ」


わざとらしく声を張り上げて言い放つ。明らかにナイザに対する当てつけだ。

そうとわかってはいても、サマルの申し出は正直ありがたい。この機会を逃せば、おそらく聖域に向かうことは叶わないだろう。

となれば、やはり気になるのはナイザの出方だった。

ここで親子の間を引き裂くのは心苦しい。

すぐにでも「是非」と言いたいのを我慢して、言葉を飲み込んだ。


──沈黙が流れた。


サマルの言葉に、ナイザがどう反応するのか、皆が息を飲んで成り行きを見守る。

ナイザが折れてくれなければ、この話はここで終わってしまう……。


その時、深く大きなため息が沈黙を破った。


「はぁぁぁぁぁぁ」


わざとらしいそのため息は、当然ナイザのものだった。

そのため息に引き寄せられるように、皆ナイザに視線を移した。


「とりあえず食事の続きだ」


回答は得られていないが、言われるがままに食事に戻った。

そして誰も、先ほどの話の続きをしようとはしなかった。

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