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私と彼女の物語 -Travelers of the Far Green Road-  作者: ORSBN.shu
第一部・朝暘
22/60

1−21

翌朝の冒険者協会は、昨日とは打って変わり、沢山の人でごった返していた。

アウリスフレランスの冒険者が、『悪辣非道のランク10冒険者達を討ち取った』という話が広まっているかららしい。

打倒した冒険団の団長と副団長、仲間の修道士が瀕死の状態らしい。などという尾ひれがついてまわり、協会内には、見舞いの品々が溢れかえっていた。


「瀕死といえば瀕死なのかしら?」


ロビーの椅子に座ったまま、オリーがフレアに話し掛ける。

「誰が瀕死ですか?」と、素でとぼけた返事をしたフレアは、居心地悪そうにしながら、隣の席でお茶をすすっている。

それと言うのも、ランク10冒険者達の討伐メンバーの中に、しっかりとオリーとフレアの名も連なっており、協会に来る冒険者達が、遠巻きに二人を見ては、コソコソと何やら話している声が聞こえてくるからであった。

悪い話をされている雰囲気は全くなかった。

どちらかと言えば、羨望の眼差しと言った方がしっくりきたが、漏れ聞こえてくる話の中には、『英雄殺し』などという物騒な二つ名をつけられそうなものもあった。

人聞きの悪い二つ名をつけられる前に、面と向かって話をして、誤解になりそうなものはことごとく否定したい、そんな気分になっていた。


「みんなはどうなっているんですかね?アンセルマちゃんの姿も見えないですけど」


応接室のある、二階へ続く階段に目を向けながらフレアが呟いた。

普段は特別な来賓のために使われる、10人入ってもまだ余裕のある応接室は、今現在バカ団専用の部屋として協会から提供されている。

団員とその関係者以外は、出入りを禁止されていた。


冒険者登録の日に、アンセルマがバタバタと登り降りしていた情景を、何となしに重ねて見ていたところに、丁度二階から下りてくるアウギュリエスの姿が見えた。

そのアウギュリエスは、オリーとフレアの姿を見付けると、「こちらへ」と言って、二階に昇ってくるように手招きしてきた。

関係者と言えば関係者に違いはない。それでも、応接室に入って良いものなのかと戸惑いながら、アウギュリエスに言われるがまま素直に従った。


「遣いを出さずに済みました」


ドアを開け、部屋の中の人物に話しながら、オリーとフレアに部屋に入るように促す。

豪華な装飾が施された広い部屋には、それに似合ったソファーとテーブルと、それに似付かわしくない、質素で簡素なベッドが、三つ並べられる様に置かれていた。

手前に置かれたソファーには、アウリスフレランスの冒険者協会長と、何故かはわからないが、アイゼサントから来た商団の女主人が座っていた。

一番奥のベッドには団長が横たわり、時折りうなされるのを、アンセルマが甲斐甲斐しく側で世話をしていた。

中央にアフォード、手前にエルメリアのベッドが設置してあり、それに挟まれるように置かれた椅子に、アルノルドが座っているのが見えた。


アフォードの意識は回復したらしく、アルノルドと会話ができる程にはなっていたが、まだ起き上がることは難しそうだった。

寝たままの姿勢で会話をしているのが、何とも痛ましく見える。

エルメリアも魔力が回復したようで、ベッドに上体を起こせる程になっていた。

身体的には何も問題は無いようだったが、念の為にと、ベッドから出るのを止められているようだった。


オリーとフレアが部屋に入ってきたのを見て、エルメリアが泣き出しそうな顔で二人を出迎えた。

アフォードも顔をこちらに向けて、「寝ながらですまない」と言いながら「世話になった」と礼を述べた。

二人とも、倒れた後の経緯をアルノルドから聞いたらしく、大袈裟にも、「命の恩人」などと言われ、オリーとフレアはひたすらに恐縮するばかりだった。

その様子をにこやかに、しかし、何処か寂しげに見ていたアンセルマに歩み寄り、目を開けることなく横たわる団長の様子を窺った。

傍から見れば、うなされながらも眠っているだけに見えなくもない、胸に受けたという矢の傷も、場所がわからない程に完治しているように見えた。しかし、その顔色は悪く、額には汗が滲んでいた。


「冒険団の団長として、大切な仲間を守ったんですもの。この人も本望だと思います」


団長の顔を優しく見つめながら、その額に浮かんだ汗を拭っている。

見慣れたアンセルマとは違う表情に、二人とも居た堪れない気持ちになり、アンセルマの肩をそっとさすった。

アンセルマはその手に視線を投げながら、寂しげな笑みを浮かべている。

もっと早くベルトン邸に戻っていれば、結果は変わっていたかもしれない。悔やんでも悔やみきれない思いが二人を支配した。


その様子を後ろから見ていたアイゼサント商団の女主人が、ソファーから立ち上がり、二人のそばに近付いた。

二人がそれに気付き振り向くと、彼女はスッと片膝を突いて、頭を下げた。


「私の名はフィリス・ヴァルモント。

 アイゼサントの商団『蒼風商会』の長を務めております」


フィリスは頭を下げたまま話し続けた。


「この度の一件、お二人にも陳謝いたします」


突然の謝罪にどうしていいか分からず、とりあえず、頭を上げて立つように促した。

言われた通りに立ち上がったフィリスは、二人よりも頭一つ分ほど背が高く、スラッとした体型と、その引き締まった体躯を惜し気もなく見せつける様な、それでいて嫌味の無い、布面積の狭い衣装を着用していた。

少しクセのある長い金髪が、凛々しい顔つきによく似合っている。王族と言われれば、鵜呑みにしてしまうような容姿だった。

以前フレアが、『上品な露出狂』と評した理由がわかった気がした。


「キエロス一味の来歴も噂話も、何も知らなかったとは言え、この地においそれと入れてしまったのは我々の失態。お二人は無事であったとはいえ、お手を煩わせたのは事実。

 調べることを怠った我々の不始末であり、弁解のしようもありませんが、どうかお許しください」


その場で深々と頭を下げる。

二人にしてみれば、ランク10冒険者達の一件はバカ団に加勢しただけの話であり、アイゼサントの商会が関わっていようが、原因であろうが、何の関係もないことであった。

許すも何も、好き好んで関わったのは自分達からなのだ、と言って、気にする必要も頭を下げる必要もないと告げた。

それを聞いて、どこかまだ不満足そうな顔をしていたフィリスだったが、観念したのか、「わかりました」と言いながら、冒険者協会の会長から何かを受け取り、それを手渡してきた。


「冒険の足しとなるかはわかりません。しかし、お二人にご迷惑をお掛けした、せめてもの償いとして、我々蒼風商会の紹介状を用意いたしました。

 アイゼサントにいらした際にお使いください」


フィリスが手に取ったそれは、中央にアイゼサント王国の紋章が彫り込まれ、細部にわたって見事な彫刻が施されている、銀製のカードであった。

蒼風商会の紹介状と言うわりには、商会の目印らしいものは見当たらず、紹介状と言いながら書状でもなく、一見すると装飾品の類にも見える一物であったが、受け取らなければ受け取るまで押し付けて来そうだったので、素直に頂戴することにした。


「頂戴します」


礼を言って、二人は紹介状を受け取った。

それでようやく満足したのか、フィリスの顔に安堵の色が見て取れた。凛々しい顔つきは変わらなかったが、少しばかり柔らかい表情が浮かんでいる。


「それでは、私は旅の用意に戻ります。

 アンセルマ殿、三・四日後には発ちますゆえ、身の回りの準備をお願いします」


そう告げてフィリスは部屋を後にした。

扉の前で振り返り、部屋に残る相手に頭を下げて礼をする。その所作が何とも優雅で、見惚れてしまいそうな程であった。

しかしそれよりも、フィリスが口にした、重大な言葉を聞き流すことができなかった。

二人はすぐさまアンセルマに問い掛けた。


「「アンセルマちゃんも旅に出るの?です?」」


息の合った問い掛けに、アンセルマが少しばかり面を食らったような顔を見せる。

それから照れ笑いのようなはにかんだ表情をして、団長を見詰めながら静かに語り出した。


「この人の、バカランディアさんの治療薬が北方で見つかるかも知れないらしくて、フィリスさんが、それならダナグまでお連れしたいと申し出てくれたの」


アウギュリエスの話では、龍眠毒の治療薬になりうる素材が、北方の地にあると書かれた古い文献が見つかったとのことだった。

まだまだ漠然とした、不確定要素しかない状況ではあったが、何の情報もないよりは救われたような気がした。


「冒険団全員をっていうお話だったんだけど、皆んなそれぞれ事情があって……。

 アフォードさんに頼まれたのもあるけど、この人が目の届かない所に行ってしまうのが怖くて、フィリスさんにお願いしたの」


オリーとフレアが腕を組んで、「ほうほう」と頷きながらアンセルマと団長を眺めている。

やはりアンセルマは、バカランディアに特別な感情を抱いている。そう思わせるに十分な話しぶりだった。

その様子をベッドの上から眺めていたアフォードが、アンセルマの話を補足した。


「蒼風商会の申し出は、ランク5程度の冒険者にとっては喉から手が出るほど貴重な話だ、冒険者として大商団の護衛に就けるなんて機会は滅多にない。

 だが、見ての通り俺はこの有様で、護衛するどころか護衛される側になってしまう」


言いながら顔は笑ってはいるが、どこか無念さが滲み出ているような気もした。


「とは言え、バカランディアの治療を諦めるわけにもいかない。

 それで、こいつの身の回りの世話をアンセルマに押し付けたのさ」


冗談めかした言い回しは、彼なりの気の使い方なのかも知れない。

バカランディアを想うアンセルマに気付いていたアフォードの計らいによって、結果としてアンセルマの本意を汲んだ形となったのではないだろうか。

惜しむらくは、バカランディアが無事であったならば満点だっただろう。


「粉骨砕身お世話します!」


アフォードの話に、アンセルマが元気良く笑顔で答えた。

その笑顔は、いつも見ていた彼女の笑顔に相違はなかった。しかし、おそらく、きっと、それは空元気なのだろうと思った。

だとしても、やはりアンセルマには笑顔が似合っている。二人が見知ったアンセルマは、いつもにこやかにしていた。

オリーとフレアは、互いの顔を見合わせて頷き合った。


「俺は一先ずここに残って療養に専念する。

 まともに動ける様になって、その時になっても、まだこいつが北方で寝ているようだったら、幼馴染のよしみだ、薬探しでも素材探しでも何でも手伝ってやるさ」


アフォードがケラケラと笑い声を上げる。

商団の護衛という口実が無くとも、身体が動いていたのならば北方に赴いていたのだろう。

笑い声の奥に、親友を助けたいという思いが伝わってくる様だった。

オリーもフレアも、そんなアフォードの気持ちには共感するところがあった。

それを黙って聞いていたアルノルドとエルメリアも、その思いを感じ取ったのか「自分達も必ず駆け付けます!」と言いながら、目が潤んでいる様に見えた……。


アフォードの説明を受けて、彼が着いて行けない理由はわかった。

立ち上がることが出来ないアフォードが、三・四日後に自由に歩き回れるようになるか、と問われても、きっとそんなことはあり得ないだろう。

そうであれば、エルメリアも魔力が回復したとはいえ、万全と言うには程遠い状態なのかも知れない。

商団に着いて行くことは難しいのだろう。

では、アルノルドはどうだ?

元気そうに見えるが、何処か怪我でもしているのだろうか、いや、そもそも怪我云々の話では無いのかもしれない……。

深い思案に沈んでいたところ、突然の冒険者協会長の声で、強引に現実に引き戻された。


「少し良いかな?

 今ならちょうど、全員揃っておることじゃし……」

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