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警戒は緩めずに、砂丘を奥へと進んだ。
バシュクの領域というのがまるで嘘のように、人影一つ見えなかった。
「このままだと、ザーローンに着いちまうな」
ナイザが鳥馬を止める。
アルドネリア大陸の西端、砂丘の稜線とは明らかに違う、霞んで見える山脈の峰が見える。あの山脈を越えた先が、西の王国ザーローンだ。
辿り着くにはまだまだ数日はかかるが、それに手が届きそうなところまで来ていた。
一行は幾つかの稜線を越え、砂丘の中央部まで進んでいた。
ここまで来てもバシュクの痕跡は無い。
風が吹けば砂丘は形を変えるとはいえ、砂丘に着いてから嵐はおろか、強い風が吹いたことすらなかった。
もはやここは、人が存在していない未開の場所のような気がしてくる。
そして、その異様さを決定づけていたのが、目の前に現れた巨大な擂鉢状の地形だった。
村一つ入ってしまいそうなほどの巨大なそれは、中央に向かって緩やかに下っていた。
底には何も無いように見えたが、砂は絶えず底に向かって流れ落ちていた。
咄嗟にナイザが警告する。
「近寄るな。落ちたら登って来れん」
一度落ちてしまえば、這い上がろうともがくほどに沈んでいく。そしてやがて、摺鉢の中央に引き摺り下ろされ、砂に埋もれてしまうのだ。
オリーもフレアも、思わず息を飲んで鳥馬を下がらせた。
「地下の空洞に繋がっていると聞いたことがあるが、見るのは初めてだ」
ナイザの顔に緊張が見える。
砂漠で暮らしている彼でさえ、見るのは初めてだという光景を前に足がすくんでしまう。
もしかすると、バシュク族は皆この砂の穴に落ちたのではないだろうか……。
ゾッとする考えが頭を過ぎる。
一行は慎重に歩を進め、砂丘の奥を目指した。
変わり映えのない砂の地を進み、やがて三人はさらに奇妙な光景を目の当たりにすることとなった。
稜線を越えるたびに、信じ難い景色が目の前に現れる。
まるで同じ場所をぐるぐると巡っているように、巨大な擂鉢状の地形が口を開けて待ち構えていた。
「ここは地獄か何かか……」
ナイザの声が震えているのがわかる。
一段高い稜線の上に登り、行く先を眺めた。
傾いた陽に照らされて赤く揺らめいて見えるのは、幾つもの巨大な穴だった。
「日があるうちに一度退こう」
絞り出すようなナイザの声に、オリーもフレアも黙ったまま頷いた。
野営を張る場所などない。まして日が落ちてしまえば、進むことも退くことすらもできなくなる。
手遅れになる前に、進んできた足跡を辿って引き返そうと、鳥馬の手綱を引いた。
西陽を背にし、長く伸びた影を見た時、それは空気を震わせるように砂丘に鳴り響いた。
まるで獣の咆哮のような、警笛の音だった。




