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慣れない砂地に遅々として進まない歩に、はじめは戸惑いこそしたが、一旦コツを掴んでしまえば何とかなるものだと思えた。
それでも、普段とは違う動きのせいか、次第に身体がギクシャクしてきたのは、致し方ないことだろうと考えていた。
北に上がった煙らしきものを目指して歩いてきたが、それが煙だと確信した時には、すでに結構な時間が経っていた。
何の準備もなく砂漠に入った事を、ここに来て思い知らされた。
魔法で身体を軽くすることはできても、喉の渇きを潤すことはできない。
砂漠の手痛い洗礼を受けている気分だった。
しばらく歩いて、軽い頭痛を感じ始めた頃に、後方から何かが近付いてくる音が聞こえてきた。
ザッザッという、砂を掴むような音。
振り返ると、人の背丈ほどの黒い塊が二人に迫っていた。
細いしなやかな二本の足。
大きな嘴と、砂漠地帯には似つかわしくない、柔らかそうな羽根。
騎乗用の装身具が付けられている──鳥馬だ。
砂漠地帯での主要な騎乗動物の一つで、村の貸し出しでは、随分と高い値が付けられていたのを見た。
その鳥馬が二人に追いついたかと思ったその時、それが二人に声をかけてきた。
「旅の人?
大丈夫……?」
随分と軽やかな声で、流暢に人の言葉を話す鳥だと思った。
実際にはそんなことはなく、声をかけてきたのは、鳥馬に乗った人物だった。
軽く身を翻して鳥馬を降りると、その人物は革袋を手に持って二人に駆け寄ってきた。
「水も持たずに入ったの?
世捨て人じゃないなら、これを飲んで」
そう言いながら革袋を手渡してくる。中には水が入っていた。
どこの誰かはわからないが、助かったのだと実感した。
受け取った革袋から、喉に一気に水を流し込んだ。干上がりそうだった身体に染みていくのがわかるほどだった。
かろうじて窮地を脱することができた。
あと少し、この人物の登場が遅れていれば、二人とも砂漠で干からびていたことだろう。
二人は革袋を渡してくれた人物に深々と頭を下げた。
「ぁりがとうごぁいます」
「助かりました。あやうく砂漠の真ん中で干上がるところでした」
フレアの呂律がおかしいところを見ると、寸でのところだったのだと思い知った。
「無謀なことをするわね」
声の主が少女であることを、ようやく意識が認識した。
長く暗い茶色の髪を風に靡かせている。
短い前髪と、綺麗に整えられた太い眉が活発さを想起させた。
首から下げた、羽根付きの深緑色の石の飾りが揺れている。
少女は、オリーとフレアが正気に戻るのを見て、ほっとしたような表情を見せた。
「歩くのはまだ無理ね」
そう言って無邪気な笑顔を見せた。
鳥馬と並んで立つ姿は勇壮で、しかし、丸みを帯びた身体つきだけを見れば、少女は二人よりも大人びて見えた。
「これの乗り方って、わかるかな?」
そう言いながら鳥馬の首を撫でる。
正直な話、乗り方どころか間近で見るのも初めてだった。
二人は首を横に振って答えると、少女は「それじゃあ」と言って、腰につけた鞄から何かを取り出し、宙に放り投げた。
「少ししたら迎えがくるから、それまではここで待っていましょう」
放り投げられたそれは、三度甲高い音を立てると、煙を上げながら上昇していった。
狼煙の類か何かだろうか、ついつい「今のは?」と声をかけた。
「呼び笛の魔法よ。
私、魔法は全然だけど、これだけは小さい頃から得意なの」
少女は笑顔で答えた。
なるほど地域に根差した魔法があるものだと、二人はそう思いながら、空高く昇っていくそれを見上げた。




