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私と彼女の物語 -Travelers of the Far Green Road-  作者: ORSBN.shu
第三部・盛陽
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103/110

3-33

砂の雪崩が起こした轟音から一転、静まり返った天幕の中で、オリーとナイザの二人は息を飲んだ。

ガランという音が聞こえてきそうなほどに、何もない空の天幕……。

チリンという警報鈴の音に振り返り、咄嗟に迎え撃つ姿勢で構えた。

首を傾げて入ってくるフレアの姿を見て、肩の力が抜ける。


ぐるりと天幕の中を見渡したフレアが独り言をこぼした。


「何もないですね」


もぬけの殻とはこのことだろうかと頭を悩ます。

ただの日除だったとしても、何かしら置いてあって然るべきだ。それなのに、腰掛どころか荷物の類すらない。

いや、正確には何もないわけではなかったが、それを認識するには、思考の整理が必要だっただけだ。


「この穴は……、何だ?」


ナイザが警戒しながらそれに近付いていく。

広くはない天幕の中、中央にぽっかりと穴が口を開いている。

近寄って中を確認しようと覗き込むと、言いようのない生臭さが鼻についた。

思わず鼻を手で覆って顔を背ける。

記憶のどこかにある臭い。危険を感じさせる臭いだった。


鼻を摘んだフレアが穴の中を覗き込む。


「底が見えないです」


砂しかない砂漠の真ん中に、何の意図があって、底が見えないような穴を開けるのか……。

まるで意味がわからない。

バシュクが穴を掘って入ったとでもいうのだろうか。


「地下に入って行ったってこと……?正気とは思えない」


つい、バシュクが穴を掘った前提で悪態を吐いてしまった。


「いや、それだと鳥馬がいないのはおかしい」


すぐにナイザが否定した。


「遊牧民にとって鳥馬や砂馬は命綱だ。

 鳥馬を置いて中に入るとは考えられんし、この穴は鳥馬を連れて入れる大きさじゃない。

 それに、こんな底が見えない穴にロープも無しに人が入るってのも考えられん……」


バシュクが騎乗していた鳥馬の姿はない。

外にいないのならば、連れて行ったとしか考えられないが、ナイザの言う通り、それは鳥馬が大人しく入って行くような穴ではなかった。


三人はそれぞれ頭を傾げながら、しばらく穴の底を見つめた。考え込んだとしても、答えなど出てはこないのだが……。

そんな折り、フレアが天幕の隅に何かを見つけた。


「あれって、バシュクの荷物ですかね?」


全く気付かなかったが、天幕の隅に砂に埋もれた背負い袋や、鳥馬の鞍が置かれていた。

隠すために砂をかけたというわけではなさそうだった。

言い表すならば、砂嵐が過ぎたような埋もれ方だ。


「隠したわけじゃなさそうだな」


そう言いながらナイザが荷物を掘り起こす。

都合よく解釈するならば、中央の穴から掘り出された砂を被っているようにも見える。


「下から何か出てきたんですかね?」


フレアの言葉に不穏な空気が漂う。

何が出てきたかは知る由もない。しかし、この底の見えない穴の先に、何か得体のしれないものが潜んでいそうな気がした。

フレアに小さく頷き、二人でじっと暗い穴の先を見つめた。


──その時、ナイザが小さな小袋を手にして呻くような声を上げた。


「こいつは、サマルのだ……」

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