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私と彼女の物語 -Travelers of the Far Green Road-  作者: ORSBN.shu
第三部・盛陽
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75/105

3-5

慣れない砂地に遅々として進まない歩に、はじめは戸惑いこそしたが、一旦コツを掴んでしまえば何とかなるものだと思えた。

それでも、普段とは違う動きのせいか、次第に身体がギクシャクしてきたのは、致し方ないことだろうと考えていた。


北に上がった煙らしきものを目指して歩いてきたが、それが煙だと確信した時には、すでに結構な時間が経っていた。

何の準備もなく砂漠に入った事を、ここに来て思い知らされた。

魔法で身体を軽くすることはできても、喉の渇きを潤すことはできない。

砂漠の手痛い洗礼を受けている気分だった。


しばらく歩いて、軽い頭痛を感じ始めた頃に、後方から何かが近付いてくる音が聞こえてきた。

ザッザッという、砂を掴むような音。

振り返ると、人の背丈ほどの黒い塊が二人に迫っていた。


細いしなやかな二本の足。

大きな嘴と、砂漠地帯には似つかわしくない、柔らかそうな羽根。

騎乗用の装身具が付けられている──鳥馬だ。

砂漠地帯での主要な騎乗動物の一つで、村の貸し出しでは、随分と高い値が付けられていたのを見た。

その鳥馬が二人に追いついたかと思ったその時、それが二人に声をかけてきた。


「旅の人?

 大丈夫……?」


随分と軽やかな声で、流暢に人の言葉を話す鳥だと思った。

実際にはそんなことはなく、声をかけてきたのは、鳥馬に乗った人物だった。

軽く身を翻して鳥馬を降りると、その人物は革袋を手に持って二人に駆け寄ってきた。


「水も持たずに入ったの?

 世捨て人じゃないなら、これを飲んで」


そう言いながら革袋を手渡してくる。中には水が入っていた。

どこの誰かはわからないが、助かったのだと実感した。


受け取った革袋から、喉に一気に水を流し込んだ。干上がりそうだった身体に染みていくのがわかるほどだった。

かろうじて窮地を脱することができた。

あと少し、この人物の登場が遅れていれば、二人とも砂漠で干からびていたことだろう。

二人は革袋を渡してくれた人物に深々と頭を下げた。


「ぁりがとうごぁいます」

「助かりました。あやうく砂漠の真ん中で干上がるところでした」


フレアの呂律がおかしいところを見ると、寸でのところだったのだと思い知った。


「無謀なことをするわね」


声の主が少女であることを、ようやく意識が認識した。

長く暗い茶色の髪を風に靡かせている。

短い前髪と、綺麗に整えられた太い眉が活発さを想起させた。

首から下げた、羽根付きの深緑色の石の飾りが揺れている。

少女は、オリーとフレアが正気に戻るのを見て、ほっとしたような表情を見せた。


「歩くのはまだ無理ね」


そう言って無邪気な笑顔を見せた。

鳥馬と並んで立つ姿は勇壮で、しかし、丸みを帯びた身体つきだけを見れば、少女は二人よりも大人びて見えた。


「これの乗り方って、わかるかな?」


そう言いながら鳥馬の首を撫でる。

正直な話、乗り方どころか間近で見るのも初めてだった。

二人は首を横に振って答えると、少女は「それじゃあ」と言って、腰につけた鞄から何かを取り出し、宙に放り投げた。


「少ししたら迎えがくるから、それまではここで待っていましょう」


放り投げられたそれは、三度甲高い音を立てると、煙を上げながら上昇していった。

狼煙の類か何かだろうか、ついつい「今のは?」と声をかけた。


「呼び笛の魔法よ。

 私、魔法は全然だけど、これだけは小さい頃から得意なの」


少女は笑顔で答えた。

なるほど地域に根差した魔法があるものだと、二人はそう思いながら、空高く昇っていくそれを見上げた。

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