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私と彼女の物語 -Travelers of the Far Green Road-  作者: ORSBN.shu
第二部・青陽
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2-36

オリーもフレアも、その音と衝撃に思わず耳を塞いだ。

少し遅れて地面が揺れるような感覚に襲われ、無意識に音がした方角を振り向いた。


「ネーヴァリのいる方角だ」


モルゲンが声を漏らした。

見つめる先に、黒煙が立ち上るのが見えた。

たかだか捕食植物一体を屠るのに、大地を揺るがすような火力は必要ないはずだ。


「この先の谷地です」


オリーがネーヴァリ達のいる場所を知らせる。

二次調査で一度は行ったことがある場所だったが、討伐地点までは、走ったところで数十分はかかるだろう。

例え難い焦燥感が襲ってくる。


声も無く頷いたモルゲンは、手に持った戦棍の柄を力強く握りしめていた。

考えていることはその表情から手に取るようにわかった。けれども、何かがモルゲンの決断を鈍らせている。

それが何かは知る由もなかったが、躊躇っている時間は無いということだけはわかった。


モルゲンの口から指示が出されるのを待つべきなのだろう。

そうは思ったが、オリーはフレアに視線を送り、互いに顔を見合わせて静かに頷き合った。


オリーが魔法書を開いて目を閉じる。

パラパラとページをめくると、魔法書から淡い緑色の光が溢れ出した。

魔法書が煌々と輝き出したところで、右手を宙にかざす。


「フロート!」


光が四人を包み込み、体に吸い込まれるようにチカチカと瞬きながら消える。

それを見届けた瞬間、誰の合図を待つこともなく、フレアが谷地の方角に駆け出した。


「フレイア!」


モルゲンが声を上げた時には、オリーも走り出していた。


何もなければそれで良い。

今はただ、胸中に巣くうこの焦燥感の原因を取り除くことが先決だった。

走り出したオリーとフレアの背中を見ていたモルゲンも、それ以上は何も言わずに後を追った。


息が上がるのも構わずに走り切ったその先で、一行を待っていたのは霧深い谷地だった。


・・・


ネーヴァリがパルティアを救おうとしている。

霧の中から魔術士を抱えて這うように出てきた詩人は、悲痛な表情でそう告げた。

魔術士は卒倒しているようだったが、軽い火傷程度で命に別状はなさそうだった。

詩人の意識ははっきりとしており、一見問題は無さそうに見えたが、頭部からの出血によって片目の視界は完全に塞がれていた。

その二人は、モルゲンの回復魔法で即座に応急処置が施された。

少し休めば魔術士は目が覚めるだろう。詩人の傷も、それ自体はすでに塞がっている。それでも、二人がネーヴァリとパルティアの救出に向かえる状態には見えなかった。


「救援の要請を指示された、助けてほしい」


詩人は立ち上がって、霧の奥に視線を向けた。

無論、そのためにここまで走ってきたと言っても間違いではなかった。

けれども、立ち込める霧は行手を完全に閉ざし、中の様子を伺うことなどできなかった。


「リーダーが毒だと言っていた。爆発の後で以前より濃くなった」


ただの霧に見えて、捕食植物が噴出した毒なのだと理解した。

霧の中に入れば、おそらくは回復も間に合わずに毒に侵されるだろう。

この毒によってどういった症状が出るのかはわからないが、安易に中へ踏み入れるのは危険すぎた。


「耐毒の詩を入れる」


詩人はそう言ってライアーを手に取ると、短い旋律を奏で始めた。

周りに青い光が広がり、皆を包み込んだ後で淡く消えた。


彼もまた、ネーヴァリとパルティアの救出に向かおうとしているのだ。

手傷を負ってなお、仲間を助けようとする想いに、ネーヴァリの人を見る目は確かなものだと感じた。

詩人のその様子を見ていたモルゲンは、静かに詩人を見つめながら声をかけた。


「彼を頼む」


そう言って視線を魔術士に向ける。

その視線を追って、詩人も魔術士の姿を捉える。命に別状はないといえ、この場所は街の中ではなく、日中といえども、翠緑の森の近くだった。

いつ何時、何と出会すかわからない場所だ。

モルゲンに気押されたわけでもなく、自分と魔術士の状況を見て判断したのだろう。

詩人は、「頼む」と言って魔術士のそばに腰を下ろした。

その言葉に頷いた後で、モルゲンは霧深い谷地の奥を睨んだ。


耐毒の詩の効果があったとしても、霧の中へ突入するのは覚悟がいった。

全員を無事に奥まで送り届け、そこから二人を救い出す手立てなどあるだろうか。

大前提として、仲間を守り抜くことが重要だった。

それならば、自分とオーナスの二人だけで救出に向かうべきだろう……。


モルゲンが逡巡している後ろで、オリーとフレアが話している声が聞こえてきた。


「フレア、この霧吹き飛ばせないかな?」


何か突拍子もないことを話し合っている。

振り返って見たフレアは、少しだけ頭を傾げて考えた後で、ニコリと笑ってオリーに頷いていた。


「多分、問題ないです」


言うが早いか、フレアは杖を霧に向けて突き出し意識を集中し始めた。

それを見たオリーが、モルゲンとオーナスに向かって、自分に近付くように声を掛けた。


「少し寄ってください。

 それと、離れないでください」


オリーとフレアが何の話をしているのか、モルゲンは思考が追いつかないでいた。

それでもオリーの言葉通りに傍に寄ると、オリーが魔法書を開いてページをめくり出した。

この場所へ来る前にも、見たこともない魔法を掛けられた。

あの魔法の効果がどういったものなのかはわからない。けれども、おそらくはあの魔法のおかげで、随分と早くこの場所に辿り着くことができたのだろう。


「風を纏いますね」


今もまた、オリーが不思議なことを言い出した。


緑色の光が浮かび上がる。

四人を取り囲むように光が広がった後で、突如として旋風が吹き出した。

竜巻の中央にいるかのように、四人の周りを壁になるように風が舞う。それはまるで、四人を霧から守る盾のように見えた。


「上手くいった」


オリーがポツリと呟いたのとほぼ同時に、フレアの魔法が発動した。

谷地の奥へと向かって、一直線に突風が吹き抜ける。

立ち込めていた霧が線を引いて割ったように視界が開ける。左右の両端が円を描くように渦巻いている。


「もう少し広げないとダメですね」


言いながら首を傾げるフレアを、モルゲンはただ茫然と見つめていた。

やはり、冒険者ランクなど何の標にもならないのだ。そんな取り留めもないことを思い浮かべていたモルゲンに、オリーが声を掛けた。


「急ぎましょう」

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