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私と彼女の物語 -Travelers of the Far Green Road-  作者: ORSBN.shu
第二部・青陽
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62/105

2-37

自分の背よりも高く重厚な槍は、今やその身を支える杖でしか無かった。

重い身体を何とか引きずるようにして、ようやくパルティアの元に辿り着いた。

急場しのぎで口を塞ぐように巻いた布切れは、今では何の役にも立ってはいない。


倒れたパルティアを抱き起こし、幾重にも迫り来る蔓を槍で薙ぎ払った。

だがそれも、もう限界だった。


「借りるわよ」


そう言って、パルティアの腰から二股の短剣を取り出した。彼女の肌に触れないように、慎重に足に絡みついた蔓を切り裂く。

蔓から解放された次の瞬間には、異常なほどの再生力で二人を絡め取ろうと伸びてくる。

左手に持った槍では、それを払うには力不足だった。

咄嗟に伏せて蔓を躱すが、長くは持たないだろうと腹を括る。


蔓が絡みついていたパルティアの足は、酷い火傷を負っていた。

たとえ意識が回復したとしても、立って歩くことなどできないだろう。


「ごめん」


ネーヴァリの口から心根が漏れる。

それでも、パルティアの短剣を振って、迫り来る蔓を振り払う。

自分の意識があるうちは、パルティアを捕食させるわけにも、自分が捕食されるわけにもいかない。

パルティアを抱きかかえた格好のまま、朦朧とする意識の中、ネーヴァリはそれが絶える瞬間まで抗うことを誓っていた。


パルティアを守るのは、私の役目だ。


後方から突風が吹きつけたのは、槍を手放し、両膝をついた時だった。


・・・


何度目かのフレアの突風魔法で、ようやくネーヴァリとパルティアの姿が見えた。

まだ遠く、小さな人影ではあったが、パルティアを庇うように跪いた格好のネーヴァリの姿に、一行は息を呑んだ。


「ネーヴァリ!下がれ!」


モルゲンが叫んだ声は、おそらくネーヴァリには届いていない。

その声に反応する様子はなく、今まさに、何本もの蔓がネーヴァリとパルティアを絡め取ろうと襲いかかっていた。

二人に手が届く距離には居ない。

走ったところで、到底間に合いそうもなかったが、モルゲンの身体は無意識に走り出そうとしていた。

あと数十歩。

目に見えると言うのに、何の手立てもないことがもどかしかった。


「伏せて!」


その声に咄嗟に身を屈めた。

それがフレアの声だと気付いたのは、ネーヴァリとパルティアに襲いかかる蔓を、風刃が切り落とした後だった。

瞬間、モルゲンの口から指示が飛ぶ。


「オーナス!行け!」


その言葉で、オーナスの白い巨体が突進する。

新しい獲物を捕捉したのか、揺らめいていた蔓が一斉にオーナスに襲いかかる。

そのうちの何本かが、腕や足に絡みつく。

その蔓を、風刃が切り裂いていく。

フレアの魔法が、文字通りオーナスの進む道を切り開いていく。


「んふぅぅう!」


切り逃した蔓を、オーナスが力任せに引きちぎる。

白い巨体の前進は止まらなかった。


それは、ほんの数瞬の出来事だった。


ネーヴァリとパルティアの元に辿り着いたオーナスが、二人を抱き抱えたのを確認する。

モルゲンは即座に指示を出した。


「退け!」


捕食植物を振り返ることもなく、迫り来る蔓を紙一重で躱しながら、オーナスは二人を抱き抱えてモルゲンの元へ戻った。


オーナスの身体から煙が上がっているのが見える。

蔓が絡みついた箇所が、たった一瞬の接触だけで重度の火傷を負っているのがわかった。

即座にモルゲンが回復魔法を施すが、その苦痛は想像に難くなかった。


ネーヴァリとパルティアを救出し、蔓が届かない場所まで距離を取ったが、未だ毒の霧の中にいた。

二人の状態を確認し、すぐにでも処置を施したかったが、この場所に留まるのは全員の消耗を意味した。


「全員撤退!」


モルゲンは声を上げた。


霧深い谷を出た時、遠くから、陽光に溶ける鐘の音が聞こえた。

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