20 【血の繋がり・1】
※過去話です。
※本文中に挿絵があります。
著作者:なっつ
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足元に転がっている人影を、青藍は何の感情もなく見下ろしている。
息があるかどうかは知らない。
魔王に挑んで来る時点で無様に生き恥を晒そうとは思っていないだろう。
命が大事なら、森で低魔族狩りでもしていればいい。こちらも考慮する気はない。
壁に掲げられた石造りのレリーフが、ぼぅ、と青白い光を発する。
そのわずかな明かりを頼りに、彼の周囲ではガーゴイルたちが後片付けをしている。
「坊は甘いっすねー」
数分前まで勇者と呼ばれていた鎧の塊を部屋の外に引っ張り出しながら、ガーゴイルは新しい魔王を見上げた。
「前の魔王様は息の根止めてたっすよ?」
「50年くらい前の魔王様も凄かったっすね、腕とかバラバラにしてたし」
ガーゴイルたちは口々に言う。
しかし、その「凄い」歴代の魔王たちの大半がこの場所で息絶えている。平均任期の5年を満了できた魔王役など数えるほどしかいない。
「……戦意のない奴にそこまでする必要もない」
青藍は脱ぎ捨てたままの形で床に広がっている黒いマントを拾い上げる。
魔王の衣装のひとつだが動きにくいことこの上ない。他にも装飾の多い上着や手甲など、雰囲気づくりには役立つだろうが戦闘時には枷にしかならないそれらこそが、歴代の魔王の敗因なのではないかとすら邪推してしまう。
「それが甘いんす。足下掬われるっすよ?」
甘いのか?
マントを抱えなおしかけた手が止まる。
たまたまみんな息の根を止めるに至らなかっただけ。
あえて殺さないようにしているわけではない……はず。
「ま、坊らしいっちゃ坊らしいっすけどね」
自分は生き残ることができるのだろうか。
ふと、そんなことを考えて青藍は自嘲気味な笑みをこぼした。
おかしなことだ。此処に来るまでは命が惜しいなどと思ったこともなかったのに。
「子連れで来た時点で甘そうだな、とは思ってたっすけどねぇ」
瓦礫を片付けている集団のほうから別の声が飛んでくる。
続けて、「違ぇねえ」と笑い声がさざめく。
代々の魔王の下で、その生きざまを見てきた彼らからすれば自分は甘いのだろう。
数ヵ月後か数年後かには、「勇者にとどめも刺さない甘っちょろい魔王がいて」と笑い話にされているのかもしれない。
自分が死んだらルチナリスはどうなるのだろう。
青藍は階段の先の扉を見上げる。
あの扉はこの玄関ホ―ルと彼女のいる城内とを区切るためのもの。自分が魔王として此処に立つ限り、開けることはない。
あの扉の先にはあの娘がいる。きっと今も姿を消した自分を探している。
「あの子、本当は坊の何なんすか? 隠し子?」
「んなわけないだろ」
「町長は妹って言ってたっすね」
「じゃ、妹」
隠し子でも妹でもないから、別にどちらでもいい。
第一、あの娘だって困るだろう。自分は「悪魔」だ。
「俺のだから食うなよ?」
ちょっとだけのアピールは特に自分の「もの」というつもりではなく。
そう言っておけば万が一にも自分の目の届かないところで危害を加えられることはないだろう、と、そんな意味を交えたつもりだったのだが……ガーゴイルたちには伝わらなかったようだ。
「あ、年頃に育ててから食っちゃうつもりっすね」
「坊のエッチー」
「ちょっと待て」
鼻の下を伸ばして含み笑いをする異形の化け物たちの姿に、青藍は頭を抱えた。「食う」の解釈を取り違えているのはわざとだろう。
こいつら石像だったよな。軽すぎないか?
本家にも同じような石像はいくつもあったし、実際、記憶は共有していると当の本人たちも言っている。あちらの石像も有事の際には実体化するから、作りとしては目の前の彼らと同じはず。
なのに……よく似ているけれど、こいつらの材質は発砲スチロールか何かなのかもしれない。





