鍛冶家での報告 2
鍛冶家での報告 1の続きです。
鍛冶鑑那視点の話です。
注)鍛冶君の父と兄のフルネームが出てきます。他にも本編では出ていない内容が含まれます。鍛冶君のフルネームはまだ出てきません。
無理やり納得しようとしたのか、従叔父は神妙な面持ちで黙った。
私も良一も話し掛けるのを躊躇ってしまい、静まり返ってしまったこの部屋では言葉を発する事さえ難しくなった。
そんな中、どうやらあの子が帰ってきたようだ。
ドアをノックする音が聞こえた。
すると、従叔父は静かな声で「入りなさい」と言った。
それに従うようにあの子が入ってきた。
「えっと、ただいま?」
あまりに静かすぎる空間でその言葉で合っているのかも分からなかったようで、少し戸惑ったような声になっていた。
「ああ、お帰り」
従叔父が少し空気を和らげ、そう言った。
「あー、もしかしなくても、今日のだよね」
対価に貰ったもの達を眺め、はとこはそう言った。
「鑑那から報告を受けている最中なんだが、同席してもらえるな?」
拒否を許さない従叔父の言葉にはとこは素直に頷いた。
「まあ、鑑那さんが報告してるなら、俺が言う事なんて、ほとんどなさそうだけどね」
「つれない事は言わないで欲しいな。私だって、報告しにくい事くらいはあるよ」
「あ~、まあ、そうだよね。
正直、情報過多で、キャパオーバーだもん」
はとこはそう言いながら、アイテムボックスをじっと見た。
「これって、鑑那さんが使えるように設定、書き換えられてるんだよね?」
はとこはそう言いながら、アイテムボックスをテシテシと叩いた。
「そうだよ。視ていただろう?」
「視たけど、自分の目を疑いたくなるくらいに速かったんだもん」
「それは分かるけどね」
「やっぱり、副会長って化け物って言うか、人外って言うか、異常」
きっと本人の耳に入ったら、かなり怒られるだろう言葉に苦笑した。
すると、従叔父は怪訝な表情を浮かべた。
「副会長?」
「あれ? 鑑那さんから、誰からの依頼って聞いてないの?」
はとこは真っ先に報告していると思ったのか、きょとんとした顔でそう言った。
「ああ、まだ伝えていないんだよ」
私がそう言うと、意外そうな顔をされた。
「悪いが、説明してくれないか」
従叔父は信じられない事を言われるのは分かっているだろうが、聞かないという選択肢はないようだ。
それを分かっていてなのか、はとこはさらりと答えてしまった。
「俺が今通ってる学校の生徒会副会長が依頼してきたんだよ」
「副会長と言うと、まだ子供じゃないのか?」
従叔父は色々と言いたげだったが、ひとまずそう言った。
「そりゃ、まあ、高校一年生だから、子供っちゃ子供だと思うよ。俺より年上だけど」
「高校一年生……」
反芻される言葉は、事実を受け止めきれないと言っているようだった。
「普通の高校一年とは思わない方がいいよ。普通じゃないもん」
はとこはそう言うが、そんな事は関係ない。
「神杖を依頼してくる時点で、普通ではない事くらいは分かるよ」
「まあ、そうだよね」
はとこはそれだけを言うと黙ってしまった。不審に思っていると、従叔父は痺れを切らしたように口を開いた。
「依頼者は西雲葉月というようだが、この子は西雲さんと何か関係があるのか?」
従叔父の質問に、良一が驚いた。
「えっ、西雲⁉」
「えっ、何、兄貴知ってんの?」
疑いの混ざった声に良一は不機嫌な顔になった。
「どこぞの社長とかが、お気に入りと言わんばかりに連れてくるあの人だろう?」
「知ってんだ」
はとこは意外そうに言った。
「そんくらい俺だって知ってる。つーか、なんで知らない前提なんだよ?」
「だって、兄貴、美人に耐性ないじゃん。
絶対、ヤバいだろ。あんなん、エンカウントしたら、腰砕けるか、気失うだろ?」
良一は流石に自覚があったのか黙った。
「副会長も美人の部類だし、父親似って言ってたし、絶対美人に決まってるじゃん」
「父親……。つまり、その子は西雲さんの子供なのか?」
はとこの言葉に、従叔父は確認するように尋ねた。
「ああ、うん、そう。その西雲さんの息子だよ」
そう答えると、従叔父は額に手を遣り黙った。
「えっと、大丈夫?」
自分の父の憔悴しきった表情にはとこは心配そうに声を掛けた。
「大丈夫だ」
従叔父は末の息子に情けない姿を見せたくないのか、直ぐに姿勢を正した。
「西雲さんは、息子さんが依頼しているというのは把握しているのだろうか?」
従叔父は実際に依頼をしようとした人物を測りかねているようだ。
「副会長は、自分が学校関連でやってる事は親に伝えてないみたいだよ」
はとこがそう言うと、従叔父は何とも言えない顔をした。
西雲さんと繋がりがあって神杖を求めている人物がいるわけではない事に安堵はあっても、我が子が秘密でそんなものを依頼しているとも思いたくないのが親としての考えなんだろう。
「なぁ、西雲さんの息子さんって、そんなに西雲さんに似てるのか?」
良一は自分の弟を肘で突いてそんな事を尋ねた。
「聞かれても、俺は西雲さんの方に会った事ないから知らねぇよ」
「あっ、そっか」
「つーか、兄貴は本当に会った事あんの?」
はとこは良一に疑いの眼差しを向けていた。
「と、取り敢えずな」
それは嘘ではないが、私も従叔父も溜め息を吐いた。
「見栄を張らなくていい。
良一は最初に一目見た時に、顔を真っ赤にして引っ繰り返ったじゃないか。その後は会わないで済むように下がらせているというのに、どうしてそう見栄を張りたがるんだ」
従叔父が呆れたように言うと、はとこは「やっぱり真面に会ってないじゃん」と言っていた。
「し、仕方ないだろ。あんな美人、今まで会った事なかったし……。
つーか、お前はその副会長に会って大丈夫なのかよ?」
「まあ、今まで会ってきた人間の中でもトップクラスの美人だけど、取り敢えず大丈夫。
突然の笑顔とかを食らわなければね」
「は?」
「基本、学校にいる時は眉間に皺寄せて、人を近付けさせない感じだし、威圧纏ってるから、かなり高圧的なんだよ。
それもあって、今まで近付く事はしてこなかったんだけど、色々あったんだよ。
まあ、そしたら、色々と印象が変わったというか、なんと言うか……」
良一はこの子の言葉を理解できないようだった。
「えっと、美人は美人なんだよな?」
「そうだよ。写真、あったかな?」
はとこはそう言って、携帯電話を取り出し、学校の関係でグループを作っているチャットの遣り取りを遡った。
暫くして、「あっ、あった」と言って、写真を良一に見せた。良一は免疫が無さ過ぎて、顔を赤くして言葉を詰まらせていた。
私はその写真を覗き込んだ。
「それ、隠し撮り?」
「そ。クラスの女子が偶々、奇跡的なくらいに綺麗な横顔が撮れたとか言って、チャットにあげてたの。
まあ、何人か、霧散するとか言って怒ってたけどね」
免疫のない人間にとって、あの顔は毒でしかないんだろうとは思う。
「こんなに顔が整ってるのに、無自覚なのはほんとヤバいよ」
はとこがそう言うと、従叔父は眉間に皺を寄せ、良一は「は?」と、呆けた顔で言った。
「質の悪い事に、自分の顔がいかに整っているかの自覚がないんだよ」
「なんでまた?」
従叔父は西雲さんを知っているから、流石の西雲さんが自分の顔の良さを自覚している事は分かっている。だからこそ、西雲さんは自分が訪ねた時に誰かしらが退席する事は仕方がないと理解している。
「なんと言うか、如月関係で交渉する時に、相手が少しでも懐柔しようとして褒めるところが見た目っていうのがあったみたい。
だから、本人は、お世辞だと思ってたっぽい。つまりは本気にしてないって事。
しかも、周囲にいる人間が、そんなに見た目を褒めてくるっていうのがなかったから、そんな気にしてなかったっぽいよ。
まあ、身内は可愛がってただろうけど、それは欲目って言うか、そういうのって思ってるっぽい」
それを聞いた良一は理解しがたいといった顔をしたが、従叔父は少しだけ何か考える仕草を見せた。
「こっちにも写真を見せてもらってもいいか?」
従叔父がそう言うと、はとこは携帯電話を差し出した。
従叔父は受け取ってから、画面に映る写真を見た。
「……似ていると言われれば、似ているな。
だが、目元は母親似なのか、似ていない気がするな」
従叔父はそう言ってから、はとこに携帯電話を返した。
「本人も見た目はほぼ父親似だけど、目は母親似みたいに言ってたよ」
「そうか。因みに、母親というのは、誰かという話はしたか?」
流石に西雲さんと仲が良いという程でもないから、誰を伴侶として迎えているというような話をした事がない。
だからこそ、今日聞いた話で私はかなり驚いた。
「私の憧れの方です」
はとこが答える前についそう言ってしまった。
「鑑那の憧れという事は、東桜高校の戦姫か?」
「ええ、流石は良和おじさん。私の憧れの方をよくご存知で」
「……鑑那、呼び方」
そう言われ、ついうっかり『良和おじさん』と呼んでしまった事に気付いた。
「失礼いたしました」
そう言うが、私は顔がにやけるのを抑えられなくなった。
「まさか、まさか、憧れの方の名を聞く事になろうと思いませんでしたよ。
しかも、その息子さんが、西雲さんのお子さんだとも思いませんでした。
あっ、でも、ご安心を。繋がりができたからと言って、無闇に会いに行こうだなんて愚かな考えはありませんので」
「それはないと信用しているが、息子さんに対しても適度な距離間でいるように」
従叔父からの注意に少しばかり気を引き締めねばと思った。
「まあ、私はおそらく最低限というか、関わるにしても、そう頻度は高くないでしょう」
一番会う機会が多いのは私じゃない。それは全員が分かっている事だった。
そして、一番関わる事が多くなるであろう人物に視線が注がれた。
「俺は、まあ、それなりに関わろうとは思ってるよ。
て言うか、今じゃないと関われないだろうし」
「と、言うと?」
「神杖を依頼しているから、向こうも接触してくるし、それなりには会話もしてくれる。
けど、向こうはそうじゃなきゃ、関わろうとしてこないと思うよ」
「どういう事だ?」
「たぶんだけど、自分が一般人だからっていうのと、生徒会メンバーだからっていうので線引きしてるんだと思う」
それを聞いて、良一は西雲さんが一般人である事を思い出したようだった。
だが、従叔父は良一には発言を許さなかった。
「それは区別か? 差別か?」
従叔父の確認の言葉に顔を青くしたのは良一だった。
「区別だよ。
しかも俺らからじゃない。まあ、中には差別的に言う奴はいるけど、俺はそういうつもりでは言ってないよ。
ただ、向こうは一般人っていう扱いを知っているからこそ、そういう線引きをしてるんだよ。
俺ら側にマイナスにならないように、自分が最低限の関わりしか持たないでいて、時には嫌われ役に徹してんの。
本当に最悪」
それは西雲君に対してだけではなく、この世の中の考え方に対しても最悪だと思っているように聞こえた。
「お前は、これからどう関わっていくつもりだ?」
従叔父の言葉にはとこは軽い溜め息を吐いた。
「あの人、あの学校に通ってる生徒は守る対象らしいよ。
だから、今回はかなり例外的に動いてるみたい。
それに、あの学校の生徒じゃなきゃ、最低限の関わりもする気ないんじゃない?
まあ、それまでに関わってたら、繋がりが消えるわけではないから、それなりには対応してくれるだろうけど。
そんなんだから友達がいないんだよ」
はっきりと言われる言葉に、従叔父は咳払いをした。
「流石に、もう少し言葉を選びなさい」
「事実だよ。あの人、馴れ合いをしようって感じじゃないから」
「それは……」
従叔父は会った事のない西雲君に対して否定も肯定もできなかった。
「でも、逆に言ったら、それで『友達』みたいになれたら、それは『特別』って事だよ」
はとこはそう言ってニッと笑った。
「友達になりたいのか?」
「同い年でもないのに、友達っていうのもおかしな気はするけど、仲の良い先輩後輩を取り敢えず目指してみるのはいいかと思って。
あの人、関わり広げても、深い関わりじゃないと、未練なさそうだし」
「未練?」
従叔父がそう聞き返すと、はとこは少し悲しそうな、寂しそうな顔をした。
「あの学校にいる人間は守る対象みたいだけど、逆に言えば、卒業とか転校とかで離れれば、無関係になるんだと思う。
そういう人の為には、時間も心も割かないんだと思う。
それなのに、守る覚悟と死ぬ覚悟だけはあるんだよ。
自分がいなくなって、悲しむ人がいるとか、遺された人間が何を思うとか考えてないんだよ。
それを、俺は許したくはないんだよ。
知る前だったら、関係なかったけど、知ってからは、知らなかった事にはできないし、俺が嫌なんだよ」
未練がないというのは、簡単にこの世を去れるという風に思ってしまうんだろう。
死ぬつもりはないと言っていても、死ぬ覚悟ができているというのは、そういう風に捉えられてしまっても仕方がないんだろう。
「西雲さんの息子さんは、私が親しくしている内海の後輩でもあるんです。
そうなると、多少なりとも、考えは似通ってくるのかもしれません。
正直、あの子も深く人付き合いをしようとはしてきませんでしたからね。
自分が他人からどう思われても平気でも、その他人がどう思ってるのかを考えないのは別の話だと思うのに、それをしようとはしてくれないんですよ。
それが悲しいというのは、なかなか伝わってくれないようです」
私がそう言うと、はとこは俯いた。
「西雲君が、君と私を似ていると言ったのは、こういうところもあったのかもしれないね」
表情、仕草、ものの考え方、色んなもののどこかに似ているところがあるんだろう。
私が内海を放っておけないと思ったのと同じように、この子は西雲君を放っておけないと思ってしまったんだろう。
そうなったら、誰にも止められない。
それは鍛冶家の人間全員が把握している事だ。
「そうか。別に関わるなとは言わないし、交友関係に口出しする気はない。
だが、この家が潰されるような事にはならないでくれよ」
これは私が内海と関わり始めた時にも言われた事だ。
はとこは小さな声で「はい……」と、返した。
「まあ、しかし、西雲さんにお子さんがいるのは聞いた事があったが、高校生とはね。
それに、体が弱いと聞いていた気がするんだが、気のせいだったようだ」
従叔父はそう言うが、私はそれを聞き逃す事はできなかった。
「体は、ある意味弱いですよ」
「如月魔法学校の生徒会は、反政府派が攻めてきた時とかには戦闘を行うんだろう?
体が弱い人間には務まらないんじゃないか?」
その考えは分からなくもない。
「西雲君は、魔力適応障害だそうです」
その言葉に従叔父は大きく目を見開いた。
「だから、魔法具を……」
心当たりはあったんだろう。それでも、納得はいかないようだ。
「如月魔法学校に入学後、魔力制御を覚えたのもあったようで、今では、魔力適応障害である事を疑いたくなる程の魔法の使い手になっていますよ。
それに、入学当初は瀬野家の現当主も在籍されていたようで、サポートを受けていたようです」
「瀬野、か……。あそこに気に入られているのか」
「そのようです」
従叔父はそれでもどこか納得していないようだった。
「何か、ありましたか?」
私がそう言うと、従叔父は徐に口を開いた。
「こんな言い方が正しいとは思わないが、西雲さんのお子さんは亡くなられたと思っていたんだよ」
「何故?」
私もはとこも理解しがたい考えに眉を顰めた。
「魔力適応障害の子供がいるというのは、合点がいった。
なんせ、求めていた魔法具は、自身を魔法や魔力から守るものや、身に着けた者の魔力を押さえるものばかりだった。
だが、それを突然求める事はなくなった。
どうも『必要なくなったから』という事だそうだ。
魔力適応障害が治る事はまずない。求めていた数年という期間は、魔力適応障害の子が生きるには十分な長さだ。
ならば、魔法具が求められなくなったというのなら、どう思う?
魔法具を使う必要のある人間がいなくなったからと考えるのは決しておかしな事ではないだろう?
買い求められていた時に、体の弱い子供の為に魔法具が必要と言われていた。そうなると、魔力適応障害の可能性を考えないわけではない。
そして、さっき言ったように数年の間に渡って求められてきた。なら、もうその命が尽きたと考える。
だが、実際は生きている。
西雲さんの息子さんは、どうやって魔力適応障害を克服したんだ?
理解しえない相手と結ぶ契約が危険だという事は、鑑那は分かっているだろう?」
従叔父の引っ掛かるところはそこのようだ。
正直、私は面と向かって西雲君と話した。疑問や疑念が全くないとは言わない。けど、従叔父ほどに分からない相手というわけではない。
「……西雲君に関して、説明が必要という事ですね」
「ああ、頼む」
「ただ、本当にどこから説明したものかと悩みます」
「……かなりの時間を要しそうだな。手短に頼む」
「分かりました」
そう言ってから、私は要約して西雲君の基本情報を話した。
「神の眼と悪魔の眼の所有者。如月令嬢の――と付く二つ名の持ち主。如月魔法学校の教員達より学園内では立場が上の人間……。
それだけでも十分だというのに、まだ話し足りない様子だな」
従叔父はぐったりしながらそう言ってきた。
「聞く体力は残っていらっしゃいますか?」
私だって聞くのに疲れた。それを今こうやって聞かせているのだから、従叔父だってかなり消耗しているだろう。
良一なんか、途中で腰を抜かしたと思ったら、今では頭を抱えて青い顔をしている。
「体力や気力がなくとも、そんな相手の事だ。こちらが情報を少なくしてどうする?
知らない事ほど恐ろしい事はないよ」
そう言って情報を求められるが、私としても疲れた。
「まあ、そうですよね。
取り敢えず、さっきまでのは、これでも、表立って言っても問題はないであろうと事ですよ。周囲が知っている情報である事には間違いありませんから」
「まったく、人の枠に収まらない人間の子供はやはり人の枠には収まらないか」
従叔父はそう言いながら頭を押さえた。
「そのお考えはよく分かりますよ」
「で、言わぬほうがいい情報はどういったものだ?」
「知っている人は知っている情報ですよ。それでも、我々は表立って言わない方がいいかと思います」
「そうか」
静かな頷きに私は苦笑した。
「西雲君は、表立って言えない肩書がいくつかあるんですよ」
従叔父は静かに私の言葉に耳を傾けた。
「一つは雛森家の相談役だという事です」
それに対しては、良一は頭を抱えるのをやめ、驚愕の表情を浮かべた。そして、従叔父はふっかい溜め息を吐いた。
「付け加えるのなら、衛守と護宮の前当主でもあります」
「は?」
「先代達を如月の令嬢の命で倒しているそうです。
とは言っても、引き受ける気はなかったようで、直ぐにその席は如月令嬢に明け渡されました。しかし、次代の任命権はそのまま持っているそうです」
「それはまた……」
「正直、魔法石を取り扱う限りは、切っても切り離せない家である雛森との関係悪化だけは防ぎたいところです。
それに、他家の前当主の肩書があるというのは恐ろしい限りです」
「本当にその通りだ」
従叔父はそう言ってから、自身の机の上に置いてあった水を勢いよく飲み干した。
「……あとは、良一でさえも耳にした事のある二つ名を持っている、と言ったところでしょうか」
「は?」
良一は何を言っているんだという顔をした。
「漆黒の死神。お前だって、耳にした事くらいあるだろう?」
「あ~、なんか、悪さした子供脅す時に使うやつ?」
「それだけしか知らないのかい?」
呆れたように尋ねると、目を逸らされた。
「まったく、呆れたね」
そう言うと、従叔父が咳払いをした。
「……つまり、西雲さんの息子さんは、久遠家への制裁の実行役、という事か?」
静かな確認に、私は頷いた。
「久遠家への制裁?」
良一は、何だそれと言いたげな顔だった。
「兄貴、マジで知らないの?」
はとこの言葉に良一は不機嫌そうな顔で黙った。
「鑑那さんは、公表されている範囲だけかもだけど、知ってたよ」
はとこの言葉に良一は忌々しげな顔で黙った。
良一は昔から私と事あるごとに比較されてきた。だから、こうやって、私の名前を出して言われる事を酷く嫌っている。
けど、比べられていたのは私だって一緒だ。
周囲は競い合って切磋琢磨できていいじゃないかと言われるが、些細な事ですら比べられるのがどれほど嫌か想像できないんだろう。
「あまり、そういう風に言うのはどうかと思うよ」
窘めるように言うと、良一は私を睨んできた。お門違いもいいところだ。
「良一、私だって比べられたくないんだよ」
そう言うと、良一はますます私を睨んできた。
何故、こいつは昔からこうなんだろう。本当に嫌になる。




