表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私と彼女の物語 -Travelers of the Far Green Road-  作者: ORSBN.shu
第三部・盛陽
PR
73/104

3-3

旅の目的を伝えるには、放浪の魔女の書状について語る必要があった。しかし、店主にそれを見せるべきか躊躇いもあった。

結局、言葉だけでは伝わらないだろうと考え、古語の詩を訳した書き写しを見せることにした。

それを受け取った店主は、詩を眺めながら首を傾げた。


「俺は学が無い。しかし、こいつは村の連中でもわからんだろうな」


読むことをあっさりと諦めた店主は、紙片を指の間に挟んでヒラヒラと踊らせる。


「こいつの意味は全くわからんが、いわくめいた場所なら高原地帯にあった気もする」


何一つ手掛かりのない旅である。店主の言う高原地帯の場所が、放浪の魔女に繋がる可能性があるのならば、それを聞き出さない理由はない。


「それはどんな場所ですか?」


フレアが前のめりに質問する。

店主はフレアの勢いにたじろぎつつ、「ほとんど知らん」と前置きしてから話を続けた。


「詳しい場所も知らんし、どんな場所かも知らん。

 砂漠の遊牧民が、『聖域』と言って有り難がってる場所だ。

 なんでも、奴らが洗礼を受ける場所とか言っていたな。

 まあ、洗礼が何かも知らんが、旅人がおいそれと近寄って良い場所でもないだろうな」


口髭を撫でながら宙に視線を泳がす。

何かを隠していると言うわけでもなく、本当に何も知らないのだろう。

それでも、店主の話に小さな希望が見えた気がした。


「それなら遊牧民に聞けば良いのですね」


フレアの目が輝いている。

店主の話の通り、『聖域』が遊牧民が洗礼を受ける場所だとするならば、遊牧民に聞くのが早い。

となれば早速、と思ったが、外は日が暮れかかる時間になっていた。


「運良く遊牧民に会えれば、もしかすれば連れてってくれるかもな。

 この辺はガシュル族っていう連中の移牧地の近くだし」


豪快に笑う店主は、遊牧民に会えるはずがないと言いたそうな顔をしていた。

その店主を横目に、オリーとフレアは翌日の行動を話し出していた。


まずは旅の支度を整える。

村にある店で揃えられるか不安はあったが、きっとなんとかなるだろう。

そのついでに遊牧民を探す。

広くはない村なのだから、遊牧民を探すこと自体難しくないだろう。

──そう高を括っていた。


注文した料理を食べ終える頃に、店主が壁に掛けられた煤けたランタンに火を灯し出した。すっかり暗くなった店内が、暖かな色に染められていく。

それを見た二人は、上階の部屋に移動して休むことにした。明日は朝早くから村を巡らなくてはならない。

そう思ってカウンターの席を立った時だった、客の一人が店主に代金を払いながら、オリーとフレアに声をかけてきた。


「砂漠には入らない方が良い……」


その客は、気付いた時にはすぐそばに居た。

近付いてきた気配を感じることがなかった。

声をかけてきてはいるが、こちらを見ている気配もない。

一見すると誰に話しかけているのか判断しかねたが、間違いなくそれは、オリーとフレアに向けられた言葉だった。


白く長いローブを羽織り、頭巾を目深に被った女性。

長い黒髪が顔を隠していて、その表情を見ることはできなかった。

大剣と大荷物を背負い、見た目はまるで冒険者だったが、羽織った外衣はまるで聖職者のようでもあった。


その女性はそれ以上何も言わず、静かに店の外へと出ていった。

店主が代金を数えながら呟いた。


「詳しくは知らんが、たまに村に顔を出す。

 どんな奴なのか、村の連中も何も知らん。

 まあ、関わらん方が身のためだろうな」


店主の声を背にしながら、彼女の言葉を思い返しつつ、二人は店の扉をしばらく見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ