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砂の雪崩が起こした轟音から一転、静まり返った天幕の中で、オリーとナイザの二人は息を飲んだ。
ガランという音が聞こえてきそうなほどに、何もない空の天幕……。
チリンという警報鈴の音に振り返り、咄嗟に迎え撃つ姿勢で構えた。
首を傾げて入ってくるフレアの姿を見て、肩の力が抜ける。
ぐるりと天幕の中を見渡したフレアが独り言をこぼした。
「何もないですね」
もぬけの殻とはこのことだろうかと頭を悩ます。
ただの日除だったとしても、何かしら置いてあって然るべきだ。それなのに、腰掛どころか荷物の類すらない。
いや、正確には何もないわけではなかったが、それを認識するには、思考の整理が必要だっただけだ。
「この穴は……、何だ?」
ナイザが警戒しながらそれに近付いていく。
広くはない天幕の中、中央にぽっかりと穴が口を開いている。
近寄って中を確認しようと覗き込むと、言いようのない生臭さが鼻についた。
思わず鼻を手で覆って顔を背ける。
記憶のどこかにある臭い。危険を感じさせる臭いだった。
鼻を摘んだフレアが穴の中を覗き込む。
「底が見えないです」
砂しかない砂漠の真ん中に、何の意図があって、底が見えないような穴を開けるのか……。
まるで意味がわからない。
バシュクが穴を掘って入ったとでもいうのだろうか。
「地下に入って行ったってこと……?正気とは思えない」
つい、バシュクが穴を掘った前提で悪態を吐いてしまった。
「いや、それだと鳥馬がいないのはおかしい」
すぐにナイザが否定した。
「遊牧民にとって鳥馬や砂馬は命綱だ。
鳥馬を置いて中に入るとは考えられんし、この穴は鳥馬を連れて入れる大きさじゃない。
それに、こんな底が見えない穴にロープも無しに人が入るってのも考えられん……」
バシュクが騎乗していた鳥馬の姿はない。
外にいないのならば、連れて行ったとしか考えられないが、ナイザの言う通り、それは鳥馬が大人しく入って行くような穴ではなかった。
三人はそれぞれ頭を傾げながら、しばらく穴の底を見つめた。考え込んだとしても、答えなど出てはこないのだが……。
そんな折り、フレアが天幕の隅に何かを見つけた。
「あれって、バシュクの荷物ですかね?」
全く気付かなかったが、天幕の隅に砂に埋もれた背負い袋や、鳥馬の鞍が置かれていた。
隠すために砂をかけたというわけではなさそうだった。
言い表すならば、砂嵐が過ぎたような埋もれ方だ。
「隠したわけじゃなさそうだな」
そう言いながらナイザが荷物を掘り起こす。
都合よく解釈するならば、中央の穴から掘り出された砂を被っているようにも見える。
「下から何か出てきたんですかね?」
フレアの言葉に不穏な空気が漂う。
何が出てきたかは知る由もない。しかし、この底の見えない穴の先に、何か得体のしれないものが潜んでいそうな気がした。
フレアに小さく頷き、二人でじっと暗い穴の先を見つめた。
──その時、ナイザが小さな小袋を手にして呻くような声を上げた。
「こいつは、サマルのだ……」




