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私と彼女の物語 -Travelers of the Far Green Road-  作者: ORSBN.shu
第二部・青陽
36/44

2-11

「ランク3てことは、リヴィとレイは冒険者になってそれなりに長いのか?」


ニックの声が広場にこだまする。オリーとフレアの二人を覗き込むようにしながら、んっ?と言いたげに首を傾げるニックに、質問が自分達に向けられたものだと理解するのに、ほんの少しだけ時間を要した。

無論、この広場にいるのは三人しかいないわけで、一人が二人の名を呼んで質問したのであれば、それはオリーとフレアに対してのものに違いない。

慣れない呼び名に違和感を覚える。


魔法の明かりを挟んで向かい合うように座っていたニックを前に、二人は顔を見合わせ、少し笑みを浮かべた後でニックの質問に答えた。


「一月くらい?」


オリーが返答する隣で、フレアが人差し指を立てている。

「一月!?」と、半ば叫ぶような声で、ニックが驚きの表情を浮かべる。

無理もないだろう、冒険者になってたった一月でランク3になることなどまず有り得ない。毎日朝から晩まで冒険者協会の依頼をこなし、それなりに大きな討伐をこなさなければランク2になることも難しい。

その討伐依頼自体が滅多にあるものではないのだから、ツキが回ってこなければランク1のまま半年、ややもすれば1年以上ランク1のままでもおかしくはない。

余程恵まれていたとしても、一月でなんとかランク2に届くかどうかだ。


目を丸くして二人を見つめるニックは、開いた口が塞がらないといった表情のまま固まっていたが、少ししてから腕を組むと目を閉じて何か考え込むように黙り込んだ。

その態度に、返答を間違えたかとオリーとフレアは焦りを感じた。

数瞬の後、ニックは目を開いて二人に笑って見せた。


「よっぽど運が良いか、冒険の女神に愛されているんだな!」


ニカっとして白い歯を見せる。その表情に二人の焦りが杞憂に終わったと安心した。

とはいえ二人の焦りを感じ取ってはいたのだろう、ニックはそのままの笑顔で話し続けた。


「まぁ言い辛いこともあるだろうし、深入りしないのが冒険者の掟だな」


ケラケラと笑う姿と、これまでの彼の言動を思い出し、こう言う人物が人を惹きつけるんだろうなと思わずにはいられなかった。


「俺とヤーシー、マーニは小さい村の幼馴染でさ、ヤーシーは村一番の鍛冶屋の息子で、マーニは教会の末娘なんだ」


急な自分語りに驚きつつも、オリーもフレアもとりあえず黙ってニックの話を聞いた。


「俺はなんてことない農家の次男坊なんだけど、歳が同じで三人でよく遊んでてさ、俺のわがままに付き合ってもらって、三人で冒険者をやってるんだ」


自身の情報を開示することで、相手の懐に入り込む人心掌握の術を、おそらくは素で行っているニックに対し、不思議と警戒心を抱くことはなかった。


「ついこの間ランク4になって、次の冒険は『虚無の深界』だ!って息巻いてアウリスフレランスに向かってる途中だったんだが、今の冒険も結構でかい山かも知れないな」


やや興奮気味に語りかけるニックは、まるで少年のように目を輝かせている。冒険者に憧れた少年は、二人の幼馴染を村から連れ出し大好きな冒険をしている。冒険者は格あるべきと言ったところだろう。

しかし虚無の深界へ行こうとしていたのには驚いた。

アウリスフレランスを北に抜け、ノースレイド領をも越えた先にある、ユースガリアとダナグの国境に位置する、村や街ではなく、国が丸々一つ入る程の巨大な大穴だ。

成り立ちも存在する理由も、何もかもが謎の大穴は、その謎を解き明かすべく昔から冒険者達の約束の地として名を馳せていた。


「虚無の深界は、ランク5以上じゃないと立ち入りできないんじゃなかった?」


オリーが疑問を呈す。

冒険者協会から定期的に派遣依頼が掲示されはするが、未だ底に辿り着いた者がいないらしく、道中は険しく未知の生物が出没するという噂話もあり、その危険性から低ランク冒険者の派遣は随分前に停止されていると聞いていた。


「そう、ランク5でも行けるのは上層部だけらしいな」


ニックがニコニコしながらオリーに返答する。

同じ冒険者として、最終目的地と言っても過言では無い場所の話題に、オリーが食い付いたことに嬉々としているのだろう。


「深層探索はランク9以上です!」


何故か勝ち誇ったようにフレアが答える。その様子にニックが笑顔を見せる。魔法の明かりが白い歯を際立たせていた。


「俺達はいつか必ず、最奥まで行くんだ。

 良かったらリヴィとレイも一緒に来ないか?あいつらなら二人を歓迎するはずだぜ」


その視線は、村に残してきたヤーシーとマーニを見ているようだった。

ニックの誘いに答えることはしなかった。ニックも返事を期待していたわけではなかった。


じわりと広場に静寂が広がる。

明かりのおかげか、蠢いていた虫は岩陰や隙間に身を隠したようで、三人の呼吸意外の物音は何一つ感じられなかった。


パラパラと、ニックの背後の壁面から小石が落ちてきたのは、その後すぐのことだった。

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