十八話ですぜ、旦那!
一年の猶予があると想定して新兵器製造に着手していたが、その思惑は少しズレ込む事になり、防衛戦が終了すると同時に私の新兵器製造は完了した。
とは言え、まだ開発が終わっただけであり、その兵器が充分な数を揃えられた訳ではない。現在、大魔筒と名付けた大砲が三基と手魔筒と名付けた持ち運びし易い小型版が十台だけである。
これではどう考えても足りない。大魔筒が後七基、手魔筒が後五十台は欲しいところだ。
それ故、執事さんに使用方法を記した紙を渡して、新兵器二種を持って宰相様へと報告しに行って貰い、私は増産の為に工房へ籠っている。使用方法は紙を見ながら実際に兵器を使用して貰えば分かるだろうし、執事さんには口頭での説明もしているので問題無い筈だ。
大魔筒は意外にも容易く造れて楽なのだが、手魔筒が難しく、少しのミスで暴発するというリスクがあるので製造は非常に困難なのである。だからこそ、私は宰相様への報告を自身で行わず、執事さんに向かわせて集中して製造に着手している訳なのだ。
本当に難しいのである。長さ一メートル五十センチの柄の先端に取り付けられる長さ三十センチの小型砲に、細かい術式を刻むのは非常に困難を極め、実際に大魔筒のように鉄球を打ち出す訳でなくとも、少しミスしただけで魔法を放った時の反動によって打ち手の腕が破壊されかねない。
それだけならまだ良い方で、最悪なのは筒の部分が完全に破裂する事だ。そうなると打ち手だけではなく、その周囲に居る仲間も巻き添えにして大爆発を引き起こす事になってしまうだろう。
大魔筒もそうだが、今回新たに製造した二つの兵器は、あらゆる意味で危険な代物となってしまった。まぁ、此方側の被害は主に私が注意して造っていれば問題無いので、そういう意味で言えば職人としてちゃんとした品物を造れば良いだけだと言えば実際そうなので、それは私次第という事になるのだがね。
「取り敢えず、これで手魔筒は合計五十。後は大魔筒になるんだけど、それは筒の内側を磨くだけだ」
不眠不休で造り続けた事で、漸く暗いトンネルの先に明かりが見えた気分になった。やはり終わりが見えると力が漲ってくる。
「後もう少しだ。頑張ろう」
敢えて思いを口に出し、自らを鼓舞する事で更にやる気を増させる。そして私は、大魔筒の内部を磨き始めた。
磨くのに使用するのは、ダイヤモンドを小さく砕いて砂状にした代物。かなり勿体無く感じるのだが、これが一番早く研磨出来るので重宝している。実際、費用面でもそれ程には高く無いのだし、これが一番都合が良い。
何故ダイヤモンドなのに高価じゃないのかと言えば、色の付いた宝石と違ってダイヤモンドは見向きもされないからである。地球人が聞いたら驚く理由だが、この世界の人からしたら色付きじゃないのなら劣化品、という判断らしい。それ故、色の濃い宝石は異常に高価であるが、ダイヤモンドは馬鹿みたいに安い。
そんな事実があるので、私はダイヤモンドを使用して他にも様々な品を研磨していたりする。金属製品の研磨にはもってこいの代物なのだ。
ともあれ、その少し勿体無い代物を使用しての研磨を終えた頃には、丁度私の体力が尽きた瞬間と同時であった。
「……もう無理」
限界に達した事で口から思わず出た言葉が虚しく工房に響いた後、私は黄金色に輝く大魔筒の傍で倒れ伏す。
その次の瞬間、タイミング良く執事さんが工房へと来てくれたようで、外から声を掛けて来た。
「旦那様、宰相様とご一緒に兵士や騎士に兵器の使用方法を伝授して参りました。それと、宰相様が残りの兵器がいつ完成するのかと尋ねたいらしく、私と一緒に館へと来ております」
何やら執事さんが言っているが、意識朦朧とする私の脳は発言内容を十全に理解出来ない様子で、内容の殆どが知らない言語のように聞こえる始末。
それ故、恥も何も関係無いとばかりに必死に助け乞う。
「体がピクリとも動かせないので、助けて下さい」
「は? ……入って宜しいでしょうか?」
「入って構わないので、助けてくれると有り難いです」
執事さんの間の抜けた声を初めて聞いた気がするなと、そんな馬鹿な事を考えている間にも私の口は助けを求める言葉を放っていた。
すると執事さんが、真ん丸にした目で工房の扉を開く姿が見え、次の瞬間には目が溢れ落ちるんじゃないかとばかりに目を見開く執事さんが至極焦った様子で声を荒げる。
「失礼しま━━旦那様っ!? ど、こ、これはどうなさったのですか?!」
「体力の限界です。指一本動かせません。助けて下さい」
本当に限界だったので、本来なら失礼千万な話ではあるが言葉だけで必死に助けを求めた後、私は疲労によって気絶した。この世界に来てから疲労によって気絶したのは、恐らく廃村に住み着いた直後以来となるだろう。……まぁ、あの頃は体調を崩す事が頻繁にあったので気絶も頻繁に経験していたが、栄養状態が良くなった現状での気絶は本当に久し振りであった。
そうして暫くぶりに熟睡(気絶)した後、私は空腹で目を覚ます。常時空腹なキャラのようで少し笑ってしまうものの、その考えも空腹感によって吹き飛び、私は勢い良くベッドから飛び起きる。
するとその途端、執事さんとメイドさんの驚愕するような声が耳に入った。私はその事に驚きつつ声のした方向へと視線を向けて見れば、執事さんとメイドさんがホッとした様子で溜め息を吐いているのが目に映った。
「お、お早う御座います」
「お早う御座います、ではありません旦那様。働き過ぎで御座います」
「そうですよ。あれ程に注意しておいたのに、やっぱり倒れる事になったじゃありませんか」
「いや……申し訳ない」
言い訳しようとも思ったが、それをしたら更に説教が長くなると感じたので素直に謝った。第六感がそうするべきだと訴えたからである。
するとそれが功を奏したのか、二人はそれ以上には何も言わず、取り敢えずは風呂に入れと促され、それに従って素直に風呂へ入った。そして風呂上がりには、まだ未完成ながらまぁまぁの出来を誇るビールを飲む。苦味が全く足りてない気がするが、逆に苦味が苦手な人なら絶対に気に入るビールであり、私としては程好い苦味が好きなので少し物足りないビールとなっている。
だがまぁ、別世界でビールが飲めるのだから、これ以上は文句を言うつもりは無い。これはこれで良いのだと、そう思い受け入れる精神が大切なのだと最近知ったのだ。
それは兎も角、空きっ腹にビールのせいで既に酔い始めている私は、執事さんとメイドさんに無言で連行されるようにして別の部屋へと移動。その部屋には、二人のシェフが作ったのであろう料理の数々が並んでいた。
そうとなれば当然、空腹の私は躊躇無く食べ始める。無論、マナーなどは最低限守りはするものの、ここは私の家であるからして少しだけくらないならマナーの逸脱も構わないと考え、少し大胆に食べ進む。事実、勇者達と食事会をする時はマナーなど気にせずに過ごしているしね。
そうして胃の中を素晴らしく調理された品々で埋め尽くした私は、その時になって漸く第三者が一緒に食事をしている事に気付き、半ば呆然としつつ反射的に疑問の言葉が出ていた。
「何してらっしゃるんですか、宰相様」
私がシェフに教えた調理法の一つである燻製肉を片手に、ブランデーを飲んで悦に入っていた宰相様が朗らかに口を開く。
「旨いツマミと最高の酒、この二つがあれば辛いお役目も苦にならんな」
「そ、そうですね。あの、それはそうとどうして此処に?」
「覚えておらんのか?」
「申し訳ありません、全く覚えておりません」
会う約束をしていた記憶も無いので率直な感想を伝えると、宰相様は盛大に苦笑した。
「執事がお主の工房へと様子を見に行った事は?」
「それは微かに覚えてますけど………」
「ふむ、お主は働き過ぎだな。休む事も覚えるべきであろう。
それは兎も角、儂はお主が執事に持たせた大魔筒と手魔筒の使用法を記した指南書通りに兵士や騎士に技法を伝授した。その後、他の兵器の完成がいつになるのかを尋ねるべく執事と共にお主の様子を見に来たのだが、するとどういう訳かお主が工房で倒れておってな。それで今に繋がるという訳だよ」
宰相様の説明で、だんだんと気絶する前の事を思い出し、すると執事さんが宰相様を伴って来ているという発言をしていた事をはっきりと思い出した。
血の気が引くとは正にこの事だ。どうやら私はかなり失礼な事をしてしまっていたようだと思いいたり、本気で焦って頭を下げる。
「も、申し訳ありません! つまり、私が気絶したせいでずっと待たせていた訳ですね?!」
「いやいや、気にする事はない。お主はこの国に来た当初の宣言通り、粉骨砕身の身で努力していたのだからな。
とは言え、少し働き過ぎではあるが」
やってしまったという感じしかしないが、それを宰相様は苦笑しつつ許してくれた。色々と宰相様の怖い噂を聞いていた私にとっては、許してくれたのは本当にホッする思いで一杯だ。
しかし、許されたとしても粗相をしてしまったのは事実。私も公爵という地位に就いた事で、ある程度の失敗や粗相も許されるのであろうが、それでもかなりの失態であるのは間違いない。
それ故、宰相様がこの館に来た理由についての説明を無駄無く始める為、執事さんに工房にある完成済みの兵器を纏めておく事を頼むと、早速宰相様へ兵器の説明を始める。
「えぇとですね……兵器の方はあらかた完成しまして、それは直ぐにでも持って行って貰って構いません。大魔筒と手魔筒の二つ共に、今回必要になる分だけは用意しております」
「ほう、それは何とも手早い事だな」
「他国にムーティッヒ国を舐めるとどうなるのかを見せ付ける為ですから、それはもう必死に用意させて頂きました」
「なるほどな。確かに、お主の言う通り舐められていては喰われるのがこの世の摂理であるし、急ぐ必要もあるのだろう。しかし、今回の兵器だけで三ヵ国も同時に攻める事が可能とは思えん。それならば、攻めるのは一旦止めて様子を見るのも賢い選択であると儂は思うが?」
流石は宰相様だ。今回の兵器がどれだけ凄い威力なのかを知っていてさえも、その威力に舞い上がり盲信する素振りが一切見受けられない。それに、三ヵ国を同時に攻める事についても核心をついている。
「宰相様の仰る通りで御座います。今回の兵器では、三ヵ国を同時に攻めるには足りない数ですからね」
「それはそうであろうな。確かにお主の生み出した此度の兵器は、これまでのマジックアイテム界では類を見ない程に凄まじい発明であると断言出来るが、数が圧倒的に足りん。これでは三ヵ国を同時に攻めるなど愚の骨頂と言える」
「はい。ですが、攻め方を少し変えて頂けると三ヵ国を完全に征服出来るのは間違いありません」
「それはどういう意味だ? 無駄に兵を失う未来しか見えんが?」
「確かに三ヵ国を同時に攻めるならその通りで御座います。しかし、一ヵ国ずつ集中的に攻撃すれば、事は上手く運ぶと愚考致します」
「一ヵ国ずつ?」
「はい。三ヵ国同時に攻める場合、新兵器の数が大魔筒と手魔筒共に足りませんので、兵士や騎士の損耗が激しい事は事実。三ヵ国を同時に攻めると考えたならば、少なくとも半数以上の戦力を失うでしょう。
ですが、一ヵ国ずつ攻めれば事情が違います。新兵器を全面に出して一ヵ国を集中して侵略すれば、容易く相手の城を落とせる筈です」
「それはそうだろう。あの大魔筒という新兵器の威力を見たが、あれならば容易く城を落とせるであろうしな。
だが、先も言ったがそれでは駄目だ。上手くすれば二ヵ国までは新兵器だけの損耗で勝てるだろうが、三ヵ国めの侵略ではこれまでと同じ戦になるだろう。そうなると籠城戦となり、かなりの物資と資金、それに戦力を失う事になってしまう」
「普通ならそうです。ですが、それは相手側が此方の保有する新兵器の数を事細かく把握していればの事です」
「それはどういう………?」
意味が分からないと言いたげな宰相様に、私は敢えて答えを口にせず黙した。その理由は、宰相様なら直ぐに自分で理解するだろうと分かっているからだ。
現在、私が完成させた大魔筒の数は八基。手魔筒は六十台になる。
敵側が籠城した場合、先ず大魔筒で正門や外壁を破壊し、破壊した場所から手魔筒を装備した兵士なり騎士を先頭に侵入。そして、迎え撃ってくるだろう敵兵を手魔筒で吹き飛ばしながら確実に侵略度合いを広げ、城を包囲する。最後は、城の門や城壁などは再び大魔筒で破壊し、チェックメイトだ。
これが大魔筒と手魔筒を使用した単純な戦略になるのだが、この二つの新兵器のお陰で通常なら三月も四月も日数が掛かる籠城戦を一気に終結させる事が可能となる。それ故、戦う相手が一ヵ国の場合なら今の保有するだけの新兵器で充分に勝てると言えるだろう。
だが、今回の場合では相手側が三ヵ国になる。ならば、当然新兵器の数が圧倒的に足らない。節約するという選択もあるが、それをすれば戦争に掛ける日数が多くなり資金も物資も大量に消費するし、戦力を無駄に消耗してしまう事になるだろう。
そこで、そうならない為に全ての国に同時に進行するのではなく、一ヵ国ずつ集中して叩く戦略にする訳だ。すると敵側からしたら、通常数ヶ月も掛かる籠城戦を数日で終わらせる事に驚愕するだろうし、次に侵略される側の国からしたら戦々恐々とする筈だ。
そんな心理状況になれば、向こうから無条件降伏してくると考えられる。少なくとも、私ならそうする。権力者達が自身の立場を少しでも優位に出来る内に降伏した方が無難だと思う筈だからだ。
例え、一ヵ国めの国が早々に落ちたのはただ単純に立て籠る内側に獅子身中の虫でも居たからだろうとか考えたとしても、二ヵ国めまでも容易く降したとしたらそうじゃないと気付くだろうし、その時には色々と情報を得て新兵器故に同盟国が落ちたのだと理解するだろう。
そうなると、最早平静を装っていられはしないだろうと断言出来る。此方の新兵器が少ない数しかなく、三ヵ国めには残っていないと知っていたならば話は違ってくるが、彼らがそれを知る事などあり得ない事だからして、十中八九降伏する筈だと私は予想している。
「そうか。お主の言いたい事が分かったぞ」
暫く思考の海に沈んでいた宰相様だったが、私の意図を理解したのかニヤリと笑んだ。相手側の心理を上手く突つく戦法に、宰相様としてはかなり気に入った様子だと見受けられる。
「お主、指揮官としても活躍出来るかもしれんな」
「過分な評価、有り難く頂戴します」
「いや、これは事実だ。この作戦をアスト将軍に伝えたら、またぞろ煩くなるのであろうな」
宰相様が何故にアスト将軍の名をここで口にするのか分からず、私は心底不思議に思い首を傾げる。
すると宰相様が、そんな私の顔を見て苦笑しながら口を開く。
「何だ、知らんのか?」
「アスト将軍の事なら知ってます。お会いした事はありませんが、とても勇猛果敢で部下思いの方だとか」
「その将軍なんだが………兎にも角にも煩いのだ。お主に会わせろ、とな」
「私が何かしてしまったのでしょうか? アスト将軍の不興を買うような事をした覚えは無いのですが」
会った事は無いものの、アスト将軍の名は何度も耳にしている。館に引き籠っている私ですら耳にするぐらいには、彼の武勇は凄まじいのだ。
そんな将軍からの不興を知らず知らず買っていたのではと思い、私は血の気が引き顔を強張らせた。何せ、地位的には同程度になろうとも、それでもアスト将軍は軍のトップになる人なのだから、そんな人物から恨まれているとなっては死んだも同然だからである。
部下の暗殺者とか沢山居るだろうし、そんな人から恨まれるとか生きた心地がしない。少なくとも、私は無理だ。
「はっはっはっ。何を考えておるのか分からんが、悪い意味ではないぞ。バリスタや此度の新兵器に関して、将軍なりに感謝しておるから会って礼を言いたいそうだ。それと、鋼の秘術で造られた武器に関しての礼も込みでな」
「あぁ、そういう事ですか。……ホッとしました」
「お主に対して悪感情を抱く貴族は存在せんよ。もし居たとしても、そういう貴族は儂が潰すからな」
「ははは、ご冗談を」
「いや、これは冗談の類いではない。お主はこの国に来てからというもの、どれだけの貢献をした? はっきり言うが、お主にちょっかいを出すような輩が現れれば、儂は容赦せずに潰すつもりだ。事実、既に潰した貴族家が一つあるがな」
宰相様の表情が物語っていた。とても恐ろしく思えるその表情が、その発言に嘘偽りが無い事を。
それを理解した私は、正直言ってゾッとして鳥肌が立った。本気で怖いと思ったからだ。
「実はな、お主を拐ってカネになる何かしらの技術なり知恵を拝借しようと画策した不届き者がおったのだが、其奴を秘密裏に始末した事があったのだ。あれは、二年前になるか? いや、三年前か。
兎も角、儂を始めとした愛国者達はお主の仲間となる。アスト将軍もその一人だ。それ故、アスト将軍を恐れる必要は無いぞ」
「あ、有難う御座います」
「うむ。まぁ、先も言ったが貴族については心配せずとも良い。問題は商人ギルドや薬師ギルドだが、奴らは汚い手段は使わんし、何かしら嫌味を言うぐらいだろうからお主が気にせんと良いだけの事だな」
薬師ギルドや商人ギルドに嫌われているのも初めて知ったが、私の知らない内に何やら色々な事が起こっていた事実が怖すぎる。
しかし、これも私が知らない内に守られていると知って、心底ホッとする思いだ。これまでの自身の身の安全を確保する作戦が功を奏した結果だと言えるだろう。
それはそうと、何故私が商人ギルドや薬師ギルドから嫌われているのかが気になる。これまで、お互いが関係するような事は一切無かった筈だ。
「あの、商人ギルドや薬師ギルドは何故私を?」
「お主が発明した数々の品が、殊の外優秀だった事が原因だ。しかもその品々が、ギルドの特許関係に一切関わりが無い事も原因なのだ」
「つまり、ギルドで特許を取っていないので、ギルドが私の発明品に関われない。そうなると、特許を管理するギルドに金銭が発生せず、しかも製法は分からないので儲ける事も出来ないからだと?」
「そういう訳だな。しかし、奴らは何も出来んから安心しろ。製法はお主がムーティッヒ国へと献上しておるからな。既に国家事業となっておるのに、今から直接お主に特許をウチで取ってくれとも言えん」
そういう事かと納得すれば、これは仕方ない恨みであると言う他無い。例えるならば、自身が所属する会社で何かしらの発明をし、それによって同業他社が潰れてしまうようなものだ。これは私に非はないし、仕方ない事だろう。
しかし、恨まれるというのは実に気分が良くない話だ。何かをする以上は、誰かしらに恨まれてしまうものではあるのだが、それを理解していても実際にそういう立場になると、やはり思う事の一つや二つはある。
「面倒な話ですね」
「ククク、生きるという事は常に面倒な物事と直面するものだ。しかし、些末な事に気をつかっておってはままならなん。息苦しくて仕方がないからな」
「確かに、宰相様の仰る通りかと」
宰相様の助言は、正に至言とも言えるだろう。全ての方向に目を向ける事は大事だが、全ての物事に気を使い過ぎるのも駄目なのだ。そうしなければ、精神的に追い込まれてしまうだろう。
何事もバランスが重要なのだと、宰相様と話していて改めて思い知った。
「それはそうと、此度のお主の策は実に素晴らしい。それ故、その策をそのまま陛下へとお伝えしようと思う。勿論、将軍にもな」
「あ、いえ、そこは宰相様からの策であるとして貰えれば有り難いのですが」
「これ以上に目立つのは嫌か?」
「お分かりになりますか?」
「………まぁな」
何かしら深く考えながら返答する宰相様が気になるが、私が目立ちたくないというのは事実だ。最早、今更感が半端ではないが、それでも注意しておくに越した事はない。
「お願い出来ますでしょうか?」
「まぁ、そうしても良いのだが………。恐らく、バレるぞ?」
「無理、ですか」
「儂は普段、国内の事についてのみ思案に更けておる。それなのに、突然戦争での戦略に口を出せば目敏い者達は気付くであろうからな」
宰相様の発言通り、宰相様は国内の不正や小さな問題解決に従事されており、その他の事柄にはあまり口を出さない御仁だ。自身が門外漢であると認識しているからなのだろうが、知ったかぶりをして何かを発言したら、その通りに皆が行動してしまうような立場故、無駄に意見を述べる事を良しとはしていないのである。
そんな宰相様が、戦略について突然意見を述べるというのは確かに変だ。裏に誰か居ます、と言っているようなものだろう。
「まぁ、もうお主は立派なムーティッヒ国の貴族だ。あまり気にするでない。
それはそうと、アスト将軍には会っておいてくれ。戦争終結後で構わんからな」
「は、はい。……戦争なのに、随分と余裕なんですね」
「ククク、負けるとは思えんからな。お主とてそうだから侵略を提言したのであろう?」
「それはそうですが……。何事にも最悪を想定して動く性格なので」
「ハハハ! それは素晴らしい事でないか!
常に最悪を想定するのは、上に立つ者として必須の思考だ。公爵の立場に相応しいと言えるだろう」
実に上機嫌に、宰相様は酒を呷るように飲み干すと笑って言った。そして、新たに蒸留酒であるウイスキーを自身でグラスに注ぐと、燻製肉を齧り再び呷るように飲み干す。
「うぅむ。それにしても旨い。お主が開発したこの蒸留酒とやらは、その味がどんどんと良くなるな」
「私が理想とする味にはまだまだですが、そろそろ製造法と共に献上しようかと思っています。ウイスキーを始めとした蒸留酒各種と、勿論ビールも一緒に」
「酒も献上するのか?! もう国庫はかなり潤っておるぞ?!」
意外だったのか、宰相様は目を丸くして驚きの声を上げるが、灌漑事業などに費用を費やすならまだまだ金銭は必要な筈だ。と言うより、全然足りないと言った方が正しいだろう。
それ故に、私はムーティッヒ国へと他にも資金を稼ぐ方法を献上するつもりなのだ。我が身の安心安全の為には必要だと考えているからである。勿論、そこには友人や知人の為、という思いもある。
「先程も申しましたが、私は最悪を想定して動く性格ですので、万全を期すならまだ資金は必要かと愚考致します。ならば、国の資金が多いに越した事はないかと」
「それはそうだが……。しかし、お主も今や公爵という地位だ。だが公爵でありながら、領地は所有しておらん。ならば資金を稼ぐ方法が必要であろう?」
「それならば問題ありませんよ。何せ、私は鍛冶師ですから」
私は決め台詞を言ったつもりだったのだが、宰相様はポカンと呆けた後、盛大に爆笑した。それこそ、まるで漫才の一番盛り上がる瞬間を目にした客のように。
そうして暫く笑った宰相様は、燻製肉を齧り蒸留酒を口に含むと、まだ少し笑いながら口を開く。
「クハハハ。そう言えば、お主がこの国に来た当初に言っておったな。鍛冶師として働けるだけで充分なのだと。
あの時のお主を思い出したよ。今や公爵という立場になったというのに、全く変わらん奴だ。見ていて清々しくなるぞ」
「それは誉めて貰えているのでしょうか? それとも、進歩の無い奴って評価でしょうか?」
「ハハハハ! 勿論、誉めておるに決まっとる!」
「は、はぁ……有難う御座います?」
「クハハハ! お主のような奴ばかりなら、きっと世の中からは戦が無くなるのだろうな!」
そう言って終始笑う宰相様は、お帰りになるまで燻製肉と蒸留酒の虜になっていた。そして、帰る時には気に入ったのか燻製肉と新酒であるスコッチを新兵器と共に持って帰られた。
防衛戦から一転しての攻撃戦が始まるまで、残りあと僅か。ムーティッヒ国が勝つだろう事は分かっているが、終わるまでは落ち着かない日々となるだろう。
私は念の為に、新兵器である大魔筒と手魔筒を量産しておこうと思う。臆病で慎重な性格の私からしたら、そうやって過ごした方が精神的に落ち着けるだろうからね。
コーター「カッコ良く決めたつもりだったのに(´・c_・`)」
宰相「欲にまみれない者は珍しい! 実に喜ばしい事だ!」
コーター「いや、それより決め台詞……」
宰相「それにしても旨い酒とツマミだ! 燻製肉とやらも初めてだが、このスコッチとやらも初めてで、何もかもが目新しくて素晴らしい!」
コーター「……もうどうでも良いです。兎に角、お褒めの言葉、どうもアザっす」
宰相「ハッハッハッ!」




