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村に残ったヤーシーとマーニは、改めて村全体を調べて回った。
はじめに自分達が調べた西側を再度調べ、次にアウギュリエス達が調べた東側を回った。調べはしたが、結局村に到着した時に見て回った通りで、新たな手掛かりになる様なものは見つからなかった。
ヤーシーもマーニも顔を見合わせて思案する。
整然としている家の中。人や家畜、食料だけが失われた村。
奴隷として村人を連れ去るとして、村人全員一人残らず連れ去ることなど、大掛かりな部隊でも動員しなければ到底無理なことだろう。
それにしたところで、家畜まで連れて行く必要があるだろうか。
食料だけを奪う賊というのはどうだ。
家に飾られている装飾品の類には一切手を付けず、物色することさえもせずに、食料だけを奪う。
鉄や黄銅でできた燭台であっても、売れば幾ばくかの金にはなるはずだが、金には困っていないので食料だけを調達する。
そんな奇特な賊ならば、家畜を連れ去ることもあるかもしれない。
そのどちらでもないとすれば、精霊に対する怨恨などの可能性もあるのかもしれないが、それならば、村人や家畜が姿を消すということはないだろう。きっと、もっと悲惨な状況が待ち受けていたに違いない。
そこまで考えて二人が出した結論は、「賊の仕業ではなさそうだ」であった。
こんなにも行儀の良い賊などいてたまるものか。
「神隠し……」
マーニの独り言が閑散とした広場に吸い込まれた。
その独り言に反応こそしなかったが、石像の土台に背を預けて立つヤーシーも、それ以上に何も思いつかなかった。
「八方塞がりね、ひょっこり誰か帰ってこないかしら」
期待薄な希望が声に出る。
全くと言って良いほど何も掴めない。村人の行方もそうだが、この異臭の原因すらも謎のままだった。
何かちょっとした手掛かりでも見つかれば、それを基に全てが芋づる式に解決しそうな気がするが、なんとももどかしい思いが二人に募る。
「それにしても慣れないわね、この臭い」
マーニがスンスンと鼻を鳴らしてから顔をしかめる。
腐敗臭や刺激臭などの多様な臭いは、今では混ざり合ってただただ不快な匂いとなって辺りに充満し続けていた。
到着した頃から比べれば明らかに鼻は麻痺しており、浅い呼吸程度なら何とかできるようにはなっていたが、それはつまるところ、嗅覚が当てにならないことを意味していた。
ヤーシーはそんなことを考えながら、見るともなしにマーニを観察していた。
陽が頭上に到達する。
日陰に入るわけでもなく、ほぼずっと屋外にいたせいもあってか、ヤーシーは喉の渇きを感じていた。
「少し喉が渇いた。この村に井戸はあったか……」
キョロキョロと辺りを見渡しながら村の水場を探したが、近くにそれらしい物は見当たらなかった。
喉の渇きはマーニも感じていた。持参していた革袋に入った水も、ヤーシーに分けてあげられるほどには残っていなかった。
かといってこの異臭が充満する村の水を飲ませる事は憚られ、つい本音が口を突いて出た。
「こんな悪臭がする村の水を飲むわけ?お腹壊すわよ」
マーニのいうことはもっともだった。
異臭がするということは何かしらの原因があるからこそで、何事も無いのに厭悪の念を抱くほどの臭いが発せられるわけはないのだ。
湖岸に浮かんだ魚の死骸を見れば、命に関わらないまでも体調を崩す事は必須だろう。誰であっても躊躇する。
「もう空だ」
ヤーシーは手に持った飲み水を入れる革袋を逆さにし、水が入っていないことを訴えた。
その仕草に呆れながらふと思い返す。
一番慎重そうに見えて、一番計画性がなく無鉄砲なのはこの男だった。だからこそ、三人のリーダーはニックなのだ。
フフっと笑みをこぼしてヤーシーを見る。
不思議そうに彼女を見つめるヤーシーに、「水屋なら橋の向こうに見えたわ」と言いながらマーニは村の西を指差した。
「飲む前にちゃんと確認してね」
その言葉に片手をあげて答えると、ヤーシーは革袋を振り回しながら西へと歩いて行った。




