第6話:風穴
とりあえず目標の日間ジャンル別ランキングにのれました!!
次は50位目標にします。読んでくださった方ありがとうございます。
それにしてスペイン強かったですね
電光掲示板の表示は1-2。試合残りはアディショナルタイムを含めて約10分。
榊 迅の鮮烈なダイレクトボレーによるデビュー弾は、完全に試合の潮目を変えていた。それまで静まり返っていたフランクシュタットのベンチと遠征サポーター席からは、地鳴りのような声援が沸き起こっている。
「ジン! もう一本だ!」
中盤の底からクリスが吠え、前線へ走る迅に力強く親指を立てた。
シュトゥットガルトのディフェンス陣の顔つきからは、先ほどまでの余裕が完全に消え失せていた。彼らの視線が、背番号『19』の華奢な日本人の動きに集中する。
(警戒されてる。さっきみたいに単純な裏抜けは、もう通じない)
迅は並走する相手のセンターバックの息遣いを聞きながら、冷徹に状況を観察していた。
相手は迅の「俊足カウンター」を恐れるあまり、ディフェンスラインを極端に下げ、スペースを消しにかかっている。完全に引いて守る構えだ。
(裏がないなら、今度は前で受ける)
迅はプレイスタイルを「カウンター」から「ポゼッション」へと脳内で瞬時に切り替えた。
後半42分、フランクシュタットのセンターバックから中盤へ縦パスが入る。迅は相手ディフェンダーを引き連れたまま、ペナルティエリアの手前までグッとポジションを下げて顔を出した。
「前を向かせるな!」
後ろから激しいボディコンタクト。185センチを超える大男が体重を浴びせてくる。だが、迅は176センチの身体を巧みに傾け、相手のパワーをいなすようにステップを踏んだ。
右足のワンタッチで、寄ってきた味方のサイドハーフへ正確に落とす。
そのまま落として終わりではない。迅はパスを出した直後、DFの逆を突くように鋭くターンし、今度はペナルティエリア内の狭いスペースへと侵入した。
「リターン!」
サイドハーフから、鋭いグラウンダーのパスが迅の足元へ戻ってくる。
シュトゥットガルトのDF2人が、シュートコースを塞ごうと一斉に鋭いスライディングを仕掛けてきた。壁のような肉体が迅の視界を塞ぐ。
普通のFWなら、ここで強引に足を振り抜くか、ブロックされて終わる場面。
しかし、迅の視野は驚くほどクリアだった。
(滑ってきた。ってことは、もう方向転換はできない)
迅は右足のインサイドでボールを小気味よく右斜め後ろへと引き、滑り込んできた2人のDFをあざ笑うようにかわした。狭いボックス内での、一瞬の静寂と繊細なドリブル。
シュートコースが完全に開く。
キーパーが一歩も動けないほどの速さで、迅は右足をコンパクトに振り抜いた。低く鋭いシュートが、ゴール右隅のポストの内側を叩いてネットに転がり込む。
「ゴォォォール!!」
2-2。同点。
スタジアムが文字通り揺れた。ベンチからヘスラー監督が飛び出し、スタッフと抱き合っている。
「嘘だろ、おい……!」
交代してベンチにいたルーカスが、呆然とピッチを見つめていた。パワーとエゴでねじ伏せる自分とは違う、スピードとインテリジェンスで組織に風穴を開ける16歳の姿が、そこにはあった。
明確なゴールも、プロへの執着もない。けれど、自分の描いた絵の通りにゲームが動き、ネットが揺れる。その絶対的な快感に、迅の心臓は激しく脈打っていた。
迅は笑顔を見せることなく、すぐにボールを抱えてセンターサークルへと走る。残された時間はあとわずか。16歳のストライカーの瞳には、すでに逆転のシーンが映っていた。
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