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私と彼女の物語 -Travelers of the Far Green Road-  作者: ORSBN.shu
第三部・盛陽
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102/107

3-32

一抹の不安が残る。

自分たちの行動は、全て筒抜けなのではないかと……。

天幕は罠でしかなく、中に入り込んだ瞬間に、稜線の影で息を潜めたバシュクが一斉に襲いかかってくる。

そうなれば──袋の鼠だ。

逃げ道はない。しかし、バシュクはそこまで狡猾だろうか……。

決して相手を軽んじているわけではない。だが、相反する考えが激しくせめぎ合う。


耳飾りに手を当ててフレアに話しかける。


「フレア、聞こえる?」


知覚遮断魔法の効果の下で、綴糸の耳飾りが機能するかなど試したことはない。一か八かではあったが、フレアの返答を待った。


「どうしたのですか?」


半ば諦めていたぶん、フレアの声が聞こえてきたことに安堵した。

けれども、ホッとしている暇はなく、オリーは自分が感じている不安を素直にフレアに打ち明けた。


「それじゃあ……」


少しの間をおいて、フレアが話を続ける。


「辺りの砂山を崩せば良いですね」


押しつぶされそうな不安と緊張の中にあって、いつもと変わらないフレアの口振りに安心する。

天幕の中はオリーとナイザが制圧する。

天幕の外はフレアに任せる。

きっとそれは、おそらく一瞬の出来事だ。


──


天幕のそばで一度呼吸を整える。

中からは話し声どころか、人の気配さえ感じられない。

不気味だ。

不安が的中したのではないかと、血の気が引いていくのを感じる。緊張で指先が凍えるように冷たくなっているのがわかる。

それでも、天幕の中を確認するまでは、何が正解かはわからない。

天幕近くで剣を抜くナイザを確認し、折り重なった入口の布を手に取る。

一瞬だけ間を置いて、一気にそれを捲り上げた。


布の端に括り付けられた警報鈴が、場違いな音を響かせた。

それに合わせるように、フレアが周囲に向けて魔法を放った。

天幕を囲うように盛り上がる砂の稜線を、ことごとく崩していく。

砂の雪崩が轟音を立てて天幕に押し寄せてくるのが見える。

それを気に留めることなく、オリーはナイザと共に天幕の中へ突入する。


「──っ!」


言葉にならない声が漏れた。

その間にも、フレアは押し寄せる砂を防ぐように、天幕の四方に石の壁を作り上げる。

砂地から円を描くように迫り上がった石壁は、押し寄せる砂を阻み、砂煙を舞い上げた。

その中に、悲鳴も叫び声も混じっていない。

罠ではなかった。しかし、不安が杞憂だったと安堵する余裕はなかった。

天幕の中には、──何もなかった。

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