表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私と彼女の物語 -Travelers of the Far Green Road-  作者: ORSBN.shu
第二部・青陽
PR
65/106

2-40

「リューネちゃん……ごめんね……」


パルティアの声で目を覚ました。

いつの間にか眠っていたらしい。ベッドに伏せていた身体を起こして、横になっているパルティアに視線を移す。

討伐失敗から数日経ったが、パルティアの意識はまだ戻っていなかった。


何か夢でも見ているのだろうか、時折り寝言のように発する言葉は、決まって自分への謝罪だった。

目を覚ました時、「パルティアは悪くない」そう声をかけようと思っていた。

悪いのはパルティアを止められなかった自分。

あの依頼を選んだ自分。

パルティアが冒険者になるのを止められなかった自分……。


パルティアの額に浮かんだ汗を拭き取る。

してあげられることなど、些細なことばかりだった。


「その呼び方はやめなさいと言ったでしょう」


返事がないことはわかっていたが、ふと、「えへへ」といつもの笑顔を見せるパルティアが浮かんだ。


枕元に置いてあったパルティアの短剣を持ち上げ、それを、懐から取り出した装飾布で丹念に拭き上げる。

彼女が冒険者になると言った時に、その祝いにと贈った二又の短剣だ。

もう随分と使い古されたというのに、刃はよく研がれ、持ち手を張り替えて使われている。

新しいものを買い与えたとしても、きっとこの短剣を使うに違いない。

その短剣を枕元に戻した時、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。

ネーヴァリはそれに振り返ることなく、「どうぞ」と短く返事をした。

扉を開けて入ってきたのはモルゲンだった。

彼女達に救出され、この部屋に運び込まれて以来、モルゲンは毎日この部屋に顔を出している。


「ネーヴァリ、少し良いか」


モルゲンの声色に、何を話そうとしているのかがわかった。

アルメアの冒険者達の間で、それは時間の問題だと噂されていた。

故郷の英雄、キエロスは失墜した。自らの欲望を満たすために、大勢を裏切った。

その代償は、キエロス本人だけに止まらず、アルメアという国一つに影響を及ぼしている。


「どうしたの」


モルゲンに視線を移す。

いつもの笑みが見えないモルゲンの表情が映った。


「噂は耳にしていると思うが、おそらく、それ以上に悪い知らせだ」


その言葉に、少しばかり動揺する。


「アルメア王国で、武装蜂起が始まったらしい。内戦になるだろう」


ネーヴァリの目が見開かれた。

誰がその結末を予想できただろうか。

声にならない声が、強く噛み締めた唇から漏れたような気がした。



早々にアルメア王国へ送還されたキエロス一行は、アルメア王国によって裁かれた。

他国の商団の護衛と偽り、人々を誘拐して奴隷商へと売り捌いていた偽英雄は、アルメアの現国王によって、「国の英雄として働き、国を導いた功績が大きい」として、『無罪』が言い渡された。

ただそれだけの理由は、民衆の感情を逆撫でするのに十分だった。

罪を掘り起こせば、決してそれだけでないことは自明の理であるにもかかわらず、王の決断は覆ることはなかった。


はじめに蜂起したのは、王国の近衛騎士だったという。

国王は貴族らと結託し、それを一度は退けた。

しかし、その一件を皮切りに、国内は荒れ、各所で武力衝突が起きた。

アルメア王国は今、現国王体制と反王派との間で、緊張状態にあると言われている。

そして、アルメア王国現国王は、自国出身の冒険者を戦力として招集することを決めた。


アルメア王国冒険者の、召還命令が下された。


・・・


心なしか寂しくなった冒険者協会で、オリーとフレアはモルゲンの姿を探した。

広いロビーにオーナスの姿があることから、きっと協会のどこかにいるはずだった。

競売施設にも回ってみたが、モルゲンの姿は見当たらなかった。

競売の片隅に佇んでいたネルヴの姿はなく、その場所には、アルメア出身者を保護するための腕章が置かれていた。

おそらく彼も、アルメア王国の命令に従ったのだろう。


ロビーに戻ったところで、モルゲンがネーヴァリと共に奥の部屋から出てくるのが見えた。

何か短く話をしているようだったが、その内容を聞き取ることはできなかった。

オリーとフレアは居ても経ってもいられず、モルゲンとネーヴァリの元に駆け寄っていた。

あの日以来顔を合わせておらず、何を話して良いかはわからなかったが、身体が勝手に動いていたのだ。


駆け寄ってきたオリーとフレアを前に、ネーヴァリが二人に軽く頭を下げた。


「モルゲンから話を聞いている。助かった、感謝する」


相変わらずぶっきらぼうな話ぶりだったが、どこか憂いを帯びているように聞こえた。


「どりる、大丈夫ですか?」


フレアの言葉に、少しだけ居をつかれたような表情を見せたが、ネーヴァリは「えぇ」とだけ返した。


「アルメアに戻るんですか?」


オリーの問いに、ネーヴァリは黙ったまま頷いた。

そして、ぎこちない笑顔を見せてから口を開いた。


「それが、冒険者よ」


その言葉を残して、ネーヴァリは冒険者協会を出た。

彼女を見送った後で、モルゲンが二人の肩に手を置いて、静かに口を開いた。


「パルティアは、私たちが守る」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ