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現代知識こそが最も有能!   作者: 蘇我栄一郎
持ち得る知識をフル稼働
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26/31

二十四話ですぜ、旦那!

 全知神教の教皇でありながら聖教国の国主でもあるアナスタシア教皇が、自らムーティッヒ国へと謝罪の為に来る。その事実が噂となって浸透してから、王都は非常に騒がしくなった。主に騒がしいのは平民であるが、その平民に紛れて裏の者達がコソコソと忙しなく動き回っている。

 その事実に辟易としつつ、私は旦那様の為にといつもの仕事に集中していた。とは言っても、その仕事は表のそれではなく、忍としての仕事である。

 やはり教皇が自ら出向くというのがそもそもインパクト大であり、各国の草や忍が情報収集に躍起になっているので、当然旦那様へと繋がる者達にはそれとなく裏社会の人員の影が目立つようになった。


「実力は低いようですが、こうも数が多いと捌ききれませんね」


 沢山の部下から上がって来た情報を纏めつつ、私は思わず弱音を吐いてしまう。そうなってしまう程には多い数の裏社会の影が目立つのだから、こればっかりは仕方ないだろう。

 だがそんな私の様子とは打って変わって、館の中では今も厳かな雰囲気溢れる音楽が流れており、そのお陰で幾分かは落ち込み気味な気持ちが払拭されているのは否めない。

 館に流れている曲は旦那様が作曲された曲であり、それを楽団の者達が一生懸命練習に励んでいるのだ。


「まさか音楽にまで精通してらっしゃるとは思わなんだ。しかも、今までに聞いた事も無い次元の曲を三曲も作曲されたばかりか、そのどれもが素晴らしい。そして極めつけは、あのセラハの誘惑という曲。あの曲は旦那様の歌声も相まって、曲自体の素晴らしさが更に相乗効果で引き立っている」


 今回、旦那様が開くパーティーは伝説となるかもしれない。たかがパーティーで大袈裟だと思う者も居るかもしれないが、絵画、音楽、料理、この三つが合わさって生み出されるパーティーは至高のものになるだろうと私は確信している。

 目で癒され、耳で癒され、舌で癒されるそれは、正に天国そのもの。きっと誰もが同じ感想を抱くだろうからして、決して大言壮語とは思えぬ未来。

 あちこちで開かれるパーティーは今後、これまでとは違って大きく形を変える事になるだろう。旦那様のパーティーがその切っ掛けになるのは間違いない。

 ともあれ、そんなパーティーを開こうとしている旦那様の邪魔は誰にもさせる訳にはいかない。それが私の役目なのだから当然だ。

 その為にも私は部下への指示を紙に記すと、それを綺麗に折り曲げて鷹の足に結び付け空へと放つ。これで取り敢えずは問題無い筈である。


「さて、これで裏の仕事は一先ず終わりですね。後は、ジルベルト様の様子を見に行くとしますか」


 現在、旦那様の館には客分としてジルベルト様とジルベルト様の婚約者であるハンナ様が共に宿泊している。病気によって常にバタバタと手足を動かすその姿は実に奇妙なれど、その愛するハンナ様を献身的にサポートしながらジルベルト様は旦那様の館の一室にて滞在しているのだ。

 その二人が居る一室へ辿り着くと、私は執事として恥ずかしくない姿勢でもって入室の許可を願う。そしてその許可が得られると、静かに扉を開きながら中へと入った。


「お早う御座います。この館には慣れましたでしょうか?」


「サイモン殿、何から何まで申し訳ない」


「いえいえ、旦那様が貴殿方を救うと約束し、世話を私どもに任せたのですから当然の事。出来る事がありましたら、何でも仰って頂いて結構ですよ」


「はっ。それでしたら、あの……」


「どうぞどうぞ、遠慮は無用にお願いします」


 愛する女性へとチラリ視線を向けつつ、ジルベルト様は実に遠慮がちに話始めた。


「コーター様が開かれるパーティーの最後ではハンナも会場に行く事になっていると聞き及んでいるのですが、それは必要なのでしょうか? ハンナはこの病になってからというもの、人目につくのを嫌がっていまして━━」


「ジルベルト、私は構いません。それが貴方の為になるのなら、見せ物になるとしても気にはしません」


「し、しかし、前はあれ程に━━」


「ムーティッヒ国でも公爵という高い御身分の方にお仕えするチャンスなのです。私の事など気にしないで下さい」


 ふむ。何やらハンナ嬢は勘違いしている御様子。恐らく、旦那様がハンチントン病に罹患した者をパーティーの場で見せ物にするとでも思ってらっしゃるようだ。

 これは旦那様に仕える私としては、実に許せぬ勘違い。本当なら喝を入れるところではあるが、彼らはあくまでも客分である故に、その勘違いを優しく諭さねばならない。


「ハンナ様は旦那様の事を勘違いしておられるようですね。旦那様には、貴女を見せ物にする意図など微塵もありませんよ。世間にはそのようなクズも居ますが、旦那様は人格も良く頭脳も聡明で人の上に立つに相応しき御仁ですので、クズと一緒にされてしまっては困ります。

 ハンナ様をパーティーに出席させる理由は、現在ハンナ様を苦しめている不治の病を治す瞬間を複数の者達に見せる為。そしてそれを証拠として、治療法を世間に広めてハンチントン病を……つまりは舞踏病を撲滅する事が目的なのです」


「し、失礼しました! 私は公爵様を侮辱するつもりはありませんので、処罰するのなら私だけに!」


「どうも貴女は早とちりするきらいがある御様子。此方には貴女を処罰するなどという考えは御座いませんよ」


「そ、そうですか……」


「この際ですから、何かご質問があれば全てお答えしますよ。さすれば、旦那様のお考えの一端でもご理解なさる事が可能となりましょう」


 病の症状によって手を終始バタバタとさせながら、しかしその姿とは正反対にハンナ嬢は少し考える様子を見せる。そして徐に訝かしむような表情に変化したかと思えば、恐る恐るという感じで口を開く。


「私の病は、舞踏病です。世間では治療薬があると噂されていますが、それが嘘なのは知っています。希望という不確かなものにすがった者が流した噂であると、そう認識して理解しているのです。

 それなのにそんな私の病を本当に治せると? いいえ、とても治せるとは思えません」


「ふむ。ならばハンナ様、旦那様は何故貴女を救うと仰られたのだと思っているのですか?」


「………………」


「正直に言って頂いて結構ですよ。旦那様の事を良く理解して欲しいのが私の本音ですので、その為にも遠慮は無用です。きっと旦那様とてそう仰る筈ですし、少々の事ではお怒りにもなられない御仁ですのでお気になさらず」


「……では、はっきりと言います。公爵様はジルベルトの剣術の腕前を知って、自身の配下に加えたいと思っているからなのではありませんか?」


「なるほど。つまり、対人戦にて強者のジルベルト様を欲したが故に、あたかもハンナ様の治療に尽くした姿勢を見せる事でジルベルト様を確保しようとしていると?」


「はい。治療の結果はどちらでも構わないのでは? いえ、そもそも不治の病ですので、端から治す素振りだけ見せるつもりで治す気は最初から無いのではと、そう思っています」


 ハンナ様は賢い方だ。闘病生活のせいで少し自暴自棄になっているとも思えるが、しかし冷静に物事を見ており、また客観的に物事を見る目を持っている御様子。

 だが、それは旦那様を理解されていないからだとしか言いようがない。旦那様はそんな器の小さい者達とは一線を画すのだから尚更だ。


「ハンナ様が仰る通り、確かにジルベルト様の剣術の腕前は認めるところです。旦那様も認めている程ですからね。剣聖から剣の手解きを受けたと聞き及んでいますし、その力の一端を情報として知り得ていますので、その事は疑いようの無い事実として私も認識しております。

 しかし、努力されたジルベルト様に悪いかもしれませんが、ハンナ様の誤った認識を正す為にもこの際ですのではっきりと言わせて貰います。ジルベルト様、お気を悪くされるかもしれませんが宜しいですか?」


「某の命や誇りは、既に全てコーター様に捧げると誓った身。なればこそ、どうぞお気になさらず」


「ふむ。では遠慮無く。

 ……確かに先程も言ったようにジルベルト様の剣術の腕前は素晴らしいと言えるものの、それは旦那様からすれば子供のチャンバラと変わらぬ程度の腕前であると認識しております。それ故、どんな手段を講じても自身の配下に加えたいとは旦那様も思っていないでしょう。

 事実、旦那様は恐らく剣聖と斬り合ったとしても一対一なら確実に殺せる程の剣術の腕前ですので、既に配下としている者達に剣の手解きをすれば腕の良い剣術家には困らないのですよ。ですから、貴殿方を騙してまでジルベルト様を手中にしようなどとは毛筋も考えておりません」


 私が正直な感想を伝えると、ジルベルト様どころかハンナ様も目を真ん丸とさせ驚愕を露にした。

 それも当然であろうと思う。世間での旦那様の噂は、あくまでも発明家として優れた人物というものばかりで、それ以外には何も知られていないからである。

 とは言え、ムーティッヒ国で草として活動していたジルベルト様は兎も角として、ハンナ様はそんな旦那様の噂も知らないのだから、直ぐに真ん丸とさせていた目を細めて信じられないとばかりに怪訝な様子を露にした。


「信じられません。いえ、例え公爵様の実力が事実だとしても、ジルベルト並みの剣術家を育てるのには時間が掛かる筈。なのにそんなジルベルトを欲しない訳がない」


「中々に聡明なお方ですね、ジルベルト様。そんなハンナ様を婚約者に持てて鼻高々なのでは?」


「へ? え、えぇ、それはもう。……それはそうと、剣聖を殺せる腕前というのは事実なのですか?」


「事実ですよ。少なくとも、私はそう認識しております。お疑いならば、旦那様の早朝の訓練に参加されると宜しいかと。

 それとハンナ様は先程、ジルベルト様並みの剣術家を育てるには時間が掛かると仰られましたが、それは教える側の技量にもよるでしょう。実際、この館に護衛として雇っている者達はムーティッヒ国の近衛兵を秘密裏に身分を偽って護衛としているのですが、その実力者達十人の腕前はこの館に来る以前とは比べ物にならないくらいには飛躍的に高まっているそうです。この館に来てから旦那様に剣の手解きを受けた者達が、嘘偽り無く私にそう言っておりました。そしてそんな者達なのですが、その実力はジルベルト様を片手間に叩き伏せるぐらいで御座います」


 一切誇張した部分など皆無な私の感想を伝えると、今度こそ二人の表情は一致したまま固定される事となった。二人揃って口をポカンと開けたまま固まったのだ。

 流石に疑り深いハンナ様とて、実際に旦那様の訓練に参加すれば否応なしにその実力が分かると伝えれば反論する余地が無いのだろう。しかも、自身の愛する殿方のように優れた剣術家を量産する技量も伝えたのだし、その驚きは更に大きいと察せられる。


「そ、それでは、本当に私の病を公爵様は治すおつもりなのですか?」


「はい。旦那様は本気で御座います。それ故、数多の素材の採取を冒険者に依頼し、それこそ大量の資金を投入して薬を完成させられました。しかも、薬の調合や効果的な薬効の抽出などは全て御自身でやられた程です」


 事実を伝えるとジルベルト様は感動に打ち震え、ハンナ様は呆然とされている。ジルベルト様は旦那様が本気であるのを初めから知っていたからこその反応だが、ハンナ様は事ここに至って漸く理解されたからの反応なのだろう。


「あの、公爵様には薬師としての知識が?」


「少なくとも、私よりは。そして、その辺の薬師よりも遥かに深い知識をお持ちになっているかと」


「それでは、本当に? 本当に私の病は治るというのですか……?」


「それはパーティーの終盤になれば分かります。

 ですが、一つだけ宣言しておきましょう。後世の歴史において、恐らくはハンナ様の名が残り続ける事になるのは間違いないでしょうね」


 大粒の涙を流し始めたハンナ様は、次第に言葉にならない声を室内に響かせながら今までの苦悩を晴らすかのように長く、それはもう長く喜びの声を木霊させ続けた。

 そして勿論、そんなハンナ様をジルベルト様は優しく抱き締める。壊れてしまわないように、ソッと優しく。





 館の何処からか、女性の泣き叫ぶ声が響いている。苦痛に叫ぶ声ではない、苦悩して泣き叫ぶ声ではない、苦悶して泣き叫ぶ声ではない、喜びに噎(むせ)び泣く声だ。決して負の感情から発せられた声ではないのは間違いない。

 私はその声を耳にして、一組のカップルの明るい未来が見えた気がして嬉しくなり、メイド仲間へと励ましの意味を込めた激を飛ばす。


「ほらほら、まだ用意しなければならない物が沢山あるのよ! 急がないとお婆ちゃんになっちゃうわ!」


「でもぉ〜疲れちゃって〜力が出ないのよ〜」


 妙な科(しな)を作って反論するのは、私と同じく忍でありながらメイドとして旦那様を護衛する任務に就く同年代の女。裏仕事では人の首をポキポキ折っているクセに、普段の口調や仕草は妙に色気が目立つ。

 その仕草のまま旦那様へと媚びを売る姿を見ると、本気で殺意が沸く。もう何度となく想像の中では殺しているわね。

 とは言え、本人には旦那様に媚びを売っているつもりなど微塵も無いらしい。事実、彼女は誰にでも変わらぬ態度で接しているので、本当に媚びを売っているつもりは無いのだろう。


「ねぇ、ミレイ〜」


「何? 早くしないとサイモン様からお叱りを受けるわよ?」


「少しの休憩に話すぐらい良いじゃない〜」


「分かったわよ。それで?」


「サハラ砂漠って何処にあるのか知ってる〜?」


 妙に色気を漂わせる科を作りながら尋ねて来たアリッサの言葉に、私は疑問符を浮かべた。はて、そんな地名の砂漠があったただろうかと。


「セラハの砂漠は知ってるけど、サハラの砂漠は知らないわね。誰に聞いたの?」


「旦那様に砂漠地帯があるのかと聞かれたんだけど〜、その時にセラハという地名の砂漠地帯はありますよ〜って答えたの〜。それで〜、旦那様は「そうですか、有り難う」って言って〜、サハラ砂漠に似ていて都合が良いなって〜呟いてたから〜、その事が気になって〜」


 セラハの砂漠と聞いてピンときたのは、旦那様が作詞作曲された恋物語の曲。そのタイトルは、セラハの誘惑。

 吟遊詩人が唄うのとは違って、歌詞に抑揚があって耳に残るその歌は、私を含めた全てのメイドの心を鷲掴みにした。あれは殺人的な曲だ。裏仕事を生業とする私達忍の女性を対象とした、その裏仕事を躊躇させてしまうような、職業を放棄させてしまいかねない殺職曲だ。

 事実、既に私はセラハの誘惑という曲の虜になってしまっており、曲のような恋をしたいと想い焦がれ、暗い裏仕事を放棄したい欲求に支配されてしまっている。

 とは言え、そんな事は出来やしない。あくまでもこの気持ちは、乙女としての私の妄想に留めておかねばならないのだ。それが忍としての私の役目なのだから。


「あ〜、今のミレイってばスッゴい色気があったわ〜。旦那様の曲を思い浮かべてたでしょ〜?」


「な、何を言ってんのよ!」


「照れてる〜。でも分かるわ〜。私もあの曲を聞いて〜、恋したいなぁ〜って思ったもん〜」


 屈辱だ。アリッサに心の中を見透かされるとは、私とした事が少し色ボケしてしまったようだ。

 これでは駄目だと自分に言い聞かせ、私は直ぐにポーカーフェイスを取り繕う。


「私達は忍なのだから、そんな妄想はやめておきなさい」


「何で〜? 忍だって恋の一つや二つはしても良いじゃない〜」


「何言ってんのよ」


「私はしてるわよ〜。旦那様にときめいているものぉ〜」


「は?! な、何言ってんの!? そ、そんなふしだらな!」


「恋するのは自由よ〜? それに〜、旦那様って素敵じゃない〜? あの曲みたいに、甘い口づけをして欲しいわ〜」


「な、何、く、口づけ、甘い!?!?!?」


「きっと旦那様の口づけなんだから〜、スッゴい接吻に決まってるわ〜。それはもう身も心も蕩けるような甘い口づけよ〜」


 頬を赤く染めてそう語るアリッサは、それこそ乙女もかくやと言った様子だ。この色ボケめ、とそうなじりたい思いもあるが、しかし旦那様からの口づけを想像してしまい私もアリッサのように頬を赤く染めてしまう。

 駄目だ。身体全身が熱い。まるで湯気でも出ているのではと思ってしまう程には熱過ぎる。


「それはそうと〜、聖教国は何を考えているのかしらね〜?」


「……接吻……甘い……」


「ちょっと〜、ミレイ〜?」


「えっ!? な、何よ!?」


「聖教国が何を狙ってるのかって事よ〜」


「へ? あ、あぁ、そうね。確かに何を狙ってるのか疑問よね」


「あのマジックアイテムの効果は〜、人の怒りを触発させる代物だったんだって〜。司教の着ていた上着の布に縫い付けてた金色の部分がそうらしいわよ〜」


「それを身に付け、旦那様を怒らせるのが目的だったのよね?」


「そうらしいわ〜。それで暴れた旦那様の責任に対して〜、多分何かしらの要求をするつもりだったんだと思うんだけど〜、中途半端な策だと思わない〜?」


「まぁ、ね」


 確かにアリッサの言う通り、どうも変な話なのよね。それは認めるわ。

 旦那様を貶める目的だったのか、はたまた近年金回りの良いムーティッヒ国の資金を目的に画策した事だったのか、それとも他にもっと有益な目的があったのか。聖教国にはムーティッヒ国から放たれている草や忍が少ないので、推理するにも情報が少な過ぎて予測するのは困難。

 ただし、少ない情報の中であっても一応の推理をサイモン様がしていた。


「サイモン様がアナスタシア教皇の人となりを考えて今回の事を推理してたんだけど、もしかしたらあの馬鹿な司教達を消したかったんじゃないかって言ってたわ。近年の聖教国では沢山の司祭や司教が公に処罰されているし、その可能性は里長も認めてた。

 決定的な根拠は先に言った通りの他にもあって、司教の護衛が素人剣術丸出しの騎士達だって事。弱い騎士や少々の武術の心得がある程度の司教やシスター達なら、此方側に大きな損害を与えられないと考えていたんじゃないかって事ね。それで大袈裟な事にはならず、怒って暴れだした馬鹿を此方側が無傷で処罰すれば万々歳だと、そんな風に向こうが考えていたとしたら確かに一応の筋は通ってると思うわ」


「そうなの〜? でもでも〜、それだけが目的なら他のボンクラ司祭や司教みたいに公の場で処罰すれば良いんじゃないのぉ〜?」


「そうなのよねぇ。でも他に考えつかないし」


「う〜ん………。それなら〜馬鹿な司教を始末するのも目的の一つで〜、他にも何かしらの目的があったとしたら〜?」


「他にも? 一つだけの策ではなく、同時に幾つも狙っていた何かがあるって事?」


「馬鹿を始末出来てラッキー、賠償として何かを得られたらラッキー、みたいなぁ〜?」


 口調や仕草はあれだけど、確かにアリッサの言には納得出来るだけの根拠があるわね。要らない人間を始末出来て、尚且つ大量の金貨を賠償として得られたらお得だからだ。しかも、最近は聖人とまで呼ばれている旦那様の評判を貶める効果も狙えるしね。

 一度そう考えると他には何も思い浮かばなくなった。これがあるからアリッサは侮れない。サイモン様が旦那様の護衛の一人として呼び寄せるのも納得ね。


「それじゃあ、謝罪の為に自身から出向くのも何かの目的があるのかしら?」


「それはやっぱり〜、旦那様が目的じゃないかしら〜?」


「旦那様が?」


「薬玉とか〜石鹸とか〜衛生観念だとか〜、そういうので民衆からは聖人として認知されているから〜、そんな旦那様を引き込みたいとか考えてるんじゃないのぉ〜?」


「全知神教の信徒にするつもりって事?」


「どんな風に勧誘するつもりかは分からないけど〜、あり得るとは思わない〜?」


 あり得るっちゃあり得るわね。ムーティッヒ国には全知神教の信徒が少ないのだから、その足掛かりとして白羽の矢が立ったのが旦那様と考えれば、確かにこの国にも沢山の信徒を増やせるかもしれない。

 そう考えると何やら腹が立ってきた。旦那様を利用しようだなんて、そんな事は決して認められないわ。絶対に私が女狐の策を潰してやる。


「ちょっと〜、何で怖い顔してるのぉ〜?」


「旦那様を利用して信徒を増やすつもりかもしれないわ」


「教皇が出向く目的のこと〜?」


「えぇ、そうよ。旦那様を利用されるなんて許せる?」


「それは駄目よ〜、許せないわ〜」


「えぇ、えぇ、そうでしょうとも。パーティーが始まったら、女狐の傍を離れないようにしましょう。そして、旦那様を女狐の悪の手から護るのよ」


「分かったわ〜。全力で頑張るわ〜」


 二人揃って鼻息を荒くしながら、私達は仕事を再開した。絶対に女狐の思い描く通りにさせてやるもんか、そう胸に誓いを立てながら。

 パーティーが開かれるのは三日後と迫っている。そう、猶予は三日間だ。

 その三日の間に、あらゆる状況を想定したイメージトレーニングをする必要があるわね。きっとあの手この手で旦那様へと近付こうとする筈なのだから、少しでも勧誘する素振りを見せればワインを溢したりして邪魔してやるわ。

 他のメイド達にもこの可能性を伝えておかなきゃ駄目ね。私とアリッサだけでは心許ない。

 でも問題は、沢山の客が来る事。それ故、多くのメイドを女狐対策だけに充てられないという事実。メンバーは絞らなければならないだろう。 

ミレイ「セラハの誘惑……。聞き惚れてしまったわ」

アリッサ「最高よねぇ〜」

執事「はて? 何やらメイド達がいつにも増して恋バナをしているような?」


主人公が作詞作曲したとされる曲の正式なタイトルは、サハラの誘惑です。諫山実生さんという素晴らしいシンガーソングライターの一曲になりまして、聞くとその瞬間からファンタジーの世界に迷い込んだかのような印象を受けます。

一度でも良いので、是非とも聞かれる事をお薦めします。勿論、他の曲も素晴らしいですよ!

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