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私と彼女の物語 -Travelers of the Far Green Road-  作者: ORSBN.shu
第三部・盛陽
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105/116

3-35

警戒は緩めずに、砂丘を奥へと進んだ。

バシュクの領域というのがまるで嘘のように、人影一つ見えなかった。


「このままだと、ザーローンに着いちまうな」


ナイザが鳥馬を止める。

アルドネリア大陸の西端、砂丘の稜線とは明らかに違う、霞んで見える山脈の峰が見える。あの山脈を越えた先が、西の王国ザーローンだ。

辿り着くにはまだまだ数日はかかるが、それに手が届きそうなところまで来ていた。


一行は幾つかの稜線を越え、砂丘の中央部まで進んでいた。

ここまで来てもバシュクの痕跡は無い。

風が吹けば砂丘は形を変えるとはいえ、砂丘に着いてから嵐はおろか、強い風が吹いたことすらなかった。

もはやここは、人が存在していない未開の場所のような気がしてくる。

そして、その異様さを決定づけていたのが、目の前に現れた巨大な擂鉢状の地形だった。

村一つ入ってしまいそうなほどの巨大なそれは、中央に向かって緩やかに下っていた。

底には何も無いように見えたが、砂は絶えず底に向かって流れ落ちていた。


咄嗟にナイザが警告する。


「近寄るな。落ちたら登って来れん」


一度落ちてしまえば、這い上がろうともがくほどに沈んでいく。そしてやがて、摺鉢の中央に引き摺り下ろされ、砂に埋もれてしまうのだ。

オリーもフレアも、思わず息を飲んで鳥馬を下がらせた。


「地下の空洞に繋がっていると聞いたことがあるが、見るのは初めてだ」


ナイザの顔に緊張が見える。

砂漠で暮らしている彼でさえ、見るのは初めてだという光景を前に足がすくんでしまう。

もしかすると、バシュク族は皆この砂の穴に落ちたのではないだろうか……。

ゾッとする考えが頭を過ぎる。


一行は慎重に歩を進め、砂丘の奥を目指した。

変わり映えのない砂の地を進み、やがて三人はさらに奇妙な光景を目の当たりにすることとなった。

稜線を越えるたびに、信じ難い景色が目の前に現れる。

まるで同じ場所をぐるぐると巡っているように、巨大な擂鉢状の地形が口を開けて待ち構えていた。


「ここは地獄か何かか……」


ナイザの声が震えているのがわかる。

一段高い稜線の上に登り、行く先を眺めた。

傾いた陽に照らされて赤く揺らめいて見えるのは、幾つもの巨大な穴だった。


「日があるうちに一度退こう」


絞り出すようなナイザの声に、オリーもフレアも黙ったまま頷いた。

野営を張る場所などない。まして日が落ちてしまえば、進むことも退くことすらもできなくなる。

手遅れになる前に、進んできた足跡を辿って引き返そうと、鳥馬の手綱を引いた。


西陽を背にし、長く伸びた影を見た時、それは空気を震わせるように砂丘に鳴り響いた。

まるで獣の咆哮のような、警笛の音だった。

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