21 【血の繋がり・2】
※過去話です。
著作者:なっつ
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「ずーっと坊の後ろくっついてんすよねー。あれっくらい小さいと和みますよねー」
「ああ。生活に潤いが出るらしい」
母はそう言ったが実感はない。
やたらと手がかかるし、意味もなく自分を探して泣く。そのせいで本家にいた時よりプライベートの時間が取れずにいる。
それどころか最近は、あの子供の面倒を見るのが生活の一部になりつつあるという有様。
これを「潤っている」と言うのだろうか。
考え込む青藍の前では、数匹のガーゴイルたちが後片付けをしながらも「かわいいるぅチャン」談義に花を咲かせている。
次の勇者一行がやってくるのが何時になるのかは日によってまちまちだが、満員御礼の幟が練り歩きそうな日なら5分と待たずに来ることもある。
敵対する相手だとはいえ一応はお客様。汚れたまま迎えるわけにはいかない、というのが彼らの信条。
箒で掃いたりモップをかけたり、ホールを縦横無尽に動き回りながらも口だけは止めないのは、ある意味凄い特技かもしれない。
できた当初から魔王の居城としての役割しか負って来なかったこの城に、子供がいたことなど1度もなかった。
しかも仕事を終えれば石像に戻るガーゴイルたちは城の外に出ることもない。
初めて見る「子供」という生き物が余程興味深いのだろう。彼らはルチナリスの朝起きてから夜寝るまでの動向を延々と話し続けている。
「女の子っすもんねー。そりゃ野郎ばっかのむさい所帯にあんな子がいたら潤いますわ」
その女の子に1日中貼り付いているのは別の意味で問題があるような気がするのだが。
とは言え、彼らが貼りついていてくれるおかげで放置していても様子がわかるし、彼女に手を出そうとする精霊や低級魔族も寄って来ないのだから、結果的には役に立っているわけだけれども。
「で、あの子、坊の何なんす?」
だからこそ魔王との関係が気になるらしい。
まぁ、そうだろう。
魔族にとって人間は食糧。手元に置いて育てるものではない。
「……お世話係」
母からはそういう名目で押しつけられた。何をお世話するのかは知らないが。
いや、そう言えば押し付けられた時、「お世話”しても”いいのよ」と言われた気がする。あれはこういう意味なのか?
「ほう、坊のお世話を受ける係っすかー。自分の子でもない小さい子を手元に置いてメイド服着せて育てるって、犯罪の臭いがプンプンするっすね」
同感だが肯定はできない。手元に置くのもメイド服を着せるのも、決して自分の意思ではない。
だいたい、未婚の身でありながら何故いきなり子育てをせねばならないのか。
唯一の救いはルチナリスが子供らしからぬ子供だったということくらい。
本人には子供らしくしていていい、とは言ったが、わがままを言って泣いたり暴れたりしないのは、実を言えばかなり助かっている。
「俺、押しつけられた被害者なんだけど」
それなのに、よりにもよって犯罪者扱い。
魔王なんてものは悪の象徴なのかもしれないが、私的に犯罪を犯した覚えはない。
「身寄りがないのを放り出すわけにもなぁ」
彼女の村は廃村になっていると聞く。しかも滅ぼしたのは自分の家に所属する部隊。
散り散りにでも逃げ伸びることができた人々が戻ってきて復興させるとしてもかなりの月日を要するだろうし、なにより、わざわざ山奥に村を作り直そうと思う者がどれだけいることか。
それに、彼女はもともと孤児だったと聞く。
村に戻ったとしても、そこには家族も親戚もいない。復興したばかりの村に、孤児に手を差し伸べる余裕がある者がいるとも思えない。
彼女を養っていた「神父」という人物の行方は杳として知れない。
「るぅチャン、小さいのにしっかりしてますもんねぇ」
「あの歳で敬語使う子初めて見たっすよ」
ずっと無理をしてきたのだろう。よく見せようとする、彼女なりの処世術に違いない。
そうでなくて、何故あの歳で敬語が使えると言うのだ。
「とにかく。あんまりあれに話しかけるなよ? 声だけ聞こえて怖いらしいから」
階段の途中に腰かけたまま、青藍はガーゴイルたちに釘を刺す。
その度におばけが出たと泣きついて来るのにももう慣れた。
しかしこの城に人外のものがいると知られるのは勝手が良くない。巡り巡って自分の正体が露呈するきっかけになるかもしれない。
「アレだなんてぇ。るぅチャンって言えばいいのにぃ」
「言えるか」
その時は、彼女は自分も悪魔として見るだろう。
あの怯えた目で。
怯えているくせにあくまで「敵」という姿勢を崩さない、あの目で。
知られたところで実際そうなのだから、どんな目で見られても仕方ないのだが。
「あんな小っちゃい子がひとりでいると、可哀想でついつい声かけたくなっちゃうんすよ」
「坊がもっと相手してあげりゃいいのに」
「俺の仕事は子供の世話じゃない」
「お世話係」
「だから違……っ」
構い過ぎて情が移るのが怖い。
自分は、彼女の「敵」。
平穏だった生活を破壊した「悪魔」の仲間。
なのに。
他に話相手がいないからなのだろうが、やたらと懐かれて困る。
こういう時、誰か他の使用人がいれば違うのだろうが、人間の使用人に向かって「この城には姿は見えないのに話しかけてくる声がいる」などとカミングアウトされても困るし、魔族の使用人がルチナリスに配慮して一切魔法を使わず人間のふりをし続けることができるのかという不安もある。
死人に口なし、処分してしまえばいいのだろうが……
「勇者にとどめも刺せない魔王様が小っちゃい子を殺せるわけねぇっしょ」
……既にそういうことができる空気ではない。
何年か先に彼女が全てを知ったらどうなるのだろう。
騙していたと恨まれるだろうか。
今までずっと懐いてきた相手が自分を敵という目で見るようになったら、辛いだろうか。
辛い?
ふっと浮かんだ言葉に、青藍は動きを止めた。
誰が?
自分が?
彼女が?





