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馬車の窓から外を眺めた。
緑豊かな景色はとうの昔のことのように、目に入ってくるのは、葉を散らした木々と岩と砂の大地だった。
ユースガリア王国の国境で衛兵に見送られた後、西の地に足を踏み入れた瞬間から、まるで別の世界に入り込んだような感覚に陥った。
放浪の魔女に示された場所を探し、オリーとフレアはユースガリア王国を発った。
王都を出てレイフォルス領を抜け、アウリス領から乗合馬車を乗り継いでユースガリア西部のヴァルドレーン領に出た。
領の西側にそびえる、大陸の中央に連なるアルドネリアの屋根と呼ばれる連峰を越えることはできず、冬の足音が近付いてきた季節ということもあって、南を回る道を選んだ。
大陸の西側は、そのほとんどが定住に向かない大地だと聞いていた。
西端のザーローンと南端の海沿いの他は、乾燥した平原と、荒涼とした高原、砂漠地帯が広がっており、そこには遊牧民族だけが暮らしているらしい。
豊穣の女神ルシアを崇める土地というには、どこか矛盾を感じてしまう。
ユースガリア王国領との国境にほど近い海沿いの小さな村で、二人が乗った乗合馬車がその車輪を止めた。
「お客さん、この馬車はここまでだ」
御者の声が聞こえる。乗合馬車の終点に着いたのだ。
ここから先は、別の移動手段を探すことになる。
馬車を降りて村を見渡す。
村人が数人、村内を歩く姿が見えた。
ユースガリア王国領との国境に近い村だというのに、随分と寂れているように見える。
ユースガリア側の関所には小さいながらも町があったし、警備の衛兵も少なくはなかったが、この村には関所もなければ警備の人影すら見当たらない。
ザーローン王国に属しているはずだが、国境警備もまともになされていないように見えた。
海沿いの村ではあったが漁村ではなく、海に面した廃れた交易所を見るに、かつては盛んに取引が行われ、人々が多く行き交う村だったのだろうと想像することはできた。
今や目に入ってくるのは、貸し馬屋と水問屋、村の規模には不釣り合いなほどに大層な石造りの井戸だった。
かつての賑わいを想像させる村の象徴のような井戸は、きっとこの村と村に立ち寄る人たちの生命線であり、大陸の西側にとって、水がどれほど貴重なものなのかを物語っているようだった。
「どうしようか」
フレアが村を眺めながら呟いた。
西を目指してやってきてはみたものの、放浪の魔女に渡された書状に示された場所に、全くと言っていいほど心当たりはない。
「西涯って言うからには、西のはずれなんだろうけど……」
銀糸を編んだような書状を広げ、そこに書かれている詩に視線を落とす。
西涯濡らす暗き慟哭
幽囚されし嘆きの未練
其は泡沫の穢れの権化
比翼は遥か影も在らざり
然れど息吹は命脈せしむ
唯絆糸のみ彼の枷断つる
放浪の魔女がこれを自分に託した理由も、この詩が意味することも何もわからない。ただあの時、放浪の魔女が指し示した西へ向けて、この旅を始めた。
「とりあえず、こういう時は酒場で情報収集ですね」
気合いを入れるような仕草を見せて、フレアが息を吐く。
冒険者の定石だ。情報収集は基本中の基本である。
「ついでに宿も取るのです」
日は傾き始めていた。
情報収集に明け暮れてしまっては、村の中にいて野宿する羽目になってしまうだろう。
フレアの提案に頷いて答え、建物に下げられた看板を目印に、二人は宿屋と酒場を同時に探し始めた。




