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「リューネちゃん……ごめんね……」
パルティアの声で目を覚ました。
いつの間にか眠っていたらしい。ベッドに伏せていた身体を起こして、横になっているパルティアに視線を移す。
討伐失敗から数日経ったが、パルティアの意識はまだ戻っていなかった。
何か夢でも見ているのだろうか、時折り寝言のように発する言葉は、決まって自分への謝罪だった。
目を覚ました時、「パルティアは悪くない」そう声をかけようと思っていた。
悪いのはパルティアを止められなかった自分。
あの依頼を選んだ自分。
パルティアが冒険者になるのを止められなかった自分……。
パルティアの額に浮かんだ汗を拭き取る。
してあげられることなど、些細なことばかりだった。
「その呼び方はやめなさいと言ったでしょう」
返事がないことはわかっていたが、ふと、「えへへ」といつもの笑顔を見せるパルティアが浮かんだ。
枕元に置いてあったパルティアの短剣を持ち上げ、それを、懐から取り出した装飾布で丹念に拭き上げる。
彼女が冒険者になると言った時に、その祝いにと贈った二又の短剣だ。
もう随分と使い古されたというのに、刃はよく研がれ、持ち手を張り替えて使われている。
新しいものを買い与えたとしても、きっとこの短剣を使うに違いない。
その短剣を枕元に戻した時、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
ネーヴァリはそれに振り返ることなく、「どうぞ」と短く返事をした。
扉を開けて入ってきたのはモルゲンだった。
彼女達に救出され、この部屋に運び込まれて以来、モルゲンは毎日この部屋に顔を出している。
「ネーヴァリ、少し良いか」
モルゲンの声色に、何を話そうとしているのかがわかった。
アルメアの冒険者達の間で、それは時間の問題だと噂されていた。
故郷の英雄、キエロスは失墜した。自らの欲望を満たすために、大勢を裏切った。
その代償は、キエロス本人だけに止まらず、アルメアという国一つに影響を及ぼしている。
「どうしたの」
モルゲンに視線を移す。
いつもの笑みが見えないモルゲンの表情が映った。
「噂は耳にしていると思うが、おそらく、それ以上に悪い知らせだ」
その言葉に、少しばかり動揺する。
「アルメア王国で、武装蜂起が始まったらしい。内戦になるだろう」
ネーヴァリの目が見開かれた。
誰がその結末を予想できただろうか。
声にならない声が、強く噛み締めた唇から漏れたような気がした。
・
早々にアルメア王国へ送還されたキエロス一行は、アルメア王国によって裁かれた。
他国の商団の護衛と偽り、人々を誘拐して奴隷商へと売り捌いていた偽英雄は、アルメアの現国王によって、「国の英雄として働き、国を導いた功績が大きい」として、『無罪』が言い渡された。
ただそれだけの理由は、民衆の感情を逆撫でするのに十分だった。
罪を掘り起こせば、決してそれだけでないことは自明の理であるにもかかわらず、王の決断は覆ることはなかった。
はじめに蜂起したのは、王国の近衛騎士だったという。
国王は貴族らと結託し、それを一度は退けた。
しかし、その一件を皮切りに、国内は荒れ、各所で武力衝突が起きた。
アルメア王国は今、現国王体制と反王派との間で、緊張状態にあると言われている。
そして、アルメア王国現国王は、自国出身の冒険者を戦力として招集することを決めた。
アルメア王国冒険者の、召還命令が下された。
・・・
心なしか寂しくなった冒険者協会で、オリーとフレアはモルゲンの姿を探した。
広いロビーにオーナスの姿があることから、きっと協会のどこかにいるはずだった。
競売施設にも回ってみたが、モルゲンの姿は見当たらなかった。
競売の片隅に佇んでいたネルヴの姿はなく、その場所には、アルメア出身者を保護するための腕章が置かれていた。
おそらく彼も、アルメア王国の命令に従ったのだろう。
ロビーに戻ったところで、モルゲンがネーヴァリと共に奥の部屋から出てくるのが見えた。
何か短く話をしているようだったが、その内容を聞き取ることはできなかった。
オリーとフレアは居ても経ってもいられず、モルゲンとネーヴァリの元に駆け寄っていた。
あの日以来顔を合わせておらず、何を話して良いかはわからなかったが、身体が勝手に動いていたのだ。
駆け寄ってきたオリーとフレアを前に、ネーヴァリが二人に軽く頭を下げた。
「モルゲンから話を聞いている。助かった、感謝する」
相変わらずぶっきらぼうな話ぶりだったが、どこか憂いを帯びているように聞こえた。
「どりる、大丈夫ですか?」
フレアの言葉に、少しだけ居をつかれたような表情を見せたが、ネーヴァリは「えぇ」とだけ返した。
「アルメアに戻るんですか?」
オリーの問いに、ネーヴァリは黙ったまま頷いた。
そして、ぎこちない笑顔を見せてから口を開いた。
「それが、冒険者よ」
その言葉を残して、ネーヴァリは冒険者協会を出た。
彼女を見送った後で、モルゲンが二人の肩に手を置いて、静かに口を開いた。
「パルティアは、私たちが守る」




