6話「貧乏の女神編⑤」
夜の帳を飛ぶが如く、走りまくりやがてボージャク伯爵の本拠地たる屋敷を発見した。
とある夜の街で、がらの悪い連中から絡まれるのを待ってやり返した上で聞き取りをいくつかの街で行ったために得られた情報だ。
そのまま俺は、移動して本拠地へと忍び込む。
そして――
執務室にて、ある女神を呼び出すために祈った。
「あら、あたしを呼ぶなんて……こんな暗がりに――」
「そういうことじゃないので大丈夫です。転写の女神様」
そう、俺が呼んだのは転"写"の女神様だ。
ボージャク伯爵がどのような人物でどういうことをやったのか、あの領地の主はペラペラしゃべっていたからだ。まぁ、まさか俺があそこに忍び込んでいたとは思わなかったからだろうけど……さすがに口が軽すぎるだろうと思うのは仕方ない。
「なんでもここの主が不正に政争で相手を蹴落としたということを聞きました。つきましては――」
「ふふふ、あたしにその証拠を転写させようっていうのね! 楽しそうだわ」
そう言って女神らしくないあくどい顔をして言い放った。
大丈夫か、この女神様。
そんなわけで俺は、あらかた資料を見ては色々と証拠となるものを全て転写してもらってその資料を手に入れることができた。
「ありがとうございます」
「ううん、あたしも楽しかったわ! じゃあね!」
そう言って消えると、俺はその去ったところに改めて感謝を込めて礼をした。
それがさらに彼女の好感度が増える結果になることになるとはつゆ知らず。
「さて、政争の相手のとこまで行くか」
そして俺はその場から移動して、今度は政争の相手――ゼン伯爵という人のところまで向かうことにした。ボージャク伯爵のところでそのゼン伯爵の本拠地は知ったので、そこへと向かうだけだった。
ゼン伯爵の領地で本拠地に入ると、剣を俺に突きつけてきた。
「何者だ、ボージャクの手の者か?」
あ、気配を絶つのを忘れていた。
「……それどころか、あなたにいい報告を持ってきた者です」
「……」
その言葉にも剣を引くこともせずに、首でそこに置けと俺が手に持っている資料をテーブルに置くように指示をしてきたので俺はその証拠の資料を置いた。
「……これは」
俺に剣を突きつけながらも、資料を呼んでいるゼン伯爵。
おいおい、どんどん剣が下がってきて俺じゃなかったらとっくにやられてるぞと思うがもちろんそんなことは言わずにただただその時を待った。
「貴様は何者だ」
「……いえ、ただの通りすがりのある村人の味方ですよ」
「……」
その言葉に気が抜けたのか、ふぅと息を抜いて剣を引きベッドへと座った。
「わしが統治していた村か……すまないことをしたな」
「謝るべきは俺にじゃないですよ」
「フッ、そうだな」
本当はあの貧乏を司る女神様にも謝ってほしいところだけど、そこは俺がフォローすればいいしあの女神様たちがフォローしてくれるだろう。
「どうやってこれだけの証拠を――」
「ま、そこは言わないお約束で……あなたに統治してもらわなければ、あの村はひどい目に合うのが分かりきっているので」
「ああ、あの寄子だな」
伯爵には何か見当がついたのだろう。
そういうと疲れたように頭に手を置いて、ため息を吐いた。
「礼をいう」
「いえ。では、俺はこれで」
「まて」
「……なんですか?」
「……」
しばらく俺をじっと見て、何かを確認するかのようにしていたが何も言わずやがて――
「いや、いい。手間をとらせたな」
「……では、良き統治を」
「言われずとも」
そう言って俺は、その場を去っていった。
▽
「……何者なのだ、あの男」
「探りますか?」
そこには、誰もいないかのようにしていた男がいつの間にか伯爵のそばで頭を垂れていた。だが――
「やめておけ、あれは強い……」
「しかし――」
「あれは敵に回してはならぬ。それは今回の件での礼を込めてもいる」
「はっ」
そして男はまたいつの間にか姿を消していた。
「まいった……。あのような男がこの国にいたとはな」
そうして伯爵は、己のするべきことをなすために動き出したのだった。
△
「ってわけなのよ~♪」
「いいわね~、私も呼び出してくれないかしら」
「あなたたち」
「あら、アブソリューナ神」
「パーフリィ神のところへと向かいましょう、リョウタロウの頼みでもあるんでしょう?」
「……はーい」
そう言うと女神たちは引き籠ってしまったパーフリィのところへと向かうのだった。
全ては愛しき魂のリョウタロウのために。




