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──翌日
オリーとフレアは村を回って旅の支度と聖域についての情報を集めた。
しかし、旅の支度は思うようにいかず、聖域の情報もまるで判を押したように、全員が宿屋の店主かと思えるほどに似通ったものだった。
「聞いたことはあるが詳しくは知らん」
さらには、聖域を目指す旅の厳しさを痛感させる返事ばかりが返ってきた。
高原地帯へは徒歩では無理。
鳥馬で行くのが良いが、鳥馬の貸し賃は高い。
少なくとも食料と水が一月分必要。
それらを運ぶための砂馬が複数頭必要。
今の時期、昼はいいが夜は極寒。
そもそも砂漠地帯は遊牧民の領域で危険が多い。
観光で行くような場所ではない。
悪いことは言わない、やめておけ。
すっかり出鼻を挫かれる結果となった。
しかし、せっかく手に入れた手掛かりを手放すわけにもいかず、有用な情報を聞き出すべく宿屋に戻って店主に詰め寄った。
「まだ諦めてなかったのか」
開口一番、店主はそう言って笑った。
多少イラつきもしたが、ここは大人の対応が必要だろうと思い、愛想笑いを浮かべてそれを受け流した。
「成人した遊牧民が洗礼を受けに行くっていう話だが、そんな都合のいい奴がいるもんか。
まあ、万に一つもそんな偶然があるとは思えんが、村の西に小さな教会がある。ガシュルが立ち寄ることがあるから、行ってみたらどうだ」
昨夜の時点でそれを聞いておくべきだったと、内心舌打ちをした。
それはともかくとして、万に一つがあるならばと、二人は一縷の望みをかけて教会へ向かうことにした。
大きくない村とはいえ、西の外れまではそれなりに時間を要した。
そこにあったのは、小さな小さな教会だった。
王都の神殿には遠く及ばず、ユースガリアの村の教会とも比べ物にならない。それでも、神を祀る場所らしく、威厳のようなものを感じるのは不思議な感覚だった。
小さな扉を開けて中を覗き込む。
六柱の女神を模した六本の柱が見えた。どの教会であっても、崇める神は同じなのだと思いつつ、その傍に祀られた祠が目に入った。
レンデオ、スルネオ、ヴィルヤネ、ネニエラ、エレニオ、フィリエン
旅、嵐、天候、水流、星、そして死の神。
大陸の西側は、六柱の女神よりも、より生活に身近な神を崇めているのだろうか……。
そんな事を考えていると、教会の奥の部屋から年老いた神父が姿を現した。教会の建物に反して、その身形は神父然としていた。
年老いた神父はオリーとフレアに近付きながら、軽く頭を下げて声をかけてきた。
「何かお困りですかな?」
頼りない足取りで歩いてくる。見かけよりも高齢なのかもしれない。
今にも転倒してしまいそうな歩調に、思わずこちらから近寄って、教会に来た理由を素直に答えた。
「遊牧民を探しています」
神父はそれに小さく頷くと、その理由を聞くでもなく話し出した。
「数日前に親子が礼拝に参りましたよ。ガシュルの親子です」
その言葉にオリーもフレアも色めき立った。
宿屋の店主が話していた、ガシュル族のことだろう。
「熱心にレンデオ様に祈りを捧げておりました。もうすぐここを発つのでしょう。
移牧の前に祈りを捧げる者は多いです。
彼らはひとところに留まりませんが……まだ村の近くにいるかも知れませんね」
目を閉じながら話す神父は、まるで眠っているような表情だった。
有力な情報に気持ちが逸る。
直ぐにでも教会を出たいところではあったが、近くと言われても砂漠は広い。その中で親子を探す術を、二人は知らなかった。
「どうしたら会えますか?」
オリーが藁にもすがる思いで神父に問いかける。
それに神父は、窓の外を眺めながらゆっくりと答えた。
「この時期は空気が澄んでいて、遠くまでよく見えます。
昼頃に村の外を眺めてご覧なさい、彼らが起こした炊煙が見えるかもしれません」
なるほど、焚き火の煙を頼りに探すというのは、砂漠地帯のように開けた場所であれば、当然のことなのかもしれない。
その話に浮き立つ二人を見透かしたのか、ゆっくりと、しかし鋭く神父が忠告してきた。
「この時期の砂漠は夜がとても冷えます。
炊煙が見えたとしても決して近くはない。行くのはお勧めしませんね」
村人も言っていた。夜は極寒だと。
何の用意もしないままに砂漠に足を踏み入れるのは、無謀というにも程があるだろう。しかし、せっかく掴んだ情報だった。
神父の話からすれば、ガシュルの親子は間も無く移動してしまうかもしれないのだ。
無謀とわかりつつも進まなければならない、そんな気がしていた。
丁度昼を迎える頃だったことも、後押しになったのは事実だ。
二人は神父に礼を言うと、足早に教会を後にした。
教会が立つ場所は砂漠が目と鼻の先だ。兎にも角にも、まずは炊煙が見えるかどうか、それだけでも確認する必要がある。
西から北へ、北から東へ、途方もなく広がる広大な砂漠に目を凝らす。
乾燥した大地と照り返す日差しで、空気が次第に熱を帯びていった。
『温かい』で済む程度の温度ではあったが、目に入る情景から、心なしか汗ばんでくるような感覚を覚えた。
ぐるりと見回し、北側に立ち上がる煙のようなものを見つけた時、二人は手を挙げて歓喜の声を上げた。
きっとあれが炊煙だ。
地平線が揺らいで、それが本当に煙だと言う確証は持てなかったが、行ってみないことには何も始まらない。
ついつい二人は、急足で煙の元へと足を踏み出していた。




