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現代知識こそが最も有能!   作者: 蘇我栄一郎
持ち得る知識をフル稼働
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二十八話ですぜ、旦那!

 パーティーが始まって食事も終わりに近付く頃、私は音楽隊を前に少し緊張していた。緊張しているのは勿論、私だけではない。地球で活躍した偉大な音楽家達の曲をアレンジ(オリジナルをはっきりと記憶してないからこそのアレンジ)して伝授した目の前の音楽家達は、私以上に緊張しているように見えた。

 然もありなん。この国の王と他国の王、そして沢山の貴族や有力者達を前にして演奏するのだ。これで緊張するなと言う方が無理である。


「皆さん、大丈夫ですよ。貴方達を私の家臣として雇い入れてから半年、必死に練習してきたではありませんか。その練習の苦労は決して嘘をつきません。必ず成功へと導いてくれるでしょう。

 それにもしも演奏中に誰かが失敗したと仮定しても、曲は私が作曲した物ですからバレませんよ」


 緊張するなと言ってもそれが無理であると理解しているので、私は敢えておどけた発言をする。これで少しでも音楽隊の緊張が和らぐのであれば万々歳だと思っての発言だ。

 これが意外にも効果があったようで、音楽隊のメンバーがそれぞれに“確かに”だとか“違いない”だとか同調するような発言を繰り返し笑みが伝染していく。

 それを見て、これで詰まらない失敗は無くなったなと何故か確信にも似た実感を得た。


「旦那様、そろそろ御時間です」


「了解です」


 音楽隊のメンバーと笑い合っていると、同じように微笑む執事さんから出陣の要請。それによって室内に居た全員の雰囲気は一変し、まるで戦場に出陣する武士が持つ鋭い刀を連想させる雰囲気を全員が醸し出し始めた。

 実に頼もしいと、私はそう思いつつ彼らを伴ってパーティー会場の扉の前まで移動すると敢えて一旦足を止め、背後に視線を向ける。誰も彼もが気合いの入った顔をしている。

 その表情を見て、尚更に頼もしいと思えた私は視線を前に戻して勢い良く扉を開いた。その先に居るのは、強い権力を持つ沢山の者達。中でも一番の権力者である上座の者達二人は、勢い良く開いた扉に少し驚いたのか怪訝な表情を浮かべていた。

 それを見て私は、内心度肝を抜いてやるぞと意気込んで一歩一歩大きく歩を進め、会場内のざわめきを肌に感じながらステージに上がる。


「本日は沢山の方々に私の主催するパーティーに来て頂けて嬉しく思います。まさか陛下や教皇様までも来て頂けるとは思いもしなかったのですが、これも何かの縁だと考えますれば、是非に最後までパーティーを楽しんでくれればと願います。

 そして今から皆様の前で披露しますのは、一言に言えば音楽。最初にパーティー会場に入って絵で視覚的に楽しんで貰い、次に食事で味覚的に楽しんで貰ったのですから、最後は聴覚で楽しんで頂ければと思います」


 会場に居る沢山の人達は、私の発言を耳にして”ほう“と少し感心した素振りで酒を嗜みつつ隣に座る者達と楽しげに歓談している。まだ誰も期待していないのが察せられる。

 この世界の音楽というのは、まだまだ未熟だ。地球の歴史上では偉大な音楽家達が競うように現れた時代があったが、この世界ではベートーベンやシューベルトを始めとした偉大な音楽家の人物は未だに現れておらず、正直に言ってしまえば少し雑音のように感じるのがこの世界の音楽という認識だ。

 その価値観を、その認識を、私がぶち壊してみせよう。音楽と聞いて感心を見せる者達とは違い、少し怪訝な様子を見せる面々をきっと驚かせてやる。


「えー、今から演奏しますのは、私が作曲した物でありまして、その曲に相応しい新たな楽器も幾つか創作しております。ですので新しい感覚を感じるでしょうが、それも楽しんで下さい」


 何故か爛々と目を輝かせる教皇様が視界に入るが、それは一旦忘れて背後に準備を終えて待機していた音楽隊へと視線を向ける。全員がいつでも来いと言いたげな表情で私の目を見詰める。

 さぁ、この世界の音楽界の歴史を塗り変えようじゃないか。そう思いながら指揮棒を持つ私は、力強くその指揮棒を振るい始める。

 その瞬間、世界に音楽という名の新しい色が加わったような、そんな確かな感覚を感じた。少し大袈裟な言葉ではあるけれども、しかしそう感じたのは事実だ。

 曲は魔笛、モーツァルトが最後に残したオペラ。歌うのは私である為、指揮は歌詞の始まりからは客の方へと体を向けた私の足がリズムを取るので、音楽隊にはそのリズムに合わせて貰う。

 本来私が作詞作曲した代物ではないからこそ、始めは少し後ろめたさがあったが歌い始めるとそんな考えは頭から消えた。会場に居る権力者達が息を飲んで此方を見ていて、歌詞と音楽に聞き入っている様を見るに、音楽がこの世界で花開く為には仕方がない嘘だと思えたのだ。

 曲調が激しく強くなると、聴衆の身体がビクッと震える。歌詞に登場する邪なる存在が声を上げれば、聴衆の身体が再びビクッと震える。誰も彼もが、曲に登場する子供が助かるのかと、息を飲んでただひたすらに耳を傾ける。

 希望を胸に強く拳を握る聴衆達。然れど物語は非情な最後へと進み、曲は悲しげでいて何処かゾッとする曲調で終わりを迎えた。

 その瞬間だった。パーティー会場が爆発したかのように大きな拍手に包まれたのだ。聴衆の皆が、スタンディングオベーションで一心不乱に拍手をしていた。

 実に心地良いと思えた。心の底から最高の瞬間だと思えた。そうか、これがあるからこそ、偉大な音楽家達は素晴らしい曲の数々を生み出せたのかと、そんな風に悟った。

 とは言え、やはりこの曲は私が創った曲ではない。それ故に、再び少し後ろめたさが首を上げて存在を主張し始めるものの、私はその気持ちをグッと抑えて聴衆達に一礼する。


「気に入って頂けたようで嬉しく思います。次に披露します曲には歌詞がありませんが、先程披露致しました魔笛に負けず劣らずの曲となっておりますので、是非お楽しみ下さい」


 私の言葉を耳にして、聴衆達が期待の籠った声色で席を隣にする者達同士で魔笛の感想を呟きつつ腰を下ろす。演奏が始まる前とは打って変わった様子に、私は内心でガッツポーズを取った。

 今回のパーティーが間違いなく成功するだろうと確信した瞬間だと言える。勿論、最後にはジルベルト殿の………いや、もう家臣の一人となったのだからジルベルトさんと言った方が良いのだろうが、そのジルベルトさんの婚約者を治療する様子を見せるのがパーティーの締めくくりとなるのだから、まだまだ油断は出来ないのだがそれでも私の心は高鳴っていた。

 私はその高鳴る気持ちをそのままに、手に持つ指揮棒を音楽隊に向かって勢い良く振るう。それによって響き渡る音の素晴らしさを何と形容したものか。現状の私の心を音にしたかのような曲は、またもや聴衆を虜にした。





 素晴らしい。妾が予想していた何倍もコーターは素晴らしい。

 息を飲む程に美しい絵画の数々、その辺の川で取れる魚が未知なる調理法によって信じられない程に美味なる料理へと変化する技術、そして耳障りであるというこれまでの認識を覆す音楽、どれもこれも妾の予想外の次元じゃ。それに、コーターが最後に演奏したセラハの砂漠という曲は、これまた筆舌に尽くしがたい領域の芸術的な曲じゃった。まるで長編小説の恋物語を読んだかのような、あの熱く燃える恋模様と甘い口付けという描写の歌詞には、久しく忘れておった乙女としての自分が表に出てしまうかと思った程。

 正直に言ってしまえば、今の妾はコーターに恋しておると言っても過言ではなかろう。それ程にはコーターの天才的な才能に惹かれておるのが自分でも良く分かる。

 素晴らしい。最早、妾には素晴らしいという言葉の称賛しか思い浮かばぬ。


「真似出来るか?」


「……どれを真似しろと?」


「全てじゃ。此度のパーティーで披露された全てじゃ」


「……やれと言われれば全力で。しかし、完全に再現出来るかと問われると………」


「そうじゃろうな。無理難題というものじゃろうな」


「申し訳ありません」


「なに、妾が無理を承知で尋ねた事。そなたが気にやむ事ではない」


 やはり無理じゃろうな。シバの立場からすれば、やれと言われれば全力で挑戦するのじゃろうが、到底真似出来るものではない。出来たとしても酷く劣化したものになるじゃろう事は明白。

 さすれば、ムーティッヒ王と同盟を結ぶ約束を取り付けられたのは最高の幸運じゃったと言えよう。後は同盟を公の場にて結べば、聖教国の方から様々な方面で優秀な者達をコーターの弟子として送れば良い。そうすれば数年後にはそれなりの腕に達した者達が、聖教国に戻って活躍してくれる筈じゃ。


「帰国する前に同盟の儀を行うとしようか。勿論、ムーティッヒ王とその事に関して更に深く協議せねばならんがのぉ」


「はっ。あらゆる要求を想定して、此方でも事前に準備しておきます」


「うむ。頼んだぞ」


「お任せ下さい」


 妾自ら動いたのは、この立場になってから最も良い判断じゃったと言えような。妾が全知神教の宗主として、また、国主として、大きな権力を有する立場となってから最も大きく偉大な功績となるじゃろう。

 ムーティッヒ王は周辺諸国を侵略する気は毛頭無いようじゃが、それでも周辺諸国から頭を垂れる日が来ると予想出来る。何せ、ムーティッヒ国は様々な国家事業によって今や飛ぶ鳥を落とす勢いで税収が右肩上がりになっておる。それ故に、平民が国に納める税は驚く程に低く設定されており、そんな国の平民が毎日楽しく過ごしておれば、周辺諸国の平民が自国の生活と比べて不満が堪らない訳がなく、自然とムーティッヒ国へ流民として流れ込んでくると思える。無論、そうなれば最初こそは敵対的な態度を取る国々が目立つであろうが、妾がその敵対的な態度を見せる国々を正面から非難すれば、十中八九ムーティッヒ王へと頭を垂れる筈。戦を吹っ掛けるにしても正統性が無いのじゃから、それを妾が非難すれば周辺諸国はムーティッヒ国へと戦を仕掛ける事は不可能。今後数年もすれば、ムーティッヒ国は周辺諸国を吸収して大国になるじゃろう。

 そうして大国になったムーティッヒ国と、既に大国の仲間入りしておる妾の国が同盟以上の意味で結ばれる時がくれば、その時は敵無しとなるじゃろうな。例え帝国が立ち塞がったとしても、そう易々とは安易に戦を吹っ掛ける事も無理となる筈。


「人の世が大きく動くかもしれん。いや、既に動いておるのか」


「それはどういう……?」


「ふむ。此処で話す事ではない故、この事は後で話そうかのぉ」


「は? ……分かりました」


 シバは充分優秀であるが、まだまだ青い。ムーティッヒ国の現状から見える数年後の未来を予測出来る程には到達しておらん。

 だが、焦る必要は無い。ムーティッヒ国が知らず知らず力を増大させておるように、シバも少しづつ成長すれば良いのじゃ。いや、妾が難しい仕事を与えて強制的に成長させても良いじゃろうな。

 面白くなってきた。世が大きく動く時に、その場の中心となるであろうコーターと事前に出会えたのは幸運じゃったな。


 そう思い未来に思いを巡らせておると、何やらコーターが音楽隊を下がらせた。そして自身はステージの上に留まり、大きく一礼すると堂々とした姿で演説を始める。


「皆様、今日のパーティーは楽しめたでしょうか?」


 コーターが朗らかな笑みを携えて質問をすると、ムーティッヒ国の貴族連中から酒が注がれた器を掲げながら“応”という快活な返答が返された。それには益々もってコーターの笑みが深くなる。

 それとは正反対にこのムーティッヒ国で好き勝手にしておった司祭や司教は実に苦々しい表情を見せておるが、それには誰も触れない。ムーティッヒ国の貴族連中は、そんな者達を相手にする気は無いようじゃ。

 それを見て、思わず笑うてしもうた。嘘でもコーターの問いに笑顔を浮かべて返答しておれば、少なくとも空気が読めるという意味で妾の心証を少しは改善出来たかもしれんのに、それが出来ぬからこそ総本山に招かんのだ。阿呆ばかりで笑うしかないとはこの事じゃな。


「楽しめたようで何よりです。ですが、パーティーの仕上げはここからで御座います。

 普段、表に顔を出さない私がこうして顔を見せるのに疑問を持った方々が多く居ると察しますが、それには理由があったからに他なりません。此度のパーティーを開いた目的、それはとある病を克服する様子を見て貰う為だったのです」


 コーターの言葉に反応するかのように、華美な装飾を施された扉がゆっくりと開く。そしてそこから入って来たのは、両の手をバタバタと忙しなく動かし続けながら、しかも頭部ですらも奇妙な角度に傾ける平民と思わしき女性と着飾った騎士と思わしき男の二人じゃった。

 騎士の男は堂々とした足取りで、奇妙な仕草を繰り返し続ける女性を気遣いながらコーターの立つステージへと女性をエスコートする。


「何故身体をバタバタと動かし続けているのだろうと、そう疑問に思えますでしょう? ですが、それは仕方のない事なのです。彼女は自分自身でも身体のコントロールが出来ず、このように奇妙な仕草を常日頃から続けているのですから。

 そう、この病の名は舞踏病。不治の病として有名な病気の一つです」


 コーターの隣まで移動した二人は、用意された椅子に座った。そして、その間も終始手足をバタつかせる女性を優しく抱きしめる騎士の男。

 そんな二人を横にして、コーターはパーティー会場に居る者達の目が二人に視線が集中している中であっても言葉を紡ぎ続ける。


「私は今この時より、世界に宣言致します! 人類が永い時を苦しませ続けられた舞踏病を克服すると!」


 コーターがこれまでとは打って変わった鬼気迫る表情を見せて宣言すると、懐から淡く青色に輝くポーションを取り出した。妾でも初めて目にする色のポーションじゃ。

 怪我の治療に使用するポーションは緑色、病の治療に使用するポーションは白色となり、効果が強くなればなる程に色が濃くなる。となれば、あの青色に輝くポーションは、その色の濃さから判断するに最上級に位置するポーションなのじゃろう。


「これは私が独自に制作したポーションになりまして、これを舞踏病を発症させたこの女性に飲んで頂きます。ですがその前に、これが茶番劇などとは違うという証明をして頂きたく、治癒魔法を行使出来る方に是非お力を貸して欲しいのですが………」


 なるほど、確かにステージ上に居る女性が本当に舞踏病を患った者なのかどうかを調べる必要があるじゃろう。嘘の患者を用意して、さも自分が作った薬で治ったと虚言を言う薬師が以前に居なかった訳じゃないからのぉ。

 それを察して、妾がコーターの視線に頷いてシバへと目線を移せば、シバも同様に察した様子で妾へと一礼してステージ上へと移動して行く。シバは妾の側近で頭脳の優秀さばかりが目立つが、治癒魔法もそれなりのレベルじゃったりする。ともすれば、嘘かどうかを見抜くには丁度良い人選と言えような。


「シバ殿、お力添えに感謝申し上げます」


「いえいえ、御丁寧なおもてなしと教皇様への土産を頂きましたからね。少しでもお力になれれば嬉しい限りですよ」


 上手い。贅沢の一言に尽きる数々の土産に対して、その対価に治癒魔法をと言うのは流石じゃ。このパーティーでは少しポンコツになっておったが、やる時はやる男なのじゃ。


「では、治癒魔法をかけます」


 言うや否や、シバの両手が白く発光。次第にその輝きは強くなり、シバがその輝く両手を女性に向けると、手足をバタつかせる女性の身体全体が同様に輝き始める。

 しかしそれも一瞬の事で、白い輝きは何かに阻害された事の証明に通常時へと戻った。


「確認しました。舞踏病かどうかは分かりませんが、治癒魔法で治せない類いであるのは間違いありません。少なくとも私の治癒魔法では何時までやっても埒があかないでしょうね」


「有難う御座います。これでこの女性………ハンナさんの病が治癒魔法では治らなかったというのは証明されたかと思います」


 治癒魔法を初めて目にした者も多いのじゃろう。シバの魔法によって大きくざわめくパーティー会場。その中にあって冷静さを失う事のなかったコーターが言葉を発すれば、動揺しつつも貴族連中から頷きが返される。

 そしてそれを確認したコーターは、ゆっくりとポーションの詮を抜いて騎士の男に差し出した。あの薬にどれだけの資金を投入したのか、どれだけの貴重な薬草を使用したのか、薬師としては無知な妾には分からぬが、騎士の男は知っているのかポーションを受け取る手が盛大に震えておる。


「ジルベルトさん、ハンナさんを心から愛する貴方が飲ませてやって下さい。貴方がハンナさんの病を癒すのです」


「………コーター様」


「さぁ、長く苦しんだハンナさんに幸せを」


 騎士の男は椅子から崩れ落ちるかのように跪くと、恭しくポーションを両手で受け取り、バタつかせている女性の両手を抑える為か優しく女性を抱きしめた。そして、騎士は女性の瞳を真っ直ぐに見詰めながら、手に持つポーションをソッと女性の口元に運ぶ。少しずつ、ほんの少しずつポーションの瓶は傾きを強くさせ、軈てはその中身が女性の口腔内へと確かに入って行く。

 沢山の者達が固唾を飲んで見守る中、コーターにハンナと呼ばれた女性は大きく意に反して動かし続けていた両手と頭部の動きが徐々に小さなものへと変化。その目に見て明らかな変化は、軈ては確実なものとなり、ハンナとやらは自身で両手を操作して顔の前へと固定すると、大粒の涙を流しながら赤子のように泣いた。そんな女を抱き締める騎士の男もまた、大粒の涙と共に泣き叫ぶ。

 美しい。何よりも美しいと素直に思える光景が、妾の前でコーターにより創られた。


 コーターは本当に人間なのか? 天が地上へと遣わした使徒なのでは?


 余りにも想像の上を行く存在に、教皇とは言え、不老の身となったとは言え、矮小な人間に過ぎない妾は愚かにもそう考えてしもうた。それ程にコーターがやってしまった事が凄すぎるのじゃ。

 治癒魔法でなら、理論上ではどんな病も治せると言う学者が多く存在する。それは妾も同じ考えで、異論は無い。

 しかし、現実には不可能。現在不治の病と言われておるものは、強力な治癒魔法使いでも治せないのが実情なのじゃ。理由は分かっておらん。

 そんな現実があるのにも関わらず、コーターは不治の病である舞踏病を治してしもうた。治癒魔法より遥かに劣る薬師の知恵で。


「ご覧になったように、これからは舞踏病に恐れる必要はありません! この治療薬のレシピは陛下へと献上致しますので、是非とも悩み苦悩している民の為にお使い頂きます事を切に願います!」


 騎士の男とその婚約者による歓喜の泣き声が響く中、コーターの言葉が不思議とパーティー会場全体に響く。

 すると次第に貴族連中の中から、称賛の声がポツポツと聞こえ始め、それは時間が経過する事に大きくなり、軈ては雷でも落ちたかのような凄まじい拍手と歓声によってパーティー会場が包まれた。

 妾もその中の一人であり、知らず知らず拍手と歓声を上げておった。


「コーター卿、余はそなたの献身に嬉しく思う。国の為、民の為、世の為に努力を惜しまぬ姿には余でも頭が上がらん。

 必ずやその治療薬を役立てみせよう。苦しむ民の為に、必ずや使うと約束しよう。

 この国の王として、礼を言わせて貰う。コーター卿、これまでの献身、大変助かった。有り難う」


「はっ。勿体なきお言葉、光栄に御座います」


 妾がステージ上の光景に見惚れておる間に、何時の間にかムーティッヒ王がコーターの横に立ち声を掛け、また、コーターが恭しく頭を垂れる様子を見せられたが、それが何とも言えず美しい光景じゃった。まるで小説の挿し絵かのように、綺麗な程に場に相応しく思えた。

 ムーティッヒ王には少し嫉妬してしまうのぉ。コーターが妾の治める聖教国へと亡命しておれば、コーターに向かってあのように声を掛けていたのは妾じゃったじゃろうに。

 これ程に悔しいと思えたのは久しぶりじゃ。天に恵まれておるのかもしれんな、ムーティッヒ王は。


「不治の病を人類が克服した記念として、このパーティーの締めくくりとして、最後に皆様へとご覧になって欲しい光景があります。

 ささ、陛下にも見て頂きたかった物ですので、どうぞ窓辺へ」


 妾が嫉妬しておると、突如コーターが何やら勿体ぶった物言いで全員を窓辺へと誘導し始めた。ムーティッヒ王はまだ何かあるのかと、そう言いながら苦笑しておるが、それは妾も同じで、しかし妾としては驚愕の思いじゃった。

 見た事の無い画風の絵画、食べた事も無く聞いた事も無い調理法の料理、感動で心を大きく揺さぶられる音楽、不治の病の克服、これだけの驚くべき所業の後に、まだ何かを用意しておるとは驚異の一言じゃ。


「さぁ、テラスに出てご覧になって下さい。目を向ける方向は、あの夜空です」


 何があるのか分からんが、実に楽しそうに話すコーターを見ておると、不思議にも妾の心は高鳴り始めた。きっと想像も出来ない何かがあるのだろうと、そう思わせる不思議な魅力がコーターにあるからじゃ。

 そう思うのは妾だけではない。ムーティッヒの貴族達もそうであり、妾の側近であるシバも同様の反応を見せていた。それに気付いて少し面白く思い、笑いが漏れてしまう。

 するとシバが此方へと視線を向けて小首を傾げるが、それがより一層妾の笑いを誘う。まるで童(わらべ)のような表情を見せるシバには、こんな顔をする時もあるのじゃなと意外な一面を見れて面白くなってしもうた。


 と、その時じゃった。


 ヒュ〜ン! という奇妙な風切り音が夜空に木霊したかと思えば、次の瞬間には夜空に花が咲いたのじゃ。それはもう見事な程に美しい花じゃった。


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― 新着の感想 ―
[一言] やっと目的まで到着!!後はここから起こる 騒動を潰すだけですね。 今後も楽しみです。
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