21話:真夜中の居残り練習
本日2話目
敗戦から一夜明けた日曜日。トップチームの選手たちにはオフが与えられていた。
静まり返ったクラブハウスの敷地内で、乾いたスパイクの音が響く。榊 迅は一人、誰の姿もないサブグラウンドに立っていた。
秋の冷たい風が通り抜ける中、迅はボールを数個、ペナルティエリアの手前に並べた。
脳裏に蘇るのは、昨日のあの場面。
背後からの猛烈なプレッシャー、肩口にかかった相手DFの重圧、そして数ミリブレた自身の重心――。
(あのコンタクトを受けた瞬間、自分の身体は相手の力を抑え込もうとして固くなっていた。だから軸がブレて空振ったんだ)
迅はボールを上空へ高く蹴り上げた。
落下してくるボールに対し、迅はただトラップするのではなく、意図的に壁に背中を強く打ち付けながら、あるいは自ら体幹を大きく傾けながら、右足の甲でボールを吸収するトレーニングを繰り返した。
「コンタクトを耐えるんじゃない。受け流すんだ」
ボレー、トラップ、反転。
何度も、何度も。
右足のインサイドでボールの勢いを完全に殺し、同時に左足の一歩目で相手のプレッシャーとは逆のベクトルへ体重を逃がす。身体にプロレベルのコンタクトを想定した動きを染み込ませていく。
どれほどの時間が経っただろうか。
汗が額から垂れ落ち、息が荒くなった頃、カツンと静かな足音が近づいてきた。
「まだやってたのか、ジン」
振り向くと、そこには私服姿の主将・シュミットが立っていた。手に持ったスポーツドリンクをベンチに置くと、彼は迅の方へと歩み寄ってきた。
「シュミットさん……」
「昨日のプレー、何度も頭の中で再生してただろ。お前の目を見れば分かる」
シュミットはコートを脱ぎ捨てると、そのまま迅の目の前に立った。190センチを超える巨躯が、迅の視界を覆う。
「一人でボールを跳ね上げてるだけじゃ、本物の圧力は再現できないぞ。来い、俺が当たってやる」
迅は一瞬驚いたように目を見張ったが、すぐに口元を小さく結び、ボールを蹴り上げた。
プロのトップで戦う現役代表CBを相手にした、密かなマンツーマントレーニング。
シュミットが容赦なく背中から体重を預けてくる。激しい衝撃。しかし、迅は昨日とは違う。体幹を柔らかく使い、圧力を滑らせるようにいなしながら、右足でボールをピタリと足元に収めた。
「……ほう」
シュミットがニヤリと口元を歪めた。
「修正が早いな、ガキ。だが、次はもっと重いぞ」
暗くなり始めたグラウンドで、二人の熱い攻防はいつまでも続いた。
敗北の屈辱を糧に、17歳のストライカーは一歩ずつ、だが確実にプロの強度へとその身を順応させていた。
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