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一抹の不安が残る。
自分たちの行動は、全て筒抜けなのではないかと……。
天幕は罠でしかなく、中に入り込んだ瞬間に、稜線の影で息を潜めたバシュクが一斉に襲いかかってくる。
そうなれば──袋の鼠だ。
逃げ道はない。しかし、バシュクはそこまで狡猾だろうか……。
決して相手を軽んじているわけではない。だが、相反する考えが激しくせめぎ合う。
耳飾りに手を当ててフレアに話しかける。
「フレア、聞こえる?」
知覚遮断魔法の効果の下で、綴糸の耳飾りが機能するかなど試したことはない。一か八かではあったが、フレアの返答を待った。
「どうしたのですか?」
半ば諦めていたぶん、フレアの声が聞こえてきたことに安堵した。
けれども、ホッとしている暇はなく、オリーは自分が感じている不安を素直にフレアに打ち明けた。
「それじゃあ……」
少しの間をおいて、フレアが話を続ける。
「辺りの砂山を崩せば良いですね」
押しつぶされそうな不安と緊張の中にあって、いつもと変わらないフレアの口振りに安心する。
天幕の中はオリーとナイザが制圧する。
天幕の外はフレアに任せる。
きっとそれは、おそらく一瞬の出来事だ。
──
天幕のそばで一度呼吸を整える。
中からは話し声どころか、人の気配さえ感じられない。
不気味だ。
不安が的中したのではないかと、血の気が引いていくのを感じる。緊張で指先が凍えるように冷たくなっているのがわかる。
それでも、天幕の中を確認するまでは、何が正解かはわからない。
天幕近くで剣を抜くナイザを確認し、折り重なった入口の布を手に取る。
一瞬だけ間を置いて、一気にそれを捲り上げた。
布の端に括り付けられた警報鈴が、場違いな音を響かせた。
それに合わせるように、フレアが周囲に向けて魔法を放った。
天幕を囲うように盛り上がる砂の稜線を、ことごとく崩していく。
砂の雪崩が轟音を立てて天幕に押し寄せてくるのが見える。
それを気に留めることなく、オリーはナイザと共に天幕の中へ突入する。
「──っ!」
言葉にならない声が漏れた。
その間にも、フレアは押し寄せる砂を防ぐように、天幕の四方に石の壁を作り上げる。
砂地から円を描くように迫り上がった石壁は、押し寄せる砂を阻み、砂煙を舞い上げた。
その中に、悲鳴も叫び声も混じっていない。
罠ではなかった。しかし、不安が杞憂だったと安堵する余裕はなかった。
天幕の中には、──何もなかった。




