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現代知識こそが最も有能!   作者: 蘇我栄一郎
他国の侵略や魔物のスタンピードを恐れて、ムーティッヒ国を強化!
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十九話ですぜ、旦那!

 有力貴族達が無数に控える玉座の間にて、その玉座に座るムーティッヒ王が少々落ち着かぬ様子で指先を使用して肘掛けを定 期的に叩いて音を立てている。この行動の意味は誰の目にも明らかであり、普段冷静沈着であらせられる王が珍しくも手遊びで平静を保とうとしているのが察せられた。

 儂はそれを認識しつつ、それも致し方無いと思い何も言わず沈黙している。我がムーティッヒ国の精鋭達が、今ぞろセイカーン国との籠城戦をしている真っ最中なのだから、その行く末が気になって当然だからである。

 しかし、何も勝てるかどうかを気にしている訳ではない。勝つのは既に分かりきっている事だ。あの新兵器が無くとも、セイカーン国と我が国との国力差を考えればそれは明らか。

 ならば何を気にしているのかと言うと、籠城するセイカーン国を相手に、どれだけ予測している通りに勝てるかを気にしておる訳だ。

 ここでもしも予想以上に苦戦したとなれば、他二ヵ国への進行は中止せざるを得なくなるだろう。無駄に戦力を消耗するのは愚の骨頂であると言えるし、他にも物資や資金も無駄には出来んのだから当然の話だ。


「どうなっておるのだろうか?」


「コーター卿から新兵器が献上されたと聞く。そうであれば、十中八九勝ちは間違いなかろう」


「然り。防衛戦のバリスタも想像以上の戦果だったと聞き及ぶからな。新たな兵器とやらも、きっと素晴らしい戦果をもたらしてくれるだろう」


 戦況の報告を今か今かと待つ中で、貴族達がボソボソと戦の行く末を語り始めた。きっと、全員が戦況の報告が来ない事に焦れったい思いを抱いているからなのだろう。

 儂も同様の気持ちである故、何も口にせずそのままに放置して耳を傾ける。


「防衛戦の時は、バリスタが凄まじかったらしいな」


「凄まじいとかの次元ではないぞ。詳しく聞いておらんのか?」


「マルコス卿は聞いておるのですか?」


「あぁ、コリック伯爵から直接聞いた」


 噂に敏感なマルコス子爵は流石の手腕で、八ヶ月前の防衛戦の事を細かく調べていたらしい。彼はこう言った噂で情報を集める事で、子爵まで上り詰めたと言っても過言ではない。

 此処でもその手腕を遺憾無く発揮し、既に沢山の貴族達の耳目を集め始めておる。普段からこうやって貴族達の中心へと違和感無く入り込むのだ。大したものだと感心させられる。


「敵側からの攻撃が届く距離になる迄に、実に三割から四割の敵兵を仕留めていたそうだぞ」


「三割から四割!?」


「それでは最早、壊滅と同義ではないか!?」


「うむ、コリック伯爵も驚いておったよ。しかし、敵側はそれでも引かなかったらしく、そのまま籠城戦が続いたそうだが━━」


「三割から四割も兵を失って引かなんだか」


「いや、引かなかったんじゃなく、引けなかったのだ」


「それはどういう意味だ?」


「考えてもみろ。奴らは大量の資金を投じて、勝てるという見込みのみで三ヵ国同盟でもって攻め込んで来た。そんな戦で、バリスタという兵器一つでボロボロにされたとあっては、引くに引けんかったのだ。何かしらの戦果が無ければ、帰っても敗戦の責任を押し付けられ処刑されてしまうであろう?」


「なるほど。確かに、それはそうだな」


 マルコス子爵の言葉に納得したのか、耳を傾けていた者達の全てが小さく頷いておるのが儂の目に映った。


「それで、半数近くの兵を失った後はどうなったんだ?」


「コリック伯爵が言うには、遠方に陣取る者達にはバリスタで対応し、壁に群がる者達には石や弓で対応したそうだ」


「魔法使いは使わなかったのか?」


「どうやらそうらしい。使う必要を感じなかったので、一応の予備戦力として残したと言っていたぞ」


「それは凄いな。魔法使いを投入せずに籠城戦を制するとは」


「あぁ、コリック伯爵の指揮も凄かったのだろうが、そもそもバリスタが異常過ぎたのだ。あれではどんな国が攻めて来ても無駄に終わるだろう」


「頼もしいものだな」


 確かに、儂もバリスタの存在は頼もしく感じておる。アスト将軍もご機嫌だった程なのだから、余程に素晴らしい兵器なのだろう。


「コリック伯爵以外ではどうだったか知っておるか?」


「それは又聞きになるが、一応は耳にした」


「おお、流石はマルコス子爵だな」


「ストライカー公爵の領地では、捕虜として捕まえたのが二千人程になるらしい。これは金貨と交換する為の捕虜であるからして、勿論未だに帰してはおらん。因みに、コリック伯爵の方でも同様の人数を捕虜として捕らえておるそうだ。

 そして最後に、ヘッジ伯爵の方はと言えば………」


 マルコス子爵が言い淀んだ事で、全員が耳だけではなく視線をマルコス子爵へと集中させた。

 静かになった玉座の間に、数人の生唾を飲み込む音が響く。


「これは耳にした時に私も驚愕したのだが、一人も捕虜は取っていないそうだ」


「ヘッジ伯爵は、まだ戦が終わっておらんのに敵兵を逃したのか!? せめて指揮官級の者くらいは捕虜として捕まえておかねばならんだろうに!」


 誰もが同様の感想を抱いたのか、少々怒りにも似た表情に変わった。

 だが、事実はそうではない。事実を知っておるのだろう少数の者達は、苦い表情で顔を顰めていた。

 その表情の意味は、儂でも嫌になるほどには分かる。ヘッジ伯爵らしいと言えばらしいが、余りにも酷いからな。

 儂が思うようにマルコス子爵も同じ思いの様子で、何とも言いづらそうに口を開く。


「そうではないのだ。捕虜は確かに取っておらんのだが、逃がした敵兵も一人としておらんのだ」


「どういう意味でしょうか?」


 誰もがマルコス子爵の言葉の真意が掴めぬ様子で、ポカンと呆けたように目を丸くして首を傾げる。そんな中であって、当主の座を継いで間もないズシ男爵が疑問の声を響かせた。

 するとマルコス子爵が、顰めっ面のままに説明を始める。


「ヘッジ伯爵の言によると、戦の最中に考えたそうだ。バリスタという兵器を開発したコーター卿ならば、もっと効率的に戦う筈だと。ただ敵を殲滅するのではなく、防衛戦を制した後の事も視野に入れて戦う筈だと。

 そう考えた時、閃いたらしい。最も効率的な戦後処理方法を」


「それは何なのですか? オレ……あ、いえ、私はまだまだ未熟故に分からないので、詳しく教えて欲しいのですが」


「うむ……。捕虜を取り、戦後に金貨と交換というのも実のところはそれ程にはカネにならん。捕虜とは言っても、身分の高い者達にはそれ相応の扱いをせねば、我がムーティッヒ国が周辺国から要らぬ謗りを受ける事になるからな。

 それはそなたにも分かるであろう?」


「はい。戦勝国には戦勝国なりの態度、というものがありますからね」


「そうだ。それ故に捕虜の扱いには気を配らねばならない。しかしそうなると、必然的にそれなりの費用が掛かる。

 それを無駄だと考えたヘッジ伯爵は……まぁ、ヘッジ伯爵の言では、コーター卿ならばどうするかと考えた末に導き出した結論らしいのだが、それによると全員始末すれば良いとなったそうだ」


「全員………!?」


 マルコス子爵の発言を耳にした全員が、自分の耳を疑うかのように驚きを露にして絶句した。儂も初めて報告を耳にした時も同様のリアクションをしたのだから、その驚きようには素直に同情する。まだ当主となって間もないズシ男爵などは、その驚き加減は尚更に酷いが、それにも同情してしまうくらいには酷い話だと言えるだろう。

 

「そう、全員だ。しかし、ただ戦の最中に全滅する迄攻撃の指示を出した訳じゃない。

 千人だ。千人の敵兵を捕らえ、その敵兵に、同じく敵兵の亡骸を始末する為の穴を掘らせ埋葬した後、自身達の墓穴を掘らせたらしい。そして、その後に捕らえていた千人の敵兵を殺し、掘らせた墓穴に無造作に投げ入れると、最後にはヘッジ伯爵の部下達に土を被せる指示を出して終わり、という顛末だったらしい」


 ヘッジ伯爵が現実主義者(リアリスト)なのは誰もが知るところではあるが、今回の行動には誰もついて行けんだろうな。マルコス子爵の言葉を耳にして全員が絶句しておるのが何よりの証拠であると言える。

 しかし、ヘッジ伯爵は何故コーター卿ならばそうすると考えたのかが謎だ。あの男は絶対にそんな選択は取らんぞ。

 コーター卿は、最早儂も疑ってはおらんが、まず間違いなく日本国王家の血筋であろう。あの数々の発明品を目にして、今更疑うなど出来やしない。それ故に分かるのだが、コーター卿ならば更に良い策を見出だす筈だ。

 酔っ払った時に政治について話し合った事があったが、現実主義者(リアリスト)がトップに立つならその国は二流国家だとコーター卿は言っておった。その理由は、現実主義者(リアリスト)には現在という状態を主体にしてしか考える事が出来ないからだとか。

 それに対して一流の指導者は、心底臆病者でなくてはならんらしい。そしてその理由は、臆病者故にどんな物事も深く広く思考する為、自国の数百年後も考えられる程に視野の広い傾向があるからだとか。

 その説明を聞いて、儂はなるほどなと深く納得した。優れた王というのは、現在だけでなく遥か遠い子孫の事も念頭に国策を進めねばならんのだから、コーター卿の説明には至極納得出来たのだ。

 そんなコーター卿ならば、敵兵を皆殺しにするなど絶対にせんだろうと断言出来る。確かに戦後処理などに関しては良いかもしれんが、敵国からは今後数十年は恨まれ続ける事になるだろうからな。それに、ムーティッヒ国は野蛮な国だと周辺国に宣伝しておるようなものだ。


「で、ですが………確かに、ヘッジ伯爵のお考えは分かりましたが、捕虜の扱いに気を配らねばならない筈。そんな事をしてまっては、周辺国からどんな事を言われるか分かったものではありまん」


「うむ。ズシ男爵の言う事も然り。道理であると言えような。

 しかし、それは捕虜に対してのみの事。金貨と交換にする手前、捕虜とするのは此方が選べる権利がある。つまり、身分の高い者だけを厳選して捕虜とし、その他は始末するという事を選択するのは戦勝国側の自由」


「た、確かに………。で、ですが、普通は全ての敵を殺すという選択を取れるものなのでしょうか? オレにはとても出来そうにありません」


「そなたは若い。ヘッジ伯爵は極端な例だが、そなたもそうなれという訳ではないのだ。そなたにはそなたの矜持があろう? その心のままに動けば良い」


「心のままに………。有難う御座います。オレなりに……あ、いえ、私なりに考えてみます」


「うむ、それが良かろう。そなたの父上が、きっとそなたの良い教師になってくれるであろうしな」


 嫌になるほどの暗い話題から一転して、その雰囲気を払拭させる手腕は流石だ。ただ噂に敏感だけじゃないのがマルコス子爵の強みであるが、こうも見事だと素直に感心してしまう。


「あ、あの、それでコーター卿なのですが、ヘッジ伯爵の言う通りの御仁なのですか?」


 当主の座を継いでから間もないので、当然こういう場に出るのも初めてのズシ男爵はコーター卿に会った事が無いので知らんのだろう。しかしその反面、他の貴族達はコーター卿が陛下に何かを献上する時には、その献上の儀の場に必ず出席しておるので全員面識がある。そのせいか、誰も彼もが苦笑した。

 儂も同様に苦笑しつつ、内心では大笑いしながらマルコス子爵がどう説明するのかを黙して待つ。

 するとマルコス子爵が、頬を掻きつつ困った様子で口を開く。


「どう説明すれば良いのか分からんな。コーター卿という人物を語るには、言葉だけでは少し難しいのだ」


「やはり公爵という身分になられるお方ですから、それなりに野心家で恐ろしいお方なのでしょうか?」


「コーター卿がか? フフフ、アッハッハッハッ! 野心家? あのコーター卿が?」


 マルコス子爵が腹を抱えて笑うと、全ての貴族達が大笑いを始めた。それは儂も同じであり、落ち着かぬ様子であった陛下すらも同様だった。


「いやいや、すまんな。そなたが突拍子もない事を言うものだから、つい笑ってしもうた」


「あ、あの……」


「クククク、コーター卿は野心家とは程遠い人物だよ。とても聡明であり、とても謙虚であり、とても思慮深い。そして、誰よりもムーティッヒ国を愛する御仁だ。真の愛国者とはコーター卿の事を言うのだろうな。

 ただし、それはコーター卿の一部分でしかない。あの御仁を語るには、それだけの言葉ではとても語り尽くせんのだ」


 マルコス子爵の話を聞く者達の全員が、頻りに頷いて同意する姿が儂の目に映った。この国に来てからというもの、コーター卿は直ぐに愛国者達のハートを鷲掴みにしたからな。その人気はある意味凄まじい。

 話によると、王都に存在するあちこちの酒場では、常にコーター卿を題材とした歌を吟遊詩人が広めていると聞く。その事から考えて、恐らくは市井の者もすべからくがコーター卿に好意的な印象しか持っておらんだろう。その反対の印象を抱くのは、商人ギルドや薬師ギルドくらいだろうな。


「現在、この国は異常な速度で発展しておる。それはそなたも知っておろう?」


「勿論です。私の領地でも新たな国家事業としての働き口が出来て、そのお陰で沢山の雇用が生まれております」


「うむ。働き口が増えれば当然、税収も増える。国民も潤うし、国も潤って我らも潤うという好循環が生まれておる。素晴らしい事だ。

 これは偏に、これまでコツコツとやってきた事が報われておるのと、コーター卿が無数の事業を生み出したからなのだ。それ故に平民はコーター卿に対して好印象しか持っておらんし、全ての貴族達も同様の意見を抱いておると言えるだろう」


「なるほど。……しかし、話を聞いていると優れた商人としか思えなくなってきました」


「ハハハハハ! だから言っておるだろう。コーター卿を言葉だけで語るのは難しいのだと。

 だが、一見すると聖人君子のような印象であるが、敵に対しては………いや、敵と見なした相手には厳しいと言えるだろうな」


「敵に対して?」


「そうだ。今回の場合で言えばドゥーマ国、セイカーン国、クゥーラ国、そしてビルジア国の四ヵ国に対してのコーター卿の判断がそうであると断言出来る」


「それは……?」


 国を護る為の新たな兵器の発明、新たな産業、それらを生み出したコーター卿は確かに聖人君子のように思えるが、敵に対しては至極冷徹な一面を持つ。そうでなければ、此方から報復として侵略をしようなどとは提言せんだろう。

 マルコス子爵の言葉を聞いて困惑するズシ男爵を尻目に、マルコス子爵は儂にチラリと視線を向けて来た。どうやら、やはり今回の侵略に関する策の出所がコーター卿であるのは既にバレてしまっておる様子。

 それを言っても良いのかと確認する為のアイコンタクトであると理解した儂は、無言で頷いた。もうマルコス子爵にバレておるのなら、ほぼ全ての貴族達が知っておると考えても良いのだから、隠していても無駄であろうと思えたからだ。

 するとマルコス子爵は、再びズシ男爵へと視線を戻して説明を再開し始める。


「今までのムーティッヒ国なら、防衛戦を制しただけで終わっていただろう。魔の森に接するのだから、無駄に争って戦力を浪費したくはないからな。もし無駄に戦力を浪費してしまった直後にスタンピードなど起きたら目も当てられん。

 しかし、此度我が国は報復として侵略を開始した。今までなら絶対にしない事だ」


「それは新兵器があるからでしょう?」


「その新兵器がどれだけ有効なのか、それがはっきり分からぬのにか?」


「へ? あ、いや、分かるからこそ攻めたのでは?」


「まぁ、凄まじいとは聞き及んでおるが……。しかし、まだまともに運用してもおらん兵器を当てにして、そなたは侵略する気になるのか?」


「それはその………。分かりません」


「安易な答えを出さぬのは賢明だ。そなたの父上の教育が素晴らしい事の証左だと言えよう」


 確かにマルコス子爵が言う通り、ズシ男爵の教育は中々に行き届いておる様子。まぁ、分かりませんと答えるのは不味いが、知ったかぶりをする者よりはマシだ。


「それは兎も角、此度の侵略を提言したのは、実はコーター卿なのだ」


「コーター卿が?!」


 まだ知らなかった者達も複数いたらしく、ズシ男爵と同じように驚きを露にする面々が動揺の声を響かせた。

 それを認識しつつも、マルコス子爵は更に語り続ける。


「新兵器を用いての戦略、敵側の心理を操る戦略、それら全てを提言し、絶対に勝てると断言したコーター卿を信じたからこそ、こうやって報復としての侵略が今行われておるのが此度の経緯となる。

 それを知った今、そなたはコーター卿をどう思う? 恐ろしいと思うか? はたまた頼もしいと思うか?」


「………恐ろしくもあり、頼もしくも感じます。ただ、コーター卿を敵に回したくはないとだけは断言出来ますね」


「そうだろうな。誰もがそう思っておるよ」


 真実その通りで、誰もがコーター卿を敵に回したくはないと考えているだろう。それは儂も同じ見解であるからして、嫌という程には理解出来る感情だ。

 この場に居る全員が同意するように頷く中、ふと玉座の間の外が騒がしくなってきた事に気付く。それは儂だけではなく、他の面々も同様らしく、怪訝そうに扉へと視線を向けた。

 するとその瞬間、大きな扉が勢い良く開かれ、少し薄汚れた騎士と汚れなど皆無な近衛兵が数人慌ただしく入室して来た。


「戦場の報告に帰還した騎士が参りました!」


 漸く来たかと言わんばかりに陛下が玉座から身を乗り出すと、それに釣られて儂らも昂る気持ちを抑えられなくなり、少し薄汚れた騎士へと視線を集中させた。

 戦場から必死の思いで帰還したばかりの騎士には悪いが、その様相そのままに、儂は堪らず尋ねる。


「どうなった?! 結果は望む通りに運んだか?!」


 礼儀も何も無い儂の発言に対して、騎士は少し驚いた仕草を見せたものの、数度の深呼吸をすると満面の笑みと共に口を開く。


「完勝に御座います! 此方の死者は二名、負傷者は六十数名。しかし、それ以外には被害も無く、見事にセイカーン国を落として見せました!」


「良くやった!! 新兵器の消耗具合はどうだ?!」


「大魔筒が一つ破損しましたが、それ以外は問題ありません! 恐らく、大魔筒がまだ合計十六回は使えるかと! 手魔筒の方は殆ど使用する必要がありませんでしたので、まだまだそちらに関しては万全の状態で御座います!」


「良し良し、良し!! 制圧状況はどうだ?!」


「アスト将軍の指示で二千名をセイカーン国の制圧維持に残し、その他の戦力は既にアスト将軍と共にクゥーラ国へと進軍を開始! セイカーン国の制圧を完全なものにする為、新たに千名の兵士と立場ある指導者の派遣を頼むとの報告を頼まれまして御座います!」


「相分かった! 陛下、ヘッジ伯爵の派遣をお願い申し上げます!」


 最高とも言える戦果を耳にして昂る気持ちが抑えきれない儂は、陛下へとその思いのままに願い出た。

 すると陛下は、ニヤリと笑んだかと思えば無言で頷く事で言外にお認めになられた。


「陛下からのご許可が出た! ルシオ副将軍は直ぐに千名の兵士を伴って、ヘッジ伯爵領地経由でセイカーン国へと急ぐのだ! ヘッジ伯爵には、騙し討ちするセイカーン国であるからして、容赦せずとも良いと伝えておけよ!」


「はっ! では早速!」


 国によって多少の違いはあるが、我が国には将軍が一人であり、副将軍が三人居る制度となっておる。その三人の中でも一番の年配者であるルシオ副将軍が今回は相応しいと予め決まっていたので、儂は悩みもせずに名を呼び任せたのだが、流石は副将軍まで上り詰めた男であるからして、動揺一つせずに了解すると玉座の間から退出して行く。実に頼もしい後ろ姿だ。

 誰も彼もがそう思っておるのだろう時に、陛下は少し煩くなった玉座の間にて安心したかのような大きな溜め息を吐いたのが儂の目に映った。きっと心底不安であったのだろう。

 此方から仕掛けた訳ではないが、それでも侵略する側になったのは近代の王では陛下だけなのだから、その心労は推して知るべきである。後の世で愚王などと呼ばれては敵わんからな。

 それにしても、新兵器の活躍は目覚ましかったのであろう。此方側の戦死者や負傷者の数がそれを物語っておる。儂のような素人でも察せられるぐらいには、余程に有効でなければ籠城戦を制するのに更に沢山の被害を覚悟しなければならない状況を、たった二名の戦死者だけで制したのだからな。

 それを理解しておるのは、何も儂だけではない。儂以上に戦事情に精通しておる者達は、その被害の少なさに報告を疑っておる者すら出る始末であるからして、新兵器がどれだけ異常なのかは明らかだ。


「噂には聞き及んでおったが、籠城戦をたった二名の戦死者だけで制するとは………」


 マルコス子爵が、目を真ん丸にして呟いたかと思えば、その後には面白い程に固まってしまった。儂のように戦事情に疎い者でも驚くくらいなのだから、戦事情に明るい者ならその何倍も驚くのが普通なのであろうな。


「そこの貴方、名は?」


 誰もが戦果の良さに高揚し、或いは良過ぎる戦果に動揺の反応を示す中、女だてらに貴族家の当主となって久しいバッテラ子爵が、報告の為に帰還した騎士に名を尋ねた。

 すると、騎士が恭しく頭を垂れながら口を開く。


「サイシと申します」


「サイシ、新兵器とやらの使用はどのようだったのかを詳しく聞かせて貰えるかしら?」


「はっ。畏まりました」


 戦果の報告を終えて、幾分か冷静な口調へと変化した騎士が、頭を垂れたままに説明を始める。

 すると煩くなっていた玉座の間が、不思議な程に静寂した場へと変化し、全ての者達の耳目が騎士へと集中する。


「先ず我々アスト将軍が率いる軍は、セイカーン国の王都の街壁である正門と裏門を抑えました。すると当然、敵側は門を締め籠城すると共に和睦の使者を出して来ました」


「当然の処置ね。ま、此方としては無視する手筈なんだけど」


「その通りです。アスト将軍は和睦の使者に向かって”死にたくなくば降伏せよ”と簡潔に告げ、そのまま帰しました。

 そしてきっかり一刻後、新兵器である大魔筒を正門と裏門に向けて発射。それぞれ一発ずつでしたが、それだけで両方の木製の門が崩壊しました」


「たった一発で門を!? 大魔筒とやらの威力はそれ程に高いの?!」


「雷が落ちたのかと勘違いするような轟音と共に、正門も裏門も呆気なく崩れました。敵味方両方が、戦であるのを忘れるくらいには絶句する光景でした。……恥ずかしながら、私は正気を取り戻すのに数分の時間を要した程で、酷い者に至っては“神の怒りだ”と騒ぎ出す者も出る始末で、そういう者達を落ち着かせるのに時間が掛かったぐらいには混乱してしまいました」


 生々しい戦場の報告を耳にして、全員が生唾を飲み込む。その際に発生する音が響くくらいには、玉座の間が静かだった。


「もう門が完全に崩壊していたのですが、アスト将軍が混乱する味方の為に敢えてもう一発大魔筒を放つ指示を出し、神の怒りではなく新兵器の力なのだと認識させ、それによって落ち着きを取り戻した兵士を伴って漸く両方の門から侵入。敵側が全力の抵抗をすると考えて手魔筒を持つ兵士を先頭にしていたのですが、殆どの敵兵は恐慌状態で武器を手放しており、そのまま城壁まで難なく進軍。そして城壁の正門と裏門に向けて、改めて大魔筒による鉄球を放ちましたところ、鉄製の扉がこれまた呆気なく崩壊し、城内に居た兵士や騎士が同じく無抵抗で降伏状態と相成りました」


「ちょ、ちょっと待ちなさい! その報告だと、殆ど戦いらしい戦いになってないじゃない!」


「仰る通りで御座いますが、しかし真実そのままのご報告でして、ここに嘘偽りなど微塵もありません事を誓います」


「な、ならば、死者二名や負傷者六十数名というのは?!」


「アスト将軍がセイカーン国の王と相対して交渉の場を作った際、向こうの近衛兵が騙し討ちして来た時に出た死傷者になります」


「……それはつまり、騙し討ちが無ければ一切の死傷者も出なかった筈だと?」


「はい。アスト将軍もその事を痛感し、必要無かった筈の死傷者の発生に激怒なさっておりました。

 しかし、それはアスト将軍の責では無い事を此処に誓って申し上げさせて下さい! 話し合いの場を血で汚したセイカーン国にこそ責はあれど、アスト将軍には決して一切の責は無いと私は考えております!」


 降伏後の戦後交渉の場にて騙し討ちしたセイカーン国は、確かにその責任は重いだろう。それに対して、アスト将軍の責任は軽い。全く責任が無いという訳ではないが、少なくとも軽いのは間違いな。

 それにしても、やはりアスト将軍の部下なだけはある。余程に慕われておるのだろう。そうでなければ、このように沢山の有力者達を前にして願い出るなど出来る筈もないのだから。

 新兵器の凄まじさに驚きつつも、その事に感心する儂とは違って、他の面々はただただ新兵器の凄まじさに息を飲んでおるようだ。

 そうして、そんな者達が冷静さを取り戻したのは、陛下が自室へとお戻りになるまで混乱の時間が続くのだった。

宰相「新兵器ってマジで凄いなー」

有力者達「いやいや、凄いなーって………。何でそんな薄いリアクションで終われるの?え、もしかして俺達のリアクションがおかしいの?」

ムーティッヒ王「あーホッとした。あーマジでホッとした。心臓に悪いわぁ」


コーター「計画どおり!」

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