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鍛冶家での報告 3

鍛冶家での報告 2の続きです。

鍛冶鑑那視点の話です。

注)鍛冶君の父と母と兄のフルネームが出てきます。他にも本編では出ていない内容が含まれます。鍛冶君のフルネームはまだ出てきません。

 私と良一で睨み合いをしていると、従叔父は静かに口を開いた。

「学校で、久遠家への制裁について、聞いたのか?」

 それに対し、私もはとこも静かに頷いた。

「そうか」

 従叔父はそれしか言わなかったが、はとこはそれで済まなかった。

「俺、副会長がやった事は間違いとは思わないよ。

 副会長が許せないと思ったのも当然の事だと思う。だから、副会長は悪くないと思う。

 でも、そう思っちゃ、駄目、なのかな?」

 どんどんと弱々しくなる言葉に苦しくなった。

「……慎みなさい」

 従叔父の言葉に、はとこは泣きそうな顔をした。

「なんで? 俺には分んないよ」

 従叔父はその言葉に辛そうな顔をした。きっと、自分の考えを言ってはいけないなんて言いたくはないんだろう。それでも、分別というのは必要なものだ。

「たった一人の言葉でも、家の名を名乗る限り、その家の意見と捉えられかねない。

 今は如月がこの国のトップに立っている。だから、表立っては如月の行いとみなされるものは従うのが当然になっている。

 だが、それが引っ繰り返ったら?

 そうなった時に、どこかに加担するような意見を言えば、この家の人間、全員が路頭に迷う。その覚悟があるのなら、自分の意見として堂々と言いなさい」

 それは、鍛冶に繋がる人間全員の人生を壊す覚悟があるのなら、恨まれる覚悟があるのなら、という事ではある。だが、従叔父はそうなって欲しくないから、言うなという事だ。


「正直、人付き合いも一緒だよ。

 もし、相手の家が、世間から批判を受けるような事をしたのなら、巻き込まれかねない。

 その付き合いが簡単に切れるものか、そうじゃないかによっても、こちらへの影響は変わってくる。

 だからこそ、深く付き合うのなら、覚悟を持たなければいけないんだよ」

 私がそう言うと、はとこは言葉を詰まらせていた。

「……私は、内海がそういう事をしでかすのなら、この家を切り捨てるよ」

「鑑那さん⁈ 何言ってんの?」

 はとこは理解できない様子で叫んだ。

「誹謗中傷を受けるのは、私だけで十分なんだよ。

 この家の、この家に関わる人間の人生を壊したくないんだよ。そのくらい大切に思っている。

 そして、内海も、私にとっては見捨てがたい人間なんだよ。

 なら、あの子が何かしでかして、この国を追われるような事になるのなら、私は味方になりたい。

 それで、この家を巻き込みたくない。

 なら、無責任だと言われても、私は、この家を捨てるという形で出ていくよ。じゃないと、この家に迷惑が掛かるからね。

 そう言う覚悟で、私は内海と関わっているんだよ」

 そう言うと、はとこは戸惑った顔をした。

 きっとそんな覚悟をしてまで、西雲君と関わろうとはしていないんだろう。

「勿論、夫も子供も大切だよ。それでも、内海も大切なんだ。

 天秤にかけられないくらいに。

 それでも、夫と子供は、この家にいられるのなら、どうにかなると思う。

 内海は、その家の上に立つ人間だ。責任を一身に負う事になる。

 それは、裏切りに遭いやすいし、見捨てられやすい。

 私は、それを見たくない。なら、その手を引いて逃げる事を選ぶよ。あの子は、きっとそんな選択をしたがらないけど、私は私の我儘を通すつもりだからね」

 従叔父は私のこの考えを知っている。だからこそ、自分の子が同じような考えで人付き合いをするのではないかと不安があるのは知っている。

 そして、本人は、まだそこまでの覚悟は持っていないし、どう付き合っていくのかも決められていないようだった。

 従叔父はそれが分かったからか、少しだけほっとしているようだった。

 だが、それとはまた別の話もある。それは伝えなければいけないと思ったようだ。

「意見を持ってはいけないというわけではない。

 自分の考えとして『思う』だけなら構わない。だが、それを口に出してはいけない。それは理解できるか?」

 幼子に言い聞かせるように、従叔父は、はとこにそう言った。はとこは静かに頷いた。


「……鑑那、西雲さんの息子さんは、自分の行いを『正しい』と言い張るような子なのだろうか?」

「いいえ。自分の行いは、決して『正しい』ものとは言えないと認識しているようです。

 そして、自分にとって『正しい』事や『正義』というものは、他人にとっては『間違い』や『悪』になり得る事だと認識しているようです」

 私がそう言うと、従叔父は小さな溜め息を吐いた。

「西雲さんは、どのように育てたんだろうな」

「育てたというより、育ったというような気がします」

「と、言うと?」

「西雲君は、あの学校に小学生の頃から在籍していて、同じ生徒会に身を置く先輩達の考えに触れて育ってきたようなので、親が育てたのは勿論あるでしょうけど、周囲の影響を受けながら育ったというのもかなりあると思います」

「そうか」

「まあ、考えが普通ではないというか、できなければいけない事としている最低限とかは、おそらくその先輩達の影響でかなり狂っているとは思いますよ」

「は?」

 従叔父は何を言っているんだといった表情になった。

「マジで、副会長、かなりおかしいのは確かだよ。普通じゃないもん」

 はとこは、さっきまでの悲しげだったり、少し暗いような表情はどこかにやり、呆れたような顔をしていた。

「西雲君が如月魔法学校に入学した時点で生徒会に在籍していたのが、如月を除いて、山崎、道端、坂田、波多、瀬野、八湖、河口、内海、小浜だったようです。

 そこに育てられたら、常識から逸脱するのはある意味仕方がないと思います」

「……そうか」

 従叔父は何か言いたげではあったが、色々呑み込んだようでそれだけを言った。

「今回の依頼の対価は、内海が事前に作らせていたものです」

 そう言うと、従叔父は訝しげな顔をした。

「それは、本当に西雲さんの息子さんからの依頼で合っているのか?」

「合っていますよ。それは確認済みです。

 ただ、核となる賢者の石も内海が作り方を教えたようです」

「自分で賢者の石を作ったのか?」

「ええ、実物を見ましたよ」

「恐ろしいな」

「ええ、本当に」

「……その作る方法は真っ当なものなのか?」

 疑問は尤もなものだろう。

「西雲君は、召喚魔法が禁じられる前に召喚獣を召喚しているんです。

 それが存在する空間に魔核を入れ、徐々に大きくしていったようです」

「そんな方法を試そうとするのもどうかと思うが、それで得られたのなら、召喚者の魔力だけで構成された賢者の石と言ったところか」

「そうですね」

 私がそう肯定すると、はとこは良一に話し掛けた。

「兄貴は、昔って言うか、元々って言うか、人が賢者の石をどうやって作ってたか知ってる?」

 良一は気まずそうに答えた。

「生きた、人間が材料、だろ? なんでそんな事、聞くんだよ?」

「それを今の時代でやってる人間がいたら、許せる?」

「は? そんなの、許せる許せないじゃなく、許されない事だろ? 今は禁忌なんだし」

「まあ、そうだよね。それは『正しい』と思う?」

「は? 何が言いたいんだ?」

「……さっきまでの話」

「意味が分かんねぇよ」

 はとこの言いたい事を理解できない良一は眉を顰めていたが、従叔父は理解できてしまったようで、額に手を遣った。

「……禁忌だから、如月の名を表に出せた。そういう事か?」

 従叔父の言葉に私は静かに頷いた。その場で理解できていないのは良一だけだった。

「何? 何の話?」

「分かんないなら、兄貴は知らない方がいいよ。

 多分、俺も本当は聞かない方が幸せだった話。けど、現実に起こったって話」

 良一は、はとこの言葉でますます理解ができないといった表情になった。

「マジで何の話?」

 それに対して、はとこは何も答えなかった。その代わり、従叔父が口を開いた。

「良一、知る覚悟がないのなら、それは聞くべきではない」

 その言葉に良一はぐっと黙った。

「もし聞けば、その子のように人に詳しく話せもしないのに、自分の内に留めるのも難しくなるぞ。

 それでいて、他人に意見を求める事は許されない」

 そう言われ、良一はやっとそれが西雲君の件でもあり、久遠家への制裁の事でもあると気付いたようだ。

「……許されない事をしたのなら、断罪されるのは仕方ないんじゃないの?」

 良一の言葉に対し、従叔父は溜め息を吐いた。

「だから、如月が行った事になっているんだろう。

 如月の逆鱗に触れたと言えば、詳しくは分からずとも『許されざる行いをした』という事は分かる。

 だからと言って、一般人が、その実行役を行う事が『正しい』というのは、口に出してはならない。

 その事実を知っているのならば、それを認めてはならないんだ」

「そ、それは、身分のあるものへの反逆、とか、そういうのだと、みなされてもおかしくない、から?」

 流石の良一もそういう頭はあるようだ。

「そして、それを『正しい』と言った者は、それに加担していると判断されてもおかしくない」

 その言葉にはとこは何か堪えているようだった。

「その、西雲さんの息子さんは、なんでそれをしたんだ?」

「それは分からない」

 従叔父が分かるはずもなく、首を横に振った。そして、私に視線が注がれた。

「……利害の一致だそうですよ」

「それならば、如月の命により動いたで済む、か……」

 少しばかり足りない気もしなくはないが、如月が噛んでいる時点で、とやかく言える家はまずない。

「まあ、そうでなくとも、西雲君は個人で動きかねない気はします」

「それは……」

「絶対的なほどの魔力は、身分だとか関係なく、他人を平伏させられると思いますよ。

 それに、後ろ盾はかなりいそうですし、私達がとやかく考える必要はないですよ。

 あるのはうちの保身だけです」

「関わるのなら――」

 そう言いながら、従叔父ははとこを見た。

「駄目って事?」

 はとこがそう聞くと、従叔父は首を横に振った。

「そうじゃない。関わるのなら、周囲にとやかく言わせられないような行動を心掛ける事。そして、西雲さんの息子さんとちゃんと肩を並べられるくらいに実力を付けなさい」

「えっ、そんな無理難題言う?」

「無理でも、そこは頑張りなさい。

 人とちゃんと向き合って、人付き合いするのなら、そうしなければ、自分がやっかみを受けたり、不利益を被る。それなのに、相手に助けを求めるのはあまりにも甘え過ぎになる。

 ある程度、弁えなければ、関係性はどこかで破綻する。

 一時的な軽い関わりでいるつもりならそこまでは言わないが、それで済まないようならば、そこはちゃんとしなさい」

「……はい」

 はとこは、少し拗ねたような顔をしていたが、最終的に素直に頷いた。

「頑張れるか?」

「取り敢えず、頑張ろうとは思ってたから、頑張るよ」

 その言葉に従叔父は優し気な笑みを浮かべた。

「それなら構わない。だが、それとは別としても、一度うちに連れてこれるのなら、連れてきてもらいたい」

「えっと、それは今回の依頼の件でって事だよね?」

 はとこの問いに従叔父は頷いた。

「流石にこれだけの大きなものを、会った事も、ここに来た事もない人間から受けるというのは、あまりにも信用できないものだからね。

 話は聞けても、直接本人と話さないと、信用も信頼も互いにない。

 作る側である鑑那とは、面識はあっても、対価を受け取る側のこちらと会わないというのはよろしくない」

「そう……。分かった」

 はとこはそう言ってから頷いた。


「……こう言っておいてなんだが、うちに呼べそうか?

 無理なら、こちらで呼ぶ方法は考えるが」

「ん~。まあ、どうにかするよ。ちょっと強引なくらいにすれば、多分連絡先も手に入れられると思うし、上手くやれると思うよ。

 多分、相容れないところはあっても、完全に嫌われてるわけではなさそうだし、それに、向こうはこっちに依頼してるっていう時点で、ある程度、連絡の遣り取りをする可能性は考えてると思うよ」

 ある程度確信を持ってから言うあたり、この子もなかなかな性格をしていると思う。

「なら、任せるよ」

 従叔父の言葉にはとこは頷いた。

「けど、西雲君と肩を並べようと思うと、努力だけでどうにかなるのか、疑問だね」

 私がそう言うと、はとこは難しい顔をした。

「分かってるよ。正直、無茶どころか、無理をしないと駄目だと思う。

 鑑那さんって、よく内海の人間と関わろうと思ったよね」

「まあ、そういうめぐり合わせだったんだよ」

「ふ~ん」

 若干興味なさそうなはとこは、これから本当に頑張らないといけないんだろう。

「そんな様子で大丈夫なのかい?

 授業だってサボってる時があるんだろう?」

 そう言うと、はとこは流石に焦りだした。

「鑑那さん、流石にそれは今言わなくても……」

「どういう事だ?」

 普段は末の子に甘い従叔父も流石に怒っている様子だった。

「詳しくは優子さんも同席の上で話しませんか?

 私も今日、西雲君から聞いたばかりなので」

 泣きそうなはとこを横目にそう言うと、従叔父は自分の妻を呼び出し、二人ではとこの学校での態度を聞き、叱るところはきっちり叱っていた。

 それが終わってからは、はとこは「鑑那さんの裏切り者~」と言っていたが、私は、それに関しては従叔父の味方だし、報告すべき事をしたまでだ。

 だから「これからは精進しなさい」とだけ返したのだった。

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