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魔王様には蒼いリボンをつけて  作者: なっつ
Episode 4:眠り姫の受難
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14 【忠誠の証・1】

著作者:なっつ

Copyright © 2014 なっつ All Rights Reserved.

掲載元URL:http://syosetu.com/

無断転載禁止。(小説家になろう、taskey、novelist、アルファポリス、著作者個人サイト”月の鳥籠”以外は全て【無断転載】です)


这项工作的版权属于我《なっつ》。

The copyright of this work belongs to me《NattU》。Do not reprint without my permission!



挿絵(By みてみん)




「何ごとですか? こんな夜中に」


 ふいに声が聞こえた。

 見下ろせば、玄関扉を開けて執事が立っている。いつもの執事服の上に、やはり真っ黒の外套を着こんでいる。

 彼はその外套を脱ぎながら天井のなくなったホールをぐるりと見渡し、盛大な溜息をついた。


「いったい何をやっているんです。まだ冬ですよ? こんなにしたら寒いじゃないですか」


 天井が半分無くなっていてもこの落ち着き。さすが執事……と言いたいところだが引っかかる。

 この男はこんなに穏やかな性格だっただろうか。

 城がブッ壊されているのだ、床の上に容疑者(と執事が定めた者)を正座させて犯人が名乗り出るまで圧迫尋問でも仕掛けて来るのが、この男がまずとる行動ではなかっただろうか。

 だからといって、今から天井を破壊した犯人を探し始められても困るのだが。


 物陰に隠れていたガーゴイルたちが、身振り手振りを交えた小声で何やら訴えているのが見える。



 1分。


 5分……。



 ……あの、状況を早く把握してもらえませんか?

 あたし今、お兄ちゃんに食べられそうになってるんですけど。


 ぽつりとそんな愚痴が浮かんで、そんな余裕がまだ残っていたことにルチナリスは驚いた。

 全然根拠はないけれど、この人ならどうにかしてくれる。執事の顔を見て義兄(あに)が元に戻りました、なんてミラクルは期待していないけれど、それでもあまりに平然としているさまを見せつけられると何かしてくれるんじゃないか、と思ってしまう。

 常日頃(しいた)げられている相手にそんなこと思うなんてご都合主義な頭だ、とは思うけれど。でも。


 ちら、と義兄(あに)を見る。

 突如現れた執事に警戒しているのか、黙ったまま見下ろしている。


 ここで執事を無視してお食事タイムにならないだけましだと考えるべきなのだろうか。

 沈黙していてくれれば時間も稼げる。主人公が必殺技を出すために無駄にくるくる回りながら技名を叫んでいる間、几帳面に待っていてくれる悪役を彷彿とさせるが、面と向かってそれは言ってはいけない。きっと。



 ガーゴイルたちの説明がひとしきり終わったのか、執事はやっと中央階段(こちら)に顔を向けた。

 (いぶか)しげにルチナリスと、彼女を抱き寄せている青藍を見上げる。


「ルチナリス、子供は寝る時間ですよ」


 そう言いながらも彼の視線ははっきりと(あるじ)のほうを向いている。

 眉間に(しわ)が寄ったのが此処(ここ)からでもわかる。


「青藍様は安静にしていないといけないと言っておいたでしょう。どうしてこんなところに」


 事の顛末(てんまつ)は聞いただろうに、何故(なぜ)再び問うのだろう。

 温和な笑みと穏やかな口調がただ違和感ばかりを(かも)し出す中、執事は平然と階段を上ってくる。

 


 おかしい。

 いつもなら義兄(あに)があたしの近くにいるだけで呪い殺しそうな視線を送って来るこの人が。

 いつもならまず嫌味を言ってくるこの人が。

 なんだかすごく執事に見……



 ルチナリスは固まった。

 顔が強張(こわば)るのが自分でもわかる。



 ……前言撤回してもいいでしょうか。

 きっと何とかしてくれるだろうけど、その前にあたし、半殺しにされる気がします。

 だって。



 目が、全然笑っていない。




 むしろ親の(かたき)でも見るような、怨念とでも言えばいいのか、そんな黒いオーラが漂っている。

 それなのに顔が笑っているから、余計に凄惨さが際立つ。


 マズい。

 この体勢のせいだろうか。絶対誤解している。執事面の下で、(はらわた)が煮えくりかえってモツ煮込みになっているのが見えるようだ。


 (やつ)は絶対に「あたし(ルチナリス)が食べられそうになっている」とは思っていない。

 それどころか頭の中では「あたし(ルチナリス)が弱っている主人を連れ出して無理に戦わせた挙句、ドラゴンを倒した喜びにこうして抱き合っている」という意味不明な図式が成り立っているに違いない。



「で、何故(なぜ)青藍様がこちらに?」

「あの、だから」


 笑っていない笑顔が怖い。

 ガーゴイルから何を聞いたのだろう。いくら面白いことが好きな彼らでもこの非常時に事実を捏造したりはしないと思いたい。

 けれど、この顔はきちんと伝わっているようにはとても見えない。



 義兄(あに)は無表情のまま、近づいてくる執事を見下ろしている。

 しかし義兄(あに)が動かなくても凍りつくスピードまで止まっているわけではない。腕はもう痛みもなにも感じないくなってきているし、体のほうにもその冷たさは広がりつつある。

 凍傷で腕が壊死することも心配だが、それよりも心臓を脳のあたりに運んでおきたい。移動できるなら。



「……ドラゴンが出て、ですね、」


 何処(どこ)の世界で囚われの姫が状況説明をするというのだ。でも、そんな些末(さまつ)にこだわってはいられない。

 まずは執事の誤解を解かなくては。 


 ガーゴイルたちが騒ぎ立てたこと。

 義兄が目覚めた時のこと。

 ドラゴンとの戦いのこと。

 ……もちろん、義兄(あに)に対して妙な感情を覚えたことは黙っていたけれど、それでも目に見えて執事の顔が険しくなって来る。




「誰も部屋に入れるなと言っておいたのに」


 執事は苦々しく呟いた。役立たず、とその目が言っている。


 違うでしょ!!

 何を聞いてたのよ。と言うか、あたしかなり今危ないんですけど!

 義兄(あに)に食べられるのと凍死するのとどっちか選べ、って迫られてるくらい切羽詰まってるんですけど!!


「入れてません!」


 それどころか死守したじゃないですか。

 ああ、見せてやりたい。あの血迷ったガーゴイルたちを1匹も部屋に入れさせなかったあたしの勇姿! 頑張ったのよ、あたし!!


 しかし執事から発せられるのは凍りつきそうなオーラだけ。

 感謝の「か」の字もなく、そのオーラは氷の刃となってルチナリスのほうに切っ先を向けている。

 何故そんなに敵視されなければいけないのだ。

 くそう。さっきの説明の時にもうちょっと盛っておけばよかった。と思っていると、執事は口を開いた。


「……あなたもです」

「は?」

「誰も入れるなと言いました。何故(なぜ)あなたが部屋に入っているんです」



 はあ!?

 

「あたしはお世話係です!」

「あなたが何を世話していると言うんです! よりにもよって……私が外に出た隙に淫行を働こうとは不埒(ふらち)極まりない!」



 ちょっと待て!

 誰が誰に淫行を働いたって!?

 今の今まで何を聞いたらそんな結論になるって言うのよ!


 ああ、執事の胸倉を掴んで怒鳴りつけてやりたい!

 しかし悲しいかな、手も足も動かせない。動かせたとしても40cm近い身長差では、その野望は叶わない。


「なんて下劣(げれつ)な」

「言っておきますけどグラウス様が想像してるみたいなことは何もありませんから! そういう妄想するほうがヤバいんじゃないの!?」

「今度は開き直りですか、見苦しい」


 ああ、駄目だ。何を言ってもこの体勢では右から左に抜けて終りだ。もしかしたら抜けるどころか右耳手前で跳ね返されているかもしれない。

 誤解を解くには離れるのが1番だろう。しかし……ああもう! いい加減動きなさいよ、あたしの手足っ!


 もう1度、義兄(あに)を見る。

 この漫才にも見えかねない問答に一言も口を挟まずにいてくれるのは有難(ありがた)いと言うか、むしろ遮って下さい、と言うか。

 義妹(いもうと)と執事の間で小競り合いでも始まりそうなものなら、苦笑いしながらもいつも間に入ってくれていた義兄(あに)は、今は無言のまま執事の動向を探るのみ。


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