エピローグ「貧乏の女神編⑥」
その日の朝日を拝みながらも俺は、仮眠を取るために牛小屋へと向かった。
そして、その子は待っていた。
ちゃんと仕事をしてくれたらしい。
「あ、あの……」
「おかえり」
「……え?」
「こういう時はただいまっていうんだよ、パーフリィ」
「た、ただいま……です」
俺はその答えに撫でて返す。
そして――
――ピタ
「え?」
俺は彼女の両頬に手を当てて、にっこり笑って言う。
「罰だ。過去に何があったかは知らないけど、君のせいじゃない……。あともう少しで証明して見せるから楽しみに待っててくれ」
そう言うとあくびをして、俺は寝入ることにした。
彼女はそのまま佇んでいて、俺はなんとも恥ずかしいことをしたなと後悔しながらも眠りについた。
それから一週間くらいが経った。
その間も俺は村に滞在しては、狩猟のやり方やコツなどを教えたりして農業のみだけに留まらず周囲とともに生きていくことができることを出来る限り教えていった。
最初は、やっぱり戸惑っていた村人たちだったが元々働き者が多かったのだろう村人たちはどんどん俺が教えることを吸収して、一週間後にはいっぱしの猟師が何人か誕生した。
本当、狩猟の女神様には感謝してもしきれないと俺はまた再び祈るのだった。
その頃、狩猟の女神が悶えているのを知らぬままに。
そして、昼を過ぎた辺りで立派な馬車に乗った一行がやってきた。
俺は隠れてその様子を見ることにした。
そこにいたのが、あの時出くわしてしまったゼン伯爵本人だったからだ。
「まずは、私のミスによってお前たちに苦労をかけさせてしまうところだったことを謝りたいと思う。すまなかった」
頭は下げなかったが、目礼によってその行為は十分な謝意として村人や村長に伝わったようだ。
「と、とんでもありません! まさか、伯爵さま自らおいでとは……」
「いや、こういう時民の下へと直接出向き何があったのかを示さねば……我ら貴族はそなたらにこそ活かされておるのだからな」
そう言うと、村人たちがなんともったいないという言葉とともに、跪いていった。
「よせ。この度は私の不徳の致すところだ。それでだ――」
そうして周囲を見渡して……あ、これは俺を探してるな。
「まぁよい……。今回、迷惑をかけた詫びに今秋の税は無税とする」
その言葉にどよどよとどよめきが起こる。
その中で村長だけはその言葉を受け止め、そして周囲に手を出してどよめきを止めた。
「であるならば、伯爵さま。なおさら税を受け取っていただけますかな?」
そう言うと驚いたように伯爵はなぜだと答えを促してきた。
「我らは貧しいと何かとそれを理由にどこか領主さまがたに甘えていたように思うのです。それに気づけたのも、あの旅のお方のおかげでありますじゃ」
「旅の? ……それは少年か?」
「ご存知なのですかな?」
「ああ、……まぁな」
まさか俺のおかげで不正をただせたとは言えないだろう。
さすがに貴族としての面子があるのだろうし。
「それで、その少年はどこにいるのだ」
「そ、それが……」
周囲に俺たちに気づく人たちはいない。
なんせ本気で気配を消しているのだ。
俺はこのまま旅に出ようと思っている。
もはやここは、新たな村として狩猟も行える村に発展したのだから。
「……いこう、パーフリィ」
「え? で、でも……」
「いいから」
その言葉とともに、俺はパーフリィを担いで移動することにした。
「……あの、本当にこのまま出ていっていいんですか?」
「だって、もうやるべきことはないだろ? あとはあの村の問題だし」
「……で、ですが」
「それに――」
そう言って俺はパーフリィに向き直り、言い放つ。
「とある女神様へ決して"あなたのせい"じゃないことを証明したかっただけだから」
「……あっ」
その顔にはぽっと赤みが差したので、俺はさすがに照れて前を向いた。
「さ、旅に――」
「チュッ」
「え?」
「あ、あの!……いえ……」
突然の頬へのキスに戸惑った俺に、何か言おうとした俺の前に――
「ちょっと! パーフリィ神!」
「いい加減そういう独り占めは許さないわよ!」
「ねね、リョウタロウ! 今回はあたしも約に立ったわよね! ん-」
「させませんよ」
そうして転写の女神様のキスを妨害したのは、アブソリューナ様だった。
「ちょ、こんなに――」
「ふふ、時の女神の力で今はこの辺の時間を停めているので大丈夫です」
そういう問題じゃないような。
「パーフリィ神」
「は、はい……!」
「学びましたか? あなたのその司る力が全てを引き起こすわけではないことを」
「……」
その言葉に、パーフリィは下を向いて両手をギュっとさせると――
「はい!」
アブソリューナ様へ向き、元気に返事をするのだった。
こんな感じで俺の始まった新しい旅は、約5000柱という女神たちという膨大な女神様たちのおかげではじまるのだった。
後々知ったことだが、例のボーギャク伯爵たちは連座で処罰を受けたがどうにか領地没収のみで済んだそうだ。
しかし……。
どこの神のきまぐれか、どんどん貧しく乏しい存在へと落ちぶれていったという。
……貧乏の女神、おそるべし。




