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コンコンコン、コンコンコン
何かが部屋の窓を叩く音で目が覚めた。
窓掛けの隙間から、陽の光が覗いている。
光を写して舞う光芒が、まるで天から架けられた梯子のように真っ直ぐ木の床へ降り注いでいる。
コンコンコン
小鳥がいたずらに窓を突いているのだろうか。
起き上がって、窓掛けを勢いよく開いた。
朝の日に照らされ、風に流れるように舞う緋糸。
いや、髪だ。
真っ白な装束に身を包み、つばの広い真っ白な尖塔帽を目深に被っている。
木製の魔術杖に腰をかけるように座り、二階の窓の高さで浮遊している。
輪郭が朧げに揺らめいて見える。
魔術士。
そう考えてすぐに、その人物が何者なのかと思考を巡らせる。
「放浪の魔女……?」
思わず口をついた言葉に、浮遊する魔術士が笑みを浮かべたような気がした。
まだ明け切っていない青い夜に、薄らと陽の光を帯びて、まるで自ら光を放っているようにも見える。
彼女はまるで、「静かに」とでも言うように人差し指を口元に当てると、その後で胸元で閉じた両手を開いて見せた。
何もなかった両手の上に、赤い紐で縛られた、筒状の書状のようなものがチカチカと瞬きながら現実味を帯びていく。
彼女はそれを、窓の際に静かに置いた。
オリーは何も言うことができず、ただそれを眺めていた。
彼女は愁いを含んだような目をしながら、そっと西の方角を指差し、そして視線を向けた。
つられるようにして、オリーもその指の先に視線を向ける。
彼女が指差した先は、まだ夜の闇の中にあった。
オリーが視線を戻した時にはすでに人影はなく、窓際に置かれた書状だけが残っていた。
窓を開け、残された書状を手に取る。
今まで一度も見たことのない、まるで銀糸を織り上げたようなその書状を開く。
古い文字が、一文字づつ光を帯びて綴られていく。
新しい詩。
それは、放浪の魔女の唄でなはい。
どこか切なく、胸に空いた穴を埋めようとするような、心に響くものだった。
ーーーーーーーーーー
「オリー、卒業おめでとうです!」
蒼い海月亭に、フレアの声が響く。
王立魔法学園の五年間を過ごし、主席で卒業を果たしたオリーの祝賀会が開かれていた。
顔見知りとなった常連客も、オリーの卒業を祝いに続々と足を運んでいた。
「フレアも、ランクアップおめでとう!」
オリーがお返しとばかりに声を上げる。
この五年間で、フレアはランク5に到達した。異例中の異例といってもおかしくはないだろう。
「フレイアお嬢さんのランクアップと、オリビアさんの卒業祝いだ。
皆しっかり祝ってくれよ!」
ヨウがグラスを掲げて、会の始まりを宣言する。
店の中央に設けられた席に、オリーとフレアが恥ずかしそうにしながら着席する。
来店した客が、代わる代わる祝いの言葉をかけてくれる。
少しばかり居心地の悪さを感じたが、それは照れからくる居心地の悪さだった。
「おじさんが祝いの唄を歌ってあげよう」
いつも酔っていた詩人は、今日は珍しくまだ酔っていなかった。
軽やかなリュートの音が響き始める。それを見ていた他の詩人も、リュートに合わせるようにして楽器を奏で始める。
豊穣の唄。
詩人の歌声に合わせて、皆が声を合わせて歌い始めた。
大合唱が店内に響く。
皆の祝福が、オリーとフレアを包んだ。
歌が終わり、一瞬の静寂が訪れる。
オリーとフレアは席を立って、声を合わせた。
「「みんな、ありがとう!!」」
盛大な拍手に包まれる。
暖かな空気が二人を祝福した。
少しして、思い思いの歓談が始まったところで、フレアが耳打ちするように声をかけた。
「出発はいつですか?」
その顔には、これから始まる旅への期待が溢れ出ているようだった。
二人だけの内緒の話に、オリーも胸の高鳴りが抑えられない思いだった。
「いろいろ準備もあるけど、一週間後くらいにしようか」
ニコリと微笑んで返答する。
新しい旅に出る。
そう決めたのは、つい先日のことだった。
オリーの提案に、フレアは二つ返事で同意した。
何が待っているかは全く想像できない。
それでも二人ならば、きっとどんな苦境に立たされても跳ね除けていくだろう。
西へ。
新しい旅が始まる。
ー
西涯濡らす暗き慟哭
幽囚されし嘆きの未練
其は泡沫の穢れの権化
比翼は遥か影も在らざり
然れど息吹は命脈せしむ
唯絆糸のみ彼の枷断つる
第二部完結です。
ここまで読んでいただいた皆様に感謝!
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第三部スタートまでしばしお待ちください。




