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決して広いとは言えない天幕の中に、サマルの手料理が並べられた。
穀物粉を練って焼いた大量のパンと、羊肉を乾燥野菜と一緒に煮込んだシチュー、砂馬のミルクで作ったチーズに、爽やかな香りを漂わせるハーブのお茶。
見た目には素朴だったが、香辛料とハーブの香りで空腹が刺激された。
空いている場所に座るよう促されるまま、中央の料理を囲むようにして、天幕の中に敷かれた織物の上に腰を落ち着けた。
親子の食事の祈りを真似て、オリーとフレアも祈りを捧げる。
「遠慮しないで食べてね」
サマルに言われて、二人は皿に盛られたシチューを頬張った。
濃いめの味付けが口内に広がる。砂漠地帯で生きるための知恵なのだろう、塩分の不足は命に関わるのだ。
そして、濃い味付けのシチューに質素なパンが良く合う。
大量に焼かれたパンは、このシチューを一滴残らず食べさせるための味付けなのだと納得した。
「それで、なんでこんなところまで来た」
黙々と食事をしていた父親が、こちらに視線を向けるでもなく、皿を見入ったまま話しかけてきた。
咎める風でもなく、単純にこちらの素性が気になっているようだった。
おそらくはこの親子が探していたガシュル族の親子であり、そうであるならば、こちらの目的を隠す必要もない。
オリーは手に持った皿を置いて、鞄から放浪の魔女に託された書状を取り出した。
「この書に記された場所を探しています」
書状を解いて詩を見せる。
あの時のように文字が光ることはなかったが、そこにはしっかりと、あの時の詩が記されていた。
それを覗き込むようにして眺める親子の様子をしばし窺う。
「見たこともない文字だな」
「読めないね」
想定していた通りの反応だったが、少しだけ落胆した。
親子の反応を見て、オリーはそこに記された詩を読んで聞かせた。
「西涯濡らす暗き慟哭──」
黙って聞いていた親子だったが、その詩を聞いたことがないのか反応は今ひとつだった。
「ある人にこの書状を託されて、西を目指して旅をしています」
オリーの言葉に、親子はポカンとした表情を返した。
旅人の動機などそうそう興味が湧くことでもないだろうが、それは致し方ないことだった。
「西と言っても、砂と埃しかない広大な場所よ」
サマルが父親に賛同を得るように視線を送る。
それに静かに頷く父親を見て、「ねっ」と言いながらこちらに向き直る。
砂と埃については、ここまでの道中で嫌というほどに味わった。それでも、たった一つの手がかりを目指す必要があった。
「村の人に聞きました。高原地帯に聖域があると。
この詩が示す場所かも知れなくて、そこまで連れて行ってくれる人を探していたんです」
オリーが話す横で、フレアも頷きながら親子を見つめる。
それを聞いた父親は、突然むせるように咳をした。
「聖域だと?あんな場所に行きたがる連中はまともな奴じゃない。
行くのは何かに取り憑かれた狂信者か、世捨て人くらいなもんだ」
そう言いながら、むせた喉をハーブティーで潤す。
その父親の言葉が何かひっかかったのか、サマルが突っかかるように口を挟んできた。
「成人を迎えた部族の子も、狂信者か世捨て人なのかしら?」
その言葉に父親がたじろぐ。
それを見て好機と捉えたのか、サマルはさらに口撃を重ねた。
「父さんはどうして嘘をつくのかしら」
父親は明らかに動揺しているようで、あたふたとしながら「余計なことは言わんでいい」と言って、サマルを止めようとした。
その声は強かったが、どこか焦りが滲んでいるようだった。
しかし、サマルはそれを無視して話を続ける。
「砂漠の民の女性は、成人を迎えると聖域に行って洗礼を受けるの」
父親は手のひらで顔を覆いながら天を仰いでいる。
「私はサマル。サマル・ガシュル。
ガシュル族の守人、ナイザ・タシュ・ガシュルと、ガシュル族の戦士、デル・ヤシュム・ガシュルの娘。
──先日成人したばかりよ」




