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自分の背よりも高く重厚な槍は、今やその身を支える杖でしか無かった。
重い身体を何とか引きずるようにして、ようやくパルティアの元に辿り着いた。
急場しのぎで口を塞ぐように巻いた布切れは、今では何の役にも立ってはいない。
倒れたパルティアを抱き起こし、幾重にも迫り来る蔓を槍で薙ぎ払った。
だがそれも、もう限界だった。
「借りるわよ」
そう言って、パルティアの腰から二股の短剣を取り出した。彼女の肌に触れないように、慎重に足に絡みついた蔓を切り裂く。
蔓から解放された次の瞬間には、異常なほどの再生力で二人を絡め取ろうと伸びてくる。
左手に持った槍では、それを払うには力不足だった。
咄嗟に伏せて蔓を躱すが、長くは持たないだろうと腹を括る。
蔓が絡みついていたパルティアの足は、酷い火傷を負っていた。
たとえ意識が回復したとしても、立って歩くことなどできないだろう。
「ごめん」
ネーヴァリの口から心根が漏れる。
それでも、パルティアの短剣を振って、迫り来る蔓を振り払う。
自分の意識があるうちは、パルティアを捕食させるわけにも、自分が捕食されるわけにもいかない。
パルティアを抱きかかえた格好のまま、朦朧とする意識の中、ネーヴァリはそれが絶える瞬間まで抗うことを誓っていた。
パルティアを守るのは、私の役目だ。
後方から突風が吹きつけたのは、槍を手放し、両膝をついた時だった。
・・・
何度目かのフレアの突風魔法で、ようやくネーヴァリとパルティアの姿が見えた。
まだ遠く、小さな人影ではあったが、パルティアを庇うように跪いた格好のネーヴァリの姿に、一行は息を呑んだ。
「ネーヴァリ!下がれ!」
モルゲンが叫んだ声は、おそらくネーヴァリには届いていない。
その声に反応する様子はなく、今まさに、何本もの蔓がネーヴァリとパルティアを絡め取ろうと襲いかかっていた。
二人に手が届く距離には居ない。
走ったところで、到底間に合いそうもなかったが、モルゲンの身体は無意識に走り出そうとしていた。
あと数十歩。
目に見えると言うのに、何の手立てもないことがもどかしかった。
「伏せて!」
その声に咄嗟に身を屈めた。
それがフレアの声だと気付いたのは、ネーヴァリとパルティアに襲いかかる蔓を、風刃が切り落とした後だった。
瞬間、モルゲンの口から指示が飛ぶ。
「オーナス!行け!」
その言葉で、オーナスの白い巨体が突進する。
新しい獲物を捕捉したのか、揺らめいていた蔓が一斉にオーナスに襲いかかる。
そのうちの何本かが、腕や足に絡みつく。
その蔓を、風刃が切り裂いていく。
フレアの魔法が、文字通りオーナスの進む道を切り開いていく。
「んふぅぅう!」
切り逃した蔓を、オーナスが力任せに引きちぎる。
白い巨体の前進は止まらなかった。
それは、ほんの数瞬の出来事だった。
ネーヴァリとパルティアの元に辿り着いたオーナスが、二人を抱き抱えたのを確認する。
モルゲンは即座に指示を出した。
「退け!」
捕食植物を振り返ることもなく、迫り来る蔓を紙一重で躱しながら、オーナスは二人を抱き抱えてモルゲンの元へ戻った。
オーナスの身体から煙が上がっているのが見える。
蔓が絡みついた箇所が、たった一瞬の接触だけで重度の火傷を負っているのがわかった。
即座にモルゲンが回復魔法を施すが、その苦痛は想像に難くなかった。
ネーヴァリとパルティアを救出し、蔓が届かない場所まで距離を取ったが、未だ毒の霧の中にいた。
二人の状態を確認し、すぐにでも処置を施したかったが、この場所に留まるのは全員の消耗を意味した。
「全員撤退!」
モルゲンは声を上げた。
霧深い谷を出た時、遠くから、陽光に溶ける鐘の音が聞こえた。




