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現代知識こそが最も有能!   作者: 蘇我栄一郎
持ち得る知識をフル稼働
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28/31

二十六話ですぜ、旦那!

十話ぐらい書いて何か違うなぁって事で全部破棄しまして、全く違うストーリーにするという愚行をしてしまった(>_<)

そんな訳で少し投稿が遅くなってしまいましたが、ご了承下さいm(__)m

でも、そのお陰で少しは面白くなってる筈です!

 晴天に恵まれた日の昼下がり、妾は側近の一人であるシバと聖騎士五十名や騎士十名、そして少々問題児であるパラディナイトとその側近二人を引き連れて、コーター卿の館の門前へと辿り着く。勿論、聖教国側の他にも案内役やムーティッヒ王を始め、そのムーティッヒ王を守護する近衛達も一緒に行動しておって、かなりの大所帯で、である。

 そんな大所帯で動いていれば当然、少し移動するのにも時間が掛かってしまったが、それは仕方のない事。人数が人数なのだからな。

 ましてや国賓として来ている妾やこの国の王が一緒に行動しているのだから、安全確保の為にも移動速度が遅くなってしまうのは当たり前の事じゃからして、その事については寧ろムーティッヒ側の配慮が感じられて心地好いくらいじゃ。

 それは兎も角、コーター卿の館を門前から見た感想は、中堅国家の公爵とは言え侮れんという感想じゃった。もしかしたら妾の国の伯爵家と同等レベルの館であり、それはつまり中堅国家でありながら資金面では大国と同等レベルに達していると判断して良いのかもしれない程。

 賢君と名高いムーティッヒ王の影響の一つなのじゃろうと、そう素直に思える程には感心させられる。魔物の棲む領域と隣り合わせの辺境国でありながら、ここまで発展させるのには苦労したじゃろうな。


「中々素晴らしいですな」


「うむ。街並みも素晴らしいが、貴族の住む家屋の一つ一つが素晴らしいのぉ。小さな拘りが見え隠れしておる。

 それに何より、魔の森に近い方に貴族達が住み、兵士や騎士が住み、そして城があるというのが凄い。魔物から民草を絶対に護るという覚悟が見えるのぉ」


「他の国であれば、十中八九逆になっているでしょうね」


「その通りじゃろうな。他者を思い遣る気風か……実に羨ましいのぉ」


 馬車の中で思わず古き良き時代を思い返しながら、門を抜けてそのまま奥へ奥へと馬車は進む。馬の蹄の音、馬車の車輪の音、それらがリズミカルに響き渡るその音は実に小気味良い。

 そうして見た目にも素晴らしい館に辿り着くと、馬が止まりそれと同時に馬車も止まる。そして側近のシバが先に馬車を降りて妾へと手を差し出して来て、その手を取って妾も馬車の外へと出た。


「ほうほう。馬車の中から見ておる分には気付かなんだが、外に出て直に見ると魔術の痕跡が分かるのぉ。固定化の魔術か?」


「そのようですね。ムーティッヒ国のお家芸とも言える固定化の魔法でしょう」


「この固定化の魔法は妾も欲しいと素直に思う技術の一つ。この固定化の魔法を掛ける事で、物質の強度が随分違うらしいからのぉ」


「土属性の魔法使いが多い国ならではの事で、やはり土属性の魔法が発展し易いのではないでしょうか」


「うむ、そうじゃろうな」


 館一つに掛けられた魔法を一目見ただけで、思わず羨ましくなりシバと語り合ってしまったが、これも仕方ない事。固定化の魔法はムーティッヒ国の秘術の一つとして有名なのじゃし、それ故にこの珍しく有能な効果を持つ魔法には感心せざるを得ない。


「ハハハ。お褒めの言葉、実に有り難い」


 妾がシバと語り合っていると、何時の間にやらムーティッヒ王も馬車から降りており、近衛に護られつつ笑いながら声を掛けて来た。

 此方も同様に聖騎士や騎士が妾を護るようにして立っておるが、その者達に負けず劣らずの様子で立つムーティッヒ王の近衛達の姿を見て、良く訓練されておると内心で悟る。

 恐らく、ムーティッヒにはムーティッヒの剣術や槍術の流派があり、妾の国と同じく近衛にはその流派を学ばせておるのじゃろう。


「ムーティッヒ王の配下には、余程に優れた土属性魔法使いがおるようじゃな」


「余の国では土属性魔法使いが多いのでな、それこそ土属性に限っては他国にそうそう引けは取らんよ」


「フフフ、そうじゃろうな。羨ましい事じゃ」


「いやいや、そちらの国には稀少な治癒魔法があるではないか。それに、噂で聞き及んでおるぞ。何やら優秀な治癒師が現れたそうじゃないか。確か、脱力症を根治させるだけの法力を持つとか」


「レオンの事か。……確かに治癒師としては近年希に見る才能を有しておるのじゃが、少々プライドが高いのが玉に瑕でのぉ。少しでも愚かな言動をする者には驚く程に冷たい反応を見せるのじゃ」


「自分に出来る事が何故出来ないのか、自分に理解出来る事が何故理解出来ないのか、それが分からないタイプだと言いたいのかな?」


「正にその通り。それ故に多くの者に手を借りようとはせず、密かに様々な問題を一人で解決しようとしたがるのじゃ」


「若いな。しかし、優秀であれば何時しか気付いてくれるであろう。手を取り合って目的に励む事の大切さを」


 やはりムーティッヒ王は賢君じゃな。こうして話しているとそれが良く分かる。

 そのムーティッヒ王が言うように、レオンもお調子者の皮を被って孤独に戦う事をやめる時が早く来て欲しいものじゃ。独り孤独に戦うより、手を取り合って戦う方が何よりも大切なのじゃと気付けば、その目で見る世界は広くなり、それによって何事も解決するのに苦労する事は減るじゃろう。

 ともあれ、そうやってムーティッヒ王と和やかに会話していると、コーターに仕える執事と思わしき人物やメイド達が、見事な彫刻が目立つ扉を開けて出迎えてくれた。

 執事やメイド達の全員が深々と一礼した後に、妾とムーティッヒ王の二人に面を上げる許可を貰うと何やら説明を始める執事。


「ヒーゴー様は現在、陛下と教皇様の為に新作の酒を用意されております。ですので、パーティーが開かれるまではまだ少し時間がありますれば、ヒーゴー様が待つお部屋にて寛げるよう案内を申し付けられております」


「おぉ、また新作の酒を作ったと申すのか」


「はっ。ヒーゴー様曰く、最早趣味であると仰られておりました」


「ハハハ。流石はコーター卿だな。実に楽しみである。

 では、案内を頼むぞ」


「はっ。護衛の方々の武器はそのままで結構ですので、どうぞお入り下さい」


 武器の携行がそのままというのは、恐らく妾やムーティッヒ王の護衛だけじゃろうな。それ以外の貴族達やその貴族の護衛達は、まず間違いなく一時的に武器を没収される筈。

 そう思い視線を最後尾に移せば、レオンの護衛達が所持していた武器は没収されておるのが妾の目に映った。


「こちらです」


 執事や二人のメイドが、妾やムーティッヒ王と言った最高位のグループを案内し始める。そしてそれ以外の者達、つまりは筆頭治癒師のレオンなどは別のグループとして他のメイド達が案内するらしく、此処で分かれる事になった。

 そうして案内された先にあった扉の中へと入室した妾の目に入ったのは、息をするのを忘れてしまうような、それでいて苦しさを全く感じさせないような、そんな素晴らしき絵画が飾られていた一室じゃった。

 壁に掛けられた絵画は三枚。窓の外から射し込む光に照らされながら掃除をしているメイドが描かれた一枚、ムーティッヒ城を遠目から見たそのままの光景が切り取られたかのような精巧な風景画が一枚、何処かの滝とその滝の直ぐ傍に建つ加治工房と思わしき幻想的な風景画が一枚、三枚の全てに共通するものは無い。しかしその美しさたるや、三枚全てに共通する価値観。

 妾はこれ程に素晴らしい絵画を見た事が無い。絵画に使用されておる絵の具も、恐らく妾の知る物とは異質であろうとは分かるものの、どんな素材を使用して作られた絵の具かも検討がつかん。

 あぁ、素晴らしい。そう、偏に素晴らしい。それ以外の言葉で形容出来ない自分が腹立たしい。


「お気に召しましたか?」


 案内された部屋に入って早々、妾が壁に掛けられた絵画に夢中になっておると、不意に声を掛けられ反射的にそちらへと視線を移す。

 するとそこに立って居たのは、北の方で見掛ける人種の男が一人。

 そしてその男に声を掛けられたと認識すると、そこで妾はふと現実に引き戻されたような実感を得た。そう、まるで先程までは別世界へと行っていたような感じじゃ。

 そうして冷静さを取り戻した妾は、そこで漸くこの部屋に案内された他の面々の様子にも気付いた。誰も彼もが、壁に掛けられた三枚の絵画に心を奪われておったのだ。

 ムーティッヒ王ならば心を奪われて絵画に見惚れて居っても問題無いのじゃが、妾の護衛である聖騎士や騎士が見惚れておるのは話にならん。しかし、側近であるシバさえも同様の様子を見せておるのだし、しかも妾も先程までそうであったのを考えると、仕事を忘れるなとは言えんのぉ。

 それは兎も角、妾に声を掛けて来たこの目の前の男は何者であろうかと疑問が沸く。

 発言からしてこの館の関係者………つまりは、コーターの関係者であると考えられるが、はてさて誰なのじゃろうか?


「教皇様、此度は遠い異国から遥々のお越しご苦労様で御座います。拝謁致します事、光栄の極み。私、コーター=ド=ヒーゴーと申します。このムーティッヒ国の公爵として、矮小な身ながら粉骨砕身の心情で努めております」


「お主が………」


「ささ、歓迎の印として、新作の酒を用意しておりますので、此方にお掛け下さい。陛下もどうぞお寛ぎ下さい」


「お、おぉ、済まんな。絵画に見惚れておった」


「どうぞ」


 驚いた。この目の前の男がコーターだったとは思いもせなんだ。

 しかし、そうと理解して見ておれば、確かにそれと分かる雰囲気を持っておる。妾が捨て駒として送った者を斬り捨てたと聞き及んでおるが、それも頷ける。

 圧倒的な強者感は無い。されど弱者を彷彿とさせる感覚も一切見受けられない。

 例えるならば、まるで真綿のような御仁。妾が昔に見た絶対的強者の魔人(●●)を大木だとすると、そのように圧倒的な程に自分と隔絶した存在じゃという実感は沸かんが、しかし不思議な威圧感と存在感がある。

 こんな感覚を得たのは初めてじゃ。実に不可思議。されど面白いと思えるのもまた事実。


「さぁさぁ、どうぞお飲み下さい。教皇様の方は、先にお毒味されるお方に………えぇと、貴方で宜しかったですか?」


「ご配慮有り難う存じます。シバと申します」


「シバ殿ですね。では、どうぞ此方を」


 驚いた事に、ムーティッヒ王はコーターから直にグラスを受け取り口にしておる。毒味も無しにそうするという事は、余程にコーターを信頼しておる証じゃろう。


「おぉ、これはまた旨い! 少し余には甘く感じられるが、それでも美味であるのは間違いないぞ!」


「なんと……!? これは旨い!」


 ムーティッヒ王はグラスの中身を一気に飲み干し、大きく瞼を開きながら感想を口にし、シバは身を震わせながら感想を口にしておる。余程に旨いのじゃろう事は、その反応を見れば明らか。

 早く妾も飲みたいと思いシバにそれとなく視線を向けると、シバは何を考えておるのか更にグラスの中身を口に含む。

 おい、それでは妾の分が無くなるではないか!


「これは旨いですなぁ」


「うむ。これも世間に流行るであろう」


「そうでしょうな。これ程に美味ならば、世間が放っておきますまい」


「ハッハッハッ、他国の身であるシバ殿が言うのだから、間違いなく流行るのであろうな」


 何故か妾を無視して酒の感想を言い合うシバを睨み付けるが、そのシバが手に持つグラスの中身は既に空になってしもうておる。恐らく想像以上に旨い事が理由で、知らず知らず全部飲み干してしまったのであろうが、それを誤魔化す為にムーティッヒ王をそれとなく味方に付ける手腕には腹が立つな。

 更にグッと目に力を込めて睨み付けると、シバの額にうっすらと冷や汗が浮かび始めた。どうやら、妾の気持ちを察したらしい。

 しかし、まだ妾は許さんぞ。胃がキリキリと音を上げるまで睨み続けてやる。


「お気に召したようで何よりです。お代わりを直ぐに作りますので、少々お待ち下さい」


「ほう。今回の酒はボトルから注いで直ぐに飲める類いではないのか」


「はい。今回陛下がお飲みになったのは、カクテルと名付けた新しい飲み方でのお酒で御座います」


「カクテルとな?」


「カクテルとは、様々な果実や酒を混ぜて飲む……まぁ、調理名とでも認識して下されば良いかと」


「なるほどな。カクテル、実に面白い代物だ」


 コーターとムーティッヒ王が和やかに会話しておるが、妾の目は鋭いままに側近のシバへと向いておる。そしてシバはと言えば、冷や汗を通り越して今では汗だくじゃ。

 そんなシバを見て溜飲を下げていると、コーターが新たに作ったカクテルと呼ばれる新酒の酒が満たされたグラスがムーティッヒ王とシバへと差し出された。

 しかし、シバへと差し出されたグラスを妾が素早くサッと手に取ると、我慢ならんとばかりに毒味無しで口に含む。その行為にシバが何か言いたげな様子を見せるものの、既に中身は妾の口腔内に入っており最早遅い。


「これは………!? なんと美味なる代物じゃろうか!」


 余りにも美味過ぎて、つまらぬ感想をポロリと口にしてまった事に恥じ入るばかりじゃが、そんな妾の視線が知らず知らずコーターに向くと何故か面食らっておるのが目に映り、何に驚いておるのか不思議に思い首を傾げる。

 そして、少しの間を置いて理解した。どうやらコーターは、毒味無しに飲んだ妾に対して驚いておるようじゃ。

 しかし、妾からしたらそもそもコーターが毒を入れるとは端から考えてはおらんので、毒味という行為は立場故の儀式的な意味合いしか今回の場合にはないのだから、驚かれた事で妾の貧相な感想が有耶無耶になって幸いではある。


「まるで花畑に居るかの如く満たされた心持ちになるこの酒は、まっこと天下一品じゃ。ムーティッヒ王は良き家臣に恵まれておるのぉ」


 初めに呟いてしまった貧相な感想を塗り替える言葉を発すると、ムーティッヒ王が反応して笑みを浮かべた。


「うむ。余は確かに優れた家臣に恵まれておるな。それもこれも、先代達の人徳のお陰であろうよ」


 朗らかな笑みで言うムーティッヒ王の言葉通り、ムーティッヒ国の先代達は優れた者ばかりであったのは事実。そうでなければ魔の森を目の前にして国など成り立たないじゃろう。

 そしてその中でも此度の王は、近隣諸国でも噂される程に有能な王として有名であり、今回その事を直に会って深く理解した。大国の王子として生まれておれば、もしかしたら覇王となっておったやもしれぬ傑物じゃと妾は思う。

 そう内心で思いつつ、再びグラスの中身を口に含む。それによって先程と同じように、また花畑に妾の意識は引っ張られ、妾の心は幸福感で一杯になる。

 あぁ、改まってコーターが欲しいと思ってしまう。ムーティッヒ王が噂通りの御仁なら諦めるとシバには言っておったが、こうして有能さを示されてしまうとやはり欲しく思ってしまうのぉ。


「お気に召したようで何よりです」


「コーター卿、最高のひとときを感謝するのじゃ」


「教皇様にそう言って頂けるのは光栄の極み。それ故にこうやってもう少し談笑していたいのですが、そろそろパーティーの時間となりますので私は失礼させて頂きます。

 会場への案内は執事のサイモンに任せておりますので、何か御要望がありましたら何でも執事に申し付け下さい」


「お気遣い感謝する。シバ、その方からも礼を申せ」


「はっ。コーター卿、外様の我らにも丁寧に配慮して頂き、感謝申し上げます」


「いえいえ、そんな風に頭を下げられると困ってしまいますよ。どうぞ、ごゆるりとお寛ぎ下さい」


 コーターは嫌味を感じさせない自然体で頭を垂れると、執事に何やら話し掛けて部屋から出て行ってしもうた。本当はもう少しコーターと話していたかったのだが、このパーティーの主催者なのじゃから忙しくて当然で、そんなコーターを引き留めるのは礼儀に反するのじゃから仕方ない。

 その代わりと言っては何なのじゃが、妾はムーティッヒ王へと視線を移し問い掛ける。


「ムーティッヒ国は今回の事で大きくなったのぉ。小国を三ヵ国も吸収したのじゃ、そのまま軍を進めても不思議はないが……はて、どうするつもりかな?」


「余の考えは察しておるのだろう?」


「やはり動くつもりは無い、か」


「うむ。魔の森という存在が無かったのなら動くかもしれんが、アレが存在する限り余の国が動く事はあり得んな。アレを放って置いて動くなど、あまりにも愚か過ぎるであろう」


「そうじゃろうな。魔物と一口に言っても、その強さは個体によって様々。未熟な冒険者一人で対処出来る魔物も居れば、熟練の冒険者が百人がかりでも勝てぬ魔物も存在し、時には万単位での軍勢ですら易々と粉砕する超常的な魔物も出現する魔の森。……厄介な存在じゃのぉ」


 コーターに代わって執事のサイモンとやらが作ってくれたカクテルを口に含み、ムーティッヒ王が妾の言葉に反応して甘いお酒を飲んだとは思えぬ苦い表情を浮かべた。

 それもその筈、妾の言葉通りで厳しい現実をムーティッヒ国は建国からずっと抱えているからだ。

 魔の森は非常に広大な土地じゃと言われており、一説には魔の森の広さは人類の生存圏の十倍とも言われておる。他には、十倍ではなく百倍であるとか千倍であるとか、そんな風に様々言われておるが、現状分かっているのは想像も出来ない程に広大な森が広がっているという事。そしてもう一つ分かっておるのが、現在妾達人類が知り得る魔物の種類が全体のほんの一握りである事。

 その証拠に、毎年新種の魔物が発見されており、多い年には八十種の新種が発見された年もあるのじゃ。勿論、その年の魔物被害は酷かった。魔の森に隣接するこのムーティッヒ国の被害と言ったら、そら凄惨たるものだったと聞き及ぶ。


「ムーティッヒ王よ、危険な魔物が蔓延る魔の森の防衛者よ。どうじゃろうか、妾の国と同盟でも結ばぬか?」


 本当はパーティーを満喫した後に提案するつもりじゃった。しかしのぉ、コーターを欲しいと願う妾の独占欲が顔を出しかねん故に、思わず言うてしもうた。

 すると妾の提案を耳にしたムーティッヒ王は、自身の耳が信じられぬとばかりに驚きを露にして固まってしもうておる。それはムーティッヒ王だけではなく、妾の護衛達もそうであるし、ムーティッヒ王の近衛達もそうであるし、コーターの執事であるサイモンも同じであった。

 妾はそんな者達の反応が当然であるが故、彼らが落ち着きを取り戻すのを待ち、数拍を空けて更に言葉を紡ぐ。


「全知神教の力と大国としての力の両方を持つ妾は、この国の一助となるのは明白。この国は不倶戴天の魔の森に全力を集中していたいじゃろう? 数年に一度という頻度でスタンピードが発生するのじゃからな、人類国家と戦争していて何になる? 今回ムーティッヒ国は異例にも反撃したが、いつも反撃している訳ではない。今回が特別じゃったのだろう事は明らか。恐らく、近隣諸国への脅しの為に反撃したのであろう?」


「本気か? ……その言い方から察するに、国家間の問題は任せろと?」


「そうじゃ。妾が国家間の問題は全て承ろう。そうすれば、ムーティッヒ国は強大な魔物を相手に集中出来る」


「確かに余の国からしたら有り難い申し出。しかし、その対価を求められればとても怖い。簡単には首を縦に振れんな。

 何を欲して……見返りに何を望んで同盟を?」


「妾が望むは心」


「心、とは……?」


「豊かな心じゃ。他者を思い遣る慈しみある心、苦しむ者に手を差し伸べてやるゆとりある心………大国になって久しい妾の国がいつの間にか失っていた心。その心が妾は欲しい。

 そしてその心を取り戻す為には、コーター卿の生み出す文化面での発明が不可欠じゃと考えておる。肉体だけではなく、心までも満たされたなら、人は他者に優しくなれる」


「それはつまり………コーター卿の発明する物を共有する事を対価に、互いに手を結ぶという意味か?」


「そうじゃ。そうしてくれると嬉しいのぉ」


 妾は気負う事なく頷いて見せると、ムーティッヒ王は真剣な眼差しで思考の海へと潜って行ったのが妾にも簡単に察せられる程に理解出来た。

 そしてムーティッヒ王が何と答えるかと誰もが緊張する中、軈て決心したかのような鋭い眼差しをしたムーティッヒ王が厳かに口を開く。


「同盟の話だが、有り難く受けよう」


「本当か?! この場限りの口約束ではなく?!」


「余はムーティッヒ国の王。大いなる責任と義務を受けし者として、一度吐いた言葉を取り消すような軽はずみな事はせぬ。

 約束しよう。互いに胸に抱く理想の為、互いに守るべき民の為、ここに同盟の誓いを立てようではないか」


「そうかそうか! ムーティッヒ王よ、妾の提案を受け入れてくれた事に感謝する。これで妾の国の民も、昔のように幸せが何だったかを思い出せる筈じゃ」


 互いに笑みを浮かべての力強い握手を交わし、執事が新たに作ったカクテルで乾杯する。これで妾の国は漸く変われるだろうと思いながら。

 権力に溺れ、富に溺れ、他者への思い遣りを忘れた貴族や司祭や司教に民草。苦しむ者を助けぬばかりか、苦しむ者を新たに生み出す愚か者達。

 国が大きくなるにつれ増えたそういう者達は、権力者に限って言えば既に妾が大方は排除した。そう、膿は出しきったつもりじゃ。

 なればこそ、ここでコーターの生み出した数々の代物が安く手に入るようになれば、汚れた水を抜ききった湖に綺麗な水を注ぎ入れるかのように、きっと聖教国は美しい国へと生まれ変われるじゃろう。

 いや、生まれ変われるのではない。古き良き時代の、妾が子供じゃった頃の、優しさに満ち満ち溢れていた素晴らしい国へと立ち戻るのじゃ。

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