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現代知識こそが最も有能!   作者: 蘇我栄一郎
持ち得る知識をフル稼働
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二十五話ですぜ、旦那!

 兵士五百名、騎士二百名、近衛兵百名、聖騎士五十名、戦闘員の総勢八百五十名を引き連れ、ムーティッヒ国を目指し聖教国を発ってから四ヶ月後、漸くムーティッヒ国の王都へと辿り着いた妾は、ムーティッヒ王から国賓として迎え入れられると共に城の一角を貸して貰い、長旅の疲れを癒す為にソファーへと身を委ねる。そして室内を見渡し、妾が自身の城で使用している調度品と同等の代物がある事に驚きつつ、それに感心しながら香水を振り撒いた。

 すると、その途端に室内には花畑に立ち入ったのかと勘違いしてしまう程の鮮やかな香りに包まれ、妾は至福の時を得るに至る。


「あぁ、この至福の時が何よりも妾の心を落ち着かせてくれる。ほんに心地良いのぉ」


 やはり香水は素晴らしい代物じゃ。こうやって旅をして改めてそれを実感した。

 全知神教の宗主でありながら聖教国の国主となってからというもの、妾が自国を出る事は久しくなかった。恐らく百年ぶりになるのじゃろうその旅は、余りにも久し振りの事で心身共に疲労困憊になる程。

 しかし、この香水があるお陰で、妾の心と身体の疲れが幾分かマシになる。最早この香水という存在は、妾から切っても切り離せない代物となっており、もしも香水が無くなってしまえば政務も満足にこなせなくなってしまうじゃろう。


「それにしても、中堅国家と言われるムーティッヒがこれ程に栄えておるとはのぉ。これもコーターとやらの影響か?」


「いえ、報告によるとコーター卿が現れるより前からだそうで、それはつまり現王による政策のお陰でしょう」


「ほう。やはり噂の通りに賢君という事か」


「そうでしょうな。ムーティッヒ史上歴代最高の王だと言われておりますれば、中堅国家でありながらこれ程に栄えていても不思議ではないかと」


「うむ。中堅国家だからと言って侮れんのぉ……そして、出来れば妾の配下として欲しい人物じゃ」


「教皇様、此処は自国ではありませんので……」


「分かっておる。言葉に気を付けろと言いたいのじゃろ?」


「はっ」


 シバの言葉はもっともで、確かに発言には注意せねばならなんじゃろう。ムーティッヒ国の裏で暗躍する忍の腕は、中々に侮れないとの噂じゃからな。

 しかし、それは此方側とて同じ事。兵士に紛れた忍を数十人連れて来ておるし、迂闊にムーティッヒ国の忍が接近して来る事はなかろう。


「シバよ、ムーティッヒ王との顔合わせは?」


「此方側の長旅を考慮し、今日は城内でゆっくり過ごすと良かろうと言われておりまして、ムーティッヒ王との面会は明日の昼食後となっております」


「流石に礼儀を知っておるようじゃな。その辺の中堅国家ならば、到着した直後に顔合わせというのも珍しくはないのに、そこはやはり同じ中堅国家でも大きく違うのぉ」


「仰る通りかと。それに、ムーティッヒ国は人類が住む領域の端も端。その危険な地を長らく守護しておりますれば、そこはやはり他者を慮る事が出来る気風が育つのではと考えられます」


「土地柄故に、という事か。良い国じゃのぉ」


 魔物が跳梁跋扈する領域と隣り合わせになるが、それでも住む者達が手と手を握り合って日々を過ごすムーティッヒ国は幸せであろうと思う。妾が理想とする一つの形であるな。

 それに比べて妾が統治する国はと言えば、他者を安易に蹴落とす者達ばかりが目立つ。いや、他者を蹴落とすという行為そのものは競い合う場面に限って言えば別に悪い事ではないのだが、金貨数枚の為に他者の命を簡単に切り捨てる輩が多すぎるのが問題なのじゃ。

 互いに手を握り合って進んでいれば、きっとより良き日々を過ごせたかもしれんのに、その可能性を目先の欲にかられ簡単に放棄してしまう。そんな者達が多いのが非常に悲しい。

 妾が子供の頃、聖教国は小国でありながらもっと豊であった。確かに食べる物は豊さとは程遠いものであったのは素直に認めるところじゃが、人の心だけは本当に豊であった。

 それが変化したのは、妾が全知神教の司教となったぐらいからじゃろう。徐々に大きくなっていく国に従って、豊になる懐事情とは裏腹に人々の心は貧しくなっていった。

 そして妾が全知神教の宗主となった時には、既に民草の心は余裕の無い状態となっており、欲を満たす為に日夜蹴落とし合いが繰り広げられる日常となり、心の豊さとは無縁となってしまった。


「どこで間違ったのじゃろうか。妾は昔の聖教国を取り戻したい」


「教皇様……?」


「いや、何でもないのじゃ」


 今から三百年程前の良き日々を思い返し、思わず漏れた本音。シバには分からぬ遠い過去の話であるからのぉ、言っても分からんじゃろ。

 不老の身となって久しい妾には、こんな気持ちを理解してくれる者など聖教国には一人も居ない。それが悲しくもある。

 だが、そんな妾じゃからこそ、昔のように隣人を慮る事の大事さを説いていきたいと思っておる。その為にも、その一助となるだろうコーターの知恵が欲しくて堪らないのじゃ。


 ともあれ、そのコーターにはムーティッヒ王との面会で会える可能性があるのじゃし、今はその時を楽しみにさせて貰うとしよう。

 そう思いムーティッヒ城内の一角で妾は旅の疲れを癒し、その翌日にムーティッヒ王との面会となったのじゃが、しかし残念ながらコーターとは会えなかった。

 勿論、賢君として名高いムーティッヒ王に会えた事は有意義な時間じゃったと認めるし、あの王ならばコーターの知恵を欲望のままに使う事もなかろうと確信出来たのでそれは良かったのだが、表向きの目的であるコーターへの謝罪として会えなかったのは残念じゃ。

 しかし、密かにそう思い落胆する妾に、ムーティッヒ王から予想もしなかった提案がされた。それは、ムーティッヒ王と共にコーターが開くパーティーに参加せぬかという誘いであった。

 これは幸運としか言いようがなく、一も二もなくその提案に飛び付いた。そう、これは神からの思し召しなのだろうと確信して。


「いやはや、運が向いてきましたな」


「うむ、その通りじゃ。同盟を本気で結ぶべきかどうかを見極める最良の時を得た事になるのぉ」


「……コーター卿が有能であれば、本気で同盟を結ぶおつもりなのですか?」


「勿論じゃ。聖教国の民草は餓えに苦しむ事は無くなったが、心に本来あるべきゆとりを失った。誰も彼もが上ばかり見て、欲に支配されてしまっておる。

 そんな現状を払拭するには、やはり心にゆとりを取り戻させる事が何よりも肝要じゃと妾は考えておる。それを実現させるには、コーターの文化面での知恵が必要となるじゃろう。心に豊さを与えれば、きっと手と手を握り合って物事に従事するという行為が大切なのじゃと気付いてくれる筈じゃ」


「欲によって向上心が増すというのは良い事なのでは?」


「うむ、確かにそなたの言う事にも一理ある。しかし、何事もバランスじゃ。上ばかり見ておっては下が疎かになってしまうように、欲ばかりかいておっては心にゆとりが無くなる。ゆとりが無くなれば何事にも争いが目立つようになり、そうなれば不幸ばかりが目立つようになるじゃろう。

 欲が悪いとは言わん。しかし、欲に支配されてしまえば、その結果が近年の聖教国へと繋がるのではなかろうか。故にバランスじゃ、バランスが大切なのじゃ」


「そのバランスを取るのがコーター卿だと?」


「そうじゃ。菓子でも香水でも何でも構わん。見て、聞いて、嗅いで、味見して、少しでも感動出来たのなら、その瞬間、心にゆとりが出来る。そのゆとりは他者を思い遣る余裕を生み出し、幸せが一人から二人へと増える。そしてその幸せは、鼠算式に増える事となろう」


「それが教皇様の思い描く国の形……」


「昔良き聖教国の姿。妾の理想じゃ」


「良い未来ですな」


「そなたにも分かるか?」


「父も母も出世の事しか考えず、いつも裏で権力者達と何やら悪巧みばかりをしていて、家には独りきりでした。無論、メイドや執事などは居ましたが、彼らは高い給金だけが目的で仕えているだけで、本当に孤独だったのです。それが私の幼少期でした。

 そんな私が全知神教へと入信したのは十二歳の時で、ほぼ両親から強制的に入信させられたのが理由となります。それから何故か分かりませんが、あれよあれよという間に私は不自然に出世すると共に、当時最高の治癒師として活躍されていた貴女様の傍付きに任命されました」


「懐かしいのぉ」


「お偉い司祭様や司教様の誰もが上を見ている中、ただお一人だけが下を向いて、民草へと笑顔を向けている。そんな貴女様を間近に見て、私は初めて愛情というものを知りました。

 そんな私だからこそ理解出来る部分があるのです。教皇様の言わんとしている事の意味の一部が」


「ほうほう。して、その一部とは?」


「心にも栄養が必要だという事。でなければ、幾ら腹が膨れていても生者の姿勢は荒れる。生きる姿勢が乱れれば、国が荒れてしまう。

 教皇様はそれを改善したいとお考えなのでしょう?」


「フフフ、面白い考え方じゃ。言語化するのに少し違いはあれど、確かにそなたの言う通り。妾の目指す理想の形じゃな」


 シバは面白い奴じゃな。ほんに面白い奴じゃ。

 こ奴が傍付きとなったのは妾が密かに手を回した結果なのじゃが、やはり間違いではなかった。同じ方向を見る者が傍に居れば、これ程に心強い事もない。

 全知神教の筆頭治癒師の一人も、こ奴のように考えられるようになると良いのじゃがな。そうなれば更に全知神教の落ちた評価も上がるのじゃが。

 しかしのぉ、アレは酷くプライドが高い。実力がそこそこに高いのは良いのじゃが、そのせいで他者を見下すようになってしもうておる。

 妾が直々にそのプライドをへし折って矯正させるのも一興じゃが、それだと高いプライド故に反発しかねんしのぉ。


「それはそうと、あの問題児はどうしておる?」


「教皇様、あの方も三十二歳になりますので、子供扱いはお控え下さい。また臍を曲げられますぞ」


「妾からしたら誰でも子供じゃ。そうであれば子供扱いするのは当然であろう?」


「いや、まぁ……それはそうなんですが」


「フフフ、良いではないか。して、奴は?」


「……ムーティッヒ城に勤めるメイドをナンパしておる様子」


「何をしておるんじゃ、あ奴は? 他国のメイドに手を出すとは流石の妾も考えもせなんだぞ」


「申し訳ありません。用があるのでしたらお呼びしますが?」


「良い。今は放っておけ。

 はぁぁ。プライドだけが高くなっておるのなら扱い易いのじゃが、そこそこ治癒師としての腕も立つのが問題じゃな」


「教皇様から見るとそこそこなのでしょうが、筆頭治癒師の中ではトップですので、余りそう仰られるとまたぞろ神殿に引きこもりになりますぞ」


「良いではないか。それでまた実力が上がるのであればな」


「ですが、あの時のようにまた信徒達が騒ぎ始めたら厄介です」


「構わん構わん。誰ぞあ奴を矯正させる強者が現れんじゃろうかのぉ」


「教皇様が治癒師としてのお力を見せるしかないのでは? そう易々と優れた治癒師が現れるとは思いませんので」


「妾が力を見せても納得せんじゃろう。治癒師として別格過ぎるからのぉ」


「……確かに」


 他国のメイドを口説く治癒師なぞ聞いた事がない。これ以上に全知神教の恥を広められると困りものじゃ。

 しかし、それを咎めると臍を曲げるじゃろう。あ奴は治癒師としてはそこそこなのじゃが、そのそこそこに優秀な腕のせいでプライドが高いのが玉に瑕。

 同程度に腕の立つ治癒師でも居れば、心を入れ替え昔のように素朴な少年に戻るのじゃろうが、それが中々に難しい。そこそこの治癒師というのがそもそも少ないのだから、仕方ない事ではあるのじゃがのぉ。

 分野が全く違うもののコーターがその一助となればと思い連れて来たが、分野が違い過ぎるだけに望薄じゃろうな。そこまでは簡単に事が運ばんじゃろう。

 それは兎も角、コーターの開くパーティーが実に楽しみじゃ。噂によると人前に立つのを嫌うらしいが、そんなコーターが自分からパーティーを開くというのだから尚の事楽しみになる。

 文化面での素養を見せるコーターならば、きっと心豊になる食べ物なりを出してくれるじゃろう。これまでの発明から考えて、恐らく菓子類になるのじゃろうが、それが今から楽しみでならない。





 あの教皇様が謝罪に出向くと聞いた当初は、やはり素晴らしいお方だと見直した。馬鹿な司教を始末する為の策としては不十分で俺としては不満だったのだが、その先を考えているとは思わなんだ。

 馬鹿の後始末に教皇様自ら出向くとなれば、その事実を聞いた信徒の思いは少しだけでも現状よりは良くなるだろうし、新たな信徒を望む機会にも恵まれるだろう。

 そろそろ調子に乗った治癒師という皮を脱ぎ捨てても良いのではないかと、そう思わざるを得ない。何せ、聖教国内に居る馬鹿は軒並み教皇様が処罰されたし、俺が馬鹿どもの撒き餌となる必要も無くなったと思えるからだ。

 そう、俺はクズを排除する為にお調子者の治癒師を演じていたのだ。俺が動けばそれを隠れ蓑として馬鹿が動き、そうすれば馬鹿を処断するのに都合が良いので、これまでひたすらお調子者を演じ続けていた。

 それもこれも幼い子供の頃に、当時は筆頭治癒師として活躍されていた現在の教皇様に助けて頂いたその恩をお返しする為。病に苦しむ俺は、教皇様に助けて頂いたからこそ今も生きていられる。その恩は計り知れない。

 とは言え、そろそろその仮初めの自分を捨てる時期にきているのかもしれない。少なくとも、本山に住まう馬鹿は全員排除する事に成功したからである。

 しかし、どうもそうは行かない様子を感じているのも事実。


「ロベルト、ボイス」


「「はっ」」


「奴らはどうしてる?」


「兵士や騎士達に混じって休んでおります」


「おかしな動きはありません」


「……そうか」


 俺が仮初めの自分を捨てられぬ大きな理由は、どうも聖騎士の中に怪しい者達が居るからだ。実力が高いせいで迂闊に排除出来ない怪しい者達、ムーティッヒ国へと教皇様が謝罪に出向くと決めた瞬間から、その怪しい者達が不自然に動き始めた。これでは安易に仮初めの自分を捨てられない。

 それ故に未だお調子者の皮を被り続けているのだが、奴らは俺に近付こうともしない。普通の悪人なら、俺に近付いて何やら利益を得ようと画策するものなのだが、一向にそんな姿勢を見せないのだ。

 正直言って非常にやりづらい奴らだというのが俺の受けた印象である。中々尻尾を掴ませない奴らには、かなり手こずっていると言わざるを得ないだろう。


「奴らは何が目的なんだ? 教皇様のお命かと危惧していたが、今まで一度もそんな素振りを見せんし、そのチャンスがあったとしても一切動かん。ならば何が目的なのだ?」


「発言のご許可を願います」


「申せ」


「はっ。恐らくはコーター卿が目的ではないかと」


「コーター卿が……? ふむ、その真意は?」


「そもそも奴らの正体が不明ですが、そんな奴らを仮に何処かの国の忍、或いは草と仮定した場合、奴らの任務内容は情報収集にあるのではと考えられます。それ故に、これまでは何もしなかった。いや、情報収集はしていても、それ以外の事は何もしなくて良かったのではないかと愚考致します」


「それで?」


「それが今回、これまでとは打って変わって何やら活発に動き始めた。教皇様がムーティッヒ国へと謝罪に出向くと公式に発表したその直後から。

 そこから考えられるのは、奴らの所属する国から指令が出されたからではないかと推測されます。そしてその指令が、コーター卿の暗殺なのではと。

 何故コーター卿の暗殺という考えに至ったのかと申せば、そこはムーティッヒ国へ堂々と入れるチャンスがあり、また、貴人に面会する場面が容易に得られるからでもあり、暗殺して捕まったとしても聖教国の聖騎士として入国しておりますれば、それはつまり聖教国のせいに出来るからであります」


「ふむ。コーター卿の噂を聞き始めてから随分時が経つ。……五年、いや六年前からか?

 突如現れた天才発明家。今や聖人とまで呼ばれる御仁だったな」


「はっ。少々調べましたところ、コーター卿がムーティッヒ国へと亡命したのが、現在から遡る事十年程前になり、世間にその名が知れ渡ったのが今から六年程前になります」


「初めてコーター卿の名を聞いた時の発明が、確か香水やら薬玉やら石鹸に関してだったな。その中でも最も素晴らしいのが、物質ではなく衛生観念という概念そのもの。正に至言、正に奇跡。衛生観念に従って暮らすだけで、死亡率が極端に下がった。

 そんなコーター卿の暗殺を目論んでおると?」


「それ以外に考えられるでしょうか?」


 人類への神からの思し召しだとしか思えないコーター卿を暗殺するというのは、はっきり言って愚の骨頂。本当に暗殺を企んでいるとするなら、神に仕える身として絶対に止めねばならんだろう。

 だが、果たして奴らの目的が本当にそうなのだろうか。俺には他に目的があって動いているようにしか思えない。

 確かな根拠がある訳ではない。これはあくまでも勘に過ぎない。

 しかし、論理的には確かに、部下のロベルトが推測した通り、コーター卿の暗殺が高い確率を占めているだろう。


「ボイスはどう思う?」


「確かに、暗殺という可能性が最も高いかと。しかし、あれ程に優れた発明家を安易に殺すのかと考えれば、私なら絶対にしませんね」


「ならばどうする?」


「暗殺と見せ掛けた誘拐を試みます」


「面白い。その根拠は?」


「コーター卿の発明は、表裏一体です。人を生かす発明もあれば、その反対もあります。その筆頭が殺戮兵器。傭兵を上手く運用する国二ヶ国、重歩兵で有名な国一国、その三ヶ国を容易く蹴散らしたのはコーター卿が生み出した殺戮兵器によって。

 戦争によって他国から利益を強制的に奪う事も可能、そうしなくとも自国を富ます事も可能、そしてその両立も可能。そんな御仁を、みすみす手放すというのは至極勿体無い。

 ともすれば、先ずは殺すのではなく手に入れる方法を試したくなるのが人情ではと、そう愚考致します」


「ロベルトの考えもボイスの考えも一理あるな」


 両者共にその考えは素晴らしい。俺も二人と同じ考えを抱いていた。ここに三人も同様の考えを抱いているのだから、奴ら怪しき者達を統率する者も同様の考えを持っていて然るべきである。

 ならば、俺はどう行動すれば良いのか、という考えに至るのだが、これが中々に難しい。安易に動けば大きな隙を生む事になってしまうのだから当然だ。


「……良し。ならば両案の間を取り、パーティーでは暗殺と誘拐を阻止すべく動いてくれ」


「武器の携行は許されているのでしょうか?」


「うむ、ロベルトの懸念する通り、武器の携行は許されておらん。恐らく、事前にチェックされるだろう。

 しかし、暗器の類いまではチェックされんだろうからして、チェックされると言っても目に見て武器の有無を確かめられる程度であろう」


「では、見落とされがちな武器のみで対策を立てるという事ですね?」


「そうだ。お前の得意とする分野な訳だ。

 ボイスはどうだ?」


「はっ。私は槍が得意でありますので少々不安ですが、それは敵も同じ土俵に上がる訳でもありますので、問題無いかと考えます」


「良し。ならばコーター卿の護衛は任せたぞ。あの御仁を死なせるなよ。そして誘拐もさせるな。コーター卿は天の思し召しかもしれんからな」


 今ではユートピアと呼ばれる国が大昔に存在した。かつて日本国と呼ばれた国の事だ。

 その国が生まれたと同時に、全知神教が生まれている。それはつまり、日本国の初代王が全知神教を組織し広めた御仁だという事。

 日本国の初代王は、正に神が地上に遣わした人間だったのだろう。それが全知神教の司祭や司教達の密かな考えだ。

 俺もその考えに一票を入れる身で、そうであるからこそ、まるで日本国の初代王を彷彿とさせるコーター卿もまた、神が地上に遣わした人間である可能性が高いと感じている根拠でもある。

 全知神教の総本山には、全知神教の組織された当時の記録が克明に記された書物が数多く残っており、それは一部の者のみしか知らされていない。

 その書物によれば、日本国の初代王はコーター卿が世に出した薬玉に似た代物を考案し、民草に安く提供していたと記されてある。そして、石鹸に酷似した代物さえも。

 そんな代物の数々を世に広めているコーター卿は、俺のように日本国の一端を知る者からすれば天の遣いにしか思えないのだ。

 かつて地上に遣わされた日本国初代の王は、本によると神からの言葉を残している。


『天照大神が仰られた。魔物に対抗する術を人間に広めて欲しいと。

 故に私は、広めよう。魔物に対抗する術を、その一端を』


 これが日本国の初代王が残した神の御言葉。そう、日本国の初代王とは、神の遣いであったのだ。

 それを邪心に捕らわれた馬鹿どもが現れた事で、神の御使いは命を散らしてしまい、魔物への対抗策が失われてしまった。

 そんな事態を憂いた神が、再び地上へと遣わしたのがコーター卿だとしか俺には思えない。恐らく、教皇様もそう考えているのではなかろうかと思う。

 それ故に護らねばならん。またぞろ馬鹿どもが動かんとも限らんし、実際に動き始めておると聞くしな。

 今回の奴らがその馬鹿(帝国)どもの手下かは分からんが、兎も角あまねく全ての馬鹿を止めねばならん。勿論、コーター卿がたまたま日本国初代の王と似た代物を生み出しただけかもしれんのだが、それでも苦しむ民草を助けているのは事実。

 俺の仮初めの姿が役立つなら本望というものだ。本来は教皇様の為にと思い奮闘してきたが、それがここに至って重要な場面で役立つとは思わなんだ。

 しかしこう考えていると、嫌に都合が良く感じる。まさか教皇様は、全てを見抜いてこの場に繋がるように仕向けたのではと、そう思わざるを得ない。

 考え過ぎだろうかと思うものの、しかしこうも都合が良いと疑問も浮かぶのが当然。

 であるならば、教皇様にお知らせしておくべきかもしれない。


「教皇様にご報告すべきだと思うか?」


「……しておくべきかと」


「私はやめておくべきかと」


「ふむ。ボイスは反対のようだが、ロベルトは何故?」


「事が一大事になる可能性があるからで御座います」


「道理だな。ボイスは何故反対なのだ?」


「折角偽りの姿を演じているのですから、それが表に出るのは勿体無いかと」


「それも道理だな。奴らは俺をお調子者だとしか認識しておらんだろうに、その利を捨てて動くのは勿体無い。

 ……良し、今回の行動は秘密にいたそう。それで処罰されるのならそれも良い。教皇様の為、そして天の遣いと思われるコーター卿の為になるのなら、俺の身一つなど軽い」


「「お供します」」


「ハッハッハッ! 心強いな! 頼んだぞ!」


「「はっ!」」


 ロベルトとボイスには感謝しかない。俺が全知神教に入信して、治癒師としての才能が花開いた当時に二人が傍付きとして仕えてからというもの、面倒をかけてばかりであったが、こうも言われると心底二人の存在が有り難いと思える。

 だからこそ、絶対に止めねばならんな。馬鹿どもの思い通りにしてやるものか。

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