3話「貧乏の女神編②」
家の中に入ると、子供たちがわーっと寄ってきて抱き着いてきた。
「ねぇ? だれ? たびびとさん?」
「そうだよ~、一晩よろしくね~」
俺はそう言うと、屈んで頭を撫でる。
すると子供たちはきゃっきゃっと喜んで走って行った。
「あ……かわいい……」
「だよね。ほら、撫でてあげたら?」
「で、でも……」
うーむ、どうやらまだ遠慮が抜けないような感じだ。
どんだけ男神たちは彼女をと考えるとちょっとイラっとしたりするのだが、俺が今怒ったところでしょうがないことだ。
気を取り直すと、奥で料理していて俺たちが来た事に気付いたらしい奥さんが挨拶をしてきた。
「いらっしゃい、ゆっくりしていってね」
「あ、お邪魔してます。今日はよろしくお願いしますね」
「まぁまぁ、丁寧な旅人さんね。もうすぐ料理ができるから、それまで待っててね」
そう言うと奥さんは奥へと引っ込んでいった。
「ほら、立ってないで座って座って」
「ああ、どうも」
勧められるまま何度も手直しをしたらしいテーブルの椅子に腰を降ろした。
「ほら、パーフリィも」
「あ、は、はい……」
そう答えると、端のほうにちんまりと座ってそわそわしているパーフリィ。
可愛いなと思いながらもまだやっぱりと思ってしまった。
やがて料理ができたようで、おいしそうな匂いとともにスープと黒いパンを奥さんが持ってきた。子供たちも楽しそうに席に着き、旦那さんも席に着いて何やら祈りを捧げていた。
「豊穣の神にして偉大なる地母神様、我らに今日のお恵みをお贈り下さり感謝申し上げます」
と、手を組んで祈るので俺も同じようにした。
そして俺に釣られるようにしてパーフリィも祈っていた。
▽
女神の園。
そこでは、豊穣の女神がああ~と、蕩けた顔になっていた。
一緒にいて語らっていた生命を司る女神は驚きとともに疑問を口にした。
「ど、どうしたの?」
「リョウタロウが、私に祈りを……あぁ~……幸せ……」
「う、羨ましいわ!」
リョウタロウは知らない。
そんなやり取りがあったことを。
△
黒パンは固くて食べにくいが、旦那さんや子供たち、奥さんのようにスープに浸して食べるとそれなりに食べやすくなり、味もこれはこれなりに美味しいと感じる味だった。お袋の味って感じだ。
パーフリィもおどおどをどこかに置いてきたように、美味しそうに食べている。
「ごめんなさいね、こんなものしか出せなくて」
「何を……ご飯まで頂いてありがたいくらいです」
なんせ食料など持ってきてないし、あ、そうだ。
「この辺って野性の動物とかっています?」
「ええ。でも、すばしっこくて……。猟師もこの村にはいないから~」
「なるほど!」
よし、一宿一飯の恩義だ、と俺はあることを考えながらご飯を食べた。
ご飯を食べ終えると、旦那さんは畑の用具を手入れ、奥さんは木の皿を外の井戸に洗いに行ったので、俺は子供たちと遊ぶことにした。
いわゆるたかいたかいだが、こっちの世界にはない文化だったみたいで驚くほどに食いつきがよく両親に止められるまでその遊びは続いた。
でも、いいな。
俺は純粋に思った。
パーフリィはというと、控えめに笑っていて彼女も彼女なりに楽しそうなのが伝わってきた。
良かった。
そして、ある程度時間が経つとやがて寝る時間となった。
そこで案内されたのは、牛小屋の藁が敷き詰められているところだった。
「すまんな、ここくらいしか泊められるところがなくて……」
「いえ、来るときもいいましたが全然。ね、パーフリィ」
「あ、はい! 私もこっちのほうが落ち着くので……」
そうなんだと思った。
とにかくお休みの挨拶をして、並んで寝ることになったのだが……。
なんか女性が横にいると思うと緊張してしまうな。
「あ、あの……どうしたんですか? なんかそわそわしてるんですけど……」
「あ、まだ寝てなかったんだ。いや……なんか女性と2人で寝ると思うと緊張して」
「? そうなんですか?」
そういえば、女神たちはそういう感情にはならないと言っていたし、パーフリィもそうなんだろう。
なので、俺は話題を変えることにした。
「ところでどうだ? 旅は」
「……」
「ん? なんか――」
「……私のせいで、こんな貧しい村に泊まることになって申し訳なくて……」
自分が貧乏を司る女神だからだろうか、そんなことを言った。
なので――
――ふにっ
「へ? いっはい、はにを?」
起き上がって、両頬を軽く抓った。
「……貧乏を司っている割には気づかないんだな」
俺はそういうと、軽く抓っていた両頬を離してまた体を横にして呟くように言った。
「貧しい? 乏しい? ……君は今日の家族の様子を見てそう感じたのか?」
「……だ、だって……」
「いいか、そういうのは逆に失礼なことなんだ」
俺の答えに、パーフリィは俺のほうを見たような気がしたのでそのまま話続けた。
「ここの家族、誰もが悲しんでたか? 乏しさとかあったか? みんな笑顔だったろ? 貧しさとか乏しさなんてのは、他人の勝手な評価でしかない。本人たちにしたら、それは失礼なことで……絶対にやっちゃいけないことだよ」
「……」
「さ、もう寝よう。おやすみ」
なんか語ってしまったことに恥ずかしさを感じて俺は逆向きになると寝入ることにした。
▽
「私……貧乏を司る女神なのに」
そう呟いたことにリョウタロウは気づかなかった。




