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現代知識こそが最も有能!   作者: 蘇我栄一郎
持ち得る知識をフル稼働
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二十二話ですぜ、旦那!

 ムーティッヒ国の建国に際して、少し面白い話を宰相様から聞いた。これが結構面白くて、ブランデー片手にかなり白熱しながら聞いた程の逸話になる。

 それと言うのも、建国当初のムーティッヒ国周辺には国が存在しなかったらしく、ムーティッヒ国自体も人の目に付かない場所に存在したらしいのだ。

 それの何が面白いのかと説明するなら、地下にムーティッヒ国が建国されていたからである。まだ王ではなかった初代ムーティッヒが、廃坑を買い取って山の地下深くに村と言える程の規模まで開拓し、そこに住み着いた。そして徐々にその規模は大きくなり、軈ては街と呼べるまでに規模は拡張される。

 普通、地下に国を築こうだなんて考えない。魔物対策としては確かに優秀な策であると言えるかもしれないが、その苦労は計り知れないし、実際、想像出来ない程に苦難の連続だったに違いない筈。

 それなのに初代ムーティッヒは、敢えて地下に拘って国を建国したらしい。そしてその策が功を奏して、ムーティッヒ国の存在は誰にもバレずに国としての力をひっそりと蓄える事に成功。

 そうやって力を蓄えたムーティッヒ国は、地上部分の山を利用して城を建築。次いで、城や街を囲む高い壁も山部分を上手く利用して建設し、一気に国としての外観を確固たるものにする。

 その名残で、今も地下部分はそのままに残されているそうだ。しかも、今もその地下部分は発展し続けており、国として秘匿しておきたい物や者達を地下に隠しているらしい。その最たる例が忍の里であったり国家事業の根幹だそうで、私が献上した品々も地下で製造させているようだ。因みに、地下に住む者達以外ではこの事実そのものが高い地位の者しか知らされていないらしく、勇者達であっても知らない事実になるそうだ。

 凄い話だ。他国ではあり得ないと断言出来る。

 その地下部分をまだ自分の目で見ていないが、余裕が出来たら見に行こうと思う。何せ地底国なのだから、興味がそそられない筈がない。


 ともあれ、そんな少し興奮する事実を知った私の日常は、これまでとは違って大きく変化していた。今までなら蓄えがあったので気にする必要が無かったのだが、懐事情が寂しくなったから忙しなく働く必要が出来たのである。

 それもこれも、これまでの献上で褒美を拒否する姿勢を見せていたのが原因なのか、今回のお酒やら湯沸かし石の献上、それと戦争で活躍した兵器の献上を合わせた褒美では、金銭では私が喜ばないと陛下が判断したらしく物品での褒美となったからに他ならない。

 今回だけは金銭が良かったのだが、自分からそれを言える立場ではないので仕方がない。そして今までの私が、褒美を極力拒否していたのも加味して、何より私自身が招いた事態だと言えるだろう。

 そんな訳で、今の私は久しぶりに純粋な鍛冶師として仕事をしている。勿論、売る相手は冒険者と傭兵だ。

 自身の館にある工房で武器を製造し、王都の一角に武器屋を開店。武器屋の売り子も雇い、必要な準備は済ませた。

 そして開店した武器屋は、異常な程に冒険者で溢れている。それこそ日中はひっきりなしに客が訪れる始末で、製造した武器は並べる端から全部売れていった。

 この現状が続くなら、半年もすれば私の懐は元通りになるだろう。自分でも驚く早さで売れていく武器を尻目に、私はそう実感していた。

 だが、何事もそうは上手くいかないのが現実というもので、やはりと言うべきか、何やら大小様々に問題が頻発するようになった。

 その最たる例が、商人である。私の武器はこの世界の基準からすると逸脱するレベルで高次元な代物となるので、個人向けにしか販売しない方針を取っている。他国の兵士や騎士が装備すると困るので、そんな者達に売るであろう商人には武器を流さないと決めていたのだ。この国の公爵としての立場があるので、これは絶対に貫かねばならない方針だと思っている。

 しかし、商人からすると金になるので、売って欲しいと本当にしつこいのだ。この国の商人ならまだ売っても良いと思えるが、他国の商人は別。絶対に国から命令されて来ているだろうと思えるだけに、やはり売る気は無いのだが、それでもしつこく頼んで来る。

 そんな商人以外にも、勿論問題があった。その筆頭が、他国からの弟子志願として来た者達だ。これも絶対に国が関わっているとしか思えず、当然断っている。

 だが、これも本当にしつこいので辟易としているのが現状。商人やら弟子志願の者達の応対だけに新たな店員を雇う必要があったくらいには、それはもう苦労している。

 この現状を聞いた者は、きっとそれぐらいならマシじゃないかと思うだろう。私としては頭痛がする思いだったのだが、確かにこれぐらいなら許容範囲内であったのだ。そう、これぐらいなら。

 しかし、そうは問屋が卸さない。現実というのはままならないものなのだ。

 私が今一番困っているのが、宗教家という存在。奴らが事ある毎に文句を言って来るようになったのだ。

 これを説明する為に、最初から丁寧に一つ一つ順序良く語っていこう。そうする事で、私の苦悩が伝わる筈だ。


 密かに期待していた褒美が金銭ではなかった事で、私はパーティーが終了して帰宅すると同時に金槌を手に持った。そして斧や剣などを造りつつ、執事さんに手頃な物件を探して貰って武器屋の用意を済ませ、人員の準備も済ませていざ開店。この国で名が売れていた事も相まって、沢山の冒険者が客として訪れる。ここまでは至極順調で、順風満帆な船出であった。問題は、ここからだ。

 先ず始めに浮上した問題が、商人。公爵という立場の私の方針もあるし、これは高い地位の私であれば断れるので大きな問題とはならない。応対する私自身が面倒臭いと思うだけの事。

 次に問題となったのが、弟子志願。これも私が断れば良いだけの事なので、此方も大きな問題とはならない。いちいち断るのが面倒臭かったのもあり、この時点で商人や弟子志願を相手にする店員を新たに雇った事で、やはり大きな問題とはならない。新たに店員を雇ったのでその給料分を無駄にしている気もするが、私の精神を守る為には必要なので許容範囲内だ。

 ここまでが武器屋開店から二ヶ月の出来事になる。そして、私としてはどうしようも無い事案が発生するのはここからだ。

 いつものように私が工房で汗を流しながら武器を製造していた時、客が来ていると、そう告げに面倒臭いと言いたげな執事さんが私を呼びに来た。その様子に珍しいと思いつつ話を聞けば、その客というのが宗教関係だとの事で、しかも宗教関係の団体客。だからこそ、執事さんはその応対に渋っていたのだ。

 通常なら公爵という高い地位の私であれば、事前のアポイントメントも無いので当然断れるのだが、宗教関係者となれば少し事情が変わり、会わねば外聞が悪くなるので会うのは仕方がない。聖教国が一応は大国だと言える規模だからという事もあるし、その宗教国家の宗教を信奉する者達もムーティッヒには居るので、粗雑な扱いは出来ないのである。

 大抵は寄付を願う者達である事を考えれば、執事さんが面倒臭いと思うのも頷けるというもの。しかし会わねば外聞が悪いし、仕方がない。そう思い応接室へと行けば、話の通りに団体客が居た。


「どうも。遠路遥々来られたようで、ご苦労様です」


 遠くから来たとの事実を執事さんから聞いていたので、先ずはその事を労いつつ会釈する。

 すると豪勢な服を着て両手に花(シスターっぽい女性)という状態でソファに座る男が、鍛冶仕事によって額に汗を浮かべ少し汚れた服を着る私を見てほくそ笑みつつ、ソファに座ったまま口を開く。


「……どうも初めまして。貴方が金で立場を買ったと有名なコーター卿ですな?」


「………………」


「おや? 返事が無いようですが?

 まぁ、礼儀が無くとも仕方がない。成り上がりの者達というのはどこも同じですからな。我々は慣れておりますから気にしないので構いませんよ」


 余りにも失礼過ぎる物言いに私は絶句していたのだが、男は何を勘違いしたのか、そんな私を置き去りに語り続ける。


「平民に媚びを売る為に苦労しておる様子。……石鹸、薬玉、後は衛生、でしたか? 最後は何だか良く分かりませんが、もっともらしい事を方便にして名声を集めておるとか。我々も耳にするあの嘘臭い方便には失笑ものですが、石鹸や薬玉は確かに効果的なのは認めましょう。

 今回我々がこの辺境の国に来た理由は、その石鹸や薬玉の製造方法を我々だけに開示して欲しいからです。当然、断りませんよね?」


「……ムーティッヒ王へと献上しているのはご存知で? そして、今や国家事業となっている事もご存知で?」


「知らぬ訳が無いでしょう。知っていて言っているのです。我々は人の心と身体を癒すのが生業。勿論、神々を尊び、その神々の教えを下々に伝え導くのも生業としておりますが、それが故に心身の健康に関係する代物の製造法を開示しろと言っているのです」


「知っているのなら、何故私に? ムーティッヒ王に直接願われてはどうです?」


「手間を省いているに過ぎません。神々の役に立つという気概は無いのですか?」


「それなら、その神々から製造法を教えてもらえば良いのでは? わざわざ辺境まで来る手間を省けたでしょうに」


「神々を愚弄するつもりか!」


「愚弄したのは貴方が先でしょう? 陛下に謁見して許可を願う、その事を手間だと言ったのは貴方ではありませんか」


「神々と一国の王を対等に扱うつもりか! この成り上がりが!」


「はっきり申しますが、私は無神論者です。他人が神々を信奉するのを否定したりしませんが、私に貴方自身の考えを強要するのはやめて頂きたい。

 そして、他国に来ておいて、その国の陛下と謁見するのを手間であると言いのけるなど言語道断。侮辱以外の何物でもない」


 この国の王は、私から見ても賢君だと言えるだろう。民の為、向こう数百年を念頭に政に励む姿は、正に素晴らしい理想の王そのもの。

 そんな陛下を侮辱した糞虫を相手に、丁寧に接客する義務など無い。それに、そんなつもりなど始めから微塵も無い。

 いつもの私ならまだ少しは丁寧に接客するだろうが、ここまで酷い客人なら容赦するつもりなど皆無。このままお引き取り願おう。


「話はそれだけですか? 乞食なら乞食なりの態度というものがあります。それすら出来ないのなら、さっさと出て行って下さい。私は忙しいんですよ、貴方達とは違ってね」


「こ、この成り上がりの低能が!」


 怒髪天を衝いたのか、男は立ち上がると同時にナイフを抜く。それは男の両隣に居た女性も同様で、長い腰布に覆われた部分から両手でナイフを抜き構えた。

 それを見て私は応接室に飾ってあった片刃の片手剣を手にし、この場での斬り合いになっても構わないという気概をもって中段に構える。


「そこの無礼千万な馬鹿の後ろに立つ者達に警告しますが、武器を抜くなら敵であると認識しますよ。勿論、容赦せずに斬り捨てます」


 私が執事さんを背に堂々と告げると、騎士と思わしき者達が少し動揺しつつであるが確かに剣を抜いた。その数、実に七人。馬鹿な男と両隣の女性を合わせて十人は、それぞれに武器を構えた。

 騎士と思わしき者達は素人だと見受けられるので、少し注意するだけで良い。問題は、意外にも馬鹿な男と女性二人だ。


「騎士かそうでないかは分かりませんが、素人なのは分かります。ですが、既に武器を抜いてしまったので容赦はしません。それと私は男女平等主義ですので、その馬鹿の両隣に立つ女性達、貴女方にも容赦するつもりはありません。

 どうぞ、いつでも掛かって来て下さい」


 気負う事なく中段に構えつつそう宣言すると、女性二人が少し驚いた様子でそれぞれに視線を交わす。その視線だけの会話の中で、一体どのような話が為されたのかは不明だが、互いに何かを遣り取りしているのは分かる。

 その女性達とは裏腹に、怒りに先走った馬鹿が私に向かって一足跳びに跳躍。それなりに武術の匂いがしたが、警戒する程ではなかったらしい。

 何故なら、大きく跳躍するのは悪手であるからだ。空中で方向を変えられるなら話は別だが、そうでない限りは愚策でしかない。

 その証拠とばかりに、私は馬鹿相手に抜き胴を披露した。勿論、必殺の思いで容赦なく、である。

 すると当然、馬鹿は対応すら出来ずに私の剣によって腹を斬り裂かれ、溢れる臓腑を抑えながら苦悶の表情で倒れ伏した。


「どうぞ、死にたい者から来て頂いて構いませんよ」


 声にならぬ悲鳴を響かせる馬鹿を尻目に、私はこの世界に来て変わった価値観でもって冷淡に告げた。この世界に来てから既に十年以上が経過するのだ。それなら私の価値観がこの世界に染まったとて当然の事。

 それに今や公爵という責任ある立場なのだ。その立場にある私がここまで侮辱されて、挙げ句の果てには武器を抜かれた状態で屈するなど許されない。それ即ち、貴族であるからして当然の態度と姿勢。


「武器とは脅しの道具ではありません。生き物を殺す為に存在する道具です。我を貫き通す為の武器です。決して神聖な代物でもなく、かと言って粗雑に扱って良い代物でもない。しかし、覚悟をもって手にしなければ手痛いしっぺ返しを食らってしまう。貴殿方は、そんな武器を今手にしている。

 さて、既に馬鹿は死に体ですが、その後に続く者は居ますか?」


 武器を手にしている限りは容赦しませんよと、そういう意味で私が告げるなり、その場の雰囲気に堪えられなくなったのか、震える騎士が三人一斉に武器を掲げて突貫して来た。

 無理を貫くという意味に相応しいその突貫は見事なものだと言えるが、私は至極冷静に三人が間合いに入った順に軽々と斬り捨てる。その剣筋には、自分でも驚く程に躊躇など無かった。

 すると、そんな私を見て他の面々は勝てないと勘違いしたのか、それぞれに持つ武器を放り捨てた。騎士の人達に至っては盛大に涙を流している始末。

 実のところ私としては、彼らが勘違いしてくれた事に助けられた形になる。ぶっちゃけ、全員一斉に来られたら私が負けるのは必然だったので、相手の勘違いに内心でホッと胸を撫で下ろした訳だ。

 そんな風に考えているとは気付かれぬよう、感情を表には出さずに安堵の溜め息を吐きつつ、私は執事さんへと視線をチラリと向けた。


「武器の回収をお願いします。……それと、私の背後から動かないようにして貰って感謝します。お陰で動きやすかった」


「いえ、旦那様の実力を知っていれば当然の事です」


 優しく微笑みを浮かべた執事さんだったが、私に一礼した後に馬鹿の部下達へと向けた視線は私ですらゾッとする程に冷淡なものであった。数々の貴族に仕えていただけはあって、荒事に慣れているのかもしれない。

 そんな執事さんが全員の武器を回収し終わる頃になると、応接室の外が騒がしくなり、そうかと思えば館の護衛に雇った人達やメイド達が雪崩れ込んで来た。しかも、その者達の片手には凶器が握り込まれており、かなりの緊張感が伝わってくる。

 それによって私の警戒度は一気に萎み、意識が戦闘状態から通常時へと移行するのが自分でも分かった。するとその途端、私の手足は異常な程にブルブルと震え始め、アドレナリンが大量に分泌されている事を否応なしに悟る。


「その馬鹿は助からないでしょうが、一応は手当てして下さい。どうしてあそこまで馬鹿な振る舞いをしたのかを聞き出したいので」


「はっ!」


「それから、誰か宰相様を呼んで来てくれませんか? 本来なら私から出向くべきですが、無礼を承知の上でお願いしますと、そうお伝えして下さい」


「それなら私が向かいます!」


「お願いしますね」


 メイドさんが率先して立候補してくれたので、私はその方にお願いすると応接室から出て工房へと戻った。そして落ち着く工房内で、余りにもな突然過ぎる出来事に頭を抱える。

 と、これが最大の問題である事の顛末。この世界に来てから私が迎えた最大の危機であり、その場をコントロール出来なかった怒涛の出来事になる。

 この出来事は、本当に危なかった。正直に言うと、あの威張り散らしていた馬鹿が武器を抜くなど微塵も考えなかったので、内心では終始混乱していたのだ。まさか他国の公爵を相手にして、侮辱するのはまだしもその国の陛下すら侮辱し、あまつさえ武器を抜くなど普通は考えもしない。だからこそ、あの馬鹿の行動に混乱の極致に至っていたのだ。

 そしていざ斬り合いが始まって、いくら素人が多いとは言っても相手の人数を考えれば死ぬのが妥当な場面であったのだから、敢えて強い言葉を前面に押し出して威圧する事でその場を制する事に成功したのは幸運の一言。あのまま戦闘が続くのだったら少なくとも重症は免れなかっただろう。相手が勝てないと勘違いしてくれて本当に幸運だった。

 それでその後の事になるのだが、宰相様が館に来てくれたので事の顛末を伝えると、かなり呆れていた。私に呆れていた訳ではなく、威張り散らしていた馬鹿に呆れていたのだ。

 次いで呆れていたかと思えば、陛下を侮辱していた事に怒髪天となり、死に体であるがまだ生きていた馬鹿に会わせろと鬼の形相で言うので断れず、丁寧に館を案内して会わせた。するとその結果、宰相様は更に怒りをヒートアップさせ、苦悶の表情で物言わぬ屍と成り掛けている馬鹿に罵倒し始めた。

 そうする事で怒りを幾分か鎮められたのか、場を移して宰相様との会話を続ける。宗教国家である聖教国が今回の事に加担しているのは明白なので、その対応策の話だ。

 侮辱されたのは私と陛下であり、その侮辱した本人は死ぬだろうがその部下達は生きて捕まえている訳で、向こう側が非難してきてもその対策は容易。であるからして、宰相様は取り敢えず捕まえた者達はそのままにして、後は放っておけと言い話は終わった。

 そう、この時はこれで終わったのだ。宰相様からしたら馬鹿が問題を起こした程度なのだから、大した事にはならないと考えていた訳だ。

 実際、その通りになった。聖教国が公式に文句を言って来る事も無かったし、私のメイドや護衛達が屋敷内での防衛などに関して議論するのが少し煩くなったくらいのもので、その他には至って平和だったのだ。

 しかしその平和は、長くは続かなかった。それと言うのも、他国から来る宗教家が私の悪い噂を流し始めたのだ。しかもそれだけに留まらず、私が冒険者に依頼している素材集めなどを妨害する始末。

 本当に鬱陶しい事この上ない。確かに、いつも慎重で臆病な私が大胆に皮肉を言ったりしたのも自分で珍しいと今になって思うが、それにしたって相手が武器を抜いたので仕方がなかった訳で、正直言って私は悪くないとしか言えない。それなのに、宗教家は私が悪の権化かのように言って、私のやる事に妨害するのだ。これで鬱陶しいと思う私が悪なのかと考えれば、誰もが否であると言ってくれる筈。


 宗教が絡むと人間は心底馬鹿になる。神=正義という図式になるらしく、その神々に仕える自身も正義の使者であると考える始末で、好き放題に振る舞う。

 私としては悪い噂を流されたりする程度なら別に良いのだが、やる事なす事全部妨害するのは止めて頂きたい。武器屋が開店すれば、その営業時間は常に武器屋の前で宗教家が私のネガティブキャンペーンをするし、お客さんにまで喧嘩を売る始末。そしてあまつさえは、私の依頼を受けて仕事をこなしている冒険者を物理的に襲ったりする。

 そろそろ私の堪忍袋も切れそうだ。来客として来ていた馬鹿に対して行った事は、私としては正当防衛であり、私から殺してやろうと思ってした行動ではなかったが、宗教家達には最初から殺してやろうと殺意を抱いての行動となるかもしれない。

 それ程に追い詰められているというのが現状の私だ。宰相様や他の貴族達は笑いながら放っておけば良いと言うが、やられる方の私からしたら堪ったものではない。


 そんな悶々とした日常を送る中、とうとうジルベルト殿が婚約者を連れて帰って来た。何故か鬱陶しい宗教家達を引き連れて。

 ジルベルト殿や婚約者の労いに時間を使いたいのが本音だったのだが、一緒に来てしまった宗教家達を無視する訳にはいかず、仕方なくその対応をするハメになった私は、婚約者は別室へと案内してその他の面々とはジルベルト殿を含めて応接室へと通す。

 そして自己紹介を先ずはしようとするものの、その私を遮って宗教家達が声高に叫び始めた。


「聖教国に来て頂けましたら、必ずやジルベルト様の婚約者は幸福になります!」


「そうですとも! 邪悪な儀式で治る筈がありません!」


「聖教国には素晴らしい治癒魔法使いが居ます! 彼が厳しい修行の果てに身に付けた徳は、それはもう神々の如く!」


「こんなところに居れば邪悪の徒にされまするぞ!」


 実に腹立たしいが、これが彼らがやっている宗教家達の普段のネガティブキャンペーンになる。これを毎日飽きもせず、街中の至るところでやっているのだ。

 それは兎も角、何故宗教家達が一緒に居るのかは聞かせて貰いたい。それを聞かねば話が進まないからである。

 そんな私の意図を汲んでくれたのか、既にぶちギレ寸前の執事さんが宗教家達を無理矢理ながらも一旦応接室の外へと連れ出した。


「はぁぁぁ。これで静かになりましたね」


「も、申し訳ありません。何が何やら分からぬ内に、何故か王都に着いたその時から全知神教の司教様方が付いて来てしまいまして……。しかも、これまた何故か婚約者の事も何もかも知っておる様子で、一体何が起きているのでしょうか?」


 困惑の色を隠しきれない様子のジルベルト殿の発言を聞いて、何故宗教家が一緒に来たのかはもう理解した。そう、理解はしたが、しかし人様の家の中まで入って来てネガティブキャンペーンをするなど、どんな精神構造をしていたら出来るのかが疑問だ。心底理解出来ない。

 大きく溜め息を吐きつつ、私はジルベルト殿にこれまでの経緯を全て丁寧に話した。今となっては彼も当事者の一人となってしまっているだけに、中途半端に説明するのは良くないと判断したからである。

 すると私の説明を聞いたジルベルト殿は、顔を真っ赤にして剣を抜く。


「暫しお待ち下さい。ゴミの始末をして参ります」


「ちょちょちょちょ、ちょっと待って! ちょっと待とうか!」


「あのグズどもに教え導く必要があると認識致しました! 某にお任せを!」


「待って待って! 違う違う! いや、私もそうしたいところなんだけど、ちょっと待とうか!」


 侍口調のジルベルト殿の発言を耳に、そう言えばこんな口調だったなと懐かしむ暇も無く、私は必死になってジルベルト殿を押さえ付けた。

 何故私が馬鹿な宗教家達を助けているのかと、そんな疑問も浮かぶが放ってはおけない。このままだとジルベルト殿の評判も悪くなってしまうからだ。

 とは言え、実は私の評判は悪くなってない。何故なのかは全くの不明だが、宗教家がネガティブキャンペーンをすればする程に私の評判は逆に良くなっているのだ。私は何もしていないし、宰相様も何もしていないらしいので、これは本当に謎である。

 強いて理由を追求するならば、誰にでも効果のある衛生法をタダで教え広めたり安く買える薬玉などを発明して売っているからかもしれない。勿論、石鹸も。

 それに対して聖教国は、高い心づけがなければ何もしてくれないので、その違いが浮き彫りになっているのかも。


「そうだ! 丁度良いじゃないですか!」


「何がですか? 某の剣の錆びにする事がですか?」


「いやいやいや、そうじゃなくて! そこから一旦離れて、別の視点で考えれば丁度良いって事ですよ!」


 ジルベルト殿の怒りを納めて貰う為にも、宗教家達を黙らせる為にも、一石二鳥になる事を思い付いた私は提案を始める。


「ジルベルト殿の婚約者の病気、それを治す様子を見せるんですよ。そうすれば、あの頭の硬い連中も私の事を邪悪だとか言えなくなります」


「おぉ、それは確かに」


「でしょう? これなら万々歳ですよ」


 この世界に存在する驚異的な薬効を持つ代物を効率的に混合させた薬を用いれば、理論的にはジルベルト殿の婚約者の病気は治る筈だ。この世界でしか通用しない手法になるが、これで治れば馬鹿な宗教家も何も言えないだろう。

 そう思えばこそ、私はその場を整える事を決心し、沢山の貴族や宗教家達(司教とかのお偉いさん)へと招待状を熱心に書き始めた。

執事「我慢の限界ですよ。王都に居る全ての忍に、愚かな司教どもを殲滅する指示を出さねばならないでしょう」

メイド「それはやり過ぎな気が……しないでもないですね!良いじゃないですか!ヤりましょうよ!」

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