第22話:暗闇を照らす光
シュミットとの居残り練習が終わる頃には、グラウンドはすっかり夜の闇に包まれていた。
ハァ、ハァ、と激しい息を吐きながら、榊 迅は芝生の上に倒れ込んだ。全身の筋肉が悲鳴を上げている。だが、その瞳にはどこか晴れやかな光が宿っていた。
「……今日はここまでだ」
シュミットがコートを羽織り、倒れている迅を見下ろした。その表情には、昨日の試合後の冷たさはもうなかった。
「お前の身体は華奢だが、体幹の使い方と感覚の鋭さは本物だ。相手の圧力を食らう前に、一瞬で『逃げ道』を作る。それができれば、ブンデスリーガのどんな怪物DFが相手でも通用する」
「……ありがとうございます、シュミットさん」
迅は体を起こし、深く息を整えた。
シュミットが去った後、迅は一人で散らばったボールを拾い集めた。
ボールを手にするたび、指先から伝わる革の感触。そして、先ほどまで身体に叩き込んでいた「コンタクトを受け流す」感覚が、右足の奥深くに残っていた。
失敗したからこそ見えた、自分の課題。
プロのトップレベルという果てしない壁は、迅にとって絶望ではなく、攻略すべき最高の「難問」だった。
翌日。週が明け、トップチームの全体練習が再開された。
ミーティング室に集まった選手たちの前に、マルクス監督が立つ。
先週末の敗戦の反省と、次節のヴォルフスブルク戦に向けた戦術の確認が粛々と進められる。
「そして、今週のメンバー構成だが――」
マルクス監督がスクリーンに選手リストを映し出した。
選手たちの視線が一斉にそこに集中する。そこには、先週末に引き続き、背番号『39』の名前が刻まれていた。
「ジン。前節の失敗を覚えているな?」
マルクス監督の鋭い視線が迅を捉えた。
「はい」
「次もチャンスを与える。だが、同じミスは二度許されない。次に出た時は、お前がチームを勝利に導くゴールを奪って見せろ」
ロッカールームに戻ると、マイヤーが迅の隣を通り過ぎざまに、ポツリと呟いた。
「居残り練習、見てたぞ。……次は外すなよ、ガキ」
不器用なライバルからの言葉。迅は無言で小さく頷いた。
週末の公式戦まで、あと5日。
一度目の失敗を経て、より鋭く、より冷徹に研ぎ澄まされた17歳のストライカーが、再びプロのピッチへと立ち上がろうとしていた。
ブクマよろしくお願いします




