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私と彼女の物語 -Travelers of the Far Green Road-  作者: ORSBN.shu
第二部・青陽
55/69

2-30

王都での生活が始まり、オリーとフレアはほぼ毎日のようにモルゲン達と行動を共にした。

王都での生活にも慣れ始めていたその日は、オリーの魔法学園入学式典が二日後に行われる日だった。

なるべく軽めの依頼を受けて、午後からは入学式典に向けた準備時間に当てようと考えていた。


その日一行が受領した依頼は、翠緑の森に程近い場所に生息する、捕食植物の生態調査だった。

一次調査は終了しており、その検証と捕捉情報の確認のための二次調査となる。

朝早くに出かけ、現場に到着したのはまだ日が東にある時間帯だった。


それは丘陵に挟まれた谷地に生息していた。

特段珍しい植物でも無く、大きな被害が出ることは珍しい類のものだったが、今回の調査対象については余程運が悪かったのか、あるいは別の理由からなのか、すでに二人の犠牲者が出ていた。

とはいえ、古くから対処法は確立されており、冒険者協会が二度も調査依頼を出すことに、多少の違和感は感じていた。


「カラミネカブレですね」


対象の植物を眺めながらフレアが独り言をこぼす。

外見は雑木そのものだが、木材としては腐りやすく樹液が刺激臭を放つ。

普段ならば若木のうちに刈り取られてしまうほどの、いわゆる『不要な木』と呼ばれるものだった。


「ここまで放置されていると、冒険者協会が二度も調査依頼を出すのも頷けるか……」


モルゲンが顎に手を当てながらカラミネカブレを眺める。


その後、一次調査結果の検証を行い、調査報告に齟齬がないことを確認した。

単体生息であり、活動範囲は局地的。

火に極めて明確な弱点反応を示す。

オーナスが松明を近付けると、チリチリと音を出しながら簡単に枯れていくことから、それははっきりと証明された。


「特に変わったところは見当たりませんね」


オリーがモルゲンに声をかける。

相変わらず顎に手を当てたままのモルゲンが、首を捻りながら、どこか腑に落ちないといったような表情で口を開いた。


「気持ち悪いほど、ただのカラミネカブレだね」


近付かなければ被害はない。

一次調査の記録と今回の調査結果は整合しているし、再現性にも問題はない。

それなのに、モルゲンは何か言い表すことができない違和感を感じているようだったが、オリーもフレアも、その違和感に気が付くことはできなかった。


「とりあえず問題なしとして、気になる点は所感で付記しておくよ」


そうして一行は、調査を終えて冒険者協会へと戻る支度を始めた。



モルゲン達と協会で報告を終えた後、二人と別れたオリーとフレアは、乗合馬車に乗って蒼い海月亭へと戻った。

なんとなしに表の扉から店に入ると、すでに大勢の人で店内は埋まっていた。

騒がしい店内でヨウの姿を探す。厨房にその姿はなく、カウンター脇で酔っ払った客に絡まれている、困り顔のヨウが見えた。


「このままだと英雄譚を歌う前に、自分の悲恋を歌う羽目になっちゃうよ」


どうやら絡んでいるのは吟遊詩人のようだった。

聞こえてきた話の内容から察するに、おそらく失恋しそうなのだろう。

食堂とはいえ酒場も兼ねた店というのは、ああいう客をあしらうのも商売のうちかと、なかなかにけったいな仕事だと感心した。


そのヨウがオリーとフレアの姿を見つけると、酔っ払い客をさらりとなだめて二人に手招きをした。

そそくさとヨウの元に向かうと、「昼食にしますか?」と尋ねられた。

実のところ、冒険者協会へ報告を行う前に、ヴェルドラインのあの露天で、串焼きを食べたばかりだった。

山串も美味しかったが、海串もなかなかに美味だったと言う感想は置いておいて、流石に昼食をいただくには胃に隙間がなかった。


「昼は食べたので、夕ご飯をいただくのです」


フレアがニコニコしながらヨウに答える。

その返答にヨウも笑顔を返して頷くと、酔っ払いの詩人を放置したまま厨房へと戻って行った。

放置された詩人はおもむろにリュートを取り出すと、英雄譚でも悲恋でもない、アウリスフレランスでもよく聴いた『放浪の魔女』の唄を奏で始めた。

旋律に聞き覚えはあった。

けれども、紡がれる言葉には馴染みがなく、少しの間、彼の歌に耳を澄ませた。

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