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私と彼女の物語 -Travelers of the Far Green Road-  作者: ORSBN.shu
第一部・朝暘
19/63

1−18

「……なるほど、龍眠薬ですか……」


オリーの顔色を窺う。呼吸は安定している。

ただ寝ていると言われればその様にも見えたが、時折り苦しそうな表情をしている。


「龍眠薬は強力な毒薬の一つです。掠った程度であれば、解毒で治ると思いますが、深層に到達してしまっては解毒する方法がわかりません。

 彼、団長さんについては、知り合いに調べて貰う必要があります」


そう言いながら、オリーの傷口に手をかざした。

パッと青色の光が弾ける。

ほんの少しして、オリーが「んー」と唸り声をあげた。薄っすらと目を開いて、アウギュリエスの顔を確認したかと思うと、先程までと打って変わって、安心したような表情をしてまた眠りについた。

二度寝したようだ。

解毒は上手くいった。

その様子にすっかり安心したアウギュリエスは、オリーを抱きかかえ、庭先の休憩所に運び入れた。

同じ様に、エルメリアを抱きかかえ、休憩所に運び入れるアルノルドの方を見る。


「アルノルド、一つ、とても大事な話をします」


前置きをしてアルノルドの目を見る。

粛然とした空気に、アルノルドが姿勢を正して固唾を飲んだ。


「先程話していた蘇生術の件ですが、いずれ話が広まってしまうとしても、相手が誰であれあなたからは決して口外しないで下さい。

 エルメリアは勿論のこと、彼女を取り巻くすべての者に、危険が及ぶと考えてください」


柔和な表情から語られる物騒な言葉に、アルノルドは混乱したようだった。


「出来ることならば忘れるか、そうで無ければ、一生涯口を噤んだ方が長生きできます」


言葉の重要さを察したのか、それとも単に圧倒されたのか、アルノルドはじっとアウギュリエスの目を見て、静かに頷いた。

アウギュリエスもそれに頷いて答えると、「あなたも少し休みなさい」と言って、ベルトン邸に閉じ込められているという、フレアの救出に向かった。


アルノルドの話では、屋敷の玄関扉には罠が仕掛けられているらしい。放っておけば、中にいるフレアが、扉を無理やり抉じ開けて出てこないとも限らない。

急ぎ中にいるフレアに声をかけた。


「フレイア、無事ですか?」


その問い掛けに、バタバタと走り迫る音が聞こえた。慌てているのか、返事よりも先に玄関扉に手が出そうな気配がした。


「扉に罠が仕掛けられています。開けてはいけません」


扉を開けようとしたのか、「おうっ」と小さな叫び声がした。そのすぐ後に「先生ですか?わかりました!」という返事が聞こえた。

フレアの無事に安堵する。

「オリーは無事ですか?」というフレアの問い掛けには、詳細を伝えることで、玄関扉と言わず、窓からでも飛び出して来そうな気がしたので、端的に状況だけ答えて濁した。


二人の無事を確認して心底安心した。

何故この場に居合わせたのか、おそらくは冒険者協会で依頼を受けたのではあろうが、その理由は後でゆっくり聞くことにして、まずは、龍眠薬の調査と扉の罠の解除、そして、ランク10冒険者達の捕縛を優先しなければならない。


アウギュリエスは耳飾りにそっと手を当て、独り言のように話し出した。


「プリセラ?

 龍眠薬について調べてもらえますか」


続けざまに話し続ける。


「アルメアの冒険者の件で、少々面倒が起きています。

 私がいる場所に座標を置くので、準備が出来次第来てもらえますか」


言い終わって間も無く、アウギュリエスの近くで、白く眩い光が弾けるように輝いた。

光の明滅の後に人影が見える。


「アウ!元気してた!?」


快活な声が聞こえる。

黄緑色の、鉱夫のようにも見える作業着に身を包んだ、淡い緑色がかった金髪のタウトラが姿を現した。

自分の背丈ほどの大きな背負い袋を背負った彼女は、アウギュリエスに挨拶した後で周りを見渡し、目に入ったベルトン邸の玄関扉をしげしげと眺め始めた。


「これを開けたいのね?」


何も説明していないが、アウギュリエスの意図する所は伝わっているようだった。

背負い袋を下ろすと、中から沢山の工具を取り出し、手元に並べて仕掛けを外す用意をし始めた。


「ドリス、どうです?

 アルメアの冒険者が仕掛けた罠に、龍眠薬が使われているらしいです」


アウギュリエスが声を掛ける。

その話に「ほうほう」と頷きながら、しばらく罠を観察していたドリスが、アウギュリエスに振り返って状態を伝える。


「褒められた物じゃないね。バウルの子供の方がもっとまともな物を作れるよ。

 ……仕込んであるのは龍眠薬なのかな?何かの液体だね。

 プリセラには頼んだ?」


罠は予想以上に粗末な物で、簡単に解除できそうだった。しかし、仕掛けられている罠は、やはり龍眠薬と見て間違いなさそうだった。


「プリセラには皆を呼ぶ前に」


答えを聞いてドリスは頷き、「じゃあ、とりあえず開けちゃうね」と言って、工具を手に取り罠の解除に取り掛かった。

手際の良さから、解除に時間は掛からないと思われた。


そんなやり取りの最中、アウギュリエスの近くでまた、白く眩い光が弾けるように輝くと、その光の中に新たな人影が現れた。

人影はアウギュリエスとドリスの姿を見ると、すぐさま片膝をついて深々と礼をした。


「アウギュリエス様、ドリス様、ご無沙汰しております。

 不肖カヌーア、師の命により馳せ参じました。何なりとご命令を」


カヌーアと名乗った短い金髪の女性が、片膝をついたまま顔を上げる。

真紅の司祭服を纏い、純白の外套を羽織った、見た目にはまだ年の若いヘイムの女性であった。

ドリスがアウギュリエスの後ろに隠れ、こそりと問い掛けてくる。


「この子誰?」


怪訝そうな顔でカヌーアを見つめている。

その顔の理由に気が付き、アウギュリエスがカヌーアの正体を明かした。


「セラフィエルの後継者、エスタス神殿のカヌーアですよ。

 前に会った時は、まだ四つか五つでしたね」


言われて思い出したのか、ドリスはカヌーアの手を取り上下に振って、「ヘイムは成長が早いね」と言いながら喜んだ。

ドリスの言う通り、へイム族の成長は早い。言い換えるならば、長齢のタウトラ族やバウル族、不死と呼ばれるネルヴ族に比べれば、老いるのが早いと言うべきなのかもしれない。


少しばかり場違いな、微笑ましい光景を眺めていたアウギュリエスだったが、「さっそくですが」と切り出し、カヌーアに指示を出した。


「カヌーアはここ一帯の浄化、それと、負傷者の治療をお願いします」


言いながら辺りを見渡す。

亡骸が一人、昏睡状態が二人、衰弱者が一人、石化が一人、精神崩壊が一人。

惨憺たる状況であった。

カヌーアの表情が歪む。


「それと、一つ頼みがあります……」


少し言い淀みながら、アウギュリエスが続ける。


「クイル・リンドの名を聞いたことは?」


その名を聞いて、カヌーアの表情が困惑したものに変わった。しかし、すぐにこくりと小さく頷いて答えた。


「セラフィエル様から聞いたことがあります。

 命を司る者。

 女神レイア様の申し子とも、神威の簒奪者とも……」


アウギュリエスが頷き返す。


「それで十分、話が早いです」


そう言って庭先の休憩所に目を向ける。

カヌーアもその目線を追い、休憩所を確認する。

三人の人影の中で、眠る様に横になっているエルメリアを見付け、カヌーアが口を開いた。


「まさか、あの修道士の少女がクイル・リンド!?」


カヌーアの独り言のような問い掛けに、アウギュリエスが静かに答える。


「本人では無いにしろ、何かしらの関係者でしょう。

 隣で寝ている少年が、仲間の魔術士が死から蘇ったところを目にしたそうです」


言いながらアフォードの元に歩み寄る。

倒れてはいるが呼吸は安定している。オリーの懸命な回復によって、虫の息であったのを持ち直したらしい。

傍から見る分には、これ以上回復は必要無いように見えるほどであった。

司祭や僧侶、修道士のような聖職者でもない、魔術士による回復魔法の効果に感心する。


カヌーアはアフォードのそばで跪き、胸に手をかざして目を閉じた。

手のひらからぼんやりとした、陽光のような温かな光が溢れ出す。やがて光がアフォードの全身を包むほどに広がり、その後でパッと弾けて瞬きながら、減光して薄闇を残した。


「蘇生ですか……。

 蘇生を受けた者を見るのも触れるのも初めてですが、この方はもう大丈夫だと思います。

 応急で回復された方のお陰ですね。しばらくすれば目を覚ますでしょう」


立ち上がり魔術士を見下ろす。先程よりも穏やかな表情で呼吸にも乱れが無い。


「アウギュリエス様の頼みというのは、この者のことでしょうか?」


カヌーアの問いに、アウギュリエスは首を横に振って答えた。

視線をエルメリアに戻す。


「彼女を、セラフィエルの庇護下に置いて欲しいのです」


予想していなかった回答に、カヌーアが目を見開いてアウギュリエスを見つめる。

確かに、この魔術士の回復はもう必要無いだろう。しかしながら、まさか蘇生者どころか蘇生術者の庇護とは、考えも及ばなかった。


「術者の庇護ですか!?」


思わず声に出して聞き返す。

想定していた反応とばかりに、アウギュリエスが返答する。


「蘇生術は、お伽噺の中のものでしかありませんでした。

 誰もが目にしたことの無い奇跡でしたが、その奇跡が手の届く場所にあるとしたら、世界に混乱を招くことは想像に難くないでしょう」


幸にして、大昔にあったとされる大戦以降、現在に至るまで六王国間は表立っては平和そのものであった。

国境付近で多少のいざこざはあっても、戦争につながるような大事には至っていない。

しかし、お伽噺の世界にだけ存在していた『蘇生』と言う術が、現実のものとして認識された時、果たして六王国は、平和を保っていくことができるだろうか。

蘇生術争奪という争いの火種は、この世界を、混沌に満ちた戦禍に巻き込んでしまう可能性がある。


「人の目に触れてしまった以上、いずれこの事実は時を待たずして世に広まるでしょう。

 そのことによって世界がどう変わるか、今のところ何もわかりませんが、良い方向に向く可能性は、残念ながら高くはないでしょう。

 彼女には全く非がありません。しかし、禍の中核となり得る彼女を、このまま放っておくことはできません」


言い終えて、カヌーアが納得してくれることを期待した。

カヌーアは納得はしているようではあったが、どこか腑に落ちないと言った表情でアウギュリエスを見返してきた。


「いっそ、協会へ報告しないというのは……」


自分が口にした言葉に躊躇い、語尾を濁した。

セラフィエルの後継者であり、自身もまた歴とした冒険者協会に所属する身である。冒険者協会を蔑ろにする発言に、後ろめたさを感じたようだ。


「失言でした。ご容赦ください」


アウギュリエスに向かって深々と頭を下げる。

それに対して、「構いません」と言って頭を上げさせる。


「私もそれは考えましたが、この件がどこからか漏れ伝わってしまった場合、黙秘を決めた我々を責め立てるのは、この世界になります。そう考えると手に余ります」


言いながら少し不敵な笑みが浮かべる。アウギュリエスの返答が冗談だとわかりつつも、カヌーアは粛然と返した。


「アウギュリエス様が味方であれば、例え世界が相手でも何も心配ありませんが」


その目には、発言を茶化すような雰囲気は微塵も無かった。

アウギュリエスに対する、カヌーアの率直な感想と言って間違い無いだろう。

そう言われて悪い気はしなかったが、「煽ても誰も得しませんよ」と言って、笑顔を見せて誤魔化した。

その返答にカヌーアは拍子が抜けたのか、フッと笑った後で、意を決した様に、肯定と取れる返事をした。


「庇護の件、私の一存で決めるには荷が重過ぎます。けれど、アウギュリエス様の頼みを無碍には致しません。師を説得して、遠くない時期に迎えに参ります」


そう言って頭を下げ、そのまま大男の亡骸に向かった。



ほどなくして、罠の解除を終わらせたドリスが、小瓶を持って近付いてきた。指先で摘んだ小瓶をぷらぷらと揺らしながら、自慢げな顔をしている。

親指ほどの大きさの小瓶に入ったそれが、一体どれだけの相手を昏睡させることができるのか、未知の恐怖と、小瓶を落として割ってしまわないか、不安に駆られる。


「扉はもう安全、開けても大丈夫って、中の子に教えてあげて」


言いながら小瓶を布で包み、鞄に仕舞い込む。


「これは、プリセラに持って行くね」


そう言うと、そそくさと帰り支度を始めた。


「ありがとう、礼はまた後で」


その言葉に、ドリスは手を左右に振って、礼など不要だと示した。

そのままカヌーアの元に向かい、一言二言交わした後で、白く眩い残光を残して、颯爽と姿を消した。


ベルトン邸の中で待機していたフレアに、「もう大丈夫だ」と告げると、ほんの少しの時間も我慢できなかったように、屋敷から勢いよく飛び出してきた。

辺りをぐるりと見回した後、休憩所で横になっているオリーの姿を見つけ、一目散に駆けて行った。

何度か声を掛けながら、オリーの手を取ってじっと様子を窺っていたが、ただ眠っているのだとわかると、「いつものオリーです」と言って、手を握ったまま同じように眠ってしまった。

オリーの安否がわかり、自身の疲れも相俟って、緊張の糸が切れてしまったのだろう。


状況が一段落した頃に、新たな人影が姿を現した。

黒髪で長身のネルヴは、ユースガリア騎士団の紋章が入った外套を羽織り、大振りの両手斧を背負っていた。

見ての通り、ユースガリア王国所属の騎士であった。


「遅くなってすまん。移送の手配で手間取った。」


勇ましい顔つきに笑みを浮かべながら、アウギュリエスに歩み寄る。


「他は来ていないのか?」


辺りを見渡しならが、見知った顔を探す素振りを見せた。


「カヌーアは向こうに。

 ドリスは入れ違いにプリセラの所に向かった。おそらく数年は滞在すると思う」


それを聞いてネルヴの騎士は笑いながら、「違いない」と言い、アウギュリエスと拳を合わせて挨拶した。


「あれが件の冒険者だ」


そう言って、ランク10冒険者達を視線で知らせる。

石像となったキエロス、重症の剣士、廃人となった女魔術士。まともな状態の者が居ないことに、ネルヴの騎士は呆れた表情でため息を吐く。


「全部お前が?」


アウギュリエスがやったのかと、非難の表情を見せる。

自分ではないと首を横に振って答えたが、女魔術士に視線が移ったところで、自分に責があることを思い出して、不恰好な笑みを浮かべて誤魔化した。


「まあ問題ない、協会の無理強いには慣れた。

 ところで癒し手の姿が見えないが?」


ランク10冒険者達の顔を眺めながら、ネルヴの騎士が問いただす。


「彼等を追っていた他の冒険者が排除したらしい」


その回答に、「へぇ」と感心したような声を上げる。

仮にもランク10冒険者の一味である。有象無象に遅れを取ることなどないだろう。となれば、対峙した冒険者も高ランクなのか、はたまた相応の力量がある冒険者なのか……。

興味津々といった表情を浮かべて、対峙したという冒険者を探す。


「しかし、排除したという冒険者は、何故ランク10を追っていた?」


当然の疑問ではあるが、アルノルドの話からは、詳細を知ることは難しかった。


「アルノルドという少年剣士が、ある程度は把握しているようだが、詳しくは冒険団の団長に聞かなければ分からないと思う。

 まあ、まずは彼に直接聞いてみると良い」


言いながら休憩所で眠るアルノルドの元に向かった。


二人が近付く気配を感じ取ったのか、アルノルドは上体を起こして周りを確認している。

エルメリア達の姿を確認して安心したような顔をしていたが、いつの間にか目の前に現れたユースガリアの騎士を見て、すっくと立ち上がると、緊張した面持ちで直立不動のままネルヴの騎士を出迎えた。

ネルヴの騎士が、アルノルドに笑い掛けながら話し掛ける。


「俺はレディオンド、ユースガリア王国の騎士だ。

 休んでいたところをすまないが、もう一度話を聞かせてもらえるか」


レディオンドが中腰の姿勢で、アルノルドと同じ目線で話す。

アルノルドは、今にも敬礼しそうな勢いで返答した。


「も、もちろんです!」


辿々しい返事ではあったが、会話はできそうだった。

レディオンドをアルノルドに預け、アウギュリエスは改めて辺りを見返した。


カヌーアの浄化のおかげで、血溜まりも、癒し手の亡骸も、跡形も無く綺麗に片付けられていた。

魂と肉体を光の欠片に変え、女神の御許に還す。

神官などの中位職以上に許された、一種の魔法のようなものである。

一頻り感心していると、呼び出されて一番苦労を強いられているカヌーアが、こちらに近付いてくるのが見えた。


「アウギュリエス様、大方すべきことは終わりました。

 残るはその者の解呪だけですが、いかが致しましょうか」


石化したキエロスを見やる。

キエロスの石化を解呪するか、そのままにするか……。

解呪したとして、切断された脚の激痛と激しい出血によって、正気を保っていられるかわからない。

治療を施せば騒ぐことはないかもしれないが、下手に逃げ出そうとされても、それはそれで面倒ではあった。

司祭であるカヌーアであれば、切断された片脚を元に戻すことも容易いことではあったが、切り落とされた片脚は、癒し手と共に浄化してしまったようだった。

しばしの間考えあぐねていたが、何れにせよ彼等の身柄はこの後レディオンドに託される。


「レディオンドに任せよう」


アルノルドと話し込むレディオンドに決断を任せた。


「カヌーア!大きくなったな」


カヌーアの姿に気づいたレディオンドが、カヌーアの肩を叩きながら挨拶する。「セラフィエルは元気か?」と続ける問いに、カヌーアが笑顔で返した。


「いつ迎えが来てもおかしくないなどと、冗談を言って困らせてきます」


冗談なのか事実なのかは定かでは無いが、そのやりとりのおかげで、張り詰めていた空気が少し緩んだ様な気がした。


「ヘイムは老いるのが早いからな、だがまだ80そこらだろう、人生これからだと思うが」

「レディオンド様やアウギュリエス様と一緒にされたくないとおっしゃいますよ」


言いながら笑い合う。

幼い時分から知っている、まるで親戚の子のような存在である。レディオンドの顔が綻ぶのも仕様がない。

しかし、これ以上談笑を続けられても困るので、一つ咳払いをして場を仕切り直す。


「カヌーアが、キエロスついて指示が欲しいと」


要件だけ伝える。

慌てた様子でカヌーアが状況を報告した。


「はい。

 キエロスの移送に際して、石化を解呪すべきか否か迷っておりました。

 剣士の治療は済んでおりますが、まだ意識は戻っておりません。正気を失った魔術士については、手の施しようがありませんので、負っていた怪我の治療だけしております」


「全部お前のせいだろう」と言って、アウギュリエスを一瞥した後で、レディオンドは顎に手をあて考え耽った。

通例であれば、罪人の移送は手枷をして馬で引いて歩かせる。それは、見せしめとしての意味合いもあるが、今回の移送に限っては、まともに歩ける者が一人もいなかった。

それに、今現在の状況から言えば、キエロス一味はまだ罪人と決まったわけではない。それを決めるのは、所属国であるアルメア王国だ。


「解呪して騒がれてもかなわんし、石像のままで構わんだろう。

 とは言え、乗合馬車に彼奴らを詰め込むわけにもいかんし、移送用の馬車はアウリスフレランスまで戻らないと用意できんな……。

 牧場主から荷馬車を借りるしかないか」


言いながら屋敷の方を見たが、出荷用と思われる荷馬車が一台見えるだけであり、貸して欲しいと言ったところで、易々とは貸してもらえないだろうと想像がついた。


そんな折、話し合いの声が聞こえていたのか、アルノルドが後方から声を掛けてきた。


「あの、もしかしたらですけど……」


アルノルドの話では、ランク10冒険者達が乗ってきた荷馬車が、付近に隠してあるらしい。


「でかした少年!」


レディオンドがアルノルドの肩を叩いて称賛する。

照れ笑いをしながらも、荷馬車が本当にあるのか心配そうな顔で、アルノルドがおろおろとしている。


「少年は通りを探してみてくれ、俺は屋敷の裏側を探してみる」


そう言って二人は二手に分かれ、荷馬車探しに行ってしまった。まるで疾風迅雷だな、とレディオンドの後ろ姿を見送る。

姿が見えなくなった頃に、カヌーアが、「では」と言って帰り支度を始めた。


「アイゼサントに戻ります。何かあればいつでもお呼びください」


急ぎ駆け付けてくれたことと、尽力に礼を伝える。

カヌーアは笑顔で返答してから、言葉を付け加えた。


「蘇生術者の件は、後ほどご連絡いたします」


深々と頭を下げた後に、眩い残光を残して、カヌーアはベルトン邸を去った。

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